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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
265/498

35,サイカイ その26


「そもそも、今までの話全部ソイツが出した可能性の話だろ。

本当にソイツが言った様な事が起きてるかどうか、分からねぇだろうが」

「ウッ・・・そ、それはそうですが・・・・・・

ここまできたなら、分かってても言わないで下さいよ、クエイさん」

「言わなきゃ始終お前等の都合のいい、お前等のペースで話が進むだろうが。

そもそも、だ。

『可能性がある』だの『可能性が高い』だの。

可能性可能性ばっかの話なんざ信じられっかよ。

俺等に信じさせたいなら、『目に見える証拠』ってのを出したらどうだ?」

「ッ・・・・・・・証拠は、ありません」


ニヤリと意地の悪い笑みを口元に浮かべるクエイさんに、俺はそう言って項垂れた。

クエイさんに言われた事は、少し前の自分がアルさん達に言った事だから、なお更項垂れる以外何も出来ない。

この後アルさんに頼んだら、監視対象の俺達でも裏づけ調査出来るだろうか?

やっぱり、無理かな?


「大体、あの異世界人共が危険じゃない、って否定が出来てないだろう。

それどころか、あの異世界人共があの女の命令ならなんでも聞く化け物だって言った様なものなんだぞ?

あの都市伝説が本当なら、更にそうだ。

人だろうが何だろうが、自分を操る主人の為なら生き返ってでも殺す。

そんな化け物だ。

道具だ操り人形だなんざ言うなら、そう言う事だろうが」

「・・・人の家族、化け物呼ばわりしないで下さい」

「お前等がどう思おうが、どう言ようが、あの異世界人共が化け物なのは変えようが無い事実なんだよ」


どんなにナト達も被害者だって言っても、実行犯にさせられたナト達を憎むクエイさん達を、完全に納得させる事が出来ない事く位、分かってる。

ルグ達でも敵わなかった。

今も騙されてゾンビにされた人達を引き連れてユマさんを狙っているだろうナト達を、そう呼びたくなる気持ちも分からない訳じゃない。

でもッ!

それでも、ナトを、ナトと高橋を『化け物』だなんって言って欲しくなかった。

それがこの世界の人達にとっての真実だとしても、絶対に口にして欲しくない!!


「だから、交渉なんざ無意味なんだよ」

「ッ!そんな事はありません!!!」

「ありませんだぁ?

大馬鹿も休み休み言いやがれッ!!!

今朝方目が覚めたばかりのお前と、この世界の事なぁんにも分かろうとしないお前の兄貴。

仲良しな家族だからって、そんなお前等があの異世界人共を完全に説得できると本気で思ってるのかよ!?

完璧に説得出来る素材が揃ってるって言うのか!!?

えぇ!!!?」

「ッ!!それは・・・」

「ハンッ!ねぇに決まってるよなぁ?

グースカ何日も寝こけてて、経った数時間前に起きたばかりのお前に!そんなもん!!あるわけねぇ!!」


クエイさんにそう言われ、頭に上りだした熱が急に冷める。

クエイさんの言う通り、ない。

ないんだ。

ナト達を完全に、完璧に、説得する素材何って、揃ってない。


今の状態でも、どうにか説得の言葉は作れるだろう。

でもそれは、盲目的にナト達なら信じてくれる、なんって言えるものじゃない。

目に見える証拠も無いし、疑問に思われて突っ込まれたら簡単に崩れてしまう。

そんな薄っぺらくて脆い物なんだ。


そんな言葉が、どう見ても敵側に着いたと分かる俺から飛び出て、魔女に操られて正気じゃないナト達が信じてくれると思うか?

どう考えても無理だろう。


「・・・・・・今から、説得の素材を集めて」

「それが集まるのは何時だ?

1ヵ月後か?1年後か?」

「それは・・・」

「・・・なぁ、サトー君?

その素材が集まるまで、何人、犠牲にする気なんだい?」

「ッ・・・」

「何人、俺様達は見殺しにすればいい?

どの位俺様達は、俺様達の大切な家族や仲間のあんな姿を、見続ければ良い!?

何時になったら、俺様達はあいつ等を助けられるんだッ!!?」


クエイさんの言葉を引き継ぐ様に叫ぶ女冒険者さん。

彼女のその泣きそうな顔を見て、俺は何の言葉も出てこなかった。

俺達が悠長に交渉の素材を探してる間、ナト達は大人しく待っていてはくれない。

ユマさん達魔族や『夜空の実』を狙って動きまくるはずだ。


その間、どれだけの人が、魔物が、村や町が、犠牲になるのだろう?

どれだけ、歪められた『正義』の名前で蹂躙されるのだろうか?


