49,7代目の動物像
あの鍛冶師の爺さんのお父さんの事だから、絶対この隠し階段にも何か仕掛けや罠があると思ったんだけどなぁ。
警戒しつつ1番上の段まで上ったけど、石橋を叩き壊す勢いで警戒していたのが馬鹿らしくなる程、何の仕掛けもなかった。
その事に一先ずホッと胸を撫で下ろし、開いた小さな扉を見る。
正方形のその扉は扉と言うには結構小さめで、俺達も少し屈まないと入れないし、ピックやペール、2m近い身長の人。
力士の様に横幅のある人は匍匐前進でもギリギリ入れるかどうか、って所だ。
まぁ、俺達はピックとペールも含めて全員難なく入れたけど。
ピックもペールも心配する俺達を他所に、猫みたいに頭が入った次の瞬間にはスルリと部屋の中に入ってきた。
毛深いから大きく見えるだけで、2匹とも意外と細身だったのかな?
「にしても、かなり広い部屋ですね」
「あぁ。
多分、アジトの中の一番広い部屋よりも広いんじゃないか?」
小さく狭い入口に反して部屋の中は、体育館やグランドの何倍近くも広かった。
何て言えばいいのかなぁ・・・
外国の大きな美術館と言うか、巨大クロッグ事件の時バトラーさん達が泊まってた様な超高級ホテルみたいと言えばいいのか。
1つ前の部屋の様に壁に均一に並んだシンプルだけどお洒落感がある柱と、汚れ一つ無いと思わせる様なキラキラ輝く真っ白な石で出来た壁や床。
部屋中に入っていた線が無い事を抜かせば、部屋の基本的なデザインは前の部屋に似ている気がする。
似ているけど壁以外に柱が無い分、前の部屋よりも開放感があるし、部屋自体の広さとか素材とか細かいデザインとか。
そう言うのを全部何ランクも上にした様な感じ。
多分、ホテルの一番安い部屋と、スイートルーム位差があるんじゃないか?
「とりあえず、二手に分かれるか。
クエイ達の班は俺と一緒に向こうの方な」
「あぁ、分かった」
「なら、ボク達は左側を中心に調べればいいんだね?」
「おう!任せたぞ、ジェイク!!」
アルさんの指示で、俺と紺之助兄さんを入れたジェイク班と、アルさんを入れたクエイ班。
その二手に分かれて、それぞれ左右の壁に沿って部屋を調べる事になった。
製作者は違うけど前の部屋の様に隠れた切れ込みとかあると困るし、とりあえず壁に手を付きながら奥へ進む。
「ん~、と・・・・・・あれ?」
「どうしたんだ、サトウ。今度は何を見つけた?」
「あぁ、エド。
クエイさん達気づいてないけど、ほら、向こうの壁の上の方。
くり抜かれて何か・・・多分兎、かな?
斜めになった長い耳の像が置いてあるだろ?」
大体部屋の半分位だろうか?
辺りを見回す様に柱と柱の間の壁を調べていると、視界の隅に何か違和感を感じる様な物が写った様な気がした。
その違和感を感じたと思う場所に視線を向けると、俺達が居る壁の真っ直ぐ向かい。
クエイさん達が調べてる右側の壁の・・・
大体家の2、3階辺りかな?
その位かなり上の方にポッカリ穴が空いて、その中にゆるくて可愛い感じにデフォルメされた兎っぽい像が置かれているのが見えた。
「確かに何かあるな。でも、あれがウサギ?
あれはウサギじゃなくて・・・」
「ドワーフだよね?
上に伸びた長い耳とか、顔の形とか。
どっからどう見てもドワーフじゃないか」
「でも、あの像がドワーフを表してるなら細過ぎない?
まるで今すぐにも餓死しちゃいそうな人の像だよ」
「そうなの?
