27,サイカイ その18
俺の予想通りアルさんが影武者かどうかは分からないけど。
表向きにはアルさんが『レジスタンス』の現ボスだと知って、大分本題から外らしてしまった。
流石にそろそろ話を戻さないとダメだよな。
しっかり頭の中を切り替えないと。
「えーと、それじゃあ・・・
兄さんから何処まで聞いたか分かりませんが、俺達は此処に来る前に実家隣の神社の近くに居たんです」
ナト達が無事に戻って来る様、俺達の世界の神様にお願いしていた事や、そこから木場さん達が集まって来た事。
紺之助兄さんに補足して貰いながら出来るだけ事細かにあの時の事を伝えた。
「それで兄さん達とスマホを見ていた時、林の奥。
その時は具体的には分からなかったんですが、多分祠がある方から男女複数の、木霊する位大きな悲鳴が聞こえたんです。
その声に驚いて数秒か、数分か。
俺達は固まっていて、最初に動いたのは・・・」
「優月ちゃん。高橋君の妹ちゃんだね」
「うん、そうだった。
高橋がいるかもしれないって妹ちゃんが声のした方に走り出して、その後を次に動けるようになった大助兄さん。
俺達の兄が追いかけました。
その次がほぼ同時に俺と紺之助兄さんですね。
木場さん達3人がその時どうだったかは・・・
すみません。振り返ってないので分かりません」
「・・・その祠ってのは、兄ちゃん達が居た道からは見えなかったのか?」
「見えないですね。
祠は林のほぼ中心辺り。
俺達の居た道路からも、隣の公園からも完全に死角になっています。
小さな林といってもそれなりに太く、背の高い木々が生い茂っているので、公民館の2階からでもギリギリ見えるかどうかって感じですね」
そうなんだよなぁ。
あの林、木がまばらに植わってるって言っても、ずーとずーと昔から植わってるから、どの木もかなり背が高くて太いんだ。
確か、かなりの数の木が100年を超えていたはず。
だから剪定されていてもあの林は周りからの死角が多いんだ。
そのせいで時々矢野高校の不良達が林の中で屯して、ゴミをそのままにして行くんだよ。
町内長が矢野高校に注意の連絡をしたって聞いたけど、状況的に多分今回も矢野高生が居ただろうな。
「ですので、俺達が居た道路から祠までは最短でも数十秒分の距離があります。
向かった全員がほぼ全力で走ったから、流石に1分は掛かっていないと思いますが・・・
それで、大助兄さんと妹ちゃんから少し遅れて祠の元に着いたら2人以外誰もいなくて。
でも、祠の前に魔方陣が浮かんでいて、祠の中が歪んでいて、その歪みからルディさ
「ラムもッ!!
ラムもサトウ君達の世界に行ってたのか!!?」
ルディさんの名前を言った途端、ピコンさんが座っていたイスを蹴飛ばす勢いで立ち上がった。
叫んだ以外の理由でも荒れていく息と、酷くなる一方の顔色。
なによりその目が、距離が開いた俺からでも揺らいでるって分かる位、色濃い不安の色に染まっていた。
誰がどう見ても、そのピコンさんの全てがルディさんを心配する心を表している。
「はい、来てました。それで・・・・・・」
「ッ!!ラムにッ!!
ラムに何か遭ったんだな!!?
