25,サイカイ その16
「・・・嘘だ・・・そんな・・・・・・嘘だろ?
ありえない・・・そんな事、ありえるはずない!!」
「エド?ありえないって、何が・・・・・・」
「そうだ!ありえないんだよ!!
もう、『召喚』の儀式魔法は使えない!
誰も使えないんだ!!!
だってッ!!!!」
「君と一緒に行動していたケット・シー君と、ネイ君。
君達の呼び方だと、コロナ君だったかな?
その2人がローズ国城ごと唯一残っている『召喚』の儀式魔法の魔方陣を壊したんだからね。
まぁ、その後赤の勇者達全員に逃げられてジャックター国にまで来られてしまったんだけど・・・・・・」
「・・・え?は!?城ごと壊したぁ!!?
そんな話、言ってなかったじゃないか!!?
何やってんのルグとコロナさん!!?
本当に何やってんの!!?」
そう叫びつつ俺は『もう、『召喚』の儀式魔法は使えない』と叫んだルグを思いっきり見た。
ルグとコロナさんがローズ国城を壊したって言ったのはジェイクさんだから、俺のこの動きは不自然かもしれない。
けど、その不自然だから耐えようって思いが木っ端微塵に吹き飛ぶ位、その事実は衝撃的だったんだ。
不自然だって思った時には、もう既にルグの方を見ていたんだから仕方ない。
「城に関してはこれ以上この世界に勇者・・・
いや、異世界人を呼び込まない為にはそうするしかなかったんだよ。
呼び込まないようにして、今居る異世界人を排除する。
そうすれば、この世界は元に戻るはずなんだ」
「いやいやいや!
魔方陣壊した所で、ローズ姫とかその『召喚』の魔法覚えてる人達がいたら意味ないでしょ!!?
『召喚』の魔法覚えてる人達が居る限り、何度だって新しく魔方陣書き直して俺達異世界人を呼びますよ!!?
何とかするなら、まずそう言う人達何とかするのが先でしょう!?
俺達異世界人如何にかするだけじゃ意味ありませんって!!」
「その必要はないよ。
『召喚』の儀式魔法には特殊な方法で書き上げた魔方陣と、その魔方陣を維持する特殊な加工がされた部屋が必要なんだ。
それが今も残っているのがローズ国城の地下だけだったんだよ」
「いやいやいやいや!!
現に俺達、『召喚』の魔法使われてこの世界に来ましたし、エドも勘違いしてたみたいだけど、状況的に高橋達も『召喚』の魔法を使われて俺達の世界に戻ってきたんですよ!!
それに、この世界には『儀式魔法を1人だけでも出来る』呪術ってのを持ってる人も居るんですよね!!?
例え特殊な場所や魔方陣が必要でもそう言う人も居るんだから、魔方陣壊しただけじゃ意味ないんですってば!!!」
「え?」
紺之助兄さん以外全員に、何言ってんだコイツ?
って顔されたけど、その顔をしたいのは俺の方だ。
出来なくなってるって分かってるけど、全身全霊で何言ってるんだこの人達?
って叫びたい!
「えっと、えっと・・・
まず、『召喚』の魔法って『チェンジ』の上位互換の様な魔法だと思うんですよね。
この世界にあるモノと異世界にあるモノを入れ替える魔法」
「入れ替える?
・・・・・・あぁ、だからか。
湊や高橋君が最後に居たと思われる場所に貴弥や死体が居たのはそう言う理由だったんだね」
「うん。
正確に言うと、俺が1番最初にサンプルとしてこの世界に『召喚』された時入れ替えられたのが、俺達の教室にあった俺の前にサンプルとして『召喚』された人の遺体。
えっと、ルグやユマさん達から、俺の前にサンプルとして沢山の人達が『召喚』されて亡くなってるってのは聞きましたか?」
「あぁ。一応、聞いているよ。
でも、そこ等辺も直接兄ちゃんから詳しく聞きたいとは思ってたんだ」
念の為に魔法道具屋のお兄さんにそう聞くと、ルグ達がそこ等辺の話も伝えていてくれていたと教えてくれた。
でも、伝言ゲーム的に上手く伝わらなかったのか、それともルグ達から話を聞いて何か疑問に思う様な所があったのか。
魔法道具屋のお兄さんはちゃんと俺から、俺達サンプルになってしまった人達の事について聞きたいと思っていたらしい。
いや、魔法道具屋のお兄さんだけじゃない。
その顔を見るに、ジェイクさんとキユさんもそこ等辺を詳しく知りたいようだ。
「そうですね・・・・・・
まず、俺達はこのスマホが作った膜が無いとこの世界で生きていけない事から分かる通り、この世界とは大分環境が違う世界で生きています。
そしてそれは、俺達の世界に限った事じゃない。
あらゆる異世界で住んでいる生き物の数や種類、姿が違うんです。
勿論、知的生命体の姿や種族、数も違う」
現に俺達の世界の知的生命体は、人間と魔族。
大雑把に2種居るこの世界と違って『人間』しか居ないんだ。
あぁ、いや。
あの広い宇宙の何処かの星には、人間以外の知的生命体が居るかも知れないし、地球にも実は表立って人間が知らないだけで、漫画の様にヒッソリと人間以外の知的生命体が暮らしてるかもしれないけど。
