24,ルグの異世界講座 5時限目
「最後はオレの故郷、多種多様な魔族が暮らすアンジュ大陸国。
アンジュ大陸の中心にあるジャックター国とジャックター国の眷属の4つの国からなる連邦国だ」
そう言うルグが指したのはカンパリ大陸の西にある地図で1番大きな大陸。
アンジュ大陸国は法治国家だ。
人間と戦争していた最初の頃はアンジュ大陸国全土がアンジュ大陸国と言う1つの国で、殺伐としていた。
そんな国をジャックター国国王の祖先を中心に眷属国の国王の祖先が何代も懸けて領土中を整備し奴隷制度、一部の階級制度を廃止し法律を作ったらしい。
その時、1人でアンジュ大陸を統治するのは不可能だし、全土を見回す事が出来ないと思った当時のジャックター国国王は、アンジュ大陸国を5つの国に分けた。
その時、政治を行うのや決定するのを国王1人に任せず、国王と同等の権力を持つ各国の国民が選挙で決め者、政治大臣と呼ばれる役職の者と二人三脚で行うことを決めたのだ。
血筋で決まる国王と国民に選ばれた政治大臣。
つまり日本で言えば天皇がガッツリ政治に関わり、総理大臣と2人で政治を行うと言う事だろう。
国王や政治大臣にも任期や強制的に止めさせられたりと、色々条件や決まりがある。
だけど流石にそこまで話されると俺が付いていけないからルグに省いてもらった。
まぁ、そのお陰かアンジュ大陸国は国民の意思が出来るだけ反映される平和な国になったそうだ。
「少しはよくなってきてるけど、でも、悲しい事にローズ国を中心とした人間の国には未だに、戦争をしていた頃のイメージを持たれてるんだよな~」
「まぁ確かに、どんなに良い事をしても、悪いイメージって中々消えないものな。
それが国だとなお更。
どんなに相手も自分達の国も良くなってきて、過去の国がやった事を反省してもお互いの悪い偏見って消えないんだよな」
俺の脳裏に写ったのは日本とお隣の国達。
お互いの国の良いにニュースより悪いニュースの方が多い気がする。
いや、良いニュースより悪いニュースの方が印象に残っているのかも知れない。
「ローズ国の国教、『英勇教』って言うんだけど。
何千年もの大昔、アンジュ大陸国とローズ国が大きな戦争をしていた時に、サトウみたいに異世界から召喚された勇者を祭っている宗教。
アンジュ大陸国はこの宗教から魔界って呼ばれてて、ジャックター国国王は魔王、眷属国の国王は四天王って呼ばれて宗教上、敵視されてるんだ」
「あー、つまり。
俺が召喚された時この国の姫が『この世界を闇に包もうとする悪しき魔王』って言ったのは、宗教から来る偏見?」
「そんな事言われたのか?」
俺の言葉に複雑な表情でルグは困った様に笑う。
「去年の社会の授業で、魔族と人間の溝が埋まってきたって習ったんだけどな~。
出来る事なら知りたくなかったけど、実際この国に来て授業で聞いた話よりも、ローズ国ではまだ戦争をしていた時のイメージの方が強かった事も知っちゃたし。
学校の授業より、現実は厳しいんだな~」
「教科書には希望的な事でも書いてあったんだろ。
それか、子供が魔族だからって理由で人間に嫌われてるかも、なんって話を知ってショックを受けない様にオブラートに包んだか。
あとは見得?」
教科書は国ごとに少しずつ違うしらしい。
事実はどうであれ、子供の前で少し位かっこいい国、頑張る大人でいたいんだろう。
その思いから希望的内容を入れたくなるのは仕方ないと思う。
良いか悪いかは置いといて。
あと、歴史も社会もたぶん他の教科もコロコロ変わるもんだ。
1年もあればちょっとした事でイメージも、地形も、技術も、流行も、ガラリと変わる。
ルグが授業を受けた時の教科書と授業の内容が何年前から変わっていないかによっても今との差はとんでもなく開くものだ。
・・・・・・・・・多分。
ナトや母さん達の受け売りだから自信を持って断言できないけど。
「授業で詳しくやってないから、オレはどの位昔からあるのか知らないんだけど。
授業とこの国に暮らして分かった事で、今ローズ国民の大半は大地や風と言った自然、自分達の体や心、その元と成る魔元素に感謝する『マナ教』って言う結構新しい宗教を信じてる」
発生はキール氷河の村の1つだったかな?
とルグは言う。
そこから世界中に広がったらしい。
他の宗教に比べたら新しいけど、世界中で今1番信じてる魔族や人間が多い宗教だそうだ。
「この宗教のお陰で、魔族に元々良いイメージの無かった国の人間とも友好な関係を築き出せてるんだ。
同じ宗教の信者や聖職者って繋がりで」
「へぇ~。
魔族と人間が仲良くなる切欠になった宗教か」
俺の世界の宗教の様に、同じ宗教なのに派閥ごとに仲が悪くなって、戦争までする。
なんって事が無いと良いんだけど。
ルグが知らないだけで、魔族派と人間派に別れギスギスしてるかもしれない。
見えない所で喧嘩してようが、それでも表立って関係ない人間や魔族、動物、魔物、全部巻き込んで戦争しようとするよりは良いか。
無関係な奴を巻き込まず、傷つくのが関係者だけなら誰も文句は言わん!!
