17,サイカイ その8
この世界の法律で死刑が決まってしまったナト達。
それを止める為にもう1度裁判をやり直して欲しいと。
やり直す為の手伝いをして欲しいとルグに頼んだら、ハッキリと無理だと言われてしまった。
「それは・・・
俺達の世界と違って、この世界の法律は裁判のやり直しを認めてないって事?
それとも・・・」
「いや。
条件さえ揃えば1回。
極々稀にだけど2回までならやり直せるし、サトウの言う通りタカハシ達が本当に操られているだけなら、今タカハシ達が受けてる判決も覆す事が出来る。
出来るって言うかしないといけない」
「じゃあ!!」
「でも、誰かがタカハシ達を殺そうとするのを止める事は出来ない」
ルグの話だと、この世界の法律的にナト達の死刑を撤回させる事が出来る。
でも誰かがナト達を殺す事を止める事は出来ない。
それはつまり・・・・・・
「・・・この世界は復讐殺人とかを認めてるって事?
自分の大切な人達をゾンビにした仇を討つ為に、ナト達を殺しても許すって、この世界の法律は言ってるの?」
「いいや。それも・・・少し違うな。
結果的にそうなる事もあるかもしれないけど、この世界でも基本、唯復讐の為に人を殺したら犯罪だ。
そう言うんじゃなくて・・・
あー、そうだなぁ・・・・・・
サトウはギルドの掲示板に、犯罪者を捕まえてくれって依頼が張ってあったの、覚えてるか?」
「え?あ、うん。覚えてるけど・・・
ディスカバリー山脈に居る女盗賊団を捕まえて欲しい、とかの依頼の事だよな?」
「そうそう。そう言うの」
その話が今のナト達とどう関係あるんだ?
もしかして誰かがナト達の殺人を依頼して、この組織の人達や他の国の冒険者達がその依頼を受けた、とか?
いやでも、ルグは復讐の為の殺人も基本犯罪だって言ったよな?
だったら、誰かを殺す為の依頼も犯罪のはず。
なら、なんで今その話が出て来るんだよ。
「雰囲気的にたぶん、サトウ達の世界には無い制度だと思うけど。
この世界には指名手配制度って言うのがあるんだよ」
「指名手配って言うのなら俺達の世界にもあるよ。
俺達の世界、って言うか俺達が住んでる国のだと、逮捕してもいいよって言う書類が出されていて、その事件の犯人の可能性が高い人が何処かに逃げたり隠れたりして居場所が分からなくなった場合。
その人の顔や名前を公開して、国中の警察が協力しつつ、俺達一般人からも情報を集めようとする事なんだけど。
こう、どこかで似た人を見かけたら教えてねって感じで」
「あぁ、じゃあ、サトウ達の世界だとその国の兵士以外の奴等が協力できるのは、情報提供だけなんだな。
冒険者も指名手配犯、捕まえるって事はしないと」
「そもそも僕達の世界に冒険者って職業自体ないよ」
まぁ、紺之助兄さんの言う通り、俺達の世界には冒険者って言う職業はたぶんない。
ないけど、アルバイターや探偵って意味でならこの世界の冒険者に近い職業の人も居るな。
その事を紺之助兄さんに言いつつ、この世界の指名手配の制度についてルグに聞いた。
「この世界の殆どの国では、絶対に犯罪者を捕まえる為にギルドと協力する指名手配制度ってのを採用してるんだよ。
国からの依頼だけじゃなく、村とか店とかの個人からの依頼もあるんだけど。
うーん、そうだなぁ・・・・・・
例えば、ある店で強盗殺人が起きたとする」
従業員の1人が殺されてお店のお金が盗まれた。
目撃者は居ないけど、その殺された従業員と一緒に仕事をしていたはずの『ビル』って人が、その事件の後から行方が分からない。
「だからこの場合、犯人はビルの可能性が高くて、そのビルは現場の状況的に殺人と盗み。
間違いなくこの2つの罪を犯してる事になる。
調査していた兵士達は事件が起きた国の王様や大臣。
その国が決めた犯罪者の罰を決める人に報告して、その人がビルは殺人と盗みの2つの罪を犯したと認めて。
そうしたら兵士はビルを捕まえられるんだ」
俺達の世界で言えば、兵士が警察、逮捕を許可できる王様や大臣が裁判所って事だろう。
ルグの話だと何代目かは曖昧になってしまってるみたいだけど、大昔に『召喚』された勇者がここ等辺の体制や制度を決めたらしくて。
だからか現行犯なら逮捕状が無くても一般人でも逮捕出来るって所も含めて、俺達の世界とそこまで変わってないみたいだ。
まぁ、国毎に少しずつ違うみたいだけど、基本的な流れは同じらしい。
「ビルを見つけたは良いけど、この時ビルが負傷者を沢山出す位暴れて逃げ出して、行方が分からなくなった。
だから、もう兵士達だけじゃ手に負えない。
そう言う時ギルドに依頼すんだよ。
怪我をした兵士達の代わりにビルを生け捕りにしろって」
「えーと、つまり。
依頼を受けた冒険者も兵士達の様にビルを逮捕する権利があるって事?」
「ザックリ言ったらそんな感じだな。
でも、仮にこの時ビルが自分を捕まえに来た兵士や冒険者を殺したらどうなる?
