26,ルグの異世界講座 7時限目
「えーと、スクリュード国、グリーンス国と南から半時計回りに来てるから、次は北のクランリー国?」
「あぁ」
俺はアンジュ大陸の1番上に書かれた国を指差しながらルグに訪ねた。
ルグは頷くと少し悩む様に間を置いてから、難しい顔をして、
「サトウは飛行船って知ってるか?」
と尋ねてきた。
「実物は見た事無いけど、俺達の世界にも100年位前から在るってテレビで言ってた。
構造や原理は分からないけど、テレビや本を見て如何いう物かは何となくは分かるぞ」
「そっか。
飛行船を知ってるなら説明しやすいけど、そんなに昔からサトウの世界には在るんだ。
・・・・・・オレ達の世界だと、ジャックター国、ホットカルーア国、クランリー国が協力して何十、何百年も掛けて最近やっと完成して安全に飛べる様になったばかりなのに~」
「ま、まぁ。
俺達の世界は魔法が無い分、そういう物の製造に力入れてるから早かったんじゃないかな?
多分、きっと」
最新の凄い技術だって自慢しようと思ったのに~。
と肩を落とし落ち込むルグ。
これで空飛ぶ金属の塊の飛行機やヘリコプター、ロケット、金属の塊なのに高速で移動できる車や電車が俺の居た世界に有るって言ったらルグは立ち直れないかも知れない。
「う~、うん。
この敗北感は一旦忘れて話し戻そっか。
通称山の国、クランリー国。
山と盆地で出来た高低差の激しい地形の国で1番高い山は標高約9000mを超える程だ。
首都の『クラン』は標高約4000mの急な斜面の山の山頂にあって、飛行船が出来るまでは世界一行きにくい首都だった」
「標高4000mって言うと・・・・・・・・・
大体、富士山位か。
確かに、歩いて行くのは大変だろうな」
富士山は標高3776mだからクランリー国の首都の方が高いな。
テレビで見る富士山への登山はスッゴク大変そうだった。
その富士山よりも高い山の山頂まで行くのは、さぞ大変だろう。
「何でクランリー国はそんな大変な所に首都を造ったんだ?」
「う~ん。
理由は幾つか有るけど、最大の理由は国が出来た当時のクランリー国の国民の大半が自由に空を飛べるハーピーやグリフォン、ワイバーンで、高い山の山頂に街があっても住んだり他の街と行き来するのに苦じゃなかったから。
それに、自分達は自由に行き来できるけど、他の国の空を自由に飛べない種族は直ぐに首都に入れない。
襲おうとしても、山を登るのに疲れて戦力が落ちる」
当時のクランリー国民達は自然に出来た砦の様に思ってたんじゃないかな?
と言うルグ。
だけど、
「それなら何で飛行船を作ったんだ?
空を飛べるなら必要ないし、空を飛べない種族が歩いて行くよりも簡単に首都には入れるんだ。
砦の意味がなくなるだろ?」
「うん。
そうなんだけど、今クランリー国に住んでいるのハーピー達だけじゃない。
長い歴史の中で、空を飛べない種族の幾つがクランリー国に移住して来た。
その種族が自由に行き来できないのは困るだろ?
あと、他国からの留学生や観光客の為だな」
元々の先住民だけあり、クランリー国の王家や貴族にはハーピーが多い。
その為か、大昔から音楽が盛んで有名な作曲家や歌手が輩出されてきた。
クランリー国の歴史は音楽と共に歩んできたと言っていい程らしい。
その素晴らしい音楽を鑑賞する為、毎年大勢の観光客が押し寄せ、特にハーピーの歌手のコンサートには年間、何億人もの観客が入る。
中には余りにのめり込み過ぎて、人と言うか魔族として最低限の事もしなくなり、我を忘れて通いつめ、最終的にクランリー国に住む者も居る・・・らしい。
まさか、ハーピーの歌は技で、その効果で依存してるんじゃないだろうな?
