27,ルグの異世界講座 8時限目
「ジャックター国はスクリュード国、グリーンス国、クランリー国、ホットカルーア国。
アンジュ大陸国の全てが集まる国だ。
元々はアンジュ大陸国が1つの国だった頃から無視される程荒涼とした土地が広がる地獄の様な所だった。
それを歴代ジャックター国王を中心に何千年もの長い、長い、年月をかけて開拓したのが始まり。
そのお陰で今では木々が生い茂り清く澄んだ水が流れる楽園の様な国になったんだ」
「確かに、そんな正反対な土地にするなんてジャックター国の魔族達は凄いけど、そもそも何でそんな所を開拓しようと思ったんだ?
当時の王様とか偉い人に命令されたのか?」
「逃げて来たんだ。
それで、自分達が住み易い様に開拓していった」
『弱虫ジャックターと不思議な仲間達』
ルグが持ってきた絵本のタイトルだ。
アンジュ大陸国民なら子供頃から知っているアンジュ大陸国が今の形になった経緯を書いた絵本。
書いてある事はほぼ実際に起きた事らしい。
「えーと、『昔々、アンジュ大陸国がまだ1つの国で恐ろしい1人の王によって支配されていた時代。
辺境の村にジャックターと言う悪魔の少年が住んでいました』」
ジャックターは悪魔なら当然できる魔法が出来ませんでした。
そのせいで村の者達から馬鹿にされ家族からも
『役に立たない要らない子』
と言われていました。
ジャクターはそんな自分の扱いを、
『仕方ない』
と諦めていました。
何せその時アンジュ大陸国は人間の国と戦っていたのですから。
王様の命令で村の強い男達は皆戦いに出て行っています。
村に残っているのは子供や女の人、年老いた老人だけです。
皆自分の事でいっぱいいっぱいなのにジャックターにまで構ってられません。
そんなある日、ジャックターにも王様から戦いに出るよう手紙が来ました。
悲しむジャックターと反対に村の皆は大喜びでジャックターを送り出しました。
しかし、あと少しで王様の所に着くと言う時にジャックターは、
『やっぱり、戦えない!!
誰かを殺すのも、殺されるのも、傷つくのも、傷つけるのも、怖い!!』
と怖くなり逃げ出しました。
逃げて、逃げて、逃げて、逃げて。
辿り着いたのは誰も居ない地獄の様な場所でした。
その場所を見てジャックターは帰ろうとしました。
しかしジャックターは、王様の命令を無視して逃げてきたのです。
もう、村にも何処にも帰れません。
ジャックターは泣きながらたった1人、地獄で暮らし始めました。
何日も何日もジャックターは土地を耕しました。
辛くて、悲しくて、寂しくて。
それでも泣きながらジャックターは土地を耕します。
ある朝、ジャックターが目を覚ますと7人の魔族が居ました。
頭の悪いケートスのスクリュード、
臆病で花が大好きなマンティコアのグリーズ、
弓の扱いが下手なエルフのリーン、
無口で空を飛べないハーピーのクランリー、
武術も剣術も苦手な兄のホットと、火の扱いが苦手な妹のカルーアのバルログの双子、
そしてジャックターと同じ悪魔のプリンストン。
彼等もジャックターと同じ様に戦いから逃げて来たのです。
ジャックターと後から来た7人は協力して自分達の楽園を作る事にしました。
小さな子供の頃から魔法道具の扱いや制作が誰よりも得意だったジャックターは、作業に必要な魔法の道具を作り、
スクリュードは誰も思いつかなかった方法で設計図を作りジャックターを手伝いました。
グリーズが元々生えていた痩せた植物に息を吹きかけると誰もが美味しく食べれる野菜や薬草に変わり、
グリーズが変えた植物を使いリーンが皆を癒す薬を作りました。
クランリーが歌って踊ると風が動き雲を集め雨が降りました。
ジャックター達のお陰で豊かになった土地を狙いやって来る魔物から皆を守るため
ホットとカルーアは2人で協力して戦う新しい武術を編み出しました。
プリンストンは頑張る皆のために毎日美味しいご飯を作ったり、
見た事も無い生き物を作り出し喜ばせました。
そうやって皆で頑張ったお陰で地獄だった土地は見違える様に豊かになり、ジャックター達と同じ様に逃げてきた魔族や村を失い新しい土地を求めてきた村人が集まり、その土地に小さな町が出来ました。
町が何倍も大きくなる頃、ついにアンジュ大陸国の王様が人間の若者に倒され長く続いた戦いが終わりました。
残ったのは負けてしまった以上人間に何をされるか分からない底なしの暗い、暗い、未来。
アンジュ大陸国に住む者達は皆悲しみに暮れました。
あぁ、人間達がもうすぐこの大陸に押し寄せてきます!!
