30,サイカイ その21
「ここまでしぶとく生き残ってんだ。
ルチアナ・ジャック・ローズが先祖返りって可能性はないな」
「でも、先祖返り以外の理由で。
ウンディーネの本能から、正常な体を持った相手と同じ種族の子供を産むウンディーネが居るんだ。
ね、クエイ君?」
「・・・・・・あぁ。『一目惚れ』か。
だけどなぁ、ジェイク。
バルログやエルフと違ってウンディーネの『一目惚れ』はただの都市伝説だろ?
本当に起きたって証拠も実例も存在しない」
「でも、都市伝説と同じ様に話しかけるだけで男を操っただろ?
ルチアナ・ジャック・ローズは」
都市伝説ってどう言う事だ?
そう思ってジェイクさんに聞くと、医者とか1部の専門職の人達の間でまことしやかに伝わる話。
『一目惚れ』したウンディーネは、その『一目惚れ』した相手との間に子供が出来た場合、相手の種族の子供を産む。
そしてその生まれた子供は、ただ話しかけただけで大体の男を操れる、非常に強力な『魅了』系の固有スキルを持っているらしい。
って都市伝説があるらしくて、その話には『一目惚れ』で生まれた子に話しかけられた男はウンディーネの『魅了』に掛かったのと同じ、真っ黒な目に変わってしまうってオマケ付き。
これ、完全に今のナト達と魔女の事じゃないのか?
「確かにその都市伝説に一致する所は多いけど・・・
そもそもが信じられないから都市伝説なんだぞ?
アイツ等の事が合っても、はい、そうですかって簡単に信じられるかよ」
「そうですが・・・
他にナト達の目の色が変わった理由、説明できますか?」
「それは・・・・・・」
そうなんだよなぁ。
こんだけ人が集まっていても、この胡散臭い都市伝説以外、一致する話が全く出てこない。
ナト達を合法的に無罪だと認めないといけないと分かっていても、他の可能性が出ない内は、この都市伝説を信じるしかないんだ。
俺と紺之助兄さんからしたら両手を挙げて受け入れたい話だけど、アルさん達からしたら到底受け入れられないものだろう。
それが分かっていても、俺達の目的の為にこの都市伝説の裏付けを進めていきたい。
それならまず、さっきまで考えてた通りその領主さん達の事をどんな事でも良いから聞こう。
「えーと。
あのさ、領主さん達の目の色が変わってから、何か変わった事はある?
どんな小さな事でも良いから、何かあったら教えてくれるかな?」
「変わった事?
・・・変わった事ぉ・・・・・・あっ。
レーヤ様を信じなくなっちゃった!!
それで、あたし達にもレーヤ様を信じちゃダメって言ってきて、仲良しだった院長先生と何時も喧嘩してたよ」
「そう言えば、ルチアナ・ジャック・ローズが来た後じゃなかったか?
ガリカやウルメールの領主達がレーヤ様を崇めなくなったって噂が立ったの」
「あぁ!!あったな、そんな噂!
「確か他の町でもここ数年、そう言う噂流行ってなかったか?
各地の貴族や金持ちがレーヤ様を信じなくなったって」
「そう言えば、そうだな・・・」
妹ちゃん似の女の子の言葉を聞いて、周りの人達がザワザワとそう話し出す。
そんな噂、あったんだ。
前回の時はそんな噂聞かなかったけどな?
そう思って聞いたら、どうもサマースノー村の様な小さな村やアーサーベルと宿場町、サルーを抜かしたそれなりに大きな町で流行っていたらしい。
だから前回俺が長く留まっていた村や町ではその噂を聞かなかったんだな。
それにしても、レーヤを信じるなってどう言う事だ?
それって、英勇教を信じるなって事か?
でも、一応魔女達は英勇教信者だろう?
表向きは英勇教を信じてるけど、本当は別の存在を信仰してるとか?