そこを言い出したらかなりややこしくなるし、話が変な方向に脱線しそうだから、今回は『いないもの』として考えよう。
「俺達の世界の様に人間しか居ない世界があるのとは逆に、魔族しか居ない世界ってのもあるんだと思います。
そう言う色々この世界と違う世界から、ローズ姫達にとっての『理想の勇者』。
もっとあけすけに言えば、『ローズ姫達にとって都合が良く、使い勝手のいい道具になる性格、見た目、性能を持った人間』を『召喚』しようとしていた」
「その『諸々の都合が良かった』のが湊達で、『都合が悪い人だった』のが貴弥の前に『召喚』された人達なんだね」
「うん、そう。
兄さんとエドにはエドの部屋でも言ったけど、最初は直接何処かの世界の『勇者になりそうな人』を『召喚』していたみたいなんだ。
でも、『召還』されて直ぐ環境の違いで亡くなってしまうか、見た目が魔族に似ていたから殺したって、ローズ姫達が・・・」
何も言ってこないけど、『見た目が魔族に似ていたから魔女達に殺された』って言った瞬間。
何度も聞いたルグも、初めてこの話を聞くだろう魔法道具屋のお兄さんも、近くに居る人達全員が渋い顔をした。
特に魔族の1種である悪魔で、ルグと違って今回始めてこの話を詳しく聞いたであろうジェイクさんの顔は、他の人達より群を抜いて酷い事になっている。
一瞬見ただけでもその寄せられたシワが、一生消えない痕になりそうだと思った位だ。
かなり酷い表情なのが分かるだろう?
「俺が詳しくローズ姫から聞いた死因は最初の3人だけです」
喉を掻き毟り、もがき苦しんで亡くなった今回1番最初に『召喚』された人。
この人は恐らく、必要な空気中の気体の種類や割合の違いから亡くなった。
2人目は大型の魔物に踏み潰された様な姿で亡くなった、と言ってたっけ?
ペッチャンコになったと言う事は、恐らく元の世界よりもこの世界の重力が重かったのが原因だろう。
「そして3人目は魔族に似ていたから」
あの時魔女は、『我々を見るや否や襲い掛かってきた』って言ってたけど、多分嘘だろうな。
魔法がある世界の人でも、あんな感じに突然知らない場所に連れて来られたら、直ぐには動けないと思う。
その場に突っ立ったまま数秒か数分。
混乱して全く動けないか、どうにか今の状況を理解しようと何度も辺りを見回すか。
なんにしてもその場から一歩も動けないはずだ。
それからある程度落ち着いて、漸く自分を『召喚』した人達が居る事に気づくはず。
その後声をかけるか、敵とみなして襲い掛かるか。
攻撃するんだとしても、誰かと戦ってる最中に『召喚』されたんじゃなければ、『召喚』されて直ぐ魔女達に襲い掛かるって言うのは無理だと思うんだよな。
「まぁ、確かに、『召喚』された人間が直ぐに召喚者を攻撃できるとは思えないな。
どちらかと言えば、『召喚』された人間が混乱している内に、魔族に似ていると判断した召喚者が『召喚』した人間を殺す方が早いだろう」
「それに、ルチアナ・ジャック・ローズやその周りに居る信者達の今までの行動から考えても、3人目が襲い掛かるより、ルチアナ・ジャック・ローズ達が襲い掛かったって方が現実的だよな」
「俺もそう思ってましたけど、そうサラッと言うのやめていただけません?」
「ん~。
無表情で淡々と言う兄ちゃんにだけは言われたくないな」
その俺の説明を聞いて呟く様に返された魔法道具屋のお兄さんとキユさんの言葉に、正直言って少し引いた。
確かに俺も、魔法道具屋のお兄さんとキユさんと同じ考えだったけど。
本当、世間話位のサラッと感で言うのはやめてくれない?
そう言ったら俺も同類みたいに言われたけど、俺の場合表情筋さんが有給休暇中なだけです。
表に出なくなってるだけで内心、かなりガクブルしてますからね?
『環境適応S』のお陰でまだマシだけど、元の世界で思い出してたらもう1回パニック起こす自信がある位、現在進行形でガクブル中です。
本当、あの時は何度死ぬかと思った事か・・・
「・・・まぁ、兎に角。
そんな感じでその後の勇者達も『召喚』して直ぐ亡くなってしまうか、見た目が魔族に似た種族だった為殺されていたそうです。
そこでローズ姫達は手間だと分かっていても、『勇者と同じ種族、同じ国籍、同じ性別、同じ年齢で勇者の近くに住む人』をサンプルとして呼ぶようになったと言ってました」
「それで湊達の前に貴弥がこの世界に呼ばれた」
「うん。
それで、俺の前のサンプル達の遺体は、次のサンプルを呼ぶ為に使われた。
次のサンプルと入れ替える為の道具として利用されたんだ」
あぁ、やっと本題に戻ってこれた。
詳しく知りたいって言われたからって言っても、流石に長すぎたな。




