11,サイカイ その2
「えーと、とりあえず・・・改めて。
久しぶり、ルグ。元気そうで、安心した」
「久しぶり、サトウ。うん、本当、久しぶりだ。
あの時、サトウが死んだと思ったから、兄貴連れて目の前に現れた時は、本当驚いたぞ?
無事って言っていいのか・・・うん、生きてて良かった」
「勝手に殺すなよ。
いや、あの時は俺も死んだと思ったけど。
『往復路の小さなお守り』の、聖女キビのお陰で何とか生きて元の世界に帰れたんだ」
魔女達に襲われて魔方陣に吸い込まれた時は、本当に死んだと思った。
でも、あの時サルーの町で聖女キビがくれた、『往復路の小さなお守り』のお陰で、こうして生きている。
まぁ、喋れなくなったし、魔女達に襲われて負った怪我はまだ治ってないけど。
「でも、良くオレだって気づいたな。
これでもサトウと一緒に居た時に会った奴等どころかあのコロナにも気づかない位、見た目も口調もかなり変えてるんだぞ?
サトウでも気づかない自信あったんだけどなぁ・・・・・・」
「そりゃあ、何度も腹に突撃されたら嫌でも気づくって。
どんなに見た目変えても、アレで絶対気づく。
それに、俺の表情の変化が分かる位一緒に居たこの世界の人って、かなり限られてくるだろ?」
「あー・・・それもそうか」
少し照れた様にも嬉しそうにも見える小さな笑みを浮かべ、左目を光らせ姿を変えるルグ。
光が収まったその場には、記憶の中よりも大きくなったケット・シー姿のルグが居た。
茶色い毛は完全に抜け落ちて、顔も幼い可愛さが抜け大人びた鋭さが出てきてる。
俺がこの世界から居なくなって、どの位の時間が経ったのか分からない。
けど、ルグがかなり成長する位の時間は経ってしまったみたいだ。
でも、ルグの変化はそれだけじゃない。
顔の左半分に痛々しい大怪我を負っていた。
それに、色と左目が光って姿が変わった事を考えると、ルグの左目は・・・・・・
「ッ!顔、大丈夫なのか?
『ヒール』掛けてもいいか?」
「ん?あぁ、大丈夫!
見た目は酷いけど、もう塞がってるから!」
「そう、なのか?痛みとかも、大丈夫なんだよな?」
「勿論!ユマ達が何とかしてくれたからな!!」
ルグは大丈夫って言うけど、そう思えない位ルグの怪我は酷かった。
確かに俺に心配されない様に痛みに耐えてるとか、そんな感じは全くしないけど。
でも、心配するなって言うのが無理な見た目をしてるんだ。
酷い火傷をしたみたいにグチャグチャで、右側と違って毛も生えていない。
見てる俺まで顔の左側が痛くなりそうな、そんな酷い状態だ。
でも、しつこく聞くのも、なんと言うか・・・
ルグに嫌な思いさせるかも知らないし、これ以上傷の事は聞かないでおこう。
「なら、いいけど・・・・・・
情報収集とか、そう言う仕事は今、休んでるんだよな?」
「いや。
リハビリも終わって、最近またやりだしたんだ。
だから、この姿なんだよ」
困った様に笑いながら振り返って、左目を中心に眼帯みたいな大きな布を着けてからエドの姿に戻ったルグ。
大怪我した今のルグの姿を知ってる人に気づかれない様にする為か、エドの姿の時は態々着けた布を消してるみたいだ。
起きた時に見たのと同じ、ルグ本来の姿の時あった痛々しい怪我の痕が1つも無い綺麗な顔でルグは残りの着替えを終えた。
「後、オレの正体や仕事については秘密な?
ほら、何処で誰が聞いてるか分からないだろ?