そうじゃなくても、邪魔する奴等は容赦なく攻撃する危険な性格だって分かっていたら?
ビルを逮捕、生け捕りにする為に兵士や冒険者は無抵抗に殺されろって言うのか?」
「言えないな、そんな事。
最低限、身を守って貰わないと」
「そう!
だから、指名手配された犯罪者が凶悪な程、『逮捕する兵士や冒険者の安全の為に、その犯罪者を殺しても構わない』って法律があるんだ。
まぁ、そこまで抵抗する様な犯罪者なら、ほぼ間違いなく捕まった後の裁判でも死刑を言い渡されるから、何処で誰が殺しても変わらないからってのもあるんだけどな。
寧ろ、色々な手間や金が省けるから、冒険者が首だけ持ってきた方が後々楽になる位だ」
基本は生け捕り。
でも、逮捕後のちゃんとした裁判での判決でもほぼほぼ死刑が確定している様な凶悪な犯罪者や、人並み外れた武術や魔法の才能があって生け捕りしようとすればする程冒険者や兵士達が危険にさらされる場合。
生け捕りじゃなくて、生死問わずとか死体だけ持ってきても構わないって許可が下りるらしい。
「ナト達は・・・
今のナト達は、その生け捕りが不可能な指名手配犯って事なのか?」
「あぁ、そうだ。
操られているとか、主犯じゃないとか。
そう言う話以前に、タカハシ達は今直ぐにでも捕まえなくちゃいけない凶悪犯なんだ。
これ以上誰かが犠牲になる前に、絶対あいつ等を捕まえないといけない」
「それでも!
それでも、なんで湊達は生きて捕まえないんだ!!?
逮捕して裁判したら湊達は死刑になるって思ってるから、殺してでも捕まえようって思ってるんだろ!?
その前提が間違ってるならッ!!」
さっきルグは、ナト達は『死刑になって当然』と、『それだけの罪を犯した』と言ったんだ。
でもそれは、ナト達が騙されて操られた結果起きてしまった事で、だからこそ俺達からしたらナト達は死刑にすべきではないって思ってる。
もし仮にゾンビじゃないけどほぼゾンビに近い状態だったら、責任能力を問える様な状態じゃない訳で。
ナト達をそう言う状態にした魔女達に全責任が。
全ての罪があると思うんだ。
それがまだ曖昧なのにナト達の死刑は間違いないって決め付けて、殺しても良いから捕まえようってしているルグ達は間違ってる。
そう俺も紺之助兄さんも思ってるし、だからこそルグにそう訴えた。
「確かに死刑がほぼ確定しているから生死問わずって場合は、冤罪の可能性もあるから少しでも可笑しな所が出てきたら生け捕り以外認められなくなる。
それに、ほぼ間違いないくタカハシ達の場合その可能性は無いと思うけど、もし仮にサトウ達が言う操られた状態ってのがウンディーネの『魅了』によるものだったら。
自分を『魅了』したウンディーネの為に大量殺人を犯した奴を現行犯で捕まえても、その時その犯人は正常な判断が出来る能力が全くなくなっていたって理由で、どんなに人を殺していても死刑には絶対出来ないんだ。
どんなに重い罪を犯しても、自分を『魅了』したウンディーネに一生会えない、何処か遠い場所に閉じ込められるだけだ」
「それならッ!!」
「だけどなッ!!!
タカハシ達の場合はそうじゃないんだよ。
現状、ほぼ間違いなく死刑が決まってるからだけじゃない!
今代の勇者なんって言われてるだけあって、認めるのは癪だけど、こっちが殺す気でいかないと捕まえられない程、アイツ等は強いんだ。
生け捕り何って温い考えで向かったら、オイラ達の方が一瞬で殺されちまう」
それでも生け捕りにしろって言うのか?
そうルグに言われ、俺は何も言えなくなった。
死刑云々の前に、凶悪事件に関わってしまった故に強くなり過ぎたナト達を捕まえるには、生半可な覚悟じゃ到底不可能。
お互いの命を懸けなきゃ絶対に捕まえられない。
だからこそ『ナト達を殺す事』を、誰も止められないんだ。
「その上、あいつ等は平気で人を殺せる奴等なんだ!
今までにタカハシ達に何人無残に殺されたか分かるか!!?
何の躊躇いも無く、寧ろ嬉々としてあいつ等が殺してきた奴等がどれだけ居ると思う!!?
今のタカハシ達はそう言う奴等なんだ!!
だからッ!!!だから、諦めろ、サトウ。
操られて様が何だろうが、タカハシ達を止める為にはもう殺すしかないんだよ。
もう、そこまで来ちまってるんだよッ!!」
「そッ!
・・・・・・・・・なら・・・それなら!
もう少しの間待って貰う事は出来ないか?
