47,カラクリ扉の先へ 中編
「この位で大丈夫ですか?」
「うん。十分だよ」
「それじゃあ、『フライ』!!」
大人数人座っても大分余裕があるだろう、かなり大きなレジャーシート。
それに俺とジェイクさん、りんご飴を食べ終わって完全に調子が戻ったルグが乗った所で、俺はレジャーシートに『フライ』を掛けた。
久々にしっかり意識して『フライ』を使うから上手く飛べるか心配だったけど、意外とこう言う感覚って覚えてるもん何だな。
特に危なくもなく天井に手が届く所まで浮かべた。
「天井には・・・切れ込みは、ないですね。
完全にツルッツルです」
「扉の切れ込みは?」
「扉の切れ込み・・・・・・も、途中で終わってるな。
ここから右向かって横に入ってる。
左側には横の切れ込みは無い」
天井には一切切れ込みは無いし、天井まで届いてる扉の、なぞり続けた切れ込みも天井から2m強位下の所で終わっている。
扉の左側には扉らしい切れ込みも、蝶番も、引き戸用のレーンも無い感じだし、もしかして左側は両開きの扉に見せる為の騙し絵?
と言う事は動くのは右側だけ?
「ん?・・・・・・また切れ込み・・・
今度は・・・・・・・・・正方形?」
そう思って上の横に走った切れ込みをなぞっていると、右側の扉の中心辺りの切れ込みの上に、中心の縦の切れ込みとも、横に走った切れ込みとも繋がらない。
全く別の切れ込みが6本。
大きな正方形を描く様な4本の切れ込みと、その正方形を4つの三角形に分ける様な『 × 』の形の切れ込みが入っている事が分かった。
「正方形って・・・これ?」
「うん、それ。
何かこの正方形、少しだけ動くんだ。
それに、バッテンの交わった正方形の中心。
ここから微かに風を感じる・・・」
「風?・・・・・・本当だ。風が流れてる」
ルグも確認して風の流れを感じたなら、俺の勘違いじゃないだろう。
って事は、この先は外か、別の部屋があるって事だよな?
ならこの正方形は、扉って事か?
この大きな扉はダミーで、この小さな扉が本命?
でも、自動ドアの用に小さな扉の何処にもドアノブが付いてない。
近くに『マキア』の魔方陣も無いし、どうやったらこの扉、開くんだ?
それと、大きな扉の右側と床に入った切れ込み。
この切れ込みの理由って?
「うーん・・・・・・」
「どうですか、ジェイクさん?何か分かりましたか?」
「ざっと見た感じー・・・・・・
魔法回路はないから・・・
エレベーターや今までの仕掛けの様に魔法道具的仕掛けは施されてないね。
でも、この小さな扉に繋がる様に沢山の歯車が、壁同士の間の隙間に組み込まれてるみたいだ」
「えーと。
『マキア』とかの魔法を使わない仕掛けって事ですか?
騙し絵やこの部屋の図形の様な感じの」
「あぁ言う目の錯覚?って言うんだっけ?
それを使った物じゃないけどね。
井戸の滑車の様って言えばいいのかな?
こう・・・・・・魔法を使わずにこの歯車を動かせれば、小さな扉は開くはずだよ」
「歯車を・・・
近くにレバーやボタンが無いと考えると・・・・・・
ジェイクさん。
その歯車、大きい扉の右側の中にもありますか?」
「大きい扉の方は壁が凄く分厚くてね?