ラムは無事なのか!?生きてるんだよな!!?」
「大丈夫、生きてます。ですが・・・・・・
ピコンさんにはお辛い話ですが・・・
ルディさん、俺達の世界に現れた時、ゾンビのまま酷い怪我をして血だらけでした・・・」
そんなピコンさんに一時安心できる嘘を吐くか悩んで、最終的にちゃんと伝えなくちゃと思い、辛い話だと分かっていながらもルディさんが怪我をしていた事を伝えた。
予想していた事だけど、やっぱりピコンさんのショックは大きくて。
そのままピコンさんは真っ青な顔でフラフラと崩れてしまった。
それをステアちゃん達、周りに座って人達が如何にか支えて座り直させようとしている。
「すみません。
嘘を吐き続けるより、早い段階で本当の事を言った方が良いと思い、伝えたのですが・・・・・・」
「・・・いや、いい。大丈夫。
ラムがあいつ等に連れてかれた時点で、最悪怪我する事は分かっていたから・・・
分かって、いたんだ・・・・・・
今は・・・生きてるって分かっただけでも、それで良い。
それで十分だ」
言葉と一緒に深く深く息を吐き、体の力を抜くピコンさん。
最初に生きてるって伝えたからか、少しだけ顔色が良くなった様な気がする。
それでも、普段より酷い事には変わりないけど。
「それで、兄ちゃん。
赤の勇者達と一緒に出てきた残りの2人は?」
「ローズ姫とシャルトリューズです。
最初、ルディさんとその2人が悲鳴を上げながら出てきたんです」
内容が内容だけに中々ショックから立ち直れないピコンさんの事は、近くに居る人達が如何にかする。
と言われ、気にならない訳じゃないけど、俺はアルさんの質問に応える事に集中する事にした。
「悲鳴はこう、歪みの奥から段々大きくなる感じで・・・
それで、えっと、その3人から少し遅れて高橋が出てきて・・・
だから高橋達も入れ替わったはずなんです」
「うん?なんでそうなるんだ?」
「いえ、ですから、そう言う状況だったので高橋達が帰って来た時も入れ替わりが起きたと考えられるんです」
「ん?んん?」
「えーと・・・うん?・・・あれ?えーと・・・」
出来るだけ細かく伝えたつもりだけど、アルさん達には上手く伝わらなくて首を捻らせてしまた。
頭の中では結構分かり易い図が出来上がっているんだけど、上手く人に伝えられない。
寧ろ、言葉にしていく度に自分自身の頭の中がこんがらがっていく。
まずはもう1度頭の中を整理して、それからぁ・・・
「・・・・・・・・・あ。そう言う事か!」
うーん、と唸りながらどう言えば分かり易く伝わるか悩んでいると、ルグがそう言う事かと声を上げた。
「そういう事なら、入れ替わった可能性が高いよな」
「そう言う事ってどう言う事だよ、エド」
「まず、サトウ達は悲鳴を聞いてから離れた場所にある祠まで行くのに結構時間が掛かったんだよな?」
「うん」
「なら、最初にサトウが聞いた悲鳴がラム達の声だとすると、サトウ達が祠に着いた時には既にその4人がサトウ達の世界に出てないと可笑しいんだよ。
サトウ達が着いた時、まだ出てくる途中だったなら、最初に悲鳴を上げた奴等はラム達じゃない。
別の、サトウ達の世界の人間だ」
俺が言いたかった事を的確に言ってくれたルグの言葉に、強く同意する様に俺は激しく首を縦に振った。
そうなんだよ。
俺達が悲鳴を聞いてから祠まで行くまで合わせれば1分以上の時間が経っていたはずだ。
もし仮に魔女達が悲鳴を上げながらあの歪みから出てきていた時の声をあの時聞いたなら、俺達が祠に着いた時には遅れてきた高橋は兎も角。
魔女達3人は完全に俺達の世界側に出ていないと、俺達が悲鳴を聞いてからの時間と魔女達が歪みから出てきた速さ的に可笑しいんだ。
でも、実際には魔女達はまだ出てきていなかったし、魔女達の悲鳴も俺達が着いてから聞こえ出していた。
そこから考えると、最初の悲鳴は魔女達のモノじゃない可能性が高くなる。
最初に悲鳴を上げたのは、俺達の世界の誰か。
そして、俺達が着いた時その『悲鳴を上げたはずの複数の誰か』が居なかった事を考えると、その誰か達は高橋達と入れ替わってこの世界に来た可能性が高い。
その事をルグに補足して貰ったり、ルグとジェイクさんがチラシと手作りカメラと一緒に取って来てくれたホワイドボードに図を描きつつ説明した。
「まぁ、その誰か達が俺達が来たのとは別の方向に逃げた可能性も0じゃないんですけどね」
「だったら、逃げた可能性の方が高いだろう?
悲鳴を聞いてから祠に着くまで、そんだけの時間があったなら、兄ちゃん達が見えない場所まで逃げれたはずだ」
「えぇ。ですが、もう1つ。
確か俺、祠の前に魔方陣が浮かんでいた、と言ったと思います」
「・・・・・・あぁ、言ってたな」
思い出す様に少し視線を泳がせて首を捻るアルさん。
少しの間を置いて言ったと言うアルさんの言葉に、内心ホッと胸を撫で下ろす。
色々フラフラ説明してたから、言ったかどうか少し不安だったんだよ。
「その浮かんでいた魔法陣。
そして、この世界にもう1度俺達を連れてきた、俺と兄さんの足元に現れた魔法陣。
この2つの魔法陣はローズ国の地下で見た『召喚』の魔方陣と同じものでした」
「同じって・・・
だったら態々長い前置きなんかしなくても、最初からその事言えば良かっただろう?
