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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
262/498

32,サイカイ その23


 洗物を終わらせて、元の席に座って一息。

綺麗になった机の上には、人数分のミズサボテンの水が入ったコップが置かれてる。

その内の1番俺の席に近いコップを取って一口飲む。

軽く唇を濡らしてから、俺は改めてアルさん達に向き直った。


「お待たせしました。

それで、もう1人の勇者と言うのは?」

「ネイの話だと、この街の教会。

英勇宗の教会にある勇者像に9代目勇者が取り憑いているらしいんだ。

完全に魔族を倒せなかったのが未練で取り憑いて、赤の勇者達にアドバイスを送ってる」

「勇者ダイスが1人だけで取り憑いてるんですか?」

「多分?

ネイも赤の勇者達も9代目勇者の声しか聞いてないから、実際あの像に何人の幽霊が取り付いてるか分からないんだ。

だが、この世界の幽霊の性質的にほぼ間違いなく1人だろうな」

「なら、その取り憑いているって言う自称勇者ダイスの幽霊さんは偽者ですね」

「間違いなく、そうだろうな」

「うん、うん」


アルさんからもう1人の勇者が勇者ダイスの幽霊だと聞いて、俺とルグ、紺之助兄さんは直ぐに否定した。

どう考えてもあの勇者ダイスがそんな理由でこの世界に残ってるとは思えない。

Dr.ネイビーが寿命で死んだ瞬間、兄弟3人仲良く成仏してるか、元の世界に残した家族の元に戻ってるはず。

もし仮に残ってるとするなら、Dr.ネイビーと一緒に取り憑いて、この世界を滅ぼそうとするはずだ。

たった1人でこの世界の為に残るとは思えない!!


「やけにハッキリ言うなぁ?

あの9代目勇者だぞ?

この世界の為に幽霊になってでも残るって言うのはありえそうだろう?」

「えっと・・・あの、もしかして、ユマさん達からあの事、聞いてないんですか?」

「あの事?9代目勇者の事だよな?何の事だ?」

「エスメラルダで起きた巨大クロッグの事件の時、俺達が勇者ダイスの日記を見つけた事も聞いてませんか?」

「あぁ、それなら聞いてる。

どんな内容が書いてあったかは聞いてないが、昔他の国から盗まれた魔道書の1つが9代目勇者の日記だったんだっけ?」


この世界で勇者ダイスが事実と違う、1部の人間達の都合が良い存在として伝わってるのは知っている。

それでも、ユマさん達各国の王族とも関わりがあるなら、日記の事も聞いていると思ってたんだ。

でも、どうやら全て聞いてる訳じゃないらしい。

おっさん(ローズ国王)が何十年も前に危険な魔道書だと言われていた物を盗んだ事も、その魔道書だと思われていた物が日記や授業ノートだと言う事もアルさん達にも伝わっているみたいだ。

けど、Dr.ネイビーやスイレン姫のメッセージ含めて勇者ダイスの日記の内容は伝わってない。

まぁ、内容が内容だけに軽々しく言えないよな。


「あー、どうしよう?

エドと兄さんには言っちゃたけど、ユマさんが黙ってたなら言わない方がいいのか?」

「いいじゃないの?

何で黙ってたか知らないけど、この際だからアル達にも言っちゃえよ」

「そう、かな?・・・うん、そうだな。

今は幽霊さんが偽者だって証明する方が大事だし、配慮してくれたユマさんには申し訳ないけど言うか」


違和感を持たれない様に注意しつつ、独り言を言う感じでルグに伝えて良いかどうか確認する。

それに対してユマさん達とは完全に関係ない一般人っぽく、何処か適当な感じで言っていいと言うルグ。

出来るだけ違和感なく頷き返す為の言い訳が少しワザとらしくなっちゃったけど、大丈夫かな?


