37,サイカイ その28
「あの・・・
その解毒剤探し、俺達にも手伝わせてください。
いいよね、兄さん?」
「うん。
湊達を止めて助ける為の素材として必要なんだよね?
なら、僕も頑張って探すよ」
「いやいやいや、ちょっと待ったぁあああ!!」
何処と無くデジャブを感じる声を出しながら、アルさんが戻ってきた。
ユマさん達と連絡取るのに時間が掛かったのか、それっとも事実を飲み込んで復活するのに時間が必要だったのか。
アルさんが戻ってくるのに1時間以上は掛かった気がする。
「何勝手に決めてるの!?
ねぇ、何勝手に決めてるの兄ちゃん達!!?
それに、なんで通信鏡が机の上に置いてあるの!!?
後、クエイ!なんでそんな所に居るんだよ!!?
スズメじゃないんだから、机から降りろ!!!」
「あぁ、アル君。おかえり。
どうっだた?大丈夫だったかい?」
「ジェイク!?
今言うべき事はそこじゃないよな!!?」
「あぁ、この通信鏡?
サトウ君に気づかれてしまったんだ」
「違う・・・そうだけど、違う・・・・・・
あぁ、もう!!
俺が居なかった時の事、最初から説明してくれ!!」
崩れ落ちそうになるのを何とか耐えたアルさんに、ジェイクさんが手短に居なかった間の事を伝える。
それを聞いて今度こそアルさんは崩れ落ちた。
暫くの間床の上で蹲ったアルさんは、
「内容が濃すぎるて飲み込めない」
と、呻くばかりだ。
こうやってまとめた内容聞くと、自分が思っている以上に話していた事が分かる。
アルさんが出て行く前も色々話したけど、出て行った後もかなり話した。
こんなに話したの生まれて初めてかもな。
「・・・それで、兄ちゃん達も解毒剤探しを手伝いたいって言い出してたのかー。
頼むから、大人しく部屋に居て?」
「本当にそれでいいんですか?
俺達が自分の為に探したいってのもありますが、俺達を閉じ込めるって事はその分、解毒剤探しの人員を割くって事ですよ?
一ヶ月も探し続けて未だに見つからないなら全員で探すべきでしょう?」
「それは・・・そうだけど・・・・・・」
「勿論、俺達の監視役のエド達からは不必要に離れませんし、入られたくない部屋があるなら入りません。
こんな状況なんです。
無駄に3人ボーッと部屋に閉じ込める位なら、最大限有効活用してください」
「ハンッ。自分を利用しろってか?
どっちが利用してんだか」
「そうは言いますが、形振り構ってる時間何って何処にもないんです。
俺達にも、皆さんにも。
例え嫌いなものでも、使えるものは何でも使うべきでしょう?」
アルさんに言われてヒラリと机から降りて以降、元の席には戻らず。
ジェイクさんとマシロさんの間で腕を組んで不機嫌そうに立っているクエイさんが、イライラと鼻を鳴らしてそう言ってくる。
イライラしてるけど、さっきみたいに怒りが爆発しそうな感じは無い。
アルさんも戻ってきて、多少は落ち着いたって考えていいだう。
「と、サトウ君は言ってるけど、どうするんだい、アル君?
ボクもエド君も、2人と一緒に探すのに反対じゃない。
寧ろ、逆に賛成な位だ」
「賛成、ねぇ?そんなに行き詰ってるのかよ?」
「うん。
薬の手掛かりは全然見つからないのに、頭の痛くなる仕掛けや罠は隙間から掻き出した埃の様に出てきて、正直な話、異世界人でも良いから手伝って欲しい状況なんだよ。
勿論、2人が変な事しないよう見張る目は鋭いよ?
ね、ピック、ペール?」
ジェイクさんに声を掛けられ、ピックとペールが任せておけとでも言う様に元気良く一声鳴く。
そのまま俺と紺之助兄さんの後ろにピッタリくっ付くピックとペール。
流れる様に軽く肩を掴まれ、思わず見上げた2匹からは俺達を絶対逃がさないぞ、ってオーラが溢れんばかりに出ていてかなり怖い。
正直言って、2匹が怖いから今すぐ逃げ出したい位だ。
「サトウ君、コン君。
ここに居る間は絶対ボク達から逃げたり、離れすぎちゃダメだよ?
勝手な事したら、ピックとペールがギュッってしちゃうから」
「ギュッて何処をですか!?首をですか!!?」
「まさか、まさか。
ただ、食堂に来る時と同じ様にピックとペールが抱っこしてくれるだけだよ?」
ジェイクさんはそうニコニコ笑うけど、全然信じられない。
だって、ジェイクさんがギュッて言った瞬間、俺の肩を掴むピックかペールの手がそそっと首に近づいたんだから。
絶対俺達が何かやらかしたと判断したら、首をギュッてされる!!
「まぁ、赤の勇者達とは違って兄ちゃん達はそこまで危険な異世界人じゃないのは元々分かってたし?
そこまでジェイクが言うならキユ達も文句は無いだろう。
解毒剤探しは兄ちゃん達も一緒にやっていいよ」
「はぁ?正気か、アル!?