『もうだめだ!!』
誰もがそう思った時、何故か人間達は皆慌てて自分達の国に帰っていきました。
そう、ジャックター達が自分達が作ったり変えた魔法の道具や植物を使って人間達を脅かして国に帰したのです!!
人間達は
『こんな良く分からないものがある所に居られない!!』
と転がる様に帰りました。
「『ジャックター達の活躍を見た魔族達はジャックター達を新しい自分達の王様に決めました。
ジャックター達は1つだったアンジュ大陸国を自分達の名前を付けた5つの国に分け、其々の国を治めました。
それが今私達が住むアンジュ大陸国です。
めでたしめでたし』
・・・・・・か。
何か童話とかにありそうな創作っぽい話だな」
「でも、本当に起きた事だし、そのお陰で今のオレ達があるんだ」
絵本を読み終わって思った感想を言うとルグは不満そうに頬を膨らませた。
ルグには悪いけど、ここが異世界で魔法が普通に存在しているから、どうしても童話や昔話みたいな創作物に思えてしまう。
一応スクリュード国王家がスクリュード、
グリーンス国王家がグリーズとリーン、
クランリー国王家がクランリー、
ホットカルーア国王家がホットとカルーア、
ジャックター国王家がジャックターとプリンストンの子孫と言う事らしい。
その証拠に、この絵本に出てくる8人以外持って居ない技やスキルを王族は持って産まれてくる。
それが前ルグが言っていた『お陰でアンジュ大陸国は繁栄して平和に暮らしている』、『国王一族が持つ技やスキル』の事だ。
嘘か本当か分からないけど。
「サトウは異世界人だから分かり難かったかも知れないけど、本当にすごい事なんだからな!!」
「まぁ、最初はどうであれ、実際大きな大陸の中心の国にまでしたんだ。
その事は素直に凄いと思うよ」
そう言うとルグは少し機嫌を直してくれた。
「ジャックター国が魔法道具作りが盛んな物作りの国なのは、ジャックターが魔法道具作りが得意だったからなんだ。
その子孫の歴代ジャックター国王達も皆、魔法道具作りが得意で、王家の者は皆、それこそ末端の末端の分家の魔族でも魔法道具作りを日常的に行っている程だ。
だから、素材の殆どがアンジュ大陸国の他の国からの輸入品だけど、ジャックター国で作られたと言うだけで同じ素材なのに他の国とはまるっきり違うし高品質になるんだ」
多数の発明家、技術者を出した国で、アンジュ大陸国がここまで栄えた基礎を作った大黒柱、だとルグは嬉しそうに言った。
その為魔法道具の研究開発はジャックター国経済にとって必要不可欠な分野だ。
けど、国内の学業の制度はまだまだ不十分で、その技術の更なる発展の為国から数多くの支援を出し身分に関係なく全ての子供達をグリーンス国の学校に送り出している。
国としての現在最重要されている目標は、出来るだけ早く自国にもちゃんとした教育機関や制度を造る事なんだと。
「魔法道具作り以上にジャックター国が凄いのは、この世界で最高レベルの男女無性別平等、障害者の権利促進、同性、無性別で結婚した場合の法的社会支援、怪我や病気に対する国からの治療費の援助などを確立させている事だ!!」
「・・・・・・・・・ちょっと待て。
今、無性別って聞こえたけど、気のせいだよな?