「えーと、ですね・・・・・・

勇者ダイスは当時の魔王を倒した後、自殺、してるんです」

「・・・え?」

「一緒にこの世界に『召喚』された双子の弟のDr.ネイビーが止めたから未遂に終わりましたが、こん睡状態になって何年も目を覚まさないと・・・」


よっぽど信じられなかったのか、小さく『え?』っと言ったきりアルさんは目を見開いて口をワナワナと震わせて。

声を出さずに驚くばかりだった。

やっぱり、この世界の人間にとって勇者の自殺ってのは相当驚く事なんだな。

あのDr.ネイビーのメッセージを読んだ時も、バトラーさん達は驚くばかりでルグとユマさんの様に普通に喋れていなかった。

それを思い出すと、アルさんや少し離れた席に居るピコンさん達のあの表情と態度も当然の事なんだろう。


「・・・・・・と言う事で、Dr.ネイビーは兄と妹を助ける為にこの世界に残り、色々実験していた訳です。

俺の話だけでは信じられないようでしたら、ユマさんや協力者だと言うチボリ国の王子に確認してください」

「だそうだよ、アル君。どうする?」

「・・・・・・キユの所行って、確認とって来る。

その間、兄ちゃん達の話聞いておいてくれ、ジェイク」

「分かったよ。

途中で転んだり倒れたりしないように気をつけてね」

「・・・あぁ」


俺が考えていた以上に衝撃が強すぎたのか。

俺達の説明を聞き終えたアルさんは、血の気の引いた顔でノロノロと立ち上がり、片手で頭を抑えながらフラフラと部屋を出て行った。

アルさんが出て行って直ぐに近くの廊下から何か重い物がぶつかる様な音が聞こえてきたけど、本当にアルさん大丈夫かな?

一緒に行くって言ったピコンさん達をきつめに断っていたけど、やっぱり着いて来て貰った方がよかったんじゃ・・・・・・


「・・・あれ?

キユさんの所って、この世界の携帯借りに行ったの?

確か、アルさんも自分用の持ってるって言ってなかったけ?」

「コン達に話聞かれたくないから、1番安全そうなキユがネイ達と話してるだろう部屋に行ったんだよ。

タカハシ達程じゃないけど、異世界人って時点で自分達が警戒されてる事忘れるなよ」

「忘れてる訳じゃないって。

ただ、何処に居るか分からないキユさんの所に行くって言うのが気になって・・・」

「さっきキユが言った分担、聞いてなかったのか?

最初にキユが行くって言った部屋、幾つか通信鏡がある部屋だぞ?

スズメも一緒に居るだろうから、周りに話を聞かれる心配も無いな」

「聞いていても、僕達が誰がどの担当か分かる訳ないだろう?

それに、この世界の生き物の能力も良く分からないし・・・」

「それもそっか」


アルさんが出て行ったのが気になった紺之助兄さんにルグがどうでも無い事の様に答える。

その2人のやり取りを聞いて、何故か洗物をする前のアルさんとマシロさんの言葉と姿が思い浮かんだ。

何で今それが・・・・・・・・・

あ、まさか!!


ある可能性が浮かんだ俺は、机の上に置きっ放しにしていたスマホをポケットに仕舞うフリをして、真っ暗な画面を使って机の下を覗き見た。


あぁ、やっぱり。

机の裏に開いたコンパクト型の通信鏡が貼り付けられている。


つまり、アルさん達はこの場に居ない協力者か、安全の為に全員が集まっていた最初の最初から他の部屋に隠れていた、『本物の『レジスタンス』リーダー』に俺達の会話を聞かせていた。

もしくは、その両方に。

と、そう言う事だろう。

だからあの時マシロさんは、俺達の話を聞いて怒った誰かがキユさんの様に机を叩いて通信鏡が落ちたり、落ちた食器を拾おうとしてこの通信鏡に俺と紺之助兄さんが気づく可能性をアルさんにさり気無く言ったんだ。

あの時マシロさんが俯き気味だったのは、アルさんに自分の意図を伝える為。

それか、キユさんが強く机を叩いた衝撃で通信鏡に何かあったのを伝える為だったのかもしれない。

それで、俺と紺之助兄さんを隣のキッチンに追い出して、俺達が洗物に集中してる間に通信鏡を確認したり直したりしてたんだ。


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