そう思ってたら、俺の英勇教に対する認識が間違っていただけらしい。
「他の町でもここ数年。
ルチアナ・ジャック・ローズが生まれてから段々起きだした事だけど。
何の前触れもなく、本当に急に、各地の権力者が信仰する英勇教の宗派を変えだしたんだよ」
「宗派、ですか?」
「そう。
ボクみたいな考古学を学んでる者か、相当情報通な冒険者でも無いと知らない事だろうけどね。
同じ英勇教って言われてるけど、国や町毎に信じてる宗派が違うんだ」
ジェイクさんによると、英勇教には沢山の宗派があるらしい。
何番目の勇者を信じるかで大きく分かれて、そこから更に枝分かれして。
他の町や村との行き来がそんなに無い田舎の村だけがヒッソリ信仰してるような民間信仰の様な宗派も含めれば、少なくても50以上。
これまでの長い歴史の中で吸収合併したり、他の宗派との戦争に負けて消えたのを含めたら数えるのが不可能な程あるらしい。
だけどこの世界の殆どの人達は、そんなに沢山の宗派がある事を知らないそうだ。
通信鏡が一般の人達まで普及しだしたのがここ数年って言う本当に極々最近の事で、電話やテレビが出始めた頃の日本の様に村に1つ共有で使う通信鏡があれば良い方って状態らしい。
誰でも通信鏡を持っている訳じゃないし、手紙や新聞が届くまで時間が掛かる。
そんな未だに情報が伝わり切るのに時間が掛かってしまう状態のせいで、ジェイクさんの様に宗教とか歴史を勉強してる人か、物凄く情報通な人以外。
自分が信じてる宗派を世界中の人達全員が信じてると思い込んでいるらしい。
千年に1度起きる魔族と人間の戦争程大規模じゃないけど、そのせいで時々内側でも外側でも戦争が起きてるそうだ。
「元々ローズ国は、町毎に少しずつ違うけど建国者である初代勇者を祭る宗派を信仰してたんだ。
国教も初代勇者を祭る宗派の中で1番大きくて力を持っている宗派だったしね」
「元々って事は、今は違うんですね?」
「うん、違う。
60年程前から英勇宗って言う・・・
何て言えば良いのかな?
歴代勇者誰か個人を信仰する宗派じゃなくて、『勇者』って存在自体を信仰する宗派。
って言えば良いのかな?」
極端な表現をすれば、『勇者』って存在じゃなくて、レーヤや勇者ダイス個人だけが1番凄くて他の勇者はそれ以下。
もしくはその信仰してる歴代勇者の誰かの代理、と殆どの宗派は考えてるらしい。
でも、今のローズ国の国教とされてる宗派である、魔女達が信仰してる千年前に作られたばかりの英勇宗って言うその新宗派。
その宗派は誰か個人じゃなく『勇者』と言う存在そのものを信仰する宗派らしい。
「信仰するっと言うか、この業界で有名なある学者は、サトウ君の言う通り異世界人を積極的に利用する。寄生する事を徳行とする宗派だって言ってるね。他の宗派の様に信仰する勇者を目指す為に頑張るんじゃなくて、面倒ごとも自分の人生も全部『勇者』に丸投げする。英勇教の1宗派として認められない宗教だ!って気絶する位怒ったって有名なんだよ。でも、ローズ国限定で有名な別の学者は、9代目勇者が最後に残した『困ったら何時でも自分達を頼れ』って言葉の通りしてる、立派な
「ジェイクー。
今はその講習、受ける余裕なんてないんだ。
まだまだ話したりないなら後で兄ちゃんに聞かせてやってくれ」
やっぱりジェイクさん達はユマさんの親戚なのかもしれない。
ウットリとした表情とキラキラ輝く目。
それと興奮した様に腕をブンブン上下に振りながら自分の好きな分野の話をするジャエイクさんのその姿は、魔法道具の話をする時のユマさんそっくりだった。
今のジェイクさんはまさにサマースノー村で塔が魔法道具だと分かった時の、あの時のユマさんそのもので、ついつい懐かしくなってしまう。
本当、ユマさん元気かなー。
そうジェイクさんを見ながら思っていると、呆れを隠そうとしないアルさんがジェイクさんを止めた。
「・・・あぁ、そうだったね。
ごめんね、アル君。
どうも好きな事の話になると、自分では止まらなくて・・・」
「あぁ、うん。
お前がそう言う奴だってのは分かってるけどさ、何時も言ってるだろう?
時と場合考えてくれ」
「ハハ。善処するよ」
「そう言って良くなった試しが無いだろう」
本当に善処する気があるかどうか分からない声音と笑顔で応えるジャエイクさんに、アルさんとキユさんが溜め息を吐く。
ルグとマシロさんは、食べ物関連の時のルグや魔法道具が関わった時のユマさんを見る様な。
何処か諦めた様な困った笑みを浮かべてるだけ。
あー、うん。
多分ジェイクさんのコレも誰が何を言おうと直らないな。




