12,サイカイ その3
「・・・・・・でも、幾つか聞いてもいい?」
「オレの仕事に関わる事や時間の掛かる事じゃなければ」
「どう、だろう?
ただ、ユマさん達が無事に帰れたのか。
それと、此処が何処で、俺がこの世界から居なくなってからどの位経ったのか。
とりあえずそれの3つが聞きたい」
ナト達の事は多分時間が掛かると思うし、ルグ達の様子的に紺之助兄さんに聞かれても大丈夫な話だと思う。
だからナト達が関係ありそうな話は紺之助兄さんが戻ってきた後にして。
まずは紺之助兄さんや紺之助兄さんが連れてくる人に聞かれたら不味そうなユマさん達の話。
それと、紺之助兄さんが戻ってくる前に俺が必ず聞いていそうな事を聞いた。
あの様子なら紺之助兄さんも俺とルグが、色々聞き合える位それなりに親しい間柄だって事は知っているはず。
なのにもし、この状況で普段の俺なら必ず聞いてそうな質問を俺が聞いてなかったら、自分達が来るまで俺達が何をやっていたのか疑問に思うかもしれない。
その疑問って言うのか、違和感って言うのか。
それを感じてそこからルグの正体がバレる・・・
まで行かなくても怪しまれるかもしれない。
だから、その3つの質問を聞きたい理由を説明しながら聞いたんだ。
「そういう事なら~・・・・・・
まずはユマ達の事だよな」
「うん。ユマさん達は無事なんだよな?」
「えーと、だなぁ・・・
ユマとジャックはー・・・・・・うん、元気だ。
1度ちゃんと無事にジャックター国に帰れて、その後色々あって。
でも、元気で生きてるのは確かだな!
コロナ達も元気にしてる。だから、大丈夫」
「・・・そう・・・か。元気そうなら、何よりだよ」
チラリと戸の方を見て、少し悩んでからルグはユマさん達が元気だと言う。
でもルグは、ユマさん達が『元気で生きてる』とは言ったけど、『ジャックター国に1度帰った後、ずっと無事だった』とは言っていない。
言いよどむルグの様子からして、国に帰った後ユマさん達もルグの様に何か怪我をしたのかも・・・・・・
『元気で生きてる』って事は、ちゃんと怪我も治って何時も通りの生活が送れているんだと思うけど・・・
何があったのかは、ルグの『迂闊に言えない仕事内容』に関わる事だろうから、聞いても教えてくれないと思う。
『何処で誰が聞いてるか分からない』って事は、ルグは少しのミスも許されない、重大な任務とかについてるのかもしれない。
そうじゃなくても、前回の失敗を反省してルグは仕事の事をあまり言わない様にしてるんだと思う。
前の続きでナト達の調査の仕事をしてるならまだいい。
けど、今のルグの仕事が、ユマさん達が怪我や病気になった事に関係あったら・・・
もし、もしそうだったら、どうしよう・・・・・・
魔女達に見つからない様に薬の材料集めてたりとか、この家?なのかな?
この地下水道ぽい所に居るその病気専門の名医の護衛とか。
そう言うのだったら・・・・・・
魔女達のせいで女王として忙殺されそうとか、そう言う可能性もあるけど、ルグに聞けない分そう言う不安な考えばかりが頭をよぎってしまう。
「・・・ユマさん達は此処に居ないんだよな?」
「・・・・・・・・・今、ユマは・・・・・・
ユマは、いない。
サトウの知ってる・・・
あの時と同じでココに居るのは、オレとスズメだけだ」
「あっ・・・ご、ごめん!ルグ!!
聞いちゃいけない事聞いた!本当に、ごめん!!」
「いや、いいって!
サトウが気になる気持ちも分からない訳じゃないからさ!
だから、気にするなって!!」
「・・・・・・うん、ありがとう。
でも、ごめん・・・」
長い間と一瞬逸らされた目。
そこからルグがユマさんの居場所を誤魔化そうとした事が分かった。
ユマさんが魔女達に狙われている以上、仕事内容と同じで迂闊にユマさんの居場所を言う訳にはいかない。
自分でそう言った後にその事に気づいて、ルグの態度と言葉で確信した。
本当、俺の馬鹿!