その事をルグに言うと否定された。
ハーピーのオーガンは、音の技になる呼吸型じゃなく、ルグと同じ管器官型。
使う技も風属性の魔法なんだそうだ。
聞いた者を依存させる程の歌は本人の努力とクランリー国民の長年の研究の成果で、断じて魔法に頼ったズルではない。
「そんなズルをするのはハーピーじゃなくて、同じ音楽が得意なスクリュード国に住むウンディーネ。
ウンディーネのオーガンは呼吸型で、使う魔法は歌による意識混濁や洗脳だ」
「なにそれ怖い」
まだ魔物に分類されていたハーピーの祖先は歌や音楽によって仲間と意思の疎通をしていた。
歌の種類や物をリズミカルに叩く事によって危険を知らせたり、自分の感情を伝えていたらしい。
ハーピーが歌や音楽が得なのはその名残。
対するウンディーネの祖先は体力的に非力だった分、歌を使った魔法で相手を誘き寄せ捕食したり、操ったりして身を守っていたらしい。
その力を使って可憐な少女の姿と、姿と同じ非力さでありながらスクリュード国の貴族や王族まで上り詰めたのは、素直に凄いと思う。
そして、最大の違いは人間の国に連れて来られるか、自ら行くか。
一昔前までハーピーの歌や音楽を独占する為に誘拐し、貴族や金を持った商人に売る人間が後を絶たなかったらしい。
中には生き物だと思われていないかの様に酷い扱いを受け亡くなった者も居る。
ハーピー以外にも人間の娯楽の為に誘拐され、目や角を生きたまま抉られ美術品に加工されたり、奴隷の様に働かされたり、凶暴に成るよう調教された絶対勝てそうにない魔物と無理矢理戦わされたりしたらしい。
この事が人間と魔族の戦争の原因だとルグは学校で教わったそうだ。
だけど、どちらが先か分からないけど、魔族も当時人間に同じ事をしていたのだから人の事は言えないんだろう。
「で、ウンディーネは自分から進んで人間の国に行ってその国の重役を虜にしていったと」
「あぁ。
法律のお陰で今はウンディーネの被害も大分減ったんだけどな~」
今でも法の目を掻い潜って国を混乱させようとするウンディーネが居るそうだ。
特にここローズ国で。
ウンディーネにとってはカンパリ大陸とアンジュ大陸の間にある、巨大な渦が所狭しと渦巻き、詳しく調査できていなくて正式な名前すら付いていない魔物が泳ぎ回る。
そんな荒れまっくて危険で険しいシャンボール魔海域なんてなんのその。
他の魔族や人間が安全の為に遠回りするのを尻目に、悠々とアンジュ大陸国からカンパリ大陸まで最短距離で泳ぎきる。
船に乗り降りする時に犯罪行為をしないか審査するのを全部スルーして堂々と密航、でいいのか?
まぁ、許可無く国に入ってくる。
だけど、殆どのウンディーネは悪事が成功する前に国の兵士や冒険者に掴まって強制送還されるのがオチだ。
無音石って言う音の技や魔法を無効にしてくれる優れものがあるんだから当然と言えば当然か。
けど今ローズ国に、何年も逃げ回る有名なウンディーネの犯罪者が何人か潜伏していると予想されている。
もしかしたら、そんな危険なウンディーネとこの先、出会うかもしれない。
「もし、出会ったら勝てると思う?」
「に・げ・ろ」
「・・・・・・りょーかい」
色々とイメージが崩壊するショッキングな話は置いといて。
クランリー国の話に戻そう。
音楽鑑賞の為に観光客が来る他にここ数年、毎年学問の一環で音楽に力を入れ始めたグリーンス国から留学生が来る様になった。
感受性を豊かにする為とか色々な理由で音楽を授業に入れたら従来の学問より人気になり、留学生が続出しているらしい。
ルグ曰く、
「一種の流行なんじゃないか?」
だそうだ。
まぁ、クランリー国からもほぼ毎年、同数の留学生がグリーンス国に来ていておあいこなんだけどな。
クランリー国の経済の要で、更により良い音楽の為に造る質が良く、洗練された楽器や音響機器。
国内国外問わず何年でも予約して待つ程人気な音楽機器を今以上の物にする為。
まずグリーンス国で義務教育期間中に基本的な事を学び、
鍛冶が盛んなホットカルーア国、
アンジュ大陸国の貿易を一心に引き受けるスクリュード国、
魔法道具造りに置いては右にも上にも出る者が居ないジャックター国に専門的な事を学びに行く。
留学に出る職人志望の若者が後を立たず、ある意味問題になっているらしい。
小さな村の過疎化とか、貧富の差で才能があっても留学できないとか。
毎日の様に来る経済的に無理があって理不尽で偏見だらけの、
