15,サイカイ その6
「えーと、それで。
俺達が監視されてる理由だけど・・・」
「その前に、そもそも貴弥はエド君に何処まで聞いてるの?」
「俺が元の世界に帰ってから1年位経ってるって事と、此処がアーサーベルにある地下水道にある、ナト達と敵対してる組織のアジトだって事。
エドやクエイさんの他にも、前、この世界に来た時に知り合った人達が此処に居る事。
後、今が早朝4時位だって・・・・・・
あぁ、もう5時過ぎてるのか」
チラリと机の上の時計に視線を向ければ、5時8分と書かれた字幕のデジタル時計が浮かぶ。
ルグに今の時間を聞いたのは紺之助兄さんが1度部屋を出て行った辺り。
それからもう1時間近くも経ってたんだな。
「じゃあ、湊達の事や今この世界で何が起きてるかは聞いてないんだ」
「病み上がりのサトウに聞かせるには辛い話だからな。
コンが戻って来てから話そうと思ったんだ。
兄貴と一緒の方がサトウも落ち着いて聞けるだろ?」
「それも、そうだね・・・」
ルグが色々話したがらなかったのは、話が長いって以外にも何か理由があるのは分かっていた。
けど紺之助兄さんの表情的に、俺が思っている以上にろくでもない事が起きているのかもしれない。
いや、戻って来た高橋の様子的に今この世界でろくでもない事が起きてるのは分かっていたけど。
それでも、病み上がりには辛い話って・・・
俺が考えてるよりも酷い事が起きてるって事なのか?
一体、ナト達やこの世界に何があったんだよ・・・
いや、1つ思い当たる事がある。
外れて欲しいけど、もしかしたら・・・・・・
「・・・・・・もしかして、ローズ姫達がこの世界の人達をゾンビに変えた事に、騙されたナト達が関わってるのか?」
「ッ!サトウ!!なんで、それ・・・
ゾンビ化の事、誰から聞いた!!?」
「誰からって言うか・・・
えっと、兄さんから聞いたかもしれないけど。
俺達がこの世界に来る前、高橋とローズ姫、シャルトリューズ。
それと、ゾンビにされたルディさんが俺達の世界に現れたんだ。
アーサーベルの様な大きな街に住んでいないルディさんがゾンビにされてるなら、他の人達もゾンビにされてるのかな?って」
「え?は?ラムも居たのか?
前聞いたコンの話には、ラムっぽい特徴の奴なんって出なかったぞ?」
紺之助兄さんはどうルグ達に説明したのか。
ルグはゾンビにされたルディさんが高橋達と一緒に俺達の世界に来た事を知らな無かったみたいだ。
「ルディさん?ラム?もしかしてピコン君の恋人?」
「そうそう!」
「へぇ。
ルディさんとピコンさん、漸くくっ付いたんだ」
ルディさんがゾンビにされてるし、元の世界で見た姿が傷だらけだったから、素直におめでとうって言えないけど。
ルディさんもピコンさんもあのまま平穏無事に暮らしてたら、末爆しろっと祝ってた所なのに・・・
あぁ、でも、エドの言い方だとピコンさんはゾンビにされずにすんで、此処に居るって事だよな?
ルディさんのお父さん達やヒツジ達も此処に居るのかな?
「兄さんが知ってるなら、もしかしてピコンさん達も此処に居るの?」
「あぁ。ピコンだけは、な。
サマースノー村の中だとピコンだけが無事だったんだ。
それで今はこの組織の一員」
「村長さん達やヒツジ達は?」
「・・・・・・サマースノー村に居る」
「そ、っか・・・・・・
じゃあ、後でピコンさんにも挨拶しないとな」
言いづらそうな間的にルディさんのお父さん達はゾンビにされたまま、機械的な『同じ毎日』を繰り返してるのかもしれない。
それにルグの態度を見るにあの日考えた最悪の予想通り、魔女達はこの世界の人達を皆ゾンビに変えてしまったみたいだ。
中にはルグ達みたいに無事な人達も居るみたいだけど。
もしかして今の『レジスタンス』はゾンビにならずにすんだ人達の集まりになってるのか?
だから自分が住んでいる町や村から離れそうに無いクエイさんやピコンさんも、遠く離れたこのアーサーベルに居る。
詳しく聞きたいけど、それは紺之助兄さんが落ち着いてからかな?
「えっ、嘘・・・
ピコン君の恋人、あの4人の中に居たの!?
え?え?誰?
あの時女の子2人いたけど、どっち!?」
「えっと。
赤毛で暗い紫色の目をした、ヴァイオリン持ってた血だらけの女の人。
その人がルディさん。
ついでに言うと、白髪の方がこの国お姫様で、金髪の方が姫の助手のシャルトリューズ」
「赤毛で血だらけ・・・・・・あっ!あの人か!!」
唖然とした感じで数回瞬きする紺之助兄さん。
そんな紺之助兄さんに俺は、あの時のルディさんの特徴を伝えた。
あの人か、と驚いてる所を見ると、ルグ達に上手く伝わってなかっただけで、別に紺之助兄さんがルディさんの事を忘れていた訳じゃないみたいだ。
「あの痛覚無さそうな冷たい感じの人がピコン君の恋人だったんだ」
「冷たい?
ルディさんは冷たい性格や表情する人じゃ・・・
あぁ、いや。
ゾンビにされてNPC、って言うか人形とかロボットっていった方が分かり易い、のかな?
まぁ、あの時のルディさんはそう言う感じになってたから、兄さんは冷たく感じたんだと思う。
それにゾンビにされてるから『痛い』って自分で言えなくなってるんだと思うよ」
「あぁ!確かに人形みたいだった!!
