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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
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16,サイカイ その7


 ナト達の事で、お互い我慢の限界が来てしたったんだろう。

取っ組み合い寸前の大喧嘩をしだしたルグと紺之助兄さん。

そんな2人を俺はどうにか止めようとしていた。


「この1年で何があって、兄さんとエドが何を知ってるか分からないけど。

まずは座って深呼吸して」

「・・・・・・・・・サトウも・・・

サトウもあいつ等が悪くないって言うのかよ!!?」


相当我慢した後の爆発だったんだろう。

興奮収まらない、怒っている様な泣きそうな顔で叫ぶルグ。

その顔と声は、ユマさん達を襲ったナト達を許せと。

仕方ないと受け入れろと言うのか!?

と訴えていた。


確かにそれは、自分自身や大切な友達や家族を襲われたルグからしたら、どんな事情がナト達に有っても到底受け入れられないものだろう。

その気持ちは、良く分かる。

俺も魔女達を受け入れる事が出来ないんだ。

許す事も、出来ない。

魔女達にも魔女達なりの事情や正義があって、この世界の法が情状酌量の余地があるって言って。

それで俺の頭がその決まった罰に納得してどれだけの時間が経った後でも、心はけして魔女達を許さないだろう。

だから、ルグにもナト達を許してくれとも、何も言わずただただナト達の無実を受け入れてくれとも絶対言えなかった。

でも・・・


「いいや。

ナト達が無実とは、100%悪くないとは、言う気はないよ。

でも俺は、ここに来る前の出来事とあの時ローズ姫から言われた事から、ナトと高橋がゾンビ化以外の方法で操られている。

もしくは、この世界の事を正しく認識出来てないって思ってるんだ。

だから、ナト達が100%自分だけの意志でこの世界を滅茶苦茶にする道を選んだとは思ってない。

ナト達の自覚がないまま、そう言うローズ姫達が望む道を選ばされているんだと思う」

「どう、言う事だよ・・・」

「ユマさん達を見送ってローズ国兵達に襲われた後、俺を勇者『召還』の生贄にするから。

殺すからって、あいつ等色々今までの悪事やこれからの計画をペラペラ喋りだしたんだよ。

その時・・・・・・あ、いや。最初から話そうか」


紺之助兄さんに違和感を持たれない様にもう一度ルグに襲われた後の事を詳しく伝えようとして、途中でそれじゃあ不味いって気づいて。

俺が最初にこの世界に来た時の事から話そうと言い直した。


あの襲撃後の事も含めて、前回俺がこの世界で経験した事はルグ達が居ない間の事でも事細かにルグに伝えてある。

でも、その事を、


『レモン君の様に一緒に行動していた訳でもない、依頼で少しの間居た村の1住人でしかないエド』


が知っているのは可笑しい。

俺はルグ = エドって事を知っているから、油断して、


『ルグが知っていても可笑しくないけど、エドが知っているのは可笑しい情報』


ってのでも普通にエド状態のルグに振ってしまうかもしれないんだ。

その少しの油断からルグの正体がバレてしまうかも知れない。

その身バレの危険を少しでも減らす為に、ルグが知っている『前回の俺の情報』も一緒に今此処で伝えてしまった方が良いと思ったんだ。

その方がそう言う事で何か軽くミスっても何とかフォロー出来るはず。


「それぞれ視点からしか分からない情報ってあると思うから、俺がこの世界に来た。

いや、ローズ姫達が勇者を呼ぼうとした最初から、話し合いたい」


それに、依頼書を使って俺を監視していた事や、ユマさんがローズ国に来た原因のヒヅル国の研究所の事。

それにユマさんの両親の事もそうだけど。

そう言う俺だけが知っている情報があるのと同じ様に、ルグ達しか知らない情報もあるはず。


そもそもこの1年間の事、まだ詳しく聞けてない訳だし。


その情報を組み合わせれば、何か新しい真実が見えてくるはずだ。

それが何処から出てくるか分からないし、ルグ達の視点からしかこの世界の事を知らない紺之助兄さんにもう1度ちゃんと説明する事も出来る。

一応お互いの事情を説明し合っているはずだけど、多分それは上手く伝わっていなかったと思う。


実際、紺之助兄さんとルグは、ゾンビにされたルディさんが俺達の世界に現れた事に気づいて無かった訳だし。


そう言う事が他にもあるかもしれない。