この世界のドワーフって、俺達の世界の兎に似た姿してるんだ」
俺とルグの会話につられて像を見たのだろう、ジェイクさんとマシロの話からすると。
あの兎っぽい像は、片手で大きなハンマーを担いだ、骨と皮しか無い位細いドワーフの像って事になる。
餓死寸前な位細いのに、自分と同じ位大きなハンマーを担げるものなのか?
そう言うドワーフが昔本当に居て、あの像はその人を表しているのか、それともドワーフを表してるって考えが間違っている?
あの像が俺達の探してる魔法道具かどうか分からないけど、あの像を作ったのもコラル・リーフで、コラル・リーフも俺達の世界と似た世界から『召喚』されたと仮定した場合。
あの像はドワーフを表してるんじゃ無くて、『俺達の世界の兎』を表してるって事になるよな?
その兎がハンマーを担いでるなら、月に居る兎を表してる、とか?
「とりあえず、あの像はアル君達の担当だらね。
後の事はアル君達に任せて、ボク達はボク達の方を調べようか」
「分かりました。
あ。おーい!!店長さん達ー!!!
そこの壁の上に兎、じゃなかった。
ドワーフを象ったっぽい像がありまーすッ!!!」
「・・・そう言うサトウ君達の上にも何か像があるぞー!」
「え?・・・・・・・・・本当だ。
こっちにも穴があいている」
ジェイクさんに自分達の担当箇所をしっかり調べようと言われたけど、壁に近いせいか。
アルさん達全員が真上にあるあの兎っぽい像に気づかないまま先に進もうとしてるのが見えて、俺は慌ててそう叫んだ。
俺の声が無事届いた様で、少し壁から離れて上を見ていたピコンさんが、今度は俺達の上にも像があると叫ぶ。
その言葉通り像が有るかどうか。
此処からじゃ分からないけど、少し壁から離れて上の方を見れば確かに穴が空いていた。
「うーん・・・・・・
此処からだと穴が空いてるのは分かるけど像は見えませんね」
「もう少し後ろに下がるか・・・・・・そうだな。
更に二手に別れようか。
サトウ君と後2人でさっきみたいに飛んで上の像を調べて、残りは下の方を調べる。どうかな?」
「俺はそれでいいと思います」
あのレジャーシートで1度に安全に飛べる人数は、『フライ』を使う俺を含めて恐らく3人まで。
そう前の部屋で言ってある。
頑張ればもう1人乗れるだろうけど、像を調べる為にかなり高い所まで行くんだ。
無茶はしたくない。
それに、さっき飛んだ俺達3人と多分ピック以外、エレベーターのトラウマもあるから直ぐに空を一緒に飛ぶ、何って出来ないだろう。
実際、紺之助兄さんやステアちゃんには全力で嫌がられたし、ペールにはまた泣かれてしまった。
という事で、比較的フワフワと飛ぶのや浮遊感、高い所が平気な。
さっきと同じ、俺、ルグ、ジェイクさんの3人で上を調べる事になった。
「これは・・・・・・手のない蛇かな?」
「この世界の蛇には手があるんですね」
「サトウの世界にはないのか?」
「空想上の生き物なら兎も角、基本動物の蛇には手も足も無いよ。
大体この像みたいな感じ」
近づいて分かったのは、俺達が調べてた壁の上に有った像が、方向は違うけど兎の像と同じ様に斜めを向いた。
所々色が剥げ、時間結晶が混じった白っぽい灰色の石の地肌を覗かせた黒い蛇の像だって事。
像の全体の高さはピコンさんよりも大きくて、蛇の体は俺達の胴よりも太い。
その太い体で、蛇の像と同じ様に真っ黒だっただろう剣に巻き付く様にとぐろを巻いている。
ゾンビ達とは正反対の、コロナさんの様な透き通るような淡い紫色の目をしたその大蛇。
本当にこんな大きな蛇に出会ったら、間違いなく腰を抜かして一飲みされそうだけど、この蛇の像からはそう言う恐ろしさは全然感じない。
どちらかと言うと、強い覚悟を秘めた様な、何処となく凛とした様な。
そう言うものを感じる。
「・・・何か、この像コロナさんみたいだな」
「あぁ!確かにネイっぽさが有るよな。
黒い体で紫色の目をしてるし」
「それに、後ろの燃え盛る炎っぽい壁の彫刻とか、巻付いてる大きな剣とかもネイ君らしさを引き立ててるよね」
元々真っ黒だったろうその体と、片目だけ色が残った瞳。
それと背後で燃え盛っていた様な、殆ど色が落ちた炎に見える壁の彫刻。
像から感じる雰囲気も合わせて、その全てがあの形見の大きな鎧を着たコロナさんを表している様で、見れば見る程この蛇の像がコロナさんにしか思えなくなってくる。
口から溢れたその考えを聞いたルグとジェイクさんも俺と同じ様にこの像がコロナさんみたいだと思ったみたいで、ウンウンと何度も頷いた。
3人が3人共コロナさんみたいだと思ったなら、この蛇の像はやっぱりコロナさんを表しているのか?
