7,コンティニューしますか? Ver.7
「木場!」
「タクッ!!何でお前、此処に・・・」
「百瀬さんから、ラインがあったんだ。
最近、お前の様子が可笑しいって。
蓮也の事件を調べてくれる様になってから、何か隠してるようになったって・・・それで・・・」
「あー・・・海里かぁ・・・
上手く隠せてたと思ったんだけどな。バレてたんだ」
「なんで・・・なんで教えてくれなかったんだ!!
蓮也があの時の俺達と同じ目に遭っているって!
犯人があいつ等だって!!」
「・・・・・・確信が無かった。
模倣犯の可能性もあったし、無駄に期待させたり不安にさせたくなかったんだ。
だから、まずは俺だけで調べよと思って・・・
悪かった」
俺の家に近い公園の入り口に止まった車の助手席から出てきた男性が木場さんを呼ぶ。
木場さんの様子と高橋にそっくりな顔をしている事から、その男性が高橋のお父さんだと言う事が分かった。
その高橋のお父さんの後から、続々と高橋の家族が降りてくる。
運転していた高橋のお母さんに、後部席から1番最初に降りた妹ちゃん。
妹ちゃんの少し後に反対側のドアから、お婆さんを気遣いつつお爺さんが降りてくる。
「佐藤 貴弥君と、その家族の方ですよね?
はじめまして、蓮也の母です。
何時も蓮也がお世話になっています」
「いえ、此方こそ息子がお世話になっています」
木場さんと話している高橋のお父さんを除いた、高橋の家族が側に来て挨拶してくる。
それに父さんが答えて、俺も隣で頭を下げた。
『高橋をまきこんで
もうしわけありません』
「ッ!」
「・・・・・・悪いのは、犯人達だ。
気にしちゃあ、いけないよ。
君だけでも無事で、良かった」
顔を上げ書いた文字を読んで、高橋のお母さんの目が見開かれる。
血が出そうな程唇を強く噛んで、涙の浮かんだ目で睨む様に俺を見て、何かに耐える高橋のお母さん。
そんな高橋のお母さんに代わって、同じ様に耐える様に言葉を詰まらせながら、高橋のお爺さんがそう言ってくれた。
きっと、本当は、
「何で蓮也じゃなくて、お前なんかが助かったんだ!!
何でお前だけ家族のもとに帰れたんだ!!!」
って、
「蓮也をかえせ!!!」
って、2人共言いたかったんだと思う。
俺に掴みかかって叫びたかったはずだ。
でも、その言葉を飲み込んでくれた。
俺も被害者の1人だから?
でも、そんなの高橋の家族には関係なだろ?
大切な家族を奪った事を誰かにぶつけたかったはずなんだ。
今までお互いに居る何って知りもしなかった高橋の家族にとって、運よく1人だけ助かった俺何って、犯人達と同じ位憎い存在だろ。
それでも、その思いをぶつけて来なかったのは、高橋の家族が優しいからなんだろうな。
「母さん。
警察の邪魔にならない様に、此処を離れる事になった。
車、出せるか?」
「・・・・・・えぇ。えぇ、大丈夫。
少し待っていて」
俺達と同じ様に刑事さん達に、此処を離れるように言われたんだろう。
木場さんと一緒に戻ってきた高橋のお父さんが軽く俺達と挨拶して、高橋のお母さんにそう言った。
グッと色んなものを飲み込んで高橋のお母さんは頷く。
「・・・おにぃちゃん、まだ帰ってこないの?」
「うん。もう少しだけ待ってね、優月」
「・・・・・・・・・ここに来たら、おにぃちゃんに会えるって言ったじゃん・・・・・・
ここで待ってちゃダメなの?」
「ごめんなぁ、ユヅちゃん。
此処におじちゃん達が居ると、お巡りさん達がお兄ちゃん達を助けられないから、ダメなんだ。
いい子のユヅちゃんなら分かってくれるよね?」
「・・・・・・うん・・・分かった・・・」
不安そうにギュッと服の袖を握って、今にも泣きそうな顔で高橋の妹ちゃんが高橋のお父さんにそう尋ねる。
妹ちゃんも叔母さんと同じで、此処でナトと高橋の帰りを待ちたかったんだ。
俺もそうだから、1分1秒でも早く、ナト達に会いたいって気持ちは分かる。
でも、2人が無事に帰ってくる為には、その思いは耐えないといけないんだ。
大人の叔母さんでも抑えられなかったそんな辛い願いに、小学生位の女の子が抑えられるのか?