本気でこいつ等にも探させる気かよ!!?」
俺達も一緒に解毒剤探しをして良いというアルさんに、一切の不満を隠そうとしないクエイさんが直ぐ様反論する。
チラリと見えたザラさんも納得していない様な表情浮かべてるし、あんな言い合いした後なんだ。
この2人はボスだと思っているはずのアルさんの決定でも、簡単には納得しないだろう。
「でも、先生。
全然解毒剤が見つからなくて、どの班の所もずっと悩んでるのも本当だよ?
誰でも良いから手伝って欲しいって、先生もザラさんも前言ってたよね?」
「・・・確かに言ったけどー。
でも、異世界人の手を借りるのはなぁ・・・・・・」
「いいじゃん、異世界人でも!
あたし、早くおねぇちゃん助けたいのッ!!
おねぇちゃんが1日でも1秒でも早く助けられるなら、異世界人でもいい!!
探し物得意ならコンさん達にも手伝って貰おうよ!」
「そうだよね。
僕もミルちゃんと同意見だ。
僕はラムを、大切な人を助ける為なら、どんなに自分が嫌だと思う事でも我慢できる。
助ける為なら、なんだって使ってやる。
それが、自分達の村を救った恩人でもね。
先生とザラさんもそうだろ?
だから、『レジスタンス』に入ったって、前言ってただろう?」
「そりゃあ、そうだけど・・・・・・」
「それなら、文句は無いだろう?
それに、根っからの極悪人って訳でもないんだし、ピックとペール達も一緒に見てるなら絶対変な事しないと思うけどな?」
言い合いの熱が中々引かないのか。
気持ちの区切りが中々出来ないクエイさんとザラさん。
そんな2人とは正反対に、言い合いを聞いていた側のピコンさんとミルちゃんは、即行不満を押し殺して大切な人達の為に納得してくれたんだろう。
だからこそ、クエイさんとザラさんを説得しようとしてくれているんだ。
「ほら、ミルとピコンもこう言ってるんだ。
クエイもザラもそろそろ意地張って不満そうな顔するのはやめろよ?」
「・・・・・・・・・はぁ。
そうだな。うん、そうだ。クエイ」
「なん・・・ッ!?」
ルグにもそう言われ、溜め息を吐いてクエイさんを呼ぶザラさん。
ザラさんはクエイさんの返事を最後まで聞く前に、両手に持ったコップの水を自分とクエイさんの頭に掛けた。
「何すんだテメェ!!!」
「お互い、コレで頭が冷えただろう?」
「お前のせいで、更に頭に血が上がりそうなんだが?」
「それは悪かったよ、クエイ。
でも、こうでもしなきゃ、俺様もクエイもチビ共以上にガキのままだったろ?
サトー君の言う通り、形振り構ってる時間も、嫌だって駄々こねる余裕も、俺様達にはもう無いんだ。
この状況から抜け出せるなら、こんな不満飲み込む位簡単だろう?」
「・・・・・・・・・チィッ!!
あぁ、分かったよ!!勝手にしろ!!!」
水を滴らせながらニカッと爽やかに笑うザラさん。
そんなザラさんに向かってクエイさんは舌打ちと共に悪態を付くけど、その顔は何処かスッキリしていた。
不満や怒りを感じてる様な表情をしてないから、ああ言う割りにクエイさんも納得してくれたって事でいいんだよな?
「て事で、クエイ達も納得したみたいだし、兄ちゃん達の事は引き続きジェイク達に任せたから」
「任されたよ、アル君」
「兄ちゃん達も、命が惜しかったらジェイクの言う事はちゃんと聞いとけよ?」
「やっぱり、首をギュッてされるじゃないですかぁ!!!」
サラリと命の危険があると言うアルさんに、本気で泣きそうになった。
慰めてくれるルグと、心配してくれるマシロさんの天使っぷりとは正反対に、ニコニコ笑顔を浮かべたままのジェイクさんがこの世界の種族としてじゃない悪魔に見える。
「あぁ!
そう言えば、幽霊さんの事はどうなりました?」
「・・・・・・未だに信じたくないけど、兄ちゃんの言った話は本当の事だった。
教会の勇者像に取り憑いた9代目は、偽者だ」
『未だに信じたくない』って言葉の通り、偽勇者ダイスの事を認めたアルさんの表情は良いものではなかった。
如何にか頭では納得したけど、気持ちの整理が出来ていない。
そんな複雑な表情。
俺としては、俺達の話を信じて受け入れてくれる位に頭が納得してくれているなら、心から納得して貰う必要はないと思ってるんだけどな。
もし、心の底から本当の意味で納得して貰うなら、きっと間違いなく相当な時間が掛かるだろう。
「兄ちゃん達が9代目勇者の日記を見つけた後、各国でも秘密裏に裏づけ調査もされていたらしくてな?
ほぼ間違いなく、日記の内容は当時本当に起きた事実だと、専門家達も認めたらしい」
「その調査の資料ってみ
「見れるわけないだろ!
いい加減にしろ、ジェイク!!」
呆れた様にジェイクさんの頭を軽く叩くアルさん。
溜め息を吐いて目を瞑るアルさんの顔には、かなりの疲労の色が見えた。




