53,ロストテクノロジー 後編
「僕の『図鑑』や貴弥の『教えて!キビ君』の情報って、最新の情報じゃないんだよ。
モノによっては100年とか1000年とか。
その位前の情報のまま変わってないモノもあるみたいなんだ」
「え!?そんなに!!?」
「まぁ、この『図鑑』とかは、『鑑定記録』系統のスキルを持った人限定で編集ができるW〇kp〇di〇みたいなものだからね」
俺はてっきり『教えて!キビ君』の情報は、今現在の決定的な情報だと思っていた。
でも、実際は特定のスキルを持つ人が見たり聞いたり、体験した事がほぼ自動的に記録される。
所謂インターネット上の百科事典みたいな物だと教えられた。
前回俺が居た時は気づかれなかったけど、紺之助兄さんのスキルや魔法を調べてる時にメテリスの情報が古いとジェイクさんが気づいて、詳しく調べていったらそういう事が分かったらしい。
初めて地下水道に入った時、『教えて!キビ君』にはメテリスの生息地は『ローズ国内とヒヅル国内、アルバ島周辺の島々』と書かれていた。
でもこの情報は30年以上は確実に前の情報で、現在は有益な素材が取れる事からコカトリスと同じ様に世界中に輸出され養殖されているそうだ。
それだけじゃなく、これもコカトリスと同じだけど、脱走したり育てきれなかったメテリスがかなりの数野生化し独自に繁殖ているらしい。
と言う事で今現在のメテリスとコカトリスの生息地は世界中って事になる。
そんな感じのズレが、『教えて!キビ君』内で沢山起きてるらしい。
記録されてる情報の量が量だけに今すぐその情報全部を調べ直すのは無理だけど。
「『鑑定記録』のスキルを持って生まれた人の数が少ない上に、人間が一生の内に見聞きしたり体験出来るものって限られてるからね。
その人達が関わってる分野によっては、1000年前に『召喚』された勇者達が得た情報が最後の可能性もあるし・・・」
「確かにそっか。
じゃあ、『教えて!キビ君』の情報はあんまり信用出来ないって事か・・・・・・」
「そうとも言い切れないぜ。
さっきコンも言ったけど、今にちゃんと伝わってない役立つ技術や知識もそのスマホには書かれてるんだ。
オイラ達が知ってる今の情報と組み合わせれば、かなり信用出来て役立つものになると思うぞ」
「それでも『教えて!キビ君』単体を信用出来ない事には変わりないよ。
俺はどの情報が新しくて、どの情報が古いのか全く分からないんだから。
そこ等辺の判断も1人じゃ出来ないのに、今までの様に信じ切るのは無理だよ・・・・・・」
何かあったらエド達に聞いて信用出来るものに変えていけばいいってのは分かってる。
でも自分で思っているよりもショックを受けていたみたいで、気づいたらそんな弱気な事を言っていた。
今までの様に、『教えて!キビ君』の情報が完璧確かな情報じゃ無いってのは想像以上に痛い。
その情報を記録した人が間違った知識を得ていた可能性もあるし、その間違いが本当に間違いか検証する事も容易には出来ないんだ。
それを考えると、完璧に信用できる情報に作り上げるまで一体どれだけの時間をかける事になるか・・・
想像しただけでため息が出る。
「あっ。
てことは、花なり病の事も昔誰かが気づいたって事か。
もしかして、木場さん達の同級生の誰かか、勇者ダイス達の様な俺達の世界に似た世界から『召喚』された誰かがなって分かったのかな?」
「それなら確かネイちゃんが、件の地下で赤の勇者達のお父さんの仲間の1人が花なり病になっていた。
って話を聞いたって言ってました。
地下の情報だけじゃその花なり病になった人が最後どうなったか分かりませんが・・・」
『教えて!キビ君』に花なり病の原因が書かれてたなら、昔『鑑定記録』のスキルを持っていた誰かが花なり病の事を調べてその事を突き止めたって事だ。
でも大昔から魔法がある事を考えると、『鑑定記録』のスキルを持った純粋なこの世界の人がストレスが原因だと気づけるとは思えない。
それなら、花なり病の原因を突き止めたのが木場さん達か勇者ダイス達と考えた方がまだ現実的だ。
そう思っていたら、ステアちゃんが木場さんの同級生の1人が花なり病になっていた事を教えてくれた。
「それ、本当?」
「はい。確か名前も分かってて・・・
えーと・・・確か・・・・・・
ソラ。アカハネソラさんです」
「えッ!!?赤羽 空!?
え?え?嘘だろ?
・・・いや、まさか・・・・・・そんな事・・・」
「なんだ?
サトウの知り合いと同じ名前だったのか?」
「知り合いと言うか・・・・・・
好きな作家さんの本名と同じだから、ビックリしちゃって・・・」
この世界にも一緒に来たあのハードカバーの作者、野々 空継先生。
その空継先生の結婚前の本名が赤羽 空なんだ。
いや、それにしても、本当に驚いた。
十中八九同姓同名の別人だってのは分かってるんだけどな?
まさかのまさか、異世界で好きな作家の本名を聞くとは思わないじゃないか。
これで驚くなってのが無理だよ。
「サトウの好きな作家って・・・・・・
あのサトウが持ってきた悪趣味な本の作家?」
「悪趣味って・・・」
「好きだって言ってるサトウには悪いけどさぁ。
正直言って悪趣味としか言えないぜ、あれ。
コンから聞いたんだからな。
あの本の表紙の女の人、死体だって。
中身は読んでないけど、そんなモンが表紙の本が悪趣味以外の何だって言うんだよ」
「空継先生は伏線とミスリード、登場人物の心情描写が凄いミステリー作家で、あの本もそうなんだよ。
で、あの表紙も伏線の1つ。
って言うか盛大なネタバレだな、あそこまで細かく書かれると。
まぁ兎に角、ちゃんと意味があって表紙になってるんだからな。
最初すら読んでないのに悪趣味って言うなよ。
スッゴク面白いんだからな!!