だから、まぁ。

そう言う理由で、俺がこの世界に来た最初から話そうと思ったんだ。


「そうすれば、ナト達が操られていたってエドも納得して貰えると思う」

「だからあいつ等を許せって!?」

「いいや。

さっき言った通り、俺はナト達がルディさんの様な100%被害者だって言うつもりはないよ。

許してくれとも、受け入れてくれとも、言うつもりは無い。

ただ、ナト達には情状酌量の余地があるって言いたいんだ」


この大事件の主犯じゃなくて、あくまでナト達はこの世界の事実を知らないまま協力させられてる共犯。

いや、主犯格達に利用されているだけの立場だ。

だから、ナト達が死んで償うのは、死刑になるのは間違ってると思ってる。

そうやって償うべきは主犯の奴等だけ。

利用されてるナト達じゃない。


「ナト達の立ち位置的に2人が受けるべき罰はもっと軽くするべきだ」


まだ何か言おうとしたルグの言葉を遮ってそう言った俺の言葉に、ルグと紺之助兄さんの目が見開かれていく。

確かにナト達は騙されて操られていると思う。

でも、ゾンビになっていない事と戻ってきた高橋の態度的に、何処かにナトや高橋本来の意思はあるはずだ。

それがどの位か分からないけど、ルグの態度的に騙されてるからって100%許される様なラインはとっくに超えてしまっていると思う。


でも、主犯じゃない。


ルグの言い方的にナト達が主犯の様な。

ナトと高橋が魔女達に指示を出してこの事件を起こしてる、って思ってるみたいだけど、俺は主犯は魔女達だと思ってる。

魔女達は自分の国の国民を道具と思っていて、俺達異世界人も同じ様に自分達に都合の良い道具としか思っていない。

なのに、初代以外は皆異世界人だった勇者を信仰している。

初代勇者のレーヤだけを信仰してるならまだ分かるけど、魔女達は『勇者』って存在自体を特別視してるような言い方をしていた。

そこ等辺に違和感を感じるんだよ。

でも、ルグの言い方で1つの可能性が浮かんだ。


『勇者と言う役割を押し付けた異世界人を特別視する様な言動をするのは、もしもの時自分達の罪を軽くする為』


なんじゃないかって。

自分達の作戦が失敗して他の国に捕まった時。

あくまで主犯は『勇者』で、自分達はその『勇者』の指示に従っただけの共犯だと言い訳する為なんじゃないか?


つまり、ナト達『勇者』にされた異世界人は魔女達の様な奴等に使われる道具であると同時に、一種の神輿。

調子よく担いで目立たせる事で、いざって時の自分達の逃げ道として全ての罪をかぶせる為の存在でもあるんじゃないのか?

いざって時そう言う行動しても周りが違和感を感じない様に、平常時からも『勇者』を特別視してる様な言動をしてる。


俺個人の主観がかなり入った可能性の話だけど、魔女達の言動的に可能性が絶対無いとも言い切れない話、のはず。

だからナト達は主犯に見える様にされてるだけで、あくまで魔女達って言う教唆犯に無理矢理協力させられてる共犯なんだ。

だから、少しでもナト達の罪が軽くならないかって思ったんだんだけど・・・・・・

この世界の人達に納得して貰えるかな?

そもそも、この世界の法律的にそう言う理由で罪を軽く出来るんだろうか?


「主犯じゃないからってサトウはまだ、あいつ等に同情の余地があるって言うのかよ!

共犯だからって理由だけで、罪を軽くする余地がッ!!!」

「うん、ある。

俺達の世界の法律の考え方が元だから、この世界でも通用するか分からないけど・・・

でも、あると、思ってる。

・・・・・・あぁ、違うな。

ある、と思いたいんだ。

大切な家族だから、ナト達にそうあって欲しいって思ってるんだ。

どんな罪を犯していても、その罪のせいでどんな罰を受ける事になっても。

どんなに時間が掛かっても、ちゃんと生きて、俺達の世界に帰ってきて欲しいって思ってる。

連れ帰りたいって、思ってるんだ!!」


身内だから庇ってるし、現実逃避してるって言われたらそれまでだ。

けど、身内だからこそ、


「はい、そうですか」


と、ナト達が殺される事を受け入れる事なんか出来無いし、簡単に諦める事なんって出来無い。

出来る訳ないんだ!

そう思っても現実的には、もう間に合わない所まで来てしまっているのかもしれない。

けど、ナト達が関わってる事だから、少しでも納得できない事があるなら。

少しでもナト達の罪を軽くする希望があるなら、そこを突っついて、突っついて、何とかましな方に向かわせたいんだ!!


「今俺が持ってる情報的に、俺はナト達が100%正気と言うか、正常な状態って言えばいいのかな?