後、国には其処まで援助する金があるのか?
税金が物凄く高いって事は無いよな?」
「累進課税があるけど、消費税はアンジュ大陸国全土で3%。
それ以外にも払わないと受けれない制度や国民としての義務も有るけど、殆ど無償。
お金があるかどうかは分からないけど、赤字になったって話は聞いた事無いな~。
後、魔族の中には男女片方の性別しかない種族や性別の無い種族もいるんだ」
女性しかいないウンディーネやスキュラ、性別の無いアルラウネがその例らしい。
そういう理由でアンジュ大陸国全域で結婚を『結婚する2人のみの合法的な連合』と法律で定めている。
つまり、異性同性人間魔族関係なく結婚出来るって事らしい。
法律上は。
法律でOKしても周りの魔族や人間が許すかどうかは別だ。
本人達が良くても周りが反対して保証人に成らなければ結婚できない。
特に未成年。
そう言う事があるとは言え聞いた限りだと理想的な国だ。
「いい国でしょ?」
「う~ん、うん。そうだな。
この世界の中ではいい方だと思うな」
でも、1番は自分が生まれた国だ。
「あ、でも1つ問題が・・・」
「問題?」
「うん。
ほら、絵本に『グリーズが元々生えていた痩せた植物に息を吹きかけると誰もが美味しく食べれる野菜や薬草に変わり』って有っただろ?
ジャックター国はその時に出来たって言われているジャガイモって言う野菜の球根と実が主食なんだ。
最初は良いんだけど、朝昼晩3食主食、主菜、副菜、汁物まで全部ジャガイモ尽くしなんだよ。
それと、ジャガイモと一緒に植えるとお互い良くなる枝豆」
毎日ジャガイモと枝豆って・・・
確かにそれは飽きるし、嫌になる。
好きな奴でも流石にそれは遠慮したいだろう。
「ん?
さっきルグはジャガイモの『球根』と『実』って言ったよな。
この世界だとジャガイモに実が生えるのか?」
「え?普通生るだろ?」
生えるのか、って言うか生えるまで塊茎を収穫しないのか?
って言う方が正しいか。
品種にもよるだろうけど、確か俺の世界のジャガイモにも実はなったはずだし。
まぁ、その実が生える前にジャガイモを収穫するのが普通なんだけど。
後その実には芽や緑色になった皮の様に毒が有ったはず。
だから生えても食べれないと思うんだけど・・・
その事をルグに言ったら、この世界のジャガイモと呼ばれる植物は俺の世界のジャガイモと少し違う物だと教えてくれた。
どうやらこの世界のジャガイモはナスとジャガイモ、トマトとジャガイモが同じ茎に生る様だ。
紫と白のシマシマ模様の丸いナスの様な実と、ホクホクした食感で荷崩れしやすい男爵の様な球根がなるキングポテト。
果物と言っていいほど甘いトマトの様な実と、ねっとりして煮崩れし難いメークインの様な薄紅色の球根が生るクイーンポテト。
その2種類。
先ず実を収穫して少し枯れてきたら球根を収穫する。
なんともお得な野菜だな。
確かにナスもトマトもジャガイモも同じナス科の植物だ。
一緒になっても、
「違和感しかねぇよッ!!」
「えー」
違和感しかないけど、此処は異世界。
ネコだって同じ名前で姿が違ったじゃないか。
郷に入れば郷に従えって言うし、そういう物だと納得しよう。
違和感を拭うのは大分掛かるけど。
「お陰で、色々俺の常識が通用しない世界だって分かったよ」
「サトウ、やっていけそう?」
ルグの話を聞いて更に不安になったし、自信も根こそぎ奪われた。
でも、
「やってやるさ。
元の世界に帰るまで絶対生き残ってやる」
「オレも協力するぞ!!」
「あぁ。ありがとうな、ルグ」
異世界に召喚されて4日目。
頼もしい仲間が増えた。




