22,サイカイ その13
何とかルグにナトと高橋が操られてる事は信じて貰えた。
でも、よくよく考えたら、根本的な解決はしてないんだよな。
操られてる事を信じて貰えても、俺達の説得作戦に協力して貰えるかどうか・・・・・・
どんな方法で操られてるか分からない以上、家族の言葉も通じない上、ウイルスの様にナト達から洗脳状態が感染するかも知れないから、即効殺す。
って結論になってしまうかも知れない。
それをどう回避するか。
ずっと話し合っていた疲れも合わさって、中々良い案が浮かばない。
そんな状態になって直ぐ、ルグの部屋の戸がトントンと軽く叩かれた。
「ん?誰だ?こんな朝早くに・・・」
「ジェイクさんが帰って来たんじゃないの?」
「ジェイクだったらノックしないで開けてる。
とりあえず、誰か分からないけど全員起きてるから入っていいぞ!」
さっき話に出たジェイクさんが帰って来たのかと思ったら、ルグに違うと言われた。
そのままノックをした相手に入っていいと言うルグ。
ノックするだけで一言も何も言わない扉の先の相手に一瞬疑問が浮かぶけど、俺と違ってルグも紺之助兄さんも特に警戒した様子も不思議そうにもしていない。
もしかしたらこの組織には、元の世界の俺の様に声の出ない人が居るのかもしれない。
「く、く、く、くまぁああああああ!!!?
なんで!?なんで熊がっ!!?」
「なんだ、ピックとペールか。ステアはどうした?」
そう思っていたのに、まさか魔族じゃなさそうな緑色の熊が2匹も入ってくるなんて・・・・・・
ルグが『アジト側には野生の魔物や動物は居ない』って言ってたし、『ピック』と『ペール』って熊の名前を呼んだ。
だから、この熊は『ステア』って人のペットだと思うけど、急に襲ってこないよな?
いや、でも、ルグに返事する様に低く鳴いてるし、見た目に反して意外と大人しくて賢い生き物なのかも?
ちゃんとノックしてから入って来たし。
そう思うけど、デカイし見た目が怖すぎるし、正直腰が抜けそう。
「あ。大丈夫だぞ、サトウ。
こいつ等はステアって言う組織の仲間の家族で、フェノゼリーって魔物のピックとペールだ。
ピックが姉貴でペールが弟。
見た目は怖いけだろうけど、大人しい魔物だから」
「そ、そうなんだ・・・・・・
あの、エド?
なんで大人しい魔物が俺と兄さんを抱っこしてるのかなー?」
ルグに声をかける様に何回か短く鳴いて、ピックとペールは俺と紺之助兄さんの方に真っ直ぐ向かって来た。
そして何故か、ムンズと俺達を脇を持つ様に抱えだす。
足が地面からプラプラ浮いてちょっと怖いんだけど・・・
え?このフェノゼリー達、何がしたいの?
「腹が減ってるんじゃないのか?
そいつ等、毒のある植物やキノコが主食だからサトウ達に出して貰いたいんだろ?」
「そうなの?
僕、此処に来てこの子達こんな催促されたの始めてなんだけど・・・」
「あの・・・あの・・・ピック?ペール?
どっちか分からないけど、俺達を何処に連れて行こうと・・・
待って待って!顔覗かないで!?
怖いから顔近づけないで鳴かないでッ!!」
グルグルと恐ろしい声で唸って、何処かに俺達を連れて行こうとするフェノゼリー達。
訳が分からずその腕から抜け出そうと暴れる俺に、大人しくしていろとでも言いたいのか、俺を抱えるフェノゼリーが短く吠える。
「なんだ?
ステアに何か遭った・・・んじゃなさそうだな。
誰かにサトウ達連れて来る様頼まれたのか?」
「ガゥ!」
「そうか。分かった。
オイラも付いて行った方がいいんだな?」
俺達を掴んだまま部屋を出ようとしたフェノゼリー達が、ルグに向かって一声吠える。
まるで付いて来いってルグに言っている様だ。
それに気づいたルグも一緒に部屋を出る。
ルグは誰かが俺達を呼んでいるって言うけど、一体誰が呼んでるって言うんだよ。
いや、それ以前に俺達を呼びに来るなら会話出来る人を寄越して?
