18,サイカイ その9
「まず、ほぼほぼ失敗してたけどローズ姫達は俺を冒険者にする事で、俺の行動をコントロールしようとしていた。
行動をコントロールって言うなら、モリーノ村の依頼の時のヒヅル国の研究員達もそうだな。
自分達がわざと事故を起こしてこの国に飛ばして苦しめた研究員さん達に恩を押し付けて、自分達の為のワープ系の魔法道具を作るように誘導していった」
「確かにその英勇教に連れてかれた研究員達は、あいつ等の望みどおりジャックター国にワープできる魔法道具を作り上げてるな。
そのせいで、タカハシ達はジャックター国に行っちまったんだけど」
「ッ!それじゃあッ!!!」
「安心しろ。サトウの知り合いは全員一応生きてる。
その代わり、ティフィンミル達を守ってタカハシ達を止めようとしたジャックター国兵達が多く殺されたんだ。
ティフィンミルにとって家族同然の奴等が沢山殺された。
その上、ティフィンミルを襲ったタカハシ達にも、タカハシ達に協力してるローズ国王や貴族、英勇教信者にも何の反撃も出来ないまま逃げられたッ!!」
ユマさんの事をティフィンミルって呼ぶルグに違和感を感じつつ、少し前の事を思い出す。
紺之助兄さんがクエイさんを連れて来る前にルグは、ユマさん達が『元気で生きてるのは確か』って言ってた。
それと、ナト達を捕まえようとしてる事を考えれば、ナトも戻ってきて無事な姿を見てる高橋もちゃんと生きてる事が分かる。
確かにルグの言う通り、俺の知ってる人達は皆生きているんだろう。
でも、ルグの様な大怪我をしてる可能性が高くなった。
あぁ、あの時の不安が現実味をドンドン帯びていく。
「まぁ、でも。
まさか、ジャックター国を襲いに行った後、サトウ達の世界に逃げてるとは思わなかったけどな。
何時の間に、異世界に行く魔法作ったんだか」
「ん?いや、高橋達は・・・・・・」
「なんだよ、サトウ?
何か気になる事でもあんのかよ?」
「ある、けど・・・今はいい。気にしないで。
その事話し出したらかなり脱線して元々何の話してたか忘れそうだし、まずはナト達が操られてるって話の方から終わらせよう」
ルグは高橋達が自分の意志で俺達の世界に戻ってきたと思ってるみたいだ。
けど、魔女が焦って高橋を連れて行こうとしていたのを思い出すと、多分高橋達が戻ってきたのは不本意なんだと思う。
なんかの理由で『召喚』の魔法を使おうとして失敗して、高橋達が来てしまった。
例えば、ジャックター国の兵士達が『返還』の魔法の様に、『召喚』の魔法を使って高橋を強制送還しようとしたとか。
それか、ユマさんの所に行った後に高橋が帰って来たなら、魔女達が『召喚』の魔法を使ってユマさんを俺達の世界に追い出そうとした?
そう色々疑問や考えが浮かぶけど、ここで考え込むと間違いなくナト達の話からずれてしまう。
この話はまた後にしよう。
「えーと、つまり。
俺や研究員さん達の事を考えると、ローズ姫達はナト達の行動もコントロールしようとすると思うんだ。
それで、ローズ姫達はナト達をこの世界に『召喚』する前から、何らかの方法でコンタクトを取っていたと言ってた」
「・・・・・・多分、夢を通じてコンタクトを取ってたんだと思うよ」
「夢?」
「うん。優月ちゃんが言ってたんだけどね?
ここ最近、毎日の様に高橋君は女の子の夢を見ていたらしいよ」
紺之助兄さんは何時の間に妹ちゃんとそんな話してたんだ?
もしかして、俺が上条刑事と話してる時か?
その考えは合っていた様で、俺と上条刑事の2人だけで話していたあの短い時間の内に、兄さん達と高橋のお父さんや妹ちゃんは色々情報交換していたらしい。
短いって思ってたけど、もしかして俺、自分が思っている以上に長く上条刑事と話してたのか?
それともショックで大分固まってた?