今のこの状況で、ユマさんの居場所なんって聞いちゃいけない事位、少し考えれば分かるだろ!?
油断しないって決意したそばから何やってんだよ!!
ルグは気にするなって言ってくれたけど、また俺のミスでユマさん達が危険な目に遭うかと思うと、迂闊過ぎた自分を許せそうに無かった。
「寝起きでまだ頭が回ってなかった」
なんって言い訳、絶対効かない位の迂闊さだ!
あぁ、本当。
何やってんだよ、俺はっ!!
「えっと、えっと・・・あっ!そうそ!
此処が何処かって事だけどな!!
アーサーベルの地下水道にある、ある組織のアジト。
そのオレが使ってる部屋だ」
「・・・・・・やっぱり、地下水道なんだ、此処」
俺が落ち込んだ事に気づいてくれたんだろう。
慌ててルグは話題を変えてくれた。
それで分かったのは、やっぱり此処が地下水道だったて事だ。
ルグがエドって人間の姿で仕事してる事や、『また、あいつ等に正体バレたら困る』って言葉。
そこから、ルグが今もローズ国で仕事してるって事は気づいたし、目が覚めて1番最初に感じた印象で此処が地下水道だって事も気づけた。
でも、前地下水道に入った時、こんな部屋がある場所、あったけ?
多分、無かったと思うけど・・・・・・
「前地下水道に入った時は、こんな部屋があるなんって気づかなかったな。
それに組織って・・・
もしかして、俺が帰った後に出来たのか?」
「いや、組織自体は60年位前からあるし、このアジトも数十年前からあるぞ。
ただ、冒険者達が出入りしてる普通の入り口からは此処に入れないんだ。
それなのにこの組織やアジトの事気づいたら、逆に驚くって!」
「確かに、そういう事なら組織の人に驚かれそうだな。
あ、もしかして普通の入り口の近くにある魔法道具屋の店主さん。
あの人もこの組織に関わってたりする?
それで、此処に入るには、魔法道具屋を通らないといけないとか・・・
後、どっかの井戸からも入れたり?」
「ッ!・・・・・・・・・・・・はぁ・・・大正解」
少しの間を置いて、観念した様に溜め息を吐いて。
それから困った様な顔でルグは正解だと言った。
普通の入り口以外の入り口って言われてパッと思いつくのは、伝説のビックダーネアから逃げる時に通ったあの枯れ井戸だ。
あの井戸はビックダーネアの巣と繋がっていた。
けど、地下水道と繋がってる井戸があれ1つとは限らないだろう?
もしかしたら、アーサーベルの周辺にある他の井戸も地下水道の何処かに繋がっているかも知れない。
そう考えれば、その内の1つがこの組織のアジトに繋がってても可笑しくないだろう?
後は魔法道具屋。
外から見た魔法道具屋の広さ的に空間結晶を使っていないなら、無音石のネックレスやヒュドラキスの鱗を取りに行った店の奥は、地下水道の壁の中にある事になる。
それで魔法道具屋みたいな小さな店の店主に裏の顔があるってのは、よくある展開だろう?
こう、秘密の合言葉を言うと、謎の組織が集まる店の奥の隠し部屋に案内してくれるとか。
そう言うの。
そう思って試しにルグに聞いたら正解だった。
「なんで兄弟そろってそこに気づくんだよ・・・
サトウもコンも魔法道具屋が入り口って直ぐ気づいちまうし、サトウは他の入り口も気づいちまうし~」
「まぁ、魔法道具屋の方は俺達の世界の物語でよくある展開だからな。
井戸の方は、ほら。
初めて地下水道に入った時、何処かの枯れ井戸から出たって言っただろ?
それで、他にもそう言う入り口があるんじゃないか?