そっか。
あの人間らしく無い感じは、噂のゾンビにされていたからなんだね」
「多分?
あの時、俺、殆ど高橋達の事見て無かったからなぁ・・・」
魔女達が穴から出てきて、体ごとその姿に釘付けになって。
そのお陰かルディさんがゾンビにされているのに気づいて、高橋も出てきて、その後俺はパニックを起こした。
だから、あんまり俺達の世界に戻ってきた高橋達の事見てないんだよ。
紺之助兄さんも俺の視界に魔女達が入らない様にしてくれてたから、魔女達と一緒に出てきた後俺達の世界に居る間ルディさんがどんな感じだったのか分からない。
高橋の見た目が何時通りじゃなかった事と、魔女と助手が鬼の様な形相だったのは覚えてるけど。
「とりあえず、俺からしたら高橋とルディさんは被害者だ。
あの場に居た100%犯人側の奴は、ローズ姫とシャルトリューズだけなんだ」
「・・・・・・サトウは、サトウ達は信じたくないだろうけど、タカハシもタナカも加害者側だ。
タカハシもタナカもこの世界に来て直ぐ殆どのローズ国民をゾンビ化させ、一国の王を殺そうとしてる犯罪者だ!」
「ッ・・・・・・だから・・・
だから、君やこの組織は・・・・・・
この世界の王様達は、湊や高橋君を殺そうって決めたの?
死刑にしようって、湊達を殺しても良いって、まだ思ってるの?
その判断が間違ってないって!?
その判決が正しいって、本当の本当に思ってるの!!?」
「・・・え?」
ナト達を殺すって・・・・・・
死刑判決が下されたって・・・・・・
なんで、そんな・・・
嘘だろ?
冗談だよな?
そう思いたいけど、ルグと紺之助兄さんの態度が、それを許してくれない。
・・・・・・あぁ、だからか。
ルグ達、殺したいと思う被害者達の心を汲み取った、この世界の法が殺して当然と決める様な。
そんな・・・そんなどうしようも無い事をしてしまったナト達の身内だから、俺と紺之助兄さんは監視されてるんだ。
俺達がナト達と同じ様にこの世界を滅茶苦茶にしない様に、ルグ達の邪魔をしない様に。
そして、ナト達に協力しない様に、監視して軟禁している。
「あぁ、そうだ!あいつ等はそれだけの!!
死刑になって当然のとんでもない事を犯したんだ!
どれだけ掛かっても償いきれない、世紀の大犯罪だ!!!
それを、あいつ等の命だけで許すって言ってるんだぞ!!!
罰としては軽過ぎる、優し過ぎる位なんだよッ!!!
今まで何度も何度も言っただろうがッ!!!!
いい加減理解しろよ、コンッ!!!」
「ふざけるなッ!!!!
いい加減にするのはそっちの方だろう!!!
だから!!
湊も高橋君も自分の意思でそんな事するはずないんだって!!
何か理由があるはずなんだ!!
あの子達が犯罪なんって犯すはず無い!!!
人を殺すはずがないんだ!!!
湊達は無罪だッ!!!」
「そんな訳あるか!!!
あいつ等はゾンビの特徴の紫色の目をしてなかったし、この世界の事言っても、サトウの事を言っても気にせず、自分の『意思』でこの世界を滅茶苦茶にする道を選んだんだ!!!
それはオレ達の仲間が見てる!!聞いてるんだ!!!
あいつ等は正気なまま、人を殺す事をッ!!
この世界を壊す事を選んだ!!!」
「そんな事ある分けない!!!!」
「あるんだよ!!!
サトウ達からしたら経った2週間の出来事かもしれないけどなぁ!!
こちじゃ1年以上経ってるんだ!!
お前等の知ってるあいつ等はもう居ないんだ!!!
とっくにただの人殺しの犯罪者に変わっちまったんだよッ!!」
「ありえない!!
絶対、そんな事ありえる訳が無いッ!!
そんな風に湊は変わらない!!!
絶対変わるもんか!!」
「ちょ、ちょっと!!2人共落ち着いて!!!」
暗い影を落とした赤鬼の様な表情でイスから立ち上がって、今にも取っ組み合いの喧嘩をしそうな紺之助兄さんとルグ。
俺が眠っている間に何度も言い合っていたんだろう。
何度目か分からない言い合いに、とうとう2人の我慢の限界が来たみたいだ。
そんな2人の姿にルグの言葉で少しの間放心していた俺も、
「流石にマズい!!」
と気づいて、2人が本気でお互いを殴ろうとする前に慌てて止めに入った。
でも、2人共顔を真っ赤にして、荒い息と共に激しい感情を吐き出して。
中々落ち着いてくれない。
勇者と呼ばれるナト達がユマさんを殺そうとしている事は、嫌でも気づいている。
だからルグがナト達を『犯罪者』や『加害者』って言うのもあながち間違いじゃないんだ。
ルグの立場からしたら、そう言って当然、なんだろう。
でも、紺之助兄さんの言う通り、ナト達が正気の状態でそんな事するとは思えない。
いや、あの時の高橋の様子や俺を襲ったあの時の魔女の、『理想の勇者が来る』って言葉と、『魔女達が望む魔法やスキルをナト達が持つようにコンタクトを取る』って言葉。
そこ等辺を考えると、ナトも高橋も魔女達にゾンビ化以外の方法で操られているのは間違いないだろう。
その事を伝える為にも、まずは2人を落ち着かせないと!!




