31,サイカイ その22
「詳しい事を話すとまたアル君達に止められるから言わないけど。
サトウ君、君は赤の勇者達がこの事件の主犯じゃ無いと言ったけど、それは間違いなんだ」
「ナト達の周りに居るゾンビにされてない人達が皆、英勇宗の信者だからですか?」
「あぁ、そうだよ。
英勇宗の教え的にもそうだし、赤の勇者が周りに指示を出しながら率先して動いていたって事実だってある。
他にも事例があるから赤の勇者達が操られているのは間違いないだろうけど、あの都市伝説の事を含めて君達が考える様な操られ方じゃないだろうね。
エドの言う様な、抑え隠していたものを引き出す様なモノなんだろう」
「・・・・・・本当にそうでしょうか?」
ジェイクさんはそう言うけど、此処に来る前にルグに言った、ナト達が操られて誘導されている説が完全に否定されたとは思えない。
いや、寧ろジェイクさんの話で更にナト達が勇者として祭り上げられてる現状に違和感を感じたんだ。
「ジェイクさんの話が本当なら、可笑しいと思うんですよ」
「可笑しい?何がだよ、サトウ?」
「いや、だって、ローズ姫達が信じてる宗派って、ようは『頭の中空っぽにして全部勇者に決めて貰う』事を良い事ってしてるんだよな?
それで、それを推薦してる」
「うん。大雑把に言えばその考えで大体合ってるよ」
「それで、その相手である『理想の勇者』として、ナト達を呼んだ。
でも、これって可笑しくないですか?
だって、ナト達がこの世界に来る前に、ローズ姫達は『自分達の考え』でユマさんを暗殺しようとしたり、ウイミィの領主さん達を操ったりしてるじゃないですか」
『理想の勇者に全部決めて貰う』って言うなら、他国の女王の暗殺やゾンビ毒を作って国民をゾンビに変えるとか、大きな街の領主を操るなんって重大な事、自分達だけで決めるか?
そう言う事は『召喚』した勇者に決めて貰うんじゃないのか?
「そもそも、『勇者に全部決めて貰う』って言う受動的な態度を良い事としてるのに、『理想の勇者を選ぶ』って能動的な行動、矛盾してません?
受け身になるなら、相手がどんな性格でも、姿でも、『最初に生きて『召喚』できた勇者』。
つまり、今回の場合3番目に『召喚』された魔族そっくりな人に従うんじゃないんですか?」
「え?・・・あ、えーと・・・
いや・・・それは・・・・・・」
「従うべき『勇者』であるナト達を操ってる事も能動的に思えますし、有名な学者さんの言う通り、ローズ姫達がナト達に『寄生』してると考える方が良いでしょうね。
こう、癒しの木とウィルオウイスプの様なお互いを助け合う関係じゃなくて、人面歩キノコとそれに寄生された人の様な一方にだけ利益がある関係」
でも、寄生して操っているなら、その主導権は寄生した魔女達にある。
だから、ジェイクさんの言う様にナト達が主犯って説は間違ってるって事になるんだ。
「だ、だがッ!!
彼等が勇者の命令で動いてるのは確かで・・・・・・
それで、赤の勇者が・・・」
「先ほども言いましたが、ナト達は誘導されて、操られて目立ってる可能性があるんですよ?」
どんなに目立っていようとも、今のナトと高橋は傀儡師である魔女達に操られた人形でしかない。
『召喚』の魔法を使えば幾らでも替えが効く、そんな人形にされてるんだ!!
「他にナト達と同じ様に操られている人が居るって言うお仲間の証言もある上で、今まで出した俺の説を否定できる証拠があるなら出してください」
それを完璧に否定する、俺達が折れる様な証拠があるなら出せ。
ルグでも出せなかったその証拠を。
そう言う思いを込めるだけ目に込めてジェイクさん達を睨む。
出せる証拠が今ここに無いのか、必死に頭の中から掘り出そうとしてるのか。
それか、俺達を言い負かせる隙のない理論を組み立ててるのかもしれない。
暫くの間誰も何も言わないのを良い事に、俺は畳み掛ける様に言葉を発した。
「そもそも・・・そもそもですよ?