スキルを使っても上手く見えないんだ。
でも見える範囲の歯車の繋がりからして、多分この下にも歯車があると思うよ」
画面を見つつ答えてくれたジェイクさんにお礼を言って、俺は大きな扉の上の切れ込みの続きをなぞりだした。
俺の考えが合っていれば、この右側の大きな扉が小さい扉を開く鍵なんだと思う。
「やっぱり・・・こっちの床にも切れ込みがある」
「切れ込みがあるからって、それがなんだって言うんだ?」
「多分、此処まで大きな扉の右側を引っ張ってこれれば、あの小さな扉が開くと思うんです」
不機嫌そうなクエイさんの質問に、俺はそう答えた。
全く同じに、小さな扉を中心に平行に入った2本の床の切れ込み。
ジェイクさんが教えてくれた歯車の事を考えると、引き出しの様に右側の大きな扉を引っ張れば小さな扉が開くと思うんだ。
「そう言うけどさー。
サトー君も見てたじゃん。
クエイ達が引っ張っても全然動かなかったの」
「多分。
いえ、間違いなくこの仕掛けを動かす為の鍵がまだ掛かったままなんだと思います。だから・・・」
ザラさんにそう言いながら俺は、大きな扉の右側の右側。
特に他の取っ手と対称的になる場所を中心に調べだした。
「あった!!」
太く重なるように描かれた線に隠された、南京錠の棒の部分の長さと同じだけ離れて横に並んだ2つの穴。
丁度取っ手の刺さった上の方と2つの穴は軸が一致する。
その左側の穴の下の部分は、右の穴の下に行くように。
こう、半円を描くような感じって言えばいいのかな?
曲がった斜めの切れ込みが入っていた。
「あったって、今度は何があったんだよ?」
「取っ手を付けれそうな場所だよ、エド。
この穴に、あっちの取ってを付け直して、縦に真っ直ぐにすればこの仕掛けが動くはず・・・・・・」
「・・・・・・どっちの取っ手も動かないな」
ダメだ。
聞いてきたルグに説明しつつ、大きい扉の左側に付いた取っ手を引っ張るけど、どうやっても外せない。
ガッチリ壁に引っ付いてルグの力でも抜けないし、ネジとかも見つからない。
ジェイクさんに調べ直して貰ったところ、どうも左側の取っ手は後からつけた物じゃないみたいなんだ。
大きな扉の左側に見えるようにした壁の1部。
大きくて分厚い壁を態々削って取っ手の形した彫刻らしい。
「彫刻って・・・・・・こっち側全部?」
「うん。そうみたいだね」
「・・・・・・鍛冶師さんのお父さん、凄すぎません?」
複雑な模様が刻まれた、本物の扉だと誰もが騙されるようなリアル過ぎる扉の彫刻。
魔法を使えば、こんな凄い騙し絵の様な彫刻を彫れるのか?
いや、それ以前に、この世界って『幻術』とかの認識阻害魔法があるから、騙し絵とかの技術ってかなり珍しいものなんだろう?
ルグの話だと、アンジュ大陸かグリーンス国には騙し絵の技術自体ないらしいし。
それなのに、ここまで多種多様な騙し絵や仕掛けを作れるって、凄すぎないか?
天才過ぎだろう!
もし誰かに、
「鍛冶師さんのお父さんは、この世界のレオナルド・ダ・ヴィンチなんだ」
って言われたら、俺、絶対何の根拠もなくても信じてる。
一応おっさんの叔父か伯父に当たるらしいけど、そもそも本当に、鍛冶師の爺さんのお父さんはこの世界の人間だったのか?
本当は俺達の世界やこの世界よりも凄い世界から来た、神様的異世界人なんじゃ・・・・・・
そう疑いたくなる位、今まで見てきた鍛冶師の爺さんのお父さんの騙し絵や仕掛けは凄いんだよ!!
「アルゴの父親が変態的で厄介な天才なのは今更だろうが。
そんな事言ってる暇があるなら、そのもう1つのドアノブってやつを探しやがれ」
「えーと・・・はい。すみません」
左側の取っ手が外れないって分かった時点で、近くの壁を探し始めたのだろう。
ザラさん達と一緒に少し離れた壁をノックしたりしてるクエイさんに呆れた様に怒られ、俺は鍛冶師の爺さんのお父さんの凄さに圧倒された頭の中を切り替えた。