第三者に迷惑を掛けずやれってんだ!!!
・・・・・・・・・あぁ、ダメだ、ダメだ!
ちょっとした事でも魔女達を思い出してイライラしてしまう。
落ち着け。
良く知らない宗教やそれを信じる奴等に八つ当たりするんじゃないぞ、俺。
「・・・それで、ローズ国の国民の殆どが別の宗教を信じてるのに、この国は未だに英勇教って宗教が国教なのか?
ルグの話を聞くと、国教を変えた方が良いんじゃない?」
「う~ん、世界事情が変わって熱心に英勇教を信じる国民は殆ど居なくなたけど、この国の貴族や国王一族は未だに熱心に英勇教を信じてるからな~。
残念な事にこの国の王様達には魔族もマナ教も心底、嫌われてんの。
生まれた時から英勇教の英才教育を受けてるから、この国の王様達からしたら今の国民の方が非常識だと思ってるんじゃない?
その『非常識』の原因を国教にしたくないんだろ。
国民の強い希望でマナ教の教会もこの国にも一応あるけど、王様達から冷遇されてるらしいし」
英勇教の教会に比べ小さいとか、税金が馬鹿に成らないほど高いとか。
隙あらば、潰す気満々てか。
この国の王様達は俺以上に頭が固いらしい。
話を聞く限りだと、俺達の世界と同じ様にルグ達の世界もまだまだ仲良くなるには時間が掛かる様だ。
でもニュースを見ると解決をなあなあに流してる俺達の世界と違い、王族、貴族は兎も角、ローズ国民はアンジュ大陸国民と仲良くしようとしている。
それに応えれる様にルグ達の国の政治家達は頑張っているそうだ。
・・・今はある理由で活動を停止しているけど。
平等で平和な同盟を人間が多く住む国、特にローズ国と結びたいと思って中心になって活動していた。
その中心である前ジャックター国国王が1年前、王妃が1年半ほど前に未知の病で亡くなってしまったのだ。
「その上、今アンジュ大陸国全国の国王が仮って言うか・・・
次の正式な国王候補達が年齢とかでまだ継げなくて、亡くなった国王と次の国王が継ぐまでの繋ぎなんだ」
アンジュ大陸国では国王を継げる順位が基本的に男>女なんだそうだ。
例えば女、男、男、女と言う順で子供が生まれた場合、長男、次男、長女、次女の順に王位継承権が発生する。
但し、独裁政治をしそうだったり、国民からの支持、持ってる才能や魔法、身体や精神的な問題が有る場合。
それと上位継承者が辞退した場合は順位が繰り上がるらしい。
政治大臣も居るから国の運営は問題ないけど、そんな決まりのせいで今、アンジュ大陸国では本来なら国王になる筈の無い者が繋ぎで国王になっているそうだ。
ジャックター国と眷属国の1つ、ホットカルーア国は予想より早く国王が亡くなり、第一王位継承者の王子は幼い子供。
だから王子の姉であり、国を継ぐ事を事前に辞退した王女達が、弟達が国を継げる年に成長するまで国王の座に収まった。
残りの3つ眷属国は前国王が亡くなった時、第一後継者がまだ王妃のお腹に居る様な状態だったらしい。
その為に王家の分家から優秀な者が選ばれ王位を継いでいる。
「何とか国の機能を止めずに済んでいるけど、国の代表が全員仮って状態だ。
国家機密だから詳しく言えない。
と言うかオレも知らないんだけど、国を運営するのに政治大臣だけじゃなく国王も居るのにはちゃんと理由がある。
それは国王一族が持つ技やスキルが関わっているらしいんだ。
女性より男性の方が王位継承の順位が上なのも、男性の方がその技やスキルを受け継ぐ率が高いから。
この技とスキルのお陰でアンジュ大陸国は繁栄して平和に暮らしている。
オレ達は国王達の技やスキルに守られているんだ」
「でも、今王様になっているのはその技やスキルを持っていない魔族なんだな?」
「うん、眷属国の国王はな。
でも、ジャックター国の現国王である姫様は逆にその技が強すぎたんだ。
今は無事押さえられているけど、何かあって暴走したら守るどころか、国を危険に晒させる。
だから辞退したし、眷属国の現国王共々『仮』なんだ」
そんな宗教上の敵が危うい状態になっているのを英勇教が見逃すはずが無い。
国教なのに国民から信仰されなくなって、自分達と中の悪い新しい宗教がジワリジワリと自分達の場所を奪いに来る。
存在が危うくなった英勇教はこのチャンスに自分達の正しさ、凄さを国民や世界に見せ付けようとしているらしい。
その方法は、宗教が出来る元となった勇者召喚。
そして、勇者を絶対の『善』とし活動させ、その傍らアンジュ大陸国を『悪』として周りを洗脳しようとしている。
英勇教を盲目に信じているローズ国の王族やそのお陰で甘い蜜を吸える貴族や大商人が率先して行動しているのだ。
噂なんかじゃなく、本当に起きている事。
街のど真ん中で英勇教の信者達が自分達の事を奇麗に化粧してラッピングした言葉で大声で自分達の活動を叫んでいるんだ。
「はぁ?そんな馬鹿げた事で俺は呼ばれたのかッ!?