本当にナトと高橋は、ローズ姫達を導く『勇者』なのでしょうか?」
「・・・はぁ?何言ってるんだ?
流石にそれは意味が分からな過ぎるぞ?」
「前提が間違ってるかもしれない、って話です。
本当にこの世界に居る『勇者』は、ナトと高橋の2人だけなのでしょうか?」
ジェイクさんが言った英勇宗の話も本当で、魔女達の能動的に見える行動が英勇宗の教えに反してないとすると、ある1つの可能性が浮かび上がる。
それはナトと高橋以外にも『勇者』が居る可能性。
ユマさんを暗殺しろとか、ゾンビ毒を造れとか、自分の影武者として『影武者として理想的な別の異世界人』を呼べとか。
そう言う事をもう1人の『勇者』が指示して、魔女達がその命令通り動いてる。
その可能性もあるんじゃないのか?
まぁ、その『勇者』が『1番最初に生きて『召喚』出来た異世界人』なのか、『勇者のフリをしたこの世界で生まれ育った詐欺師』なのか、それは全く分からないけど。
「・・・あ・・・あぁ・・・あぁあああああ!!!」
「ッ!!?
て、店長さん?急に叫んでどうしたんですか?」
ポカンとした表情からサーッと色が引いたと思ったら、目と口が裂ける位大きく開いて急に叫びだしたアルさん。
その部屋が揺れそうな叫び声にクエイさんの話を聞いたら時以上に肩が跳ねる。
何?何だ?
本当、アルさんに何があったんだ?
「居たッ!!!居るんだよ!!
もう1人!!!勇者がッ!!!!
この国にッ!!
赤の勇者達が『召喚』される前からッ!!!」
「・・・え?えッ!?
えぇええええええええええ!!!?
本当に居るんですか!!!?」
叫ぶアルさんの言葉に、もう1度驚かされる。
その驚きのまま周りを見回すと、
「そう言えば、ネイが居るって言ってたな」
とか、
「何で忘れてたんだ・・・」
とか、呟きながら驚いたり頭を抱える人達の姿が目に飛び込んでくる。
いや、本当、何でそんな重要そうな事今の今まで忘れてたんですか・・・・・・
どんなに影が薄くてもそれは忘れちゃダメだろう・・・
あっ!
まさかそのもう1人の勇者が、自分の存在を隠す為に魔法かスキルを使ってアルさん達の記憶を消したのか?
「頭の中に靄が掛かる様なこの感じ・・・・・・
クソッ!!
認識阻害魔法使われていたのか!!!」
心底焦った様な表情で段々大きくなるキユさんの叫びが、俺のその考えが合っていた事を伝えてくる。
上に乗った食器同士がぶつかり合って不愉快な合奏を奏でる程強く机を叩きながら立ち上がって、悪態を吐きながら頭の中の靄を振り払おうとしてるかの様に激しく頭を振って。
キユさんは宝石の様な綺麗な石が散りばめられた腕輪をシャラシャラと鳴らしながら空中に魔方陣を書き出した。
その魔方陣が部屋全体を包み込む様に広がり、ガラスが砕ける様に消え去る。
多分、自分達に掛かったもう1人の勇者を忘れる魔法を解除する魔法か、思い出したもう1人の勇者の事をまた忘れない様にする為の魔法なんだろうな。
「何時からだ!!?何時かけられた!!!?」
「・・・・・・キユ」
「ッ・・・・・・分かってる。
直ぐにアジトの中を調べてくる!」
「それと、ネイ達に確認を取るのもだ」
「あ、あぁ!!」
アルさんが焦るキユさんとは正反対の、組織のボスらしい冷静な声で短くキユさんの名前を呼ぶ。
その声でキユさんも落ち着いた様で、深く息を吐くと落ち着いた声音でそう応えた。
『正しくものを見れない』魔法に掛かっていたって事は、『レジスタンス』の人達がもう1人の勇者を忘れる魔法を掛けられた場所が、このアジトである。
って可能性もあるんだ。
魔法を掛けた人物を『レジスタンス』の仲間だと誤認していた可能性もあるし、『レジスタンス』の幹部のフリをして重要な物が保管されている部屋に入り込んでいた可能性もある。
その事をアルさんもキユさんも分かっている様で、この場に居ない協力者のコロナさん達への確認や、本当にアジトが無事かどうかの確認を急いで行いだした。
「・・・・・・分担は以上!!