「国を挙げて全留学生を支援しろ!!」
と言う抗議とか。
挙げたら限が無い。
この留学生の問題で連日会議が行われて一時期、新聞の一面を飾ったそうだ。
問題の方よりこの世界にも新聞があった事の方に俺は驚いていた。
新聞は無いと思っていたからちょっと意外だな。
「次~。
チボリ国と並ぶ2大鍛冶大国の1つ、ホットカルーア国」
気候は夏の高温、湿潤の季節風が海から来る温暖期と、冬の乾燥した強い風が吹く寒い寒冷期が交互に来る。
アンジュ大陸国1激しい活火山『エルブロディア』がある国。
そして、この火山から流れ出るマグマを使った鍛冶や硝子細工が有名なんだそうだ。
「ホットカルーア国製の剣や防具は装飾が殆ど無い質素で不恰好だけど、丈夫で軽い扱いやすい上品質の物ばかりだから、ベテラン冒険者に愛用されているんだ」
因みにチボリ国は装飾が多くてゴテゴテした実用性ガン無視の芸術品。
でもホットカルーア国の硝子細工は細かく繊細で儚い装飾を施した、チボリ国製の剣や防具の様に実用性より芸術性を追求した物が多いそうだ。
「じゃあ、この世界は俺達の世界の様な窓ガラスやガラスビン、ビールジョッキ、ワイングラスは無いのか?」
「う~ん、無くは無いけど・・・・・・
元々ガラスって芸術に使うものってイメージが強いからな~。
サトウの世界の様なガラス製の食器てのは珍しいんだよ」
『クリエイト』で家で普段使っているガラスのコップや器を出しながら俺はルグに言った。
数は少ないし、人気が無いけど有る事には有るらしい。
確かにこの屋敷にあったガラス製品は最初見た時置物かと思うほど、ゴテゴテして重くて実用性に向いていなかった。
「あとホットカルーア国はアンジュ大陸国内ではちょっと特殊て言うか、変わった雰囲気の国なんだ」
「変わった雰囲気?」
「元々魔族が使う技と剣術や棒術、拳法を組み合わせた独自の武術やアンジュ大陸国のどの国とも違う伝統衣装。
そう言う、独特って言うのか他の国とは雰囲気の違う特殊な伝統文化を築いているだ」
ルグの話を聞く限りだと、アンジュ大陸国の他の4つの国が中世ヨーロッパ風なのに対し、ホットカルーア国は中華ファンタジー風の国らしい。
「国王が必ずバルログだからかな。
ホットカルーア国の料理は、油と強い火力で炒める炒め物や揚げ物みたいな火を通した温かい料理が多いんだ。
逆に、サラダの様な生野菜や冷たい料理は少なくて、飲み物も温かいものが殆ど」
「あー、うん。
俺の世界のホットカルーア国に似た国も温かい料理が多いもんな。
何かしっくり来るわ」
中華丼にチャーハン、ラーメン、坦々麺、焼きそば、ワンタン、餃子、シュウマイ、麻婆豆腐、エビチリ、春巻き、中華まん、八宝菜、チンジャオロース、酢豚。
確かに中華料理って温かい物が多いよな。
冷たいものはバンバンジーや冷やし中華、杏仁豆腐、マンゴープリン位しか知らない。
「後、ホットカルーア国民は他の国の魔族や人間が食べれない様な唐辛子をふんだんに使った辛い料理を好むんだよ」
キレたら灰にするルグの幼馴染の1人もホットカルーア国出身で、義務教育の6年間同じクラスで席も毎回近く。
同じくクラスが毎年同じ席も近いもう1人の幼馴染と家庭科の授業では毎回班が一緒になっていたらしい。
その時、料理が出来ると自信満々に言ったホットカルーア国出身の幼馴染を中心に料理を作ったら、
「余りにも辛すぎて、火を噴くどころか、暫く味覚障害になった」
「まっさかー」
と笑おうとしたら、ルグはその時の事を思い出したのか体や耳、尻尾を縮込ませガタガタとマナーモードのスマホの様に震えていた。
え、マジで?
本場の中華料理は激辛だって聞くけど、この世界の中華料理はルグがこんなになる程辛いの?
「あー、ミルク持ってくる?」
「・・・・・・ハチミツ大目でお願いします」
震え声で言うルグに生姜少なめ、ハチミツたっぷり入れたホットハニージンジャーミルクを持っていく。
因みに、さっきの家庭科の授業。
ルグの班は壊滅だった。
1人は異常な辛党。
もう1人の幼馴染は作った料理が化け物に進化し、クラスメイトを襲い。
ルグは、
「魚や肉の血抜きをして捌いて塩を振って焼ける」
と言う何ともサバイバルな料理しか出来ないそうだ。
良くそれで単位を貰えたな。
残っていたハニージンジャーミルクを全て飲み干し、やっと落ち着いたルグ。
さぁ、残るはアンジュ大陸国の中心、ジャックター国だけだ。