そんな子供の我侭みたいな理由でッ!?
昔の戦争で受けた傷も悪い所も乗り越えて、許して、仲良くしようとしている国民を無視して、蔑ろにして、関係ない異世界人を巻き込んで、殺して!!
やろうとしているのがそんな子供の我侭の馬鹿げた理由で起こす戦争の為かよッ!!!」
怒りを通り越して呆れた。
ローズ国王のおっさんに会ったあの場所に居た全員がそんなふざけた事を考えていたと思うと、この国の未来が心配になる。
いや、魔女やおっさん達はそれを『常識』として教育され信じて生きてきたんだよな。
俺からしたらふざけた事でも魔女達にとっては、自分達の『常識』に基づいてふざけず、真面目に、誠心誠意精一杯、『正しい』と思う事をしてるだけ。
『常識から外れたくない』
その思があるから、
偏った者しか居ない環境に居るから、
そんな中で周りの目を気にするから、
自分達の『常識』自体が世界の『非常識』だと気づかない。
俺の『常識』も数ある異世界から見たら『非常識』だと思うと、何を信じて良いのか分からなくなる。
『常識』を変える事は怖くて不安で頭が真っ白になる。
だから、色んな世界や集まりを知って、1歩立ち止まって自分自身やその周りを客観的に見るのは難しい。
自分の『常識』の外の世界を見に行くの怖い。
そう考えると、『常識』ってのは、何とも恐ろしいものだ。
だからと言って、魔女達を許せるかどうかは別問題!!
俺の言葉に驚いていたのか、何も言わず暫くの間パチパチと瞬きしているだけのルグ。
ルグが驚いている間に、俺が声を出さずに何を考えていたか知らないルグは、何処か寂しそうに頷いた。
「あー、うん。
間違いなく本気で自分達を『善』と信じて戦争をしようとしているな。
もしくは、現国王達の暗殺。
亡くなられた前ジャックター国国王が今この場に居たら、『それでも出来れば、平和に、穏便に、平等な条約を結びたい』って言ってただろうな」
天然で優しい、博愛主義者で現実より理想を追求する前ジャックター国国王。
その性格だから周りの眷属国国王も国民達も前ジャックター国国王を自分達の『王』と認めていた。
確かに人格者だったろうし、仲良くしたいと思う奴だって大勢居るタイプだろう。
でも、王としてどうかと俺は思う。
国や国民を守る為に現実を見て最悪を予想して、時には自分を『悪』にし、嫌われ役を買う。
そう言うのが人の上に立つ者じゃないだろうか?
ルグの話では俺と同じ考えの奴は実際いた。
その魔族は前ホットカルーア国国王で、前ジャックター国国王の右腕。
その考えから自ら嫌な奴になってジャックター国国王を支えていたそうだ。
その魔族が居なければ、アンジュ大陸国は終わっていたし、今国は機能していない。
その魔族の影の努力で国は支えられていた。
「国民や他の国王の精神的な支えで希望って言うのかな、『光』の様だった前ジャックター国国王。
物理的に国を支えた前ホットカルーア国国王。
この2人の国王のお陰でアンジュ大陸国の今があるんだ。
だから、繋ぎでも今の国王は、特にジャックター国の姫様はこの2人の様に成ろうとしている。
2人の出来なかった事をしようとしている。
その為に色んな事を学んで、色んな事を見て回っているんだ」
「努力家なんだな、その姫は」
「あぁ。
まだまだダメな所はあるけど、とっても頑張りやなんだ」
ルグは懐かしそうな暖かい表情で呟いた。
もしかして、ルグとその現ジャックター国国王は知り合いなんだろうか?
その事をルグに言うと、
「アンジュ大陸国民なら皆知ってる事だ。
ただこの話、オレがこの国に来る少し前の出来事で、故郷が懐かしくなっただけ」
と尻尾を山形にしながら、少し寂しそうに笑った。
義務教育が終わって直ぐ付いた仕事の関係でローズ国に単身赴任。
それから、ずっと故郷に帰ってないから最近、ホームシック気味らしい。
「と、言う事で。
サトウに俺の故郷の魅力をたっぷり紹介しちゃうぞ!!」
「お、おー」
しんみりした雰囲気を壊す様に腕を突き上げ、近所迷惑なほど大声でルグは叫ぶ。
まるで、自分に言い聞かせる様に・・・