何も揃ってない俺達が交渉出来るで待ってくれって事は、その全てをただ唇を噛んで見ない振りしてくれ、って言っているのと同じ事。

そこまで頭に無かった俺に、血が出そうな程きつく耐えるクエイさん達が、言葉にせず訴えてくる。

あぁ、俺はこの世界に人達になんって残酷な事を言ったんだろうか。

それはもう分かった。

分かったけど・・・でも。

それでも、俺は・・・・・・


「それでも俺はッ!

俺は・・・ナトを諦められない・・・・・・

諦められないんです」

「お前はッ!」

「クエイさん達に大切な人達が居る様に、俺達にとってナトと高橋が大切なんですよ!?

クエイさん達にとっては、唯の化け物だとしてもッ!

ナトは俺達の大切な家族なんです!!

俺達も、はいそうですか、って簡単に諦められる訳ないんですよッ!!!」

「だから・・・だから、俺達は我慢しろって?」

「・・・・・・1日。1日だけ、待って下さい」


ジェイクさんとマシロさんの間越しに真っ直ぐ、クエイさんを見て俺は頷いた。

小さく頷いてほんの少しだけ下を向いた顔を上げた瞬間。

瞬き程の短い間なのに、気づいたら俺の前の机の上にクエイさんが居た。


「前々から図々しい奴だとは思ってたが、此処までだったとはなぁ!!!

よくもまぁ、そんな事言えたもんだッ!!!」

「ッ!!!?」

「貴弥ッ!!!」


瞬間移動した様に目の前に現れたクエイさんに驚きすぎて声が出ない。

そんな俺の事をどう思っているのか。

怒気をはらんだ威嚇する様な目と、口元をピクつかせた笑顔を浮かべ、クエイさんが俺に手を伸ばしてくる。

それに俺は驚いたのか、それとも怖かったのか。

自分でも分からないけど、気づいた時にはクエイさんから逃げる様にイスごと後ろに倒れていた。


「ィッ・・・・・・言いますよ!

被害がどうのこうの言うなら、このままクエイさん達がッ!

『レジスタンス』の人達がナト達の所に突撃するより、俺達が説得した方が間違いなく被害が少ないと考えたから言ったんです!!!」

「なん、だとぉ?」


イスと地面に思いっきりぶつかった、涙が溢れてくる程の痛みに如何にか耐え、俺は自分を見下ろすクエイさんにそう叫んだ。

この態勢だと逆光になってクエイさんの表情が良く分からない。

でも、俺の恐怖心を一瞬で煽ったその低く恐ろしい声が、クエイさんが俺のその言葉で更に怒りを深めた事が分かってしまう。


「アハハハハッ!!面白い事言うねぇ!

俺様達が動く方が被害が出るって?」

「えぇ、間違いなく出ますよ」

「何を根拠にそんな事言うんだか!!

面白すぎて、笑いが止まらないなぁあッ!!!」


笑ってるのに間違いなく怒ってる。

その事が分かる、姿の見えない女冒険者さんの声。

その声に答えつつ、漸く立ち上がれる位には恐怖心を抑えられた俺は、まだまだ震えたままの手で如何にかイスを起こして座り直した。


「おかしな事でもないでしょう?

今のナト達は、あのルグ達でも1年もの時間があっても捕まえるられない位。

どんなに戦っても敵わない位、強いんですよね?

今のままそんなナト達を捕まえに行って、皆さんが無事でいる保障が何処にあるんですか?」

「ッ・・・・・・」

「エドから聞きましたよ。

自分達の命を掛けなきゃ、今のナト達を止められないって。

殺し合わなきゃどうにもならない所まで来てしまったって!!

ナト達と相打ちになって死ぬ気ですか!?

本当にナト達を殺せば終わるかどうか分からない今の状況でッ!!

その命投げ捨てる気なんですか!!?

冗談じゃないッ!!!!

ふざけてるのは、そっちじゃないですか!!!?」


あれだけ強いルグとユマさんでも手も足も出なかったんだぞ?

正面から挑もうが、暗がりから狙おうが、今のナト達と戦ったら間違いなく誰かが犠牲になる。


死んで、しまう。


俺達が説得できれば、ナトも、高橋も、『レジスタンス』の人達も。

これ以上の犠牲になる事も無いのに、なんでそんなに突撃しようとするんだ!!?

ナト達を止めて、この世界を救えるなら、自分達はどうなってもいいのかよ!!!

本当にそんな事思ってるなら、ふざけてるのはそっちの方じゃないかッ!!!


「ルディさん達、皆さんが助けたいゾンビにされた人達の事も考えてください!!

ゾンビから戻っても、その時皆さんが居ないかもしれないんですよ!!?

瞬きした次の瞬間には1年経っていて、自分達を助ける為に大切な家族や仲間が死んだって言われるんですよ!!?