なんでそんな遠回りな事したんだよ、兄ちゃん」
「俺は同じ『召喚』の魔方陣だと思ったんです。
でも俺はローズ姫達が出てきた辺りから段々パニック起こして、細かい所までしっかり魔方陣を見ていたかって言われるとちょっと・・・
いえ、かなり自信なくて・・・・・・
それに、本当に『召喚』の魔方陣だったて言う証拠に、その魔方陣を書けって言われても出来ませんからね。
そこを最初に突かれて出来なくて、後から入れ替わりの事言っても嘘くさいじゃないですか。
どうしても俺達をこの世界に連れて来た魔法が『召喚』の魔法だって言いたい俺の言い訳にしか聞こえない」
そうなったら信じてくれないでしょう?
と言ったら、キユさんに当たり前だろうと言われてしまった。
あぁ良かった、順番間違えなくて。
これで話す順番が逆だったらキユさんは絶対信じなかっただろう。
俺達の主観って言う、『レジスタンス』のメンバーからしたら証拠として弱い話だからこそ、順番を間違えられなかった。
完全に主観のみの魔方陣の話よりも、順序だって説明すれば可能性に気づける入れ替わりの話。
俺達が話している以上、証拠として弱い事には変わりないかもしれないけど、この順番だからこそキユさん達もまだ信じる気になれたんだと思う。
と思ってたら、
「あの時現れた魔法陣?
僕、正確に書けるけど、書こうか?」
と紺之助兄さんに言われた。
「え?」
「うん、ちょっとホワイドボード貸して、貴弥」
「え、あ、はい」
「・・・・・・・・・・・・僕達の足元に現れたのも、祠の前に書かれたのもコレだったんだけど、『召喚』の魔方陣で合ってる?」
「・・・あぁ。確かにコレは『召喚』の魔方陣だな」
「え、えぇ!!?」
紺之助兄さんが見せてきたホワイドボードには、確かに見覚えのある『召喚』の魔方陣が書かれていた。
何で紺之助兄さんそんな事出来るの!?
紺之助兄さん、瞬間記憶能力みたいな特殊能力何って持って無かったよな!!?
何時の間にそんな凄い能力身に着けたんだよ!!!?
「この世界に来て、1度見た魔法陣なら何も見なくても書けるスキルを手に入れたんだ」
「え?何その凄いスキル・・・・・・」
「そうかな?
まぁ、でも、魔方陣を書けるだけで、その魔法が使える訳じゃないんだけどね。
あえて言うなら、人間プリンターになれるスキルって事かな?」
「それでも凄いって!!」
どうも、俺以外紺之助兄さんがこの世界に来て手にした魔法やスキルを知っていたみたいで、アルさん達に今頃聞いたのかって顔をされた。
そうですよ!
今初めて聞きました!!
こんな事なら、長い説明なんかせず最初から紺之助兄さんに魔方陣を書いて貰えば良かった・・・
「いや、そもそも、俺が起きる前に紺之助兄さんから聞かなかったんですか?」
「いいや。聞いてない。
と言うか聞けなったが正しいな」
「そうそう。
あの時のコンの兄ちゃんは、ここまで詳しい説明出来る様な精神状態じゃなかったからなぁ。
あぁ見えてコンの兄ちゃん、此処に来てすぐの頃は暴れまくってたんだぜ?」
「え、あ。そうなんですか・・・」
キユさんとアルさんの言葉に思わず紺之助兄さんの方を見ると、困った様な笑顔を浮かべる紺之助兄さんと目が合った。
ほんの数時間前まで気絶していた俺が原因の1つでもあるけど、この世界に来たばかりの紺之助兄さんはかなり酷いパニックを起こしていたらしい。
それで、如何にか落ち着いてお互いの事情を説明したらしいけど、そこまで詳しい説明は出来なかったそうだ。
うん。
本当、ごめん。
1番お互いの世界の事情を知っているずの俺が即効使い物にならなくなって。
俺が気絶しなかったらもっとスムーズに話が進んだかもしれないんだよな。
本当、申し訳ない・・・・・・