「あっ!居た!!ピック!ペール!!」
「お前等、僕達を置いていくなよ!」
ルグの部屋を出て暫くの間石造りの薄暗い廊下を進んでいると、前から少し雰囲気の変わったピコンさんと、小学生位の人間の女の子が走ってきた。
ピコンさんが『置いていくな』って言ったから、フェノゼリー達だけ先にルグの部屋に着ちゃったんだな。
「よう、ピコン、ステア」
「2人共、おはよう」
「おはようございます、エドさん、コオンさん。
弟さん起きたんですね」
「うん、お陰さまで漸く貴弥起きたんだ」
ルグがその女の子を『ステア』って呼んだ事から、この紺之助兄さんを変わった渾名で呼ぶ子がフェノゼリー達の家族だと言われていた人だと言う事が分かった。
まさか、こんな小さな女の子だったとは・・・
ちょっと以外だったな。
でも、見た目の年齢に比べ確りした感じがする。
もしかして人間じゃ無くて、ゴブリンみたいに大人でも見た目が幼い種族の魔族なのかな?
でも、変化石を持っている様に見えないし、単純に確りした性格の人間の子供なのかも。
「あ、えっと。お久しぶりです、ピコンさん。
ステアちゃんは、はじめまして?」
「あー、うん。久しぶり」
「はじめまして。後、おはようございます」
「あ、おはようございます」
ペコリと礼儀正しく挨拶するステアちゃんにつられ、俺もフェノゼリーに捕まったまま挨拶を返す。
いや、なんでこの状態で俺達普通に挨拶してるんだよ。
まず、このフェノゼリー達どうにかして貰うのが先何じゃないのか?
「えっと、色々お話したい事がありますが、とりあえず、あの。
俺と兄さんを放してくれるようフェノゼリー達を説得してくれませんか?
別に俺達逃げませんので・・・」
「残念だけど、無理だ」
「なぜですか!?
あの、本当、暴れたり逃げたりしませんので、せめて降ろしてくれませんか!?
足元不安定で凄く怖いんですって!!」
「ダメです。弟さん、ずっと寝てたじゃないですか。
ちょっと前に目が覚めたばかりでちゃんと歩けるか分からないので、念の為にペールに連れてって貰ってください」
「それに、ここまでしないと安心できないって奴も居るんだ。
僕達はここまでしなくてもいいと思ってるけど、此処にはそうじゃない奴も居るんだよ」
ピコンさん達が俺達に用があるんだと思ってたけど、どうも違うみたいだ。
俺達に用があるのは相当俺達を警戒してる誰か。
いや、『ここまでしないと安心できないって奴も居る』ってピコンさんは言ってたし、俺達に用があるのは1人じゃないって事だよな。
ピコンさんの言葉からして、ルグやピコンさん達の様にそこまで俺達を警戒してない人も居るみたいだけど、態々ここまで警戒する俺達を呼びつけるって・・・
一体何の用なんだ?
「何だ?