少しの違和感でも必ず報告を忘れるな!!!
行くぞッ!!!」
「あの
「兄ちゃん達は俺達と此処で大人しく留守番な?」
・・・はい」
お腹がいっぱいになったからか、机の上でウトウトしていたスズメを掴んだキユさんと一緒に、殆どの人達が部屋を出て行く。
今もこの部屋に残ってるのは、
俺とルグ、
紺之助兄さん、
アルさん、
ジェイクさん、
マシロさん、
ピコンさん、
クエイさん、
ステアちゃん、
ピックとペール、
女冒険者さん、
妹ちゃん似の女の子の11人と2匹だけ。
何か手伝おうかと言う前にアルさんが釘を刺して来た事を考えると多分、俺と紺之助兄さんの近くに座ってる4人が俺達2人の監視兼尋問係で、ピコンさん達がいざって時の戦力兼アルさんの護衛なんだろう。
『留守番』って事は暫くの間この部屋で監禁状態って事か・・・
流石にトイレには行ける、よな?
「ただ黙ってキユ達が帰ってくるのを待ってるのもアレだし、話の続きしようか?」
「・・・・・・そうですね。
僕達もまだまだ言いたい事も沢山ありますので」
「あ、その前に食器の片づけしていいですか?」
相変わらず笑顔なのに目が笑ってないアルさんと、少し不機嫌そうに眉を寄せる紺之助兄さん。
そんな2人の会話か聞きつつ、キユさんが机を叩いたせいで少しだけグチャグチャになってしまった食器を見て俺はそう頼んだ。
さっきから気になってたんだよな。
何時まで食べ終わった食器このままにしておくのかって。
置いてけば置いておく程汚れが落ちにくくなるんだ。
洗物はサッサと終わらせる方が楽なんだぞ!?
それがダメなら、せめて漬け置き位はさせてくれ!!
そう思って頼んだら、何故か周りから呆れた目を向けられてしまった。
「サトウ・・・今言う状況じゃない事分かってる?」
「あぁ、うん。
場の雰囲気壊した自覚はあるけど、でも・・・
気になって・・・
せめて漬け置き位しておかないと後が大変だから・・・・・・」
「あぁ、うん。貴弥ならそう言うよねー」
溜め息と一緒にそう言う紺之助兄さん。
いや、場違いなのは本当分かってるけどな?
でも、そんな心底呆れた様な表情しないでよ・・・
「・・・それに、怒った誰かが食器壊したり、落とすかもしれないから・・・・・・
そうなったら危ないよ?」
「ッ!・・・それも、そうだな。
じゃあ、さっさと片付けるか!!」
自己紹介の時以降殆ど声を出さなかったマシロさんが、少し俯き気味にそう補足したのに驚いたのか。
勘違いだと思いそうな一瞬、驚いた様な表情を浮かべ言葉を詰まらせたアルさんが、直ぐに笑いを抑えてる様にも呆れた様にも見える表情でそう許可してくれる。
その後俺と紺之助兄さんはマシロさん達残った女性陣と一緒に急いで洗物を終わらせ、机の上を綺麗にしてくれていた男性陣の元に戻った。