「その女の子って言うのが、同い年位の銀髪の美少女だったらしくて・・・・・・」
「・・・確かにタカハシ達と同い年位の女って所と銀髪って所は、ルチアナ・ジャック・ローズの特徴と一致してなくもないか?」
「え、でも、ナトからそんな夢見てるって話聞いてない・・・
いや、待てよ。
もしかして、ナトは高橋に巻き込まれた、のか?」
「どう言うことだ?
ルチアナ・ジャック・ローズ達が呼んだ今代の勇者は、タカハシとタナカの2人じゃないのか?」
「いや。
ローズ姫達は俺の後呼ぶ勇者の事『勇者様』とは言ってたけど、『勇者様達』とか複数形では言ってなかったなー、って思ってさ」
『勇者様を呼ぶ生贄』とか『勇者様が考えてくださるよう』とか。
この後直ぐナトと高橋を呼び出すのに、ずっと勇者が1人だけの様に言っていた。
まぁ、俺の考え過ぎかもしれないけど。
だって、『俺に1番近い、同じ種族、同じ国籍、同じ性別、同じ年の奴』はナトなんだから。
あの状態で勇者としてこの世界に呼ばれるなら、高橋よりナトの方が可能性がある。
だから、俺の考え過ぎ。
魔女達は自分達以外、皆道具かなんかとしか思ってない訳だしさ。
ナトと高橋を1人1人別の人間と言う『個人』で見てるんじゃなくて、2人まとめて『勇者』と言う道具としてしか見てないかもしれないし。
俺がナトの夢の話を知らなかったのも、高橋と違ってナトが夢の内容を覚えて無かったとか、俺に言いたくなかったとか。
そう言う理由があったのかも知れない。
「ナトが巻き込まれたって話は今思いついた確証がない話だから、俺が考え過ぎてるだけかもしれないけど。
とりあえず、夢を通してローズ姫は高橋にコンタクトを取っていたとして。
ローズ姫は、『私達が望む魔法やスキルをこれから呼ぶ勇者様が考えくださるよう』って言っていたけど、それだけじゃないと思うんだ」
「それだけじゃないって?
スキルや魔法以外も考えるようにって事?」
「考えるっていうか・・・
最初俺が『召喚』された時ローズ姫はユマさんの事、『この世界を闇に包もうとする悪しき魔王』って嘘を言ったんだぞ?
嘘って言うか、悪口って言う方が近いのか?」
宗教とか歴史とか色々関わってきて、俺が想像出来る以上にこの問題の根は深い。
生前ユマさんのお父さんが頑張っていたみたいだし、ユマさんだって人間の国との関係を良くしようとしていたみたいだった。
そのお陰で何処まで改善されたか分からないけど、今も魔女達がユマさんやルグ達魔族を殺したい程嫌っていて、トコトン悪く言ってるのは変わりないだろう。
「夢の中でも、その自分達の考えを刷り込んでいた可能性はあると思うんだよな。
最初に『魔王や魔族は悪!』って言ったのにサンプルの俺が簡単にルグ達の話信じて、どちらかと言えば魔族寄りになったんだぞ?」
まぁ、そうなって当然って言えば当然だけど。
最初の最初から俺の命を軽く見て、トコトン意志のない道具としてしか扱わなかった魔女達と、色々親切にこの世界の事教えてくれて、沢山助けてくれたルグ達。
どっちに良い印象抱いて味方に付くかなんて、一目瞭然だろう?
「その『失敗』がある以上、『召喚』する前から自分達の都合の良い偏った『この世界の常識』を植えつけて、簡単にルグ達の言葉を信じない様にすると思うんだ」
「それ以前に、サトウはジャック・ローズ達の事嫌ってただろう?」
「第一印象から最悪だったから仕方ない」
この世界に連れて来られた最初の最初から、俺の魔女達に対する好感度はマイナスだ。
死んでも構わないからと適当に『召喚』された事から始まって、猿って言われて人間扱いされず、それなりに長い時間痛くて辛い実験をさせられて。
積み重なった嫌な面から心底嫌うどころか、完全に存在自体がトラウマになってるんだよ!!
 




