55,動物像に関する報告 2枚目
ジェイクさんの恋愛事情まで分かってしまった、ぶら下がった蝙蝠の像の隣。
それが、ピコンさんに確認して貰いたい羊の像だ。
背負ってるバイオリンの事もそうだけど、ルディさんが持っていたバイオリンに似たバイオリンを持っている、可愛らしい赤い目の羊だから、どことなく羊の像自体もルディさんに見える。
だから、この羊の像はルディさんの祖先を表してるんだと思うけど、そう考えると少しおかしい事があるんだよなぁ。
いや、当時のアンジュ大陸国の王様達をモデルにした像に並んで、小さな田舎の村の村長をモデルにした像が並んでるのがおかしいって言ってるんじゃないんだ。
おかしいって思ったのはバイオリンの事。
ルディさんが持っていたあのバイオリン、作られたのは塔と同じ2000年位前だろう?
この像が作られたは、間違いなく他の像と同じ3000年前。
つまり、この像が作られた時にはルディさんが持っていたバイオリンは『存在しなかった』はずなんだ。
「あそこまで徹底的に調べ尽くしていたユマさんが、作られた年代を間違えるとは思えないんですよね?」
「でも、この像が背負ってるバイオリンは間違いなくラムのバイオリンと同じ物だ。
色や形だけじゃない。
細かいデザインまで一致してるんだ。
19年間見続けた僕が言うんだよ?
絶対間違いないって!」
「でも、作られた年代にズレが・・・・・・
何か理由や拘りが有って、あえて塔の製作者が同じデザインのバイオリンを作った?」
だからって細かいデザインや、製作者のサインまで再現するか?
他のデザインは兎も角、製作者のサインは自分のものに変えるはずだろう?
この羊の像が背負っているバイオリンが歴史的価値の高いバイオリンで、贋作やレプリカとしてルディさんのバイオリンを作った?
いや、ユマさんがあの時調べ尽くした結果見えた製作者像的に、そんな事する人には思えない。
ユマさん曰く塔もバイオリンも製作者の『色』が濃く出て、
「これは俺が作った!!間違いなく俺の作品だ!!」
って、製作者の自己主張が物凄く激しい作品になっているらしい。
2000年経ってもその主張が感じられるなら、相当なものだろう。
そんな人が他人のサインを使ったり、贋作を丁寧に作るだろうか?
どんな理由が有っても無いだろう。
それなら、どうして時代が大きくズレた同じデザインのバイオリンが存在する?
そうなった理由は?
「・・・・・・もしかして・・・
あ、いや、でも・・・証拠が・・・・・・
う~ん・・・・・・」
「ジェイクとピコンに聞いても分からないなら、今考えても仕方ないし、一旦保留にしようぜ」
「・・・・・・そう、だな。
えーと、後こっちで分かった事は・・・」
暫く考え色々可能性は出たけど、妄想の域を出ないものばかり。
ジェイクさんやピコンさんの話を聞いてもピンッとくるものは出て来ないし、ルグの言う通り一旦この話は横に置いておこう。
アルさん達側の話を聞いたら何か閃くかもしれないし。
「羊の像の向かいの像は、聴診器や注射を持った小鳥なので、灰色ですけどカラドリウスを表してるんだと思います」
「へぇ。
あれ、サトー君達の世界の医療機器だったんだ。
随分可愛く作って貰ったじゃん、クエイ」
「この像のモデルは俺じゃ無い。
大体、体が完全に灰色なら成人済みの女だ。
そもそもの性別が違うだろうが」
「そうなんですか?
・・・あ、そう言えば本来の姿のウィンさんは灰色をしてましたね」
ザラさんに揶揄われて不機嫌の度合いが少し増したクエイさんの言葉を聞いて、初めてカラドリウスの村に行った時の事を思い出した。
確か、怒りのあまり元の姿に戻ったウィンさんはクエイさんに比べ灰色がかった色をしていたはず。
ストレスや病気で白髪になる様に、ユマさんの両親の色々が原因でウィンさんだけがあの色になってしまったんだと思ってたけど、カラドリウスの女性はみんなあの色だったんだな。
「おい、待て!