それで、あの時正体バレて、苦戦した訳だしさ」
「ごめん、ルグ。
ルグ達の正体バレたの俺が原因なんだ・・・・・・」
「・・・・・・どう言う事だ?」
「ギルドの職員の中にローズ姫達側のスパイが居て、それなのに俺、全然気づかなくて・・・
そのスパイが聞いてる所でお世話になった職員さんに明日元の世界に帰るって言っちゃたんだ」
数秒心底驚いた様な顔で固まっていたルグが、ドンドン険しい表情に変わりながら短い一言に色んな感情を乗せながら聞いてくる。
罪悪感からその表情を見ていられなくて、俺は自分の足元を見ながら詰まりそうになる言葉を何とか吐き出した。
俺達が受けた依頼の依頼書が盗まれていた事も、ユマさんの正体までバレた事も、ユマさんに依頼書を改造して貰ってた事も。
あの時聞いた事全部、どうにか伝えた。
「それで・・・それで・・・・・・」
「落ち着けよ、サトウ。
別にサトウのせいじゃないだろう?
此処がオレ達にとっての敵地で、何処にあいつ等の仲間が居ても可笑しくないって分かってたのに、何処かで油断してたオレにも原因があるんだ。
だから、そんなに気にするなよ!」
「でも・・・・・・いや、ごめん。
そう言って貰って楽になった。ありがとう、ルグ」
それでも俺が悪いって言おうとして、顔を上げて見えたルグの姿にその言葉を飲み込んだ。
怒りか悔しさか。
血が出る程強く握りしめた手と、今にも爆発しそうな感情を無理矢理押し込んだ様な笑顔。
その奥には、俺を気遣ってくれてる様な不安そうで優しい目があった。
それを見たら、これ以上の自分を責める言葉は逆にルグを苦しめるだけの様な気がしたんだ。
「・・・どういたしまして。
それに、手、治してくれてありがとうな」
「・・・・・・いや。俺が話した事が原因たからさ。気にしないで」
「それでも、ありがとうな、サトウ。
それで、まぁ・・・そう言う訳だから、さ。
またあいつ等に正体バレたら困るから、コロナ達にも色々秘密にしてるんだ。
だからサトウも何か気づいても、黙っててくれると嬉しいな?」
「そういう事なら、任せて。
今度こそ油断しないよう気をつけるよ」
爪が深く食い込んだルグの手に何度も『ヒール』を掛けながら俺はルグの頼みに頷いた。
俺だって俺の油断が原因でまた、ルグ達が危険な目に合う様な事したくないんだ。
自信を持って絶対大丈夫って言えないけど、今まで以上に慎重に、自分の言葉や態度に気をつけなきゃな。
「それで、えっと・・・
ルグの仕事が終わるまでは、エドって呼べばいい?」
「あぁ!
今のオレは『モリーノ村から逃げてきた冒険者志願のエド』って事になってるから。
サトウとは、あのウィルオウィスプの事件で知り合ったって設定で通してる」
「『モリーノ村から逃げてきた』?」
「あー、うん。えーと、な?
サトウが居なくなってから色々あってな?
説明するのは・・・
時間かかるからまた後でで良いか?」
「・・・・・・分かった」
ルグのその設定には、紺之助兄さんや紺之助兄さんが連れて来ようとしてる人に聞かれたら困る事が含まれてるんだろう。
それにルグのその表情的に多分、その時間の掛かる事情には魔女や高橋達が関わってるんだと思う。
此処で目を覚ます前の、元の世界で少しだけ見た。
俺を守ってくれた紺之助兄さんの体の隙間からチラリと見えた、魔女達に『勇者』と呼ばれていた高橋の姿を思い出す。
ゾンビとはたぶん違う方法で魔女に操られてるらしい高橋。
もし、同じ状態ならナトも・・・
魔女達が言う『勇者』として利用されているなら、きっとルグやユマさん達魔族を『悪い存在』だと刷り込まされてるはずだ。
それで高橋は、ルグ達を襲ったのかも・・・
そのせいで、ルグはこんな酷い怪我を・・・・・・
頭ではそこまで理解してしまっているけど、今の俺にはその事実を受け入れる勇気がどうしてもわかなかった。
だから俺は、少しでも時間を稼ぎたくて。
ただ、ただ、ルグに頷き返す事しか出来なかったんだ。




