20,サイカイ その11
「俺が思うにナトも高橋も、ローズ姫達の『理想の勇者』として毒に対する耐性を持たされていると思うんだ」
キノコ狩りの依頼や俺1人で受けた馬車の依頼。
その依頼書も奪われてるはずだから、ルグに毒の知識がある事も魔女達に知られてるはず。
折角ここまで手間隙かけて『作った理想の勇者』が毒にやられて直ぐ使い物にならなかったら困る。
って言うか、魔女達側にとっては損だろう?
「だから、毒を使って完全に意識を奪うゾンビに出来なくて、何か別の方法で操ってるんだと思う」
「・・・・・・例えば?」
「詐欺って言うか、宗教的洗脳って言えばいいのかな?
『魅了』してローズ姫達を妄信させる、とか?
それか、『幻術』系の魔法かスキルを使って、自分達の都合の良い言葉や光景しか認識出来ない様にしてるか・・・
何かを可笑しいって感じる事を奪ってる?」
うーん・・・
色々思いつくけど・・・
この世界に来てからのナト達の情報が少なすぎて、絞り込めないし可能性の域から出ない。
ルグからこの世界に居る間のナト達の様子を詳しく聞ければ分かるかもしれないけど・・・・・・
ルグ達側の偏った情報から分かるんだろうか?
そう思ってルグの方を見た瞬間、写真を見て興奮していた時とは打って変わった様な冷静さでルグが痛い所を突いてきた。
「そう言う風に操られたからって、サトウ達の世界の人間は簡単に人を殺せるのか?
サトウみたいに殺しに抵抗を感じる奴も居るだろうけど、殺人事件とか戦争とか起きてるなら、そうじゃない奴も当然居るんだろう?
呼び出すのが『都合の良い勇者』だって言うなら、元の世界に居る時から人を殺す事に抵抗が無い奴を呼ぶんじゃないのか?」
「だから、何度も言わせないでよ、エド君!!
湊達はそんな奴じゃないッ!!」
「本当にそうか?
サトウやコンに隠してただけって可能性もあるだろう?
周りに合わせて我慢していた可能性。
それが絶対無いと言い切れるのかよ?
家族だからってあいつ等の心ん中全部知ってるって、胸張ってハッキリ言えるのか?
確かに、目の色の事を考えたらタカハシもタナカも操られてるのは間違いないだろう。
でもな、コン。
それがサトウが言った可能性の様なモノじゃなくて、元の世界で押さえ込んでいた殺人衝動や破壊願望を引き出すモノって可能性もあるんだぞ?
それを完全に否定できる証拠が、今のサトウやコンにはあるのかよ?」
兄弟同然に育った従兄弟同士でも何でも話せる訳じゃない。
だからルグの言う通り、俺達が気づいていないナトや高橋が隠していた薄暗い感情が無理矢理引き出された可能性も0じゃないんだ。
世の中、
「そんな事する様な人には見えなかった」
って言う人がとんでもない犯罪を犯す事だってある。
ナトも高橋もそんな犯罪を望んで犯す奴じゃ無い!!
って思ってるけど、それは俺達が見てる一面に過ぎなくて。
本人じゃ無い以上、絶対その暗い面が無いとはいえないんだ。
「・・・・・・確かにエドの言う可能性もある」
「貴弥ッ!!?」
証拠も否定できる情報の断片も無いからか。
グッと押し黙ってルグの質問に何も答えられなかった紺之助兄さんの変わりに、俺はそう応えた。
そんな俺の言葉に驚いている様にも怒ってる様にも聞こえる荒い声で俺の名前を呼ぶ紺之助兄さん。
そんな紺之助兄さんに落ち着くよう手短に伝え、俺はルグに向き直って言葉を続けた。
「でもそれも、俺が出した可能性と同じ、唯の可能性の話だろ?
例えば、1万年前の魔王に作られたキメラを祖先に持つ魔族は生き物じゃない。
ロボット、この世界風に言えばゴーレムか?