でもコラル・リーフが関わってるなら、この像が作られたのは3000年も前なんだよな?
しっかり調べたジェイクも、ちゃんと時間結晶の効果の事も計算に入れて間違いなく3000年は経ってるって言ってるから、この像が3000年位前に作られたのは間違いないだろう。
となると、コロナさんっぽいけどコロナさんを表してる訳じゃない?
「もしかしたらこの像達はサトウ君達の世界の動物でこの世界の誰か。
もしくは種族を表してるのかもしれないね」
「それなら、この蛇の像は3000年前のホットカルーア国の王様を表してるのでしょうか?
そうじゃなくても、バルログの誰かなのは間違いないと思います」
「多分そうだろうな。
ここまでネイっぽさがあるんだ。
絶対ネイの種族か、祖先と関係あるって!!」
幾ら調べてもこの像には、『蛇の形で表した誰か』の名前は書いてなかった。
勿論、ピコンさんの形見の箱の数字の様な隠された文字もだ。
だからとりあえずルグの言う通り、この蛇の像はコロナさんの祖先にあたるバルログを表しているって事にしよう。
ついでに向かいの兎の像は、ドワーフの誰かって事で。
「で、同じ様な像が後・・・1、2、3・・・
奥と真ん中のを入れて6個か?」
「シンメトリーになっているって考えたらそうだろうね」
右側の壁の方を見ると、1つ飛ばしに後2つ。
蛇や兎の像と同じ様に何かの像が、柱と柱の間のくり抜かれた壁の中に置かれていた。
此処からだと少し遠くて、真ん中とその左隣にどんな動物の像が置かれているか分からない。
けど、何となく両方共羽根っぽい部分が辛うじて見えるから、多分鳥の像なんじゃないかな?
で、ジェイクさんの言う通りシンメトリーになってるなら、こっち側にも後2つ。
それとルグの言う通りなら奥の壁の真ん中に1つ有って、その像と同じ列。
部屋の奥から4分の1位の真ん中等辺にも1つ像が建っている。
俺の視力じゃ穴が開いてるのはギリギリ分かるんだけど、奥の像は全くって良い程見えないし、唯一壁の中にない像もグネグネと長い茎から生えた蓮みたいな花の像を沢山背負った後ろ姿しか見えない。
だから、その2つの像も何の動物の像か分からなかった。
「えーと。もう少しこの蛇の像を調べますか?
それとも、別の像を調べます?」
「そうだね・・・・・・」
「おーい、貴弥ー!
そっち調べ終わったなら、1度こっち戻ってきてくれるー?」
「え?あ、うん。分かったー!少し待っててー!!」
何か見つけたのか。
次の像を調べようかどうか相談してると、下から紺之助兄さんがそう声を掛けてきた。
もう1度蛇の像を軽く見回して、本当に降りて大丈夫かどうかルグとジェイクさんに確認して。
それから俺達は下で待つ紺之助兄さん達にぶつからない様に、かつ俺達自身安全を最大限考慮してゆっくりゆっくり慎重に下に降りた。
 