そうやって残された人達の気持ちが、分からない訳じゃないでしょうッ!!?」

「ッ・・・」


誰かの息を呑む音が聞こえる。

多少の違いはあれど一様に耐える様な表情を浮かべるクエイさん達の顔を見回しても、その飲み込まれた音が誰から発せられたか分からない。

でも俺は、全員が息を呑んだと思えたんだ。

だって、この場に居る殆どの人は、運よく生き残った。

生き残る事が出来てしまった、『残された側』の人達なんだから。

今も自分達を蝕む、残された側の気持ちが分からないはず、ないだろう。


「・・・それとも、自分達が絶対無事でいられる作戦でもあるんですか?

こんなにバタバタしてる今の『レジスタンス』に。

『レーダー』の通知が来るまでナト達が何処に居るか分かってなかった様子の皆さんに!

絶対生きてこの世界を救える、凄い作戦があるんですか!?」

「・・・・・・・・・ある訳無いよ、そんな奇跡の様な作戦。

この際異世界人でも化け物でも構わない。

あるなら今すぐ教えて貰いたい位だ」


俯いて搾り出されたジェイクさんの言葉が、やけに部屋の中に響く。

そんな片方に都合が良い作戦何って、漫画かゲームの中にしか存在しない。

例え理論上は誰も犠牲になら無い凄い作戦を思い浮かんでも、結局それは卓上の空論だ。

現実に出来る訳ないんだよ。


「・・・それでも。

完璧とは言えませんが、それでも。

俺達が説得した方が断然被害が抑えられる。

最小限の被害ですむ可能性が高いんです!!」

「だから、今日これから出る被害には目を瞑れって?」

「今日は。

いえ、恐らく明日の朝6時までは、これ以上のナト達による被害は出ません」

「ッ!なんで、なんでそんな事言い切れる!!?」

「ナトが居るから」


戻ってきたあの時の高橋の様子的に、魔女に洗脳されていても根っこの性格までは変わってないはず。

なら、ナトも俺が知ってる性格から大きく外れてないはずだ。


「コロナさんなら分かると思いますが、今のナトは高橋が大怪我する事に軽いトラウマがあります。

そして慎重な性格をしてるんです」

「確かに青いのはサマースノー村の一件以来、少々過保護気味だったな。

それに臆病な程慎重な奴だ」


コロナさん達の話だけじゃこの1年間、ナト達がどんな戦いをしてきたか分からないし、想像も出来ない。

ただ、サマースノー村でコロナさん達と死闘を繰り広げた結果、高橋が死にかける様な事が起きた事は分かった。

コロナさんは、俺達がパニックに陥って話が進まなくなる事を懸念してか、


「大した事無い」


って言ってたけど、高橋の体に消えない傷跡が残ったって話だし、相当激しい戦いだったんだと思う。

そして、その戦いを見てる事しか出来なかったらしいナトの心に、深い傷がついてしまった。


コロナさん達の話振り的に軽いものだと思うけど、実際はどうだか。

もしかしたら、ここ数年治まってた悪癖が再発する位の、酷いトラウマになってるかもしれない。


「だが、それがどうした?

どうしてそれで、あいつ等が動かないと確信できる?」

「俺達の世界とこの世界の時間の流れが違う事を考えると、少なくとも数日。

敵の本拠地だと思い込んでいるジャックター国に行って、別行動してる時に高橋達は俺達の世界に戻ってきた。

それで、ナトからしたら突然消えて数日間行方不明だった高橋達が、ボロボロと言っていい程の大怪我を負って帰って来たんです」

「ん?

・・・・・・・・・あぁ、そう言う事か。

確かに青いのなら、そんな状態の赤いの達に何かさせようとはしないだろうな。

絶対安静だ!とか言って、部屋に閉じ込める」

「はい。そう言う事です」


約1年間一緒に行動していたコロナさんは直ぐピンッときたのだろう。

あのボロボロ状態で戻ってきた高橋とルディさんを、トラウマ持ちのナトが放って置く訳が無いって。

どんなに自分の魔法で怪我を治しても、念の為にって言って今日1日は絶対大人しくさせるはずだ。

その意見に、ナトと高橋に従ってるフリをしてる魔女達は逆らえないはず。


「その事を含めて、ナト達からしたらジャックター国の作戦は失敗したと言う事になってるはずです。


事を急いて失敗した。


そう思ってるはずです。

だからこそ今まで以上に慎重に動く」

「だから、今日は動かないって?」

「はい。

今日は怪我と疲れを癒す為と、別れていた間の情報交換やこれからの事の話し合いをして、今居る場所から動かないはずです」


今日は動かないだろうけど、明日はどうだか。

レーヤの試練と言うのに挑戦する為にこのアーサーベルに来るか、他の『オーブ』を集める為にチボリ国に行くか。

そのどちらかだろうな。

『夜空の実』を探してるらしい偽勇者ダイスはチボリ国に行かせようとするだろうけど、ナト達の性格から考えて・・・

色々な確認の為にも、1度はこのアーサーベルに戻ってくるはずだ。


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