ここまで警戒するって、呼んでるのはキユの奴か?」
「ううん。
エドさん達を呼んでくるように言ったのはアルさん。
えーと、この組織、『レジスタンス』の幹部のキユさんじゃなくてリーダーのアルさんです」
ステアちゃんが俺の方を見てそう補足する。
そのお陰で俺達を呼んでいるのが『レジスタンス』の現ボスだって事は分かったけど、これから向かう場所にその現ボスが居るとは限らないんだよな。
俺達をそう言うのが得意な誰かに尋問させる為にピコンさん達に指示を出しただけかもしれないし。
そう考えて少し不安になっていたら、どうもここまでして呼ばれた理由はそうじゃないみたいだ。
「朝ごはん出来たから食堂に呼んできてって」
「あれ?今日はエド君の部屋じゃなくていいの?」
「あぁ。サトウ君が眼を覚ましたからな。
もうその必要がなくなったんだ」
この組織では基本組織のメンバー全員でご飯を食べてるそうだ。
でも、眠ったままの俺を1人置いて全員で食堂に集まってご飯を食べるのは危険だという意見が出た。
部屋に誰も居ない時に俺が目を覚ましてフラフラと勝手にどっか行くかもしれないから、念の為に誰か監視を置いとけ。
って事で昨日の夕飯まで俺と同じ監視対象の紺之助兄さんは、ルグとジェイクさんとマシロさんと一緒にルグの部屋でご飯を食べていたらしい。
でも、俺が目を覚ました今、俺も紺之助兄さんも一緒に食堂に連れて行って、組織のメンバー全員で監視した方が良いって事になった。
その方が監視役のルグやジェイクさんの負担も減るし、態々2、3人分のご飯を運ぶ手間も省ける。
「まぁ、2人をピックとペールに運ばせろって言ったのはキユさんだけど」
「最初、アルさんはピコンさんに3人を呼んでくるよう頼んでたんです。
でも、それを隣で聞いていたキユさんが、猛反対して・・・」
「で、こうなったと」
「はい・・・」
ルグ達の話を少し聞いただけでも、その『キユさん』って人がかなり俺達を警戒してる事が分かった。
いや、幹部だって事を抜かしてもこの組織の人からしたらキユさんの反応の方が正しいのかもしれないけど。
前回知り合った人達以外のこの組織の殆どの人からしたら、俺達は『敵の1人である危険な異世界人達の身内』でしかないんだ。
そんな俺達を警戒するのは普通だし、出来るだけ自由を奪いたいだろう。
それでも俺達の軟禁の度合いがかなりユルイのは、かなり発言力のある組織の上層部の誰かに前回俺が知り合った。
それも俺が『安全』だと思える位、それなりに親しくさせて貰った人が居るって事なんじゃないのか?
ギルド職員のボスとか、雑貨屋工房の小母さんや鍛冶師の爺さん。
間違いなくこの組織と係わり合いがあるって言われてる魔法道具屋の店主のお兄さんもそうか。
そう言う人達がこの組織の上層部に居るんだと思う。
「とりあえず、そろそろ食堂行きましょう?
他の人達、もう皆集まっていると思いますし」
「それも、そうだな。
サトウ君もコオン君もそう言う事だから、食堂に着くまでは我慢してくれよ?」
「あの。
食堂に入る前にもう1度抱かかえて貰うって事は・・・」
「それも出来ないな。
コンは依頼書を使った監視もされてるんだ。
そんな誤魔化し、出来るはず無いだろ?」
最後の足掻きで食堂に着くまでは降ろしてくれないか聞いたら、それもダメだと言われた。
ルグの話だと、紺之助兄さんは依頼書の『サインした人物の行動を記録する』って機能を使っての監視もされているらしい。
まぁ、監視の為だからって流石にトイレやお風呂まで付いてこられるのはなぁ。
そこは是が非でも遠慮して頂きたい。
監視する側のルグ達もそこまでは付いていきたくないだろうし、依頼書を使われるのは仕方ないか。
それに、依頼書の内容を改変できるユマさんがこの組織に居ない以上、依頼書に記録された内容の信憑性はかなり高いはず。
この組織内で何か問題が起きた時、真っ先に疑われるだろう自分達の潔白を証明するって意味でも、依頼書の存在はありがたい事なのかもしれないな。
「まぁ、流石にキユさんも2匹に抱かかえられながら飯を食えなんって言わないだろうからさ。
本当にあと少しだけ我慢してくれよ?」
「・・・・・・はい。分かりました・・・」
流石にこれ以上駄々をこねる訳にはいかないよな。
ただ俺達を呼びに来たピコンさん達を困らせる訳にもいかないし、恐怖心は完全に拭い去れてないけど我慢しよう。
そう思いつつルグ達と話しながら幾つかの扉を通り過ぎて、食堂だって言う部屋に着いた。
 