エド達が死ぬ気で捕まえる前に、俺と兄さんでナトを、ナトと高橋を説得したい!!」
もう1度諦めろって言うルグに、俺はそう返した。
息を詰まらせて目を見開くルグを見つめ、俺は言葉を続ける。
「例え操られていても、少しでもナト達自身の意識が残っているなら。
俺達の知ってるナト達の部分が残ってるなら、俺達家族の言葉位まだ届くはず。
だから、ほんの少しの間でいい。
その為のチャンスが欲しいんだ」
「それは・・・・・・」
「エドに何を言われても、やっぱり俺はナトの事、諦められないからさ。
人を殺す事に酔って完全に理性も言葉も失った化け物になっていないなら。
敵だと思われてる赤の他人じゃ無い、俺達ならまだ説得できる可能性が少しでも残っているなら。
最低でもその可能性が潰れない内は、絶対にナト達の命を諦める事も納得も出来ない」
ナト達がルグでも苦戦する位強いなら、戦闘能力皆無な俺と紺之助兄さんじゃ絶対捕まえられないだろう。
そんな俺達が、実際に今のナト達と戦えるルグ達に自分達の命を。
これ以上の犠牲を出してナト達を生きて捕まえてくれ、何って言えるはずない。
だから、俺達の言葉が届かない位魔女達に操られてしまっているなら、裁判云々の前に殺してでもナト達を捕まえようとするルグ達を受け入れないといけないんだ。
「勿論、ナト達の説得が上手くいってナト達の裁判が行われる時は、全力でナト達の減刑を求めるけどな。
寧ろ無罪だって勝ち取ってやる!」
「・・・さっきも言っただろ。
アイツ等、サトウの事言っても聞く耳持たなかったって。
サトウ達家族の言葉も、もう届かねぇよ!」
「そんな事ない!
ローズ姫達が邪魔しなければ。
操らなければ、ナトにも高橋にもまだ俺達家族の言葉は届くんだ!!
実際、俺達の世界に戻ってきた高橋に、高橋の家族の言葉は届いていた!
あの時、ローズ姫が高橋を操らなければ、説得は成功していたはずだ!!」
戻ってきた高橋は家族と魔女の間でかなり揺らいでいた。
あの時魔女が何らかの方法で高橋を操ったから、最終的に高橋は魔女達の方を選ばされたみたいだけど。
でもじゃあ、もし俺達の世界に戻ってきたあの時、魔女が居なくて、一緒に居たのがルディさんと助手だけだったら?
助手とゾンビ状態のルディさんの言葉だけで、高橋は本当に自分の意志でこの世界に戻る事を選んだだろうか?
多分、違う。
高橋はあのまま俺達の世界に残る事を選んだはずだ。
魔女達が高橋を操ったって事はそうしないといけない位。
言葉だけで説得できない位、高橋は自分の家族の言葉に心が寄ってたって事だろう?
なら、魔女の邪魔さえなければナト達の説得は可能なはずだ!!
「操らなければ、ってそう思う根拠は?
サトウはコンと違って、そう思いたいから言ってる訳じゃないんだろう?
そう思う証拠や情報があるから言ってるんだろう?
なら、それは?」
「・・・・・・そう、だな。
ならまず、さっき言った通り、前回俺がこの世界に来た時の事、最初から話させてくれ」
少し熱くなってしまった頭を冷やす為に数回深呼吸して、頭も呼吸もちゃんと落ち着いたと思える状態に戻してからそう前置きをして。
それから俺は出来るだけ詳しく前回の事を伝えた。
「それで、俺は元の世界に戻ってきたんだ」
「ふーん・・・」
「ふーん、って・・・
エド君興味なさ過ぎじゃないか?」
「そーかー?」
紺之助兄さんを騙す為か、俺が話している間ルグは、ずっと興味なさそうな表情のままだった。
でもルグが少し体を動かした瞬間。
組んだ腕の中に隠れた右手が強く強く服を掴んでいるのが見えた。
その強さは服を突き破り右手の爪が服ごと掴んだ肌に食い込みそうな程。
いや、実際に食い込んでいただろう。
掴んでシワシワになった場所の色が少しだけ濃くなっていた。
2回目だろうと、ルグには受け入れがたい辛い話だよな。
特にユマさんの両親が病死じゃなく暗殺されていた話は。
そうじゃなくても魔女達の話は聞いていて気分が良い話じゃない。
それでも紺之助兄さんにルグの正体を気づかせない為なんだ。
ルグには申し訳ないけど、もう一度最初から聞いて貰う。
「『ヒー
「それで?
今までの話の中の何が、高橋達が操られていると思う根拠なんだ?」
・・・・・・・・・高橋が操られてるって確信したのは、俺達の世界に戻ってきた時だ」
爪が食い込んだだろう場所に『ヒール』を掛けようか?
と言おうと思った言葉を遮って、ルグがそう聞いてくる。
そして、組んだままの腕の間から見えた左手の人差し指と中指。
その2本の指がクロスする様に絡まっている。
あれは、前ルグとユマさんと決めたサインの1つ。
『いいえ』とか『いらない』とか否定の為のサインだ。
なら、この状況的に『ヒール』を掛けるなって事だよな。
痛くないか心配だけど、本人が嫌なら仕方ない。
質問に答える事を優先しよう。