そう言う動物っぽい姿をした機械だと言い聞かされてる可能性もあるし、この世界を現実の世界じゃなくやり直しの効くゲームの世界だって言い聞かせてる可能性もある。
そう言う、自分達がやってる事が『殺人』だって気づかせない様に『洗脳』されてる可能性もあるだろう?」
殺人だと抵抗があるだろうから、『この世界を救う為に人を傷つける危険な機械を壊す』とか『この世界は魔王から世界を救う王道のゲームの世界だ』とか。
そう風に言い聞かされて、罪悪感や抵抗感を感じず人を傷つけさせてる可能性もあるんだ。
流石に魔族が機械ってのは無理があるけど。
でも、この世界がやり直しの効くゲームの世界って思い込まされてる可能性は、かなりあると思う。
『スキル』に、
『魔法』に、
『魔王』に、
『魔族』。
翻訳されるこの世界の言葉は、ゲームに出てくる物ばかりだ。
ナト達も同じ様に翻訳されていて魔女達が上手く立ち回っていたら、この世界の事や魔族達の事を勘違いしている可能性は十分にあると思う。
「そもそも、殺人衝動を持つ人を『召喚』するのは悪手なんだよ」
「は?なんでだよ?」
「いいか?
何度も言うけど、この世界と違って俺達の世界には魔族は居ないんだ。
俺達の世界に居る知的生命体はこの世界の人間に似た、俺達の種族であるホモ・サピエンス。
『人間』だけなんだ。
だから、俺達の世界の人間の『殺人』衝動が向く相手は、見た目が大分違う魔族じゃない。
パッと見た姿が自分達と同じ人間なんだよ」
「え・・・?あ・・・そ、そんな事・・・・・・」
目に見えてルグが混乱しているのが分かる。
そりゃそうだ。
ルグがらしたら魔族も人間も『人』で、『殺人の対象』って言われたら魔族と人間、両方の事になるんだろうから。
でも言っちゃ悪いが、俺達の世界の人間からしたら魔族は自分達とは別の進化した『人』じゃなくて、物語の中にしか出てこない未知の『化け物』だ。
だからこそ、俺達の世界の人間から引き出された『殺人衝動』の矛先は、魔族じゃなくまず自分達を『召喚』した『人間』である魔女達に向くはず。
そんなリスク、あの魔女達が負うと思うか?
「自分達は手を汚さず、安全な場所からユマさんが殺されるのを待っていたいから、ローズ姫達はナト達を使ってるんだろ?
俺からや、夢を通じて高橋から聞いたなら、俺達の世界に魔族が居なくて『殺人衝動』を持つ人のターゲットが自分達人間になる可能性が高い事位、ローズ姫達も気づいてるはずだ。
自分達の安全を確実に確保していたいなら、そんな何かあったら自分達を殺すかもしれない危険な奴、『召喚』するかよ」
「それは・・・そうだけど・・・
ルチアナ・ジャック・ローズはタカハシ達と一緒に行動してるんだぞ?
一緒にオイラ達の仲間と戦っていて・・・」
「なら、ローズ姫がナトや高橋より前に出た事は?
進んで怪我する様な・・・
ナト達を庇ったり、盾役になったり、接近戦をしたりした事は?」
「え?・・・・・・・・・な、い」
「だろうな」
記憶の底をさらう様な長い沈黙の後、ルグは短くそう言った。
あぁ、やっぱり。
俺達の世界に来た時の怪我の具合から分かっていたけど、どんなにナト達と一緒に行動していても、魔女は何時も1番安全な場所に居るんだ。
「・・・サポート役だからってずっとタカハシ達の後ろ・・・
庇ったり盾になるのも、ルチアナ・ジャック・ローズじゃない。
・・・・・・ラムと同じ様にタカハシ達に連れ回されてるキャラメ。
ゾンビにされた女だって・・・・・・」
「なら、1番怪我をしてるのもその女の人なんだな?」
「・・・・・・違う。タカハシだ。
剣を使うタカハシが1番怪我をしてる。
次が盾役のキャラメ」
「それに比べて、ローズ姫は?」
「全くって言っていい程、基本怪我らしい怪我何てしてない」
一瞬見ただけの俺でも痛々しく思う位ボロボロだった高橋やルディさんに比べ、魔女達は見ただけで分かる様な酷い怪我をしていなかった。
ジャックター国兵やユマさんと殺しあう勢いで戦ったにしては、魔女と助手は『綺麗過ぎた』んだ。
魔女がナト達と一緒に居るのは、ナトと高橋。
それとゾンビにされたルディさんと『キャラメ』さんと言う人を操る為。
離れ過ぎるとナト達の『洗脳』が解けてしまうし、ゾンビじゃないナトと高橋を騙す為には臨機応変にゾンビにされた2人を操らないといけない。
だから、仕方なく魔女はナト達と一緒に行動してるんだ。
でも、自分は怪我も苦労もしたくない。
だから『サポート役』と言う名目で、直接敵と戦わない1番安全な場所をキープしてるんだろう。




