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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
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46,カラクリ扉の先へ 前編


 とりあえず手紙の内容を信じてアルさんに報告して、昼飯後。

アルさんと一緒にジェイク班、クエイ班合同であの隠し部屋に戻る事にした俺達。

そんな俺達は今・・・・・・


「うわ、うわぁああああああああああ!!!!!

落ちるぅうううううう!!

死ぬッ!!!死んじゃうううううううう!!!

だれ、誰かぁああああッ!!!

たあああすうううけえええてえええええええ!!!」


何故か落下系のアトラクションに乗っていた。

本当、何でこんな事になったんだ?

確か、手紙に書いてあった、あの部屋への近道になるって言う。

食堂があるフロアの行き止まりになった廊下奥の仕掛けを動かして、それがエレベーターで。

それで・・・それで・・・・・・

あぁ、そうだ。

全員で隠し部屋がある地下4階に下りようと乗り込んだら、こうなった訳だ。


「きゃあああああああ!!!!!」

「ああああぁああぁああああああッ!!!!!

『フライ』!『フライ』!!

フラァアアアイぃいいいいい!!!」


長年メンテナンスしてなかったからか、それとも設計の時点から可笑しかったのか。

それは分からないけど、エレベーターは命の危機を感じるスピードで落ちていって。

そのせいでエレベーター内は悲鳴の大合唱。

誰が、自分が、何を叫んでるのか全く分からない。

それでも何とかエレベーターを止めようと、俺は何度も『フライ』を唱える。


あれ?

何かまたデジャブを感じるぞ?


「と・・・・・・止まった?」

「はぁ、ああああああ・・・・・・

助かったあああああ・・・・・・」


『フライ』を掛けたお陰か、地面から数十cmの所でエレベーターが止まった。

もしこのスピードで落ちるのが仕様じゃなかったら、あと少しで俺達全員仲良くペッチャンコだったんじゃないのか?

そう思うと、唯でさえ動かなかった足が全く自分の意思で動かせなくる。

バイブするだけで全然立てない。


「皆、怪我は?」

「ど・・・どうにか、全員無事・・・・・・」

「さっさと此処から出るぞ!!」


腰を抜かした人は俺以外にも居るみたいだけど、怪我をした人は誰も居ない。

その事に少しだけ安心しつつ、そう言って1番先に外に出たクエイさん続いて俺達もエレベーターの外に出た。

自力で出た訳じゃなくて、俺達腰の抜けたメンバーは比較的動ける人達に引っ張り出されたんだけど。


「やっぱりこれも罠だったんじゃん!

こんな事なら、最初から歩いて来れば良かったんだ!!」

「いや、罠じゃないよ、アル君。

本当にこの仕掛けはこの部屋への近道として作られてたみたいだ。

ただ、かなり長い間。

少なくとも10年以上は全く整備してなかったから壊れてしまったんだよ」

「壊れてるなら最初から言えよ、ジェイク!!」

「全員で乗った時は大丈夫だったんだよ?