そう言う状態ででルディさん達をゾンビにしたとは思えないんだ」


何も知らないまま、魔女達に都合がいい綺麗な言葉で綴られた嘘だらけの物語を信じ込まされ。

この世界の事実を隠された上で、この世界の人達のゾンビ化やユマさん達の暗殺の手伝いをさせられている。


「だから、その情報がひっくり返る様な情報を基にした、納得できる様な何かをエド達が出すまで、俺はナト達を諦められない。

諦める事何って出来ない!」

「・・・・・・だから、話し合いたいって言ったのかよ?」

「ッ・・・・・・うん」


どことなく冷たい何かを含ませた声音でルグが静かにそう聞いてくる。

そんなルグに対して俺は、熱く上がった気持ちと声を抑える為に数回深呼吸してから、自分の気持ちを表す様に強く強く頷いた。


「落ち着いてエド達視点の話を聞いたら、俺達もナト達がエドの言う通り、正気なまま変わったって認めないといけないかもしれないから・・・・・・」

「貴弥!!お前、お前はそれでいいのかよ!!?

湊の事、最後まで信じないのかよ!!!」

「信じたいからエド達の話を聞こうとしてるんだよ、兄さん。

信じたいから、色んな証拠を集めるんだ。

聞いていたいと思う様な綺麗な、俺達に都合の良い話だけじゃ、ナト達を連れ戻す為の事実なんって見つかんない。

・・・辛くて苦くても、エド達の話を聞くよ」


弁護士の資格なんって無いけど、俺がやりたいのは弁護士の真似事だ。

あのルグに、


「死刑にしろ!」


って言わせた。

多くの人達に死を望まれたナト達の罪を軽くする事。

上手く出来るか分からない。

でも、何とかルグやこの組織の人達。

ナト達の罰を決めた人達がナト達を殺そうとするのを止めたい。

その為にも、どんな小さな情報でも逃してなるものか!!


「・・・・・・サトウがどんな情報を持っていっても、この組織の奴等を含めたこの世界の多くの奴等は、そう簡単に納得しないぞ?

いや、そもそも今更その事でサトウ達の言い分を聞こうって思う奴自体、少数派なんだ。

殆どの奴は、サトウ達の話なんって聞かない。

聞かずに、あいつ等を殺しに行く。

殺す為に、捕まえに行く」

「うん。そう言う人が居るのも、分かってる。

でも、エドは聞いてくれるだろ?」

「・・・・・・サトウの話聞いて俺が納得したら、手伝えって?」

「うん。ダメ、かな?

俺はこの世界の法律何って知らないし、再審を申し込む為の手続きや必要な物も全く分からない」


そもそも、まだ捕まえてない人の死刑がもう決まってる時点で俺達の世界の法律と大分違うんだけどな。

だからもし再審を行って貰えるなら、どうしてもこの世界の誰かに手伝って貰う必要があるんだ。


「だから、お願いだ、エド。

酷な事を頼んでる自覚はある。

だけど、俺達には他に頼れる人が居ないんだ。

だからもし、俺達の話が納得できたなら、手伝って欲しい。

お願いします!!」


この世界の法が分からない以上に、今の状況で自分の大切な人達を正気なままゾンビにしたと思ってるナト達の身内である、怪しい異世界人の俺達の話なんって、この組織。

いや、この世界の人達が聞いてくれるなんて思っていない。

そもそも俺達を表の地下水道で見つけた瞬間殺さず、こうやって監視付きで軟禁するだけに止めてくれているだけでも、かなり譲歩してくれていると思う。

その譲歩してくれたこの組織に何人の人が居て、その内何人が俺の知り合いなのかも分からない。

でもきっと、俺の知っている人は少人数で、殆どは俺達と関わりの無い赤の他人だ。 

だから俺達の言葉なんって聞く義理なんってないし、どんなに俺達が訴えても無視してナト達を殺しに行くだろう。


でも、同じ組織の仲間の言葉だったら?


前回知り合った人達から順に説得して協力して貰えたら、何をするにもまだ聞いて貰える可能性があると思う。

だから、俺の話を聞いてルグが納得してくれたら、他の人の説得やナト達の裁判の再審依頼の協力をして欲しと言ったんだ。

それがルグにとって最悪って言葉じゃ足りない位の酷い事だってのは分かってる。

それでも、助けてくれと縋ってしまうんだ。


「俺に・・・

俺達に出せる物なら、渡せる物があるなら渡す。

必要なモノがあるなら、どんなに時間が掛かっても、用意する。

だからッ!!」

「・・・・・・・・・無理だ」

「ッ!!」

「どんなにサトウ達が頑張ろうと、今の状況でタカハシ達が殺されるのを止める方法は無い」


静かに俺の言葉を聞いてくれていたルグが放ってきたのは、短くもハッキリとした否定だけの言葉だった。


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