そう少し不安になっていたけど、大丈夫そうだな。
高橋のお父さんと木場さんが優しく諭して、妹ちゃんも納得してくれたみたいだ。
「それなら、家に上がってくだい。
私達の家はあそこなので、一緒に息子さんが帰ってくるの待ちませんか?」
「いいんですか?」
「えぇ、どうぞ」
そんな高橋の家族に、父さんがそう提案した。
もう直ぐナト達が帰ってくるなら、直ぐ近くで待ちたいって気持ちはここに居る誰もが持っている。
だからこその提案だったんだろう。
高橋の家族はその案に快く乗ってくれた。
「あ、貴弥君!ごめんね、忘れる所だった」
高橋の家族と一緒に今度こそ家に帰ろうとしたいたら、なぜか少し慌てた様子の上条刑事に呼び止められた。
それで渡されたのは、証拠品として回収されていた俺のスマホと、菊の様な花に埋もれた口裂け女の死体が表紙に書かれた1冊のハードカバー。
俺が忘れて、あの日俺とナトが学校に行く原因になった本だ。
帰ってくるのはもう少し先だと思ってたけど、意外と早く帰ってきたな。
「たぶん大丈夫だと思うけど、一応中、確認して貰える?」
そう言ってくる上条刑事に頷き、スマホの電源を入れる。
何処も可笑しくない、いつも通りの使い慣れたスマホ。
壁紙もいつも通りだし、入ってるアプリだって特に変な所はーーー
「ッ!!!?」
あった。
おかしな所が、あった。
事件前には絶対無かったアプリが入っている。
そのアプリの名前は、『教えて!キビ君』。
あの夢の世界で手に入れたアプリだ。
嘘だろ?
こんな・・・冗談だよな?
なんでこのアプリが・・・
あれは・・・
あの世界は、夢じゃなかったのか?
俺の頭が作り出した、ただの物語だろ?
まさか、夢じゃなくて、本当の本当に俺が体験した『現実』だったのか?
そんな・・・そんな事・・・・・・
ありえるのか?
異世界が本当に存在するのか?
まさか、これも、夢、なのか?
いや、どっちも現実?
それとも、このアプリは頭の可笑しくなった俺が見てる幻覚なのか?
でも、あの世界が夢じゃなくて、現実だったら・・・
ナト達は今、あの世界に・・・・・・
「貴弥君?何かおかしな所あったの?」
『ふえてます
じけんあう前なかったアプリ入てる』
夢だと思っていた世界が現実に存在する事を証明する様に、あの世界で初めて見た時と同じ場所に置かれてるアプリ。
夢の中の出来事なら、『教えて!キビ君』なんってふざけた名前のアプリは俺のスマホに入っていないはずだ。
それなのに、入っていた。
普通に俺の声が出ていたら、きっと近所迷惑な大絶叫を響かせていただろう。
その位驚いた俺は、気がつくと音のしない口を外れそうな程開けていた。
その事に気づいた上条刑事が、不安そうに聞いてくる。
そんな上条刑事の声に弾かれた俺は、急いでホワイドボードにアプリが増えた事を書いて伝えた。
「え?どれ?」
『右下はしキミドリ』
「この、『教えて!キビ君』ってアプリ?」
差し出したスマホを覗きながら尋ねてくる上条刑事に、首が取れそうな程激しく何度も頷いた。
上条刑事も見えているって事は、俺の頭や目が可笑しくなった訳じゃない。
今居るこの場面自体が夢じゃないなら、このアプリは現実に存在するって事だ。
その事に気づいて俺の頭はまた混乱しだした。