ただ、まさか、ボタン押した瞬間に壊れるとか、誰が想像つくって言うんだい?」


完全に地面に落ちたエレベーターから絶対安全だと言える位の距離まで全員どうにか避難して、それから数拍後。

涙目で地面にへたり込んだアルさんがそう叫んだ。

そんなアルさんに答えるジェイクさんの言葉を信じるなら、最初から食堂があるフロアに止まっていたエレベーターに俺達が一気に乗り込んで動かしたのが原因と言う事になる。

ブザーとか鳴らなかったけど、よくよく考えればこの人数だったら間違いなく重量オーバーしてたよな。

単純に計算して総重量大人15人分位にはなってだろうし。

11人と2匹が1度に乗っても余裕な位広かったとしても、流石に15人分の重さには耐えられなかっただろう。

長い間メンテナンスされていなくて、それでもギリギリ留まっていたエレベーターに俺達はトドメを刺してしまったみたいだ。


「ジェイクさん。このエレベーターって直せますか?」

「ゲッ!サトウ、またこの仕掛けに乗る気かよ!!」

「いや。俺ももう2度と乗りたくない。

乗りたくないけど、エレベーターが壊れたせいで他の仕掛けに影響が合ったり、天井が崩れたりしたら、それはそれで困るだろう?」


ジェイクさんがもう1度調べてくれた事だけど。

この隠し部屋の『マキア』の魔方陣はエレベーターを呼ぶ為の物だった。

本来なら天井の1部と一緒にエレベーターが下りてくるはずなんだけど、今はエレベーターごとその天井の1部は壊れてしまっている。

この状態で幾らこの部屋の『マキア』の魔方陣をなぞっても何の意味がない。

だけならまだ良いけど、天井の1部が壊れてしまったんだ。

そこから連鎖的に上の階まで崩れてきたら、と思うと・・・


そう言う事が他の部屋でも起きてるかもかもしれないし、もしかしたら俺達が探してるコラル・リーフの魔法道具にも影響があるかもしれない。

そう考えると出来るだけ直しておいた方が良いと思うんだ。


「確かにそう言われると不安になるけど・・・・・・

残念ながら直すには道具も素材も時間も足りないよ。

このアジトにある物じゃどう頑張っても無理だ」

「そう、ですか・・・・・・あの。扉や天井は・・・?」

「うーん・・・・・・うん、大丈夫。

扉は上に戻る前と特に変わってないし、天井自体も見た目以上に確りした素材で作られてるみたいだね。

この部屋を大爆発させでもしない限り今の状態でこれ以上崩れる事はないよ」

「大爆破・・・・・・

そんな罠、この部屋の近くにないですよね?」


無いと首を振るうジェイクさんの言葉に漸くホッと息を吐く。

エレベーターが落ちだした時程じゃないけど、不安と恐怖でまた早くなりだした心臓。

それがジェイクさんの言葉で落ち着きだした。

なんと言うか、この短い間に心臓が脈打つ早さ変え過ぎじゃないかな?

そろそろ体に悪影響がありそうで怖いよ。


「さて。そろそろ皆落ち着いたかな?」

「いや、どこが?どこを見てそう思った、ジェイク?」


確かにアルさんの言う通り、冷静さも顔色も元に戻ったジェイクさんとクエイさんとザラさん。

それとあの勢いで落ちたのが面白かったと喜ぶミルちゃんの4人以外、多少の違いはあるものの泣いたり腰が抜けたままだったりで動ける様な状態じゃない。

特に酷いにはステアちゃんとペールで、毛を逆立て耳をペッショとさせ、ピャッ、ピャッ、と怯えた様な短い鳴き声を出して。

大きな体を極限まで小さく丸めたペールの腕の中、顔をグシャグシャにしてステアちゃんは体中の水分を全部出す勢いで泣いていた。

自分達が落ち着きを取り戻していても、こんな状態見たら普通『落ち着いた』なんって言葉は絶対出てこない。

きっと表面上は落ち着いてる様に見えるけど、ジェイクさんも内心はまだまだ冷静じゃないんだ。


「そう言われても、この先何があるのか分からないんだ。

そろそろ先に進まないと、解毒剤のレシピ見つけるの明日になっちゃうよ?」

「それはそうだけど!!

立てないものは立てないんだよッ!!!」


それな。

と、口に出したら怒られそうだから心の中で未だに涙目のアルさんに同意する。


そうだよ!

先に進まないといけないのは分かってるけど、『死にかけた恐怖』ってのはそう簡単に消えないんだ!!

原始的な本能が体を支配して、自分の体なのに自分で動かせなくなる。

本能から体の主導権を奪い返すには想像以上の時間が掛かるんだよ。


「はぁー・・・・・・

だったら、直ぐに動ける俺達だけでも先に行くぞ。

落ち着いたら追って来い」

「・・・・・・頼んだ」

「あ!俺も手伝います!!

ピック!兄さんの事お願いね!!」


絶叫系や落下系のアトラクションが大の苦手な紺之助兄さん。

未だに克服出来ていなかったらしい紺之助兄さんが、あのエレベーターの浮遊感に耐えれるはずもなく。

エレベーターから引きずり出された次の瞬間には盛大に吐いてしまっていた。

東京に出て平気になったって言ってたけど、俺達の世界のアトラクションじゃありえない安全性0のスピードには耐えられなかったみたいだ。


年々兄離れしてく紺之助兄さんに頼られたい願望に従った大助兄さんに付き合わされて絶叫系アトラクションに乗った時や、乗り物酔いして吐いた時。

そう言う時は、どんなに良い薬を飲んでもかなりの間休まないと、紺之助兄さんが良くならないのは良く知っている。

だから、さっきから見てくれているピックに紺之助兄さんの事を頼んで、俺は足にグッと力を込めて急いで先に行くと言うクエイさん達を追った。


「ピコン!鍵!!」

「・・・・・・」


意識はあるけど紺之助兄さんと同じ位グッタリして一言もじゃべれないピコンさん。

そのピコンさんからクエイさんが受け取った鍵は難なく南京錠に刺さり、拍子抜けする程簡単に開いた。

鍵が刺さったまま、南京錠の棒の部分とほぼ同じ太さと長さの2つの取っ手から抜けた南京錠。

その南京錠を受け取って、クエイさんが扉を開く瞬間を待ちわびる。


「・・・・・・・・・・・・おい。開かないぞ」

「え?そんなはずは・・・・・・

引っ張る方向が間違ってるんじゃないの?」

「クソッ!どの方向にも動かないじゃないか!!」

「どうなってんだ!!?