って思ったんだ」
「・・・あぁ!そう言えば!!」
少し悩んでからルグは、俺の事情を説明した時に俺があの井戸から出た事を言ったのを思い出し、納得した様に頷いた。
その後ルグが教えてくれたけど、紺之助兄さんが魔法道具屋の入り口に気づいた時点でメテリスを使って魔法道具屋の奥にあるアジトの入り口は塞いでしまったらしい。
俺と紺之助兄さんが気づいたって事は、ナト達にも何時か気づかれるって事。
時間が掛かるからって事で詳しい事はまだ教えて貰ってないけど、この組織はナトや魔女達と敵対しているらしい。
だから敵の魔女達やその魔女達に騙されているナトと高橋にアジトがバレる訳にはいかないんだ。
だから、バレ易い入り口は消すようにしているらしい。
「と言う事で、詳しい事は長くなるからまた後話すとして。
後は・・・」
「あれから何年経ったか」
「あぁ、そうだった。
サトウが元の世界に帰って1年位だな。
正確に言えばー・・・1年と1ヵ月ちょっと位?」
「え!?まだ、そんだけ!!?」
まさか、まだ1年位しか経ってなかったなんって・・・
ルグの成長具合から少なくても2、3年は経ってるって思ってたから心底驚いた。
元々ケット・シーの姿でも普通の猫よりも大きくて、小さな小学生位の大きさはあった。
でも、さっき見たケット・シー姿は俺の肩位。
たぶん10cm以上は伸びたんじゃないか?
そう考えると、たった1年でルグはかなり身長が伸びた事になる。
ルグ、成長期だからって1年で成長しすぎじゃないか?
魔族って皆こんなに急成長するものなのか?
「ルグが大分デカクなってるから、もっと経ってると思ってた・・・・・・」
「えっ!本当!?オレ、そんなに身長伸びてる!?」
「伸びてる、伸びてる」
「よっしゃ!!」
目を輝かせて聞いてくるルグに背が伸びてる事を伝えたら、今にも躍り出しそうな程喜びだした。
誰を基準にしてるか分からないけど、やっぱ、背が低い事気にしてたんだなー。
ルグも俺達と同じならまだ成長期の途中だろうし、たぶんまだまだ伸びるんだろう。
もしかしたら、ケット・シーの姿でも俺を抜かす日が来るかもな。
俺もまだ身長伸びるはずだし、そうならないと思うけど。
・・・抜かされたら、ちょっと嫌だなー・・・・・・
「あ、そうだ!!
スズメがさ、他の部屋で寝てるんだ。
後で会いに行こうぜ!
後、後は・・・そう!
他にもサトウの知ってる奴、此処に居るんだ。
そいつ等にも、後何時間かしたら起きると思うからさ。
そしたら、サトウが起きたって言わないとな!」
「起きるって・・・今何時?」
「朝の4時位」
嬉しそうに興奮したままそう言うルグに、今が何時なのか聞く。
そして返ってきた予想外の時間に、思わず唖然としてしまった。
まさか、今がそんな朝早い時間だったとは・・・
大体の人は寝てる時間だろ?
俺、かなり騒いでたけど、他の部屋の人達、迷惑じゃなかったかな?
ロックバードが鍵を掛けてる様には見えないし、起こしちゃってたらどうしよう・・・
いや、その前にルグを起こしちゃってたんだよな。
「ご、ごめん、ルグ!起こしちゃって・・・・・・
大丈夫?まだ眠くない?」
「大丈夫!
眠気なんって、3日間眠りっぱなしだったサトウが漸く起きた衝撃で、どっかに全部吹っ飛んじまってるから平気だ!!」
「いや。それは平気とは言わないだろ・・・
って、3日?え?俺、また何日も気絶してたの?」
「うん、してた」
「うわぁああああ・・・・・・またかぁ・・・」
またかよ!!
クエイさんの所でお世話になった時よりは短いけど、3日って・・・・・・
俺、何日も眠りっぱなしの事多くないか?
「これじゃあ、ルグや紺之助兄さんに心配されても文句言えないよ・・・・・・
って、紺之助兄さん、こんな朝早くから人呼びに行ったんだよな!?
紺之助兄さんがその人叩き起こす前に、止めに行かないと!!」
「もう、遅いと思うぞー」
「え?」
誰かを呼びに飛び出した紺之助兄さんを止めようと、ベッドから慌てて抜け出した俺を、ルグがそう言って止める。
「遅いってどういう意味だ?」
と聞こうとした口を開きかけた瞬間。
部屋の戸が慌しく開けられ、紺之助兄さんに引っ張られながら誰かが入ってきた。