なんでお前、その事言えるんだ!?
何で何ともないんだッ!!?」
「えっと、その事、ですか?なんの事でしょうか?」
「ウィンの事だ!!
なんでウィンがカラドリウスだって言えた!!?
お前達はウィンの誓いの花で、俺達の事は言えなくなってるはずだろう!!!?」
「・・・・・・あッ・・・」
焦ってる様にも怒っている様にも見える表情と声音で、そう怒鳴るクエイさん。
最初、クエイさんがどうしてそう言うのか分からなかったけど、少し考えて自分がウィンさんがカラドリウスだとハッキリ言ったのだと気づいた。
気絶してる間に飲まされた魔法道具の効果で、クエイさん達の正体は言えないはずなのに、どうして・・・
トムさんに報告した時は、間違いなく言えなかったよな?
「あ、れ?でも、俺、何ともないですよ?」
「チッ!元の世界に戻って効果が消えたのか?」
「そもそもその魔法道具、貴弥には最初から効果が無かったと思いますよ?」
「え?」
「はぁ?」
サラリと言われた紺之助兄さんの言葉に、困惑する俺と少しばかりの怒りを含んだクエイさんの疑問の言葉が重なる。
最初から効果が無かったって・・・・・・
いや、でもトムさんの時は効果があったはず。
「思い込みだよ。
貴弥達の話聞いていて、思ったんだけどね?
貴弥は強い思い込みで、本来なら効果が無いものも効果が出てるみたいなんだ。
悪い意味でも、良い意味でも」
「思い込み・・・・・・」
「そう。
思い込みだから、実際には何の影響も受けてない。
だから、無意識の言葉や行動にボロが。
効果があるはずなのに、無いって矛盾が出てくる。
さっきの貴弥の様にね」
思い込みで怪我をしたり死んでしまったりする。
ってのは知ってたけど、まさか自分にも同じ様な事が起きていた何って・・・
確かに思い込みは人としての正常な機能の1つだから、『状態保持S』とか『環境適応S』でも止められない、のか?
俺、この世界に来てどれだけの思い込みをしてたんだ?
俺達の話を聞いて紺之助兄さんは気づいたなら、冷静に考えたら分かるかな?
「でも、その思い込みが何か深く考えちゃダメだよ?
僕も貴弥も、多分湊達もその思い込みでこの世界で生きていけてる様なものなんだからね。
だから絶対、防衛本能からくる無意識の気づかないフリに従って」
「わ、分かった」
「貴弥は直ぐ何でも深く考えて、気づかなくてもいい事でも気づいちゃうからね。
貴弥がそのせいで死に急がないか、お兄ちゃんは心配だよ」
「流石に自分の命が関わってるんだから、頑張って見ないフリするって」
「約束だよ?」
俺が今、何を考えているのか気づいたのか。
紺之助兄さんにそう脅しの様な事を言われ、俺は何度も頷いた。
危っねぇ!!
危うく自分で自分の首を絞める所だった。
紺之助兄さんの言う通り、普段なら気づくその矛盾に今も気づけないなら、この世界で生きていく為に脳が無意識に気づかない様にしてるんだろう。
もしかしたら、『環境適応S』の効果も掛かってるのかもな。
「思い込みねぇ・・・・・・
そう言やぁ、お前を含めてあいつ等、毒がムグッ!!?」
人の悪そうな笑みを浮かべ、何か言おうとしたクエイさん。
そのクエイさんが言い切る前に、いつの間にか真後ろに移動していたルグがその口を塞ぐ。
「~~~ップハァ!!エド!!何しやがる!!」
「クエイがサトウ達にとって良くない事、言いそうだったから止めただけだ」
「止めんな!!
別にこの思い込み言った所で大して問題ないだろうが」
「どう考えても問題大有りだろう!
流石にそれ言ったらやり過ぎだ!!