まだ仕掛けがあるって言うのかッ!!!?」

「そ、そんなッ!!」


押しても、引っ張っても。

上にも、下にも、横にも、全く扉は動かなかった。

まるで分厚い壁に取っ手だけが付いてる様にビクともしなくて。

結局、クエイさんとジェイクさんが2人がかりで動かそうとしてもダメだった。

ザラさんの言う通りまだ扉を開ける仕掛けを解ききれてないのか?

それとも、エレベーターと同じ様にメンテナンス不足で壊れたりサビてる?

それか・・・・・・


「すみません。少し見せて貰えますか?」

「どうぞ」


ルグ達から俺達が来る前に調べた事は聞いてるし、図が見えるポイント探しの時に扉も軽く見た。

けど俺自身でシッカリこの扉を調べてないよな。

そう思って取っ手の正面に居たジェイクさんに場所を譲って貰い、改めて扉を見る。


「何か分かりそう?」

「うーん・・・・・・ん?」


遠くからじゃ分からなかったし、部屋の中程沢山じゃないけど、取っ手以外の場所には複雑に交じり合った薄目の線が書かれていた。

部屋の線と違って扉の線は規則性があるのだろう。

よくよく見比べると、左右の扉で線がシンメトリーになっいた。

だからだろう。

少し離れて見たその線の重なり具合は、一種の見た相手に不思議な印象を抱かせる絵の様に思えた。

でも、見る角度を変えても部屋の様に意味のありそうな図形は浮かんでこない。


遠くから見て何もないなら、今度は凄く近くで見たら何か分かるかも。


そう思って手を着きながら扉に張り付く位近づくと、手の平に違和感を感じた。


「ここ等辺・・・

書かれた線で見えにくいけど切れ込みが入ってる」

「丁度左右のドアノブの中心。

それも縦に入ってるんだよね?

なら、そこが左右の扉が重なってる場所なんじゃないかな?」

「ですが、この線と真っ直ぐ垂直に床にも切れ込みが入っているんです」


『フライ』を使わなくても手が届く範囲の切れ込みを丁寧になぞっていく。

上の方は俺の手が届く高さよりも大分上の方まで入ってるみたいだ。

それで下の方は、触った感じ扉の切れ込みに続く様に床にも切れ込みが入っている。

扉と同じ様に床の切れ込みも、上から塗られたっぽい切れ込みより太い線に隠され、パッと見切れ込みがあるようには見えない。

多分裸足で歩き回りでもしないと気づかないだろう。

その切れ込みをなぞっていくと、大体部屋の半分位まで入ってる事が分かった。


「ジェイクさん。天井も調べたいんですが、いいでしょうか?」

「ちょっと待ってね。ボク達も一緒に行くから。

ピコン君!!

大丈夫そうなら大きな布作ってくれるかな?」

「分かった・・・布・・・布だな・・・・・・」

「あぁ。無理はしなくていいよ。

まだ魔法使える位回復してないなら、そのまま休んでて」


吐いたかどうか分からないけど、ピコンさんも紺之助兄さんの隣で横になったまま殆ど動けない状態のままだ。

それでもエレベーターから引きずり出された時に比べ顔色も戻ってきたし、鍵を借りた時と違って会話も出来る。

多分紺之助兄さんと違って、クエイさんが無理矢理飲ませてた薬が効いてきてるんだろうな。

だけど、魔法が使える位回復した様にはとても見えない。

だからジェイクさんも、そのまま休んでる様に言ったんだろう。


「ごめん、ジェイクさん・・・」

「いいよ。

エレベーターの中、フワフワ揺れたからね。

そうなっても無理はないよ」

「ッんぐ・・・と言う事で。はい、サトウ」

「ありがとう、エド」


怯えきったステアちゃん達も少しは落ち着くだろうと、『ミドリの手』で出してそれぞれに渡した。

ペールでも満足できるだろう特大サイズのりんご飴。

飴の部分を舐め終わって、口いっぱいに頬張っていたりんごを飲み込んで。

少し元気が出たらしいルグが、杖を渡してくれた。


俺と同じく『クリエイト』が使える紺之助兄さんも、同じ様な魔法が使えるピコンさんも動けない今。

ジェイクさんが言った様な大きな布を今すぐに用意出来るのは俺だけ。

それが分かってるから、ジェイクさんが何か言う前にルグは杖を貸してくれたんだろう。


・・・・・・やっぱ、『クリエイト』袋が無いのは不便だな。

あの時、鞄ごと兵士達に盗まれなければ!!

そう思うけど、予定通りルグに渡せてても今のルグの仕事の事考えたら、簡単に手元に戻すのは無理だったろうな。

・・・もう1度『クリエイト』袋作っちゃダメかな?


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