後であの本貸すから、是非読んでくれよ!?」
「推理物苦手だからいい」
「えー・・・」
読んでも無いのに表紙だけで悪趣味だと言うルグに、俺は少しムッとしつつそう言った。
その上、文句があるなら読んでからにしろと言う思い半分、好きな作家の作品を布教したいファン心理半分で、持ってきた本を進めたら。
まさかの好きなジャンルじゃ無いと言う理由で、ルグにキッパリ断られた。
言っておくけどなぁ。
あの本のシリーズはミステリーが苦手な人でも読みやすいんだぞ!!
読まずに一生を終える何って損でしかないんだからな!!!
「その本が悪趣味とか面白いとか、今は置いといて。
その作家さんが昔この世界に来てて、花なり病になったかもしれないんだよね?」
「でも、あの本に書かれてた名前はアカハネ ソラじゃなかったぞ。
旧姓だって言う苗字だけなら兎も角、何で名前まで違うんだよ。
サトウもソラツグ先生って言ってたし」
「この世界だと珍しいかもしれないけど、野々 空継って名前はペンネームなんだよ。
作家としての偽名。
それで本名が風山 空で、結婚前の苗字が赤羽」
俺とルグの軽い言い合いをバッサリ切ったマシロが、確認する様にそう聞いてくる。
そんなマシロの言葉に俺が答える前に、そう心底不思議そうに尋ねてくるルグ。
屋敷の書斎の本とか、アーサーベルの図書館の本とか。
前回色々この世界の本を読み漁って分かった事だけでど。
この世界の作家って基本、本名で本を出してるんだよな。
異世界から来たDr.ネイビーを抜かしたら、前回読んだ本の中でハッキリペンネームだって表記されていたのは2、3人だけだったはず。
まぁ、作者本人のサインとして殆どの本には、その人の基礎魔法の魔法陣が本のどこかに印刷されてるから、知り合いにはほぼ間違いなく誰が書いてるかバレる訳で。
偽名使って隠す意味がほぼ無いってのが理由なんだろうな。
ペンネームを使ってる人の殆ども、自分の正体を隠す為じゃなく、本名が好きじゃ無いとか、作家の名前っぽくないとか。
そんな理由で使ってたし。
だから、ルグは本に書かれた名前の違いに違和感を持ったみたいだ。
「まぁ、『赤羽』って苗字も『空』って名前も、そこまで珍しいモノじゃないから、多分同姓同名の別人だと思うけど」
「そうなんですか?
あ、じゃあ、その作家さんに『コウタロウ』って名前の知り合い、居るかどうか分かりますか?
アカハネソラさんとかなり親しかった人らしいんですけど・・・」
「それなら、空継先生の旦那さんの名前が紅太郎だよ」
空継先生の旦那さんはあの超有名な大人気俳優、風山 紅太郎だ。
それで数年前に起きたその風山 紅太郎との結婚報道が理由で、一切プライベートを明かさない空継先生の本名が分かってしまった。
まぁ、その事と風山 紅太郎と幼馴染だった事以外、顔も出身地も正確な年齢も。
一切合切全部不明なのは今も変わらないんだけど。
話題になった当時、マスコミもかなり空継先生のプライベートを探っていたみたいだけど、ガードが固すぎてそれ以上の情報を手に入れられなかったらしいし。
「えっと、ステアちゃん?
そのアカハネさんの知り合いのコウタロウさんの苗字と名前の字がどう書くのか。
コロナさんから聞いてる?」
「いいえ、分かりません。
多分、ネイちゃんも。
実際に見た赤の勇者達に名前の字を書いて貰った訳じゃないそうなので、分かんないと思います」
「そっか。
それだとなおさら空継先生夫婦と関係あったかどうか分からないな。
『風山』って苗字も『紅』って漢字を使った『コウタロウ』も。
結構珍しいから、空継先生夫婦の可能性が高くなるんだけど・・・」
『幸太郎』とか『光太郎』とかだったらそれなりに居る名前だとい思うけど、『紅太郎』って書く名前はかなり珍しいんじゃないか?
風山 紅太郎以外その名前使ってる人、他に見た事も聞いた事もないし。
だから、『紅太郎』って名前の古くからの知り合いが居る『赤羽 空』ってなると、空継先生の可能が非常に高くなる。
この組み合わせ全部が一致する人が、そう何人も居るとは思えないだろう?
「とりあえず、木場さん達の同級生の誰かが貴弥と同じ病気になっていたのは確かなんだよね。
だったら、元の世界に帰ったら木場さん達に聞けばいいよ。
僕も貴弥の事で是非聞きたい事があるしね」
「俺の?」
「うん。
もし、その人が貴弥の好きな作家先生と同一人物なら、貴弥と同じ様に花なり病になって僕達の世界に帰って来た13人の誰かって事でしょ?
この世界の病気に罹っても無事僕達の世界で今も生きている。
それなら貴弥のこれからの生活で気を付けないといけない事、聞けるかもしれないじゃないか」
異世界の病気に罹ったまま元の世界に戻って、これから先何があるか。
そう不安そうに言う紺之助兄さんに申し訳なさが溢れてきて、つい言葉に詰まる。
ただでさえ大怪我して声も出ない状態で色々迷惑かけてるのに、先の事までそう心配してくれると・・・
何と言うか、感謝の気持ちより申し訳なさが先に来るな。
これ以上心配させない様に早くナト達連れ戻して、リハビリ頑張らないと!!
 