それ、サトウ達がこの世界で生きてけなくなるかもしれない思い込みだろう!!?」
ちょっと待って!
指摘したらこの世界で生きてけなくなる思い込みって、本当クエイさん何言おうとしたんだ!?
「魔法があるから大丈夫」
ってクエイさんは言うけど、色々気づいてるルグの表情的にどう考えても絶対大丈夫じゃない話だよな!?
毒が関わる事みたいだし、これは絶対気づいちゃいけない事だ。
止めてくれたルグには後で何かお礼になるような物渡そう。
何がいいかな?
やっぱ食べれるもの?
「大体、クエイはサトウ達に意地悪し過ぎなんだよ。
サトウ達とクエイ達の間に何が合ったのか分かんないけどさぁ。
ここの奴等全員にクエイの正体バレてんだから、今更サトウがクエイ達の事言った所で問題ないだろ?」
「アハハー。確かになー」
「そういう問題じゃないし、お前は笑うなッ!!」
少し不機嫌そうに首をかしげるルグと、確かにとカラカラ笑うザラさん。
そんな2人に顔を真っ赤にしたクエイさんの怒鳴り声が炸裂する。
そう言えば、俺が小鳥の像のモデルがカラドリウスだって言ったら、ザラさんはクエイさんに向かって『随分可愛く作って貰った』って言ったよな。
そう言えるって事は、ザラさんもクエイさんの正体を知っている証拠だ。
宿場町で合った時まではクエイさんの正体を全く知らない感じだったザラさんも、今はクエイさんの正体を知ってるんだな。
それに2人の会話に誰も驚いていなかった。
紺之助兄さんは、少し不思議そうにしてたけど。
と言う事はルグの言う通り、『レジスタンス』のメンバー全員がクエイさんの正体を知ってたって事だよな。
そう考えるとルグの言う通り、俺がクエイさんの正体をここで言っても大した問題はないんじゃ・・・
いや、『言わない』って約束を破ったのは大問題だけど。
「いや、でも、クエイがカラドリウスだって分かった時は本当驚いたわぁ。
まさかあんなに探し回ったカラドリウスが、直ぐ隣で酒飲んでたんだぜ?
驚くなってのが無理だって!!」
「そ、そうですね・・・
クエイさんもザラさんも、俺達が宿場町に居る間、毎日酒場に居ましたもんね」
「サトー君達が居ても居なくても何時でも居たぞー!
いやー、それにしてもサトー君達も人が悪いなぁ!
宿に戻って来た時言ってくれたら良かったじゃんか!
秘密にする何って酷いぞー!!」
「あの場で言ってたら、全員刺し殺してた」
「と、クエイさんが物騒な顔で物騒な事仰ってますので、無理です。
大体あの時は、唯の思い込みなのか使われた魔法道具が正常に動いていたのか分かりませんが、クエイさん達との約束通り本当に言えなかったんですよ?」
そもそも、ルグとユマさんは俺と違って正常に魔法道具の影響受けてただろうし。
なんにしろ答える事は出来なかった。
そう言うと不満そうな声を漏らすザラさん。
えー、と言われても無理なものは無理です。
「そもそも、クエイさん達に来て貰ってもトムさんの。
カラドリウス捜索の依頼人の頼みは叶えられませんでしたよ」
「え?そうなん?」
「はい。
マーヤちゃん、依頼人さんの娘さんも俺と同じ花なり病に侵されていて、その花なり病を治す為に必死にカラドリウスを探していたんです。
でも同じ病に侵された俺がこうですからね」
「ふーん。
クエイなら、伝説通りどんな病気でも直すカラドリウスになれそうだけどなぁ。
性格と口は悪いけど、医者としての腕は確かだしぃ?」
「性格と口が悪いは余計だ」
ジトーッと睨むクエイさんなんか気にせず、ザラさんはニッと笑って冗談交じりにそう言った。
何だかんだ言いつつ、ザラさんはクエイさんの事、本当に心の底から信頼してんだな。
だからこそ言える冗談なんだろう。
本当仲がいいな、この2人。




