5,コンティニューしますか? Ver.5
「あ、居た居た。こんにちは。
突然すみません、今お時間大丈夫ですか?」
予定通り家族全員で三八野神社でお参りしていると、後ろから聞き覚えのある声が掛かってきた。
目を開いて、合わせていた手を離して。
振り返れば、40代位の作り笑いを浮かべた男性。
一方的にだけど、その男性の事は知っている。
ナトの家のお得意さんでもある、25年前の事件の遺族の方の1人だ。
男性は覚えてるか分からないけど、毎年のお参りの時に目が合ったら挨拶してるし、ナトの家でバイトしてる時にお客さんとして来てくれた時は何度か俺が会計してたりする。
「こんにちは、木場さん。珍しいですね。
今日もお参りですか?それとも店の事で何か?」
「いえ、いえ。
今日はお参りに来た訳でも、田中さんの所に用があった訳でもないんですよ」
名前がすんなり出てくる位のお得意さんだからか、真っ先に叔父さんがその男性、木場さんに返事をする。
『居た』と言って俺達に声をかけて来たって事は、お参りに来た訳じゃないんだろう。
今年は俺達の巻き込まれた事件のせいで、毎年のお参りの日に木場さんに会っていない。
それは叔父さん達も同じはず。
だから、工事が無事に終わっているのに、再開予定日を過ぎても田中酒店が開いてない理由を木場さんは知らないんだ。
偶然この近くに用事があったからついでに聞きに来てくれたのか、それとも俺達の巻き込まれた事件のニュースを見て態々様子を見に来てくれたのか。
それは分からないけど、何時店を開くのか聞きたくて木場さんは俺達に声をかけた。
そう思っていたし、叔父さん達もそう思っただろう。
でも、違った。
「今日は、仕事で貴弥君の話を聞きに来たんです」
「仕事で、息子に、ですか?
あのすみませんが、お仕事は一体何を・・・」
「あぁ、すみません。
実は私、普段こう言う仕事をしていましてね」
木場さんが用があったのは、まさかの俺。
この時期に俺の話が聞きたいって、警察かマスコミ関係って事だよな。
服装や雰囲気的に、たぶんマスコミ関係の方だと思う。
だからこそ、少し警戒気味に父さんは木場さんの職業を聞いた。
そして、木場さんが渡してきた名刺。
「・・・・・・オカルト雑誌の記者さんが、息子に何の用ですか」
『木場 太郎』って名前と、ナトが愛読してるオカルト雑誌の名前。
それだけしか書かれてないシンプルな名刺を見て木場さんがオカルト雑誌の記者って事は分かった。
けど、何で木場さんは俺の話を聞きに来たんだ?
扱ってるジャンルが違うだろう。
俺達が巻き込まれた事件は、呪いだの都市伝説だの全く関わってないはずだぞ?
「貴弥君が話してくれた、異世界に行ったって言う夢の話。
その話を詳しく聞きに来たんです」
「なんでそれを・・・・・・」
「この業界で働いていると、色々面白い話が入ってくるんですよ。
最新の都市伝説や、まだまだ無名な心霊スポット。
それに・・・危険なカルト宗教なんかの情報もね」
『危険なカルト宗教なんかの情報も』と言った瞬間。
木場さんから作り笑いが消え、怖い程真剣な表情が現れる。
その言葉で、木場さんがなんでこの道に進んだのか分かってしまった。
木場さんはまだ追ってるんだ。
まだ見つかってない、25年前の犯人達のアジトや残りの被害者達を。
『俺が見た夢はオカルト的なおもしろさはないですし、
矢野高校の事件とも関係ありません』
「いいや、ある。
25年前の事件と、その犯人達と関係ある。
かも知れないんだ」
木場さんが凄い覚悟でこの道に進んで、その目標の為に何が何でもオカルト記者として食い繋いでいかないといけない。
と言う事は何となく分かった。
でも俺は、例え俺の頭が作り出しただけの夢だったとしても、あの世界の事を誰かの暇つぶしのネタにされたくないんだ。
だからそうホワイトボードに書いて断ろうとした。
でも木場さんは、真剣な表情のままそれを否定する。
「どう言う・・・事ですか・・・?」
「私が聞いた、貴弥君の夢の話。
その中の幾つかの単語に聞き覚えがあるんです。
佐藤さんは覚えていないかも知れませんが、25年前、私も貴方達に助けられた1人なんです」
「・・・あッ!
もしかして、ナイフを持たされてた!!」
「あ、思い出してくれたんですね。
そうです。あの時は本当にありがとうございました」
ハッとした様に呟いた父さんの言葉を聞いて、深々と頭を下げる木場さん。
まさか木場さんが遺族の方じゃなくて、被害者本人だったとは・・・
ずっと遺族の方の1人だと思ってたから少し驚いた。
犯人達に襲われた場所だから、被害者の方達はもう三八野神社には近づきたくないだろう。
と思ってたけど、そうじゃない人も居るんだな。
「貴弥君が見た夢に出てきたものの中には、私達が捕まっている間、犯人達が言っていた言葉と一致するものがあったんです。
それに今回の被害者である貴弥君達3人には、ある共通点がある」
「同じ学校の生徒、と言う以外にですか?」
「えぇ。それ以外にもう幾つかあるんですよ。
タク・・・
高橋 蓮也君の父親も、私と同じあの事件の被害者の1人なんです」
「つまり、25年前の誘拐事件に少なからずとも関わりを持ってしまった親を持つ。
あの事件の被害者達と同じ15か16の子供。
それが、1つ目の共通点です」
ニュースでは教えてくれなかった、俺達3人の意外過ぎる繋がり。
その事に驚いていると、もう1つの俺達の共通点を言いながら親子ほど年の離れたスーツ姿の男女が、本殿の脇に並んで建てられた配神達を祭る祠の直ぐ後ろ。
俺の家との間の道路の神社側の脇に止めた車から降りてきた。
共通点を言ったのが見覚えのある50代後半位の男性で、運転席から降りてきたのが20代位の若い女性。
乗っていた車が普通の軽自動車だったから最初は気づかなかったけど、サッと出して見せてきた手帳からその2人が警察だと言う事が分かった。
車に乗っていたのはその2人だけで、今まで俺の事情聴取をしていた、この事件の担当らしい刑事さんは一緒じゃないみたいだ。
 




