4,コンティニューしますか? Ver.4
トン、トン
「はい、どうぞ。入って大丈夫よ」
『おはよう』
「おはよう、貴弥」
「おはよう」
今日、まだ会ってないからと、12時少し前位に昼飯を作る父さんから、母さん達の様子を見てくるよう頼まれた。
それで、廊下側から母さん達が居る下座敷に行けば、微かに誰かの声が聞こえてくる。
たぶん、母さんと叔父さんかな?
間違いなく誰か起きてる事が分かって障子戸の枠を軽く叩くと、中から母さんの声が返ってきた。
ホワイドボードを見せながら戸を開ければ、予想通り起きていた母さんと叔父さんが返事を返してくれる。
戸を開けてまず目に入ったのは、思っていたよりも直ぐ近くで開かれたアルバムを挟んで向かい合った形で座り、俺の方を見る母さんと叔父さんの姿。
アルバムの左上には、小1の頃かな?
色違いで同じ模様の浴衣姿で並んだ小さな俺とナト。
その後ろに並んだ、俺達も通ってた小学校の名前が刻まれたTシャツを着て、2本のバチを握った兄さん達の写真が貼られていた。
頭の横にお面を着けてボーっとした顔して大きいりんご飴を齧ってる俺以外、ナトも兄さん達も当時やっていたらしい戦隊物のお面を着けて決めポーズをしてる。
背景の場所と兄さん達の格好的に、街の中心辺りで毎年8月の第1土曜日に行われてる県内最大級の夏祭りに行った時の写真かな。
開かれてるページに貼られてる写真は全部のその時の写真で、下には兄さん達2人だけが写った写真が貼られている。
隣のページに貼られた2枚の写真は、どっちも俺とナトしか写ってない。
上の写真には嬉しそうに俺の腕を引っ張るナトと、自分で言うのもアレだけどボーっとし過ぎな顔のままりんご飴を食べ続ける俺が。
下には相変わらずりんご飴を齧る俺と、涙目で不機嫌そうなナトが手を繋いで並ぶ写真が貼られている。
「貴弥も見る?」
そう言って母さんが側に置いてあったアルバムの1つを渡してくる。
それを受け取って、パラパラと捲っていると、あるページで目が留まった。
『きび』と書かれた付箋と一緒に貼られたエコー写真と、涙に濡れた顔を無理矢理笑顔に変えた母さん。
そんな母さんが、顔を綺麗に整えた生まれたての赤ん坊を大事そうに抱いてる写真。
その隣には、
『1人で歩けるようになりました!!』
って付箋と一緒にフラフラ歩いてるらしい大助兄さんと、その後ろでフェルトで出来た積み木で遊ぶ紺之助兄さんの写真なんかが貼られている。
そのページで数秒止まった手をまた直ぐに動かして、残りのページも最後までザッと見た俺はアルバムを閉じて母さん達を見た。
「楓ちゃんが元気になるかなって、昨日からアルバム見てたの。
フフ。懐かしいわね」
「あぁ、そうだね。
この時、湊と一緒に迷子になったんだよなぁ」
母さん達の後ろでアルバムと布団に埋もれて、泣きながら眠る叔母さん。
そんな叔母さんを優しそうな顔で見つめて、母さんは懐かしいと言う。
1度母さんと同じ表情で叔母さんを見つめた叔父さんも懐かしそうに頷いてから、
「キィ君は覚えてるかな?」
と、俺を見上げなおして聞いてきた。
残念ながら覚えてないし、アルバムを見ても思い出せない。
「そっか。覚えてないか。
湊がキィ君をドンドン引っ張って、2人だけで先行っちゃうからはぐれたんだよ?
その後、キィ君が湊連れて帰ってきて」
『今も、そんな感じです』
「そうね。昔からそうだった。
ミィ君が貴弥を連れ出して、貴弥がミィ君を連れ帰ってくる」
『ナト、ほうこうオンチだから』
今はスマホがあるから大分マシだけど、ナトはかなりの方向音痴だ。
地図アプリが導いてくれる内はいいけど、地図アプリが表示しない建物の中とかだと高確率で迷子になってるんだよな。
スロースターターらしい俺をナトが引っ張って、迷子になりやすいナトを俺が連れて帰る。
気づいた時には、そう言う感じになっていた。
でも、今回は迎えに行けない。
今までの経験から怪我をしていても、風邪を引いていても、ナトが何処で迷子になってるか大体分かったけど、今回は違う。
誰かに連れ去られたナトの居場所が全く分からない。
ただ、忘れ物を取りに行っただけなのに・・・
どうしてこうなったんだ!?
頼むから、俺が迎えに行けない場所にナトを連れてかないでくれよ!!
『ごめんなさい』
「謝らないで、貴弥。
貴弥のせいでも、楓ちゃんのせいでもない。
悪いのはミィ君達を連れて行った犯人達何だから」
「そうだよ。そんなに、自分を責めちゃダメだ」
いつも通りナトを連れ帰れなかった罪悪感と、そもそも俺が本を忘れなかったらこんな事にならなかったって罪悪感。
ここ最近、ずっと感じてる思いが圧し掛かってくる。
母さんも叔父さんもそう言ってくれるけど、俺は俺自身を許せそうになかった。
後悔と罪悪感だけがドンドン積もっていく。
どうして、あの時ちゃんと確認しなかったんだ?
どうして、俺は何も覚えてないんだ?
どうして、俺だけ助かったんだよ!!
どうして、俺だけ・・・・・・
そう思うのに、母さん達も、ナトを奪われた叔父さん達も、俺に優しいんだ。
それが、逆に辛い。
自分が許せないはずなのに、その優しさに甘えてる自覚もあるから、やっぱり自分が許せなくなって・・・
いっそうの事、激しく責められた方が楽に慣れるのかな?
って思って、楽な方に逃げようとしてるのは、俺が弱くて卑怯な人間だからなんだろう。
本当、自分が嫌になる。
『父さんがお昼作ってくれた
それと、食べたらおまいり行くって
来れる?』
「あ、そうだったの。貴弥達はもう、食べた?」
『まだ』
「それなら、楓ちゃん起こして直ぐリビングの方に行くね。
そうお父さんに伝えてくれる?」
『つかれてるならムリに起こさなくていい』
「大丈夫だよ。
叔母ちゃんもお腹空く頃だから、そろそろ起きると思うよ」
「・・・・・・実は、もう起きてたりするんだよねー」
そんな重くなる気持ちを忘れたくて、アルバムを返しつつここに来た理由である父さんの伝言を伝える。
ホワイドボードに書いた文字を読んだ母さん達に、無理に叔母さん起こさなくていいと伝えると、その叔母さんが起き出した。
俺達が気づかなかっただけで、少し前から起きていたみたいだ。
俺達の話し声で起こしちゃったかな?
『おはようございます
だいじょうぶですか?』
「おはよう、キビ君。
今日は確り寝れたから、大丈夫よ」
『なら、よかったです
ムリしないでください』
「それを言われるのはキビ君の方でしょ?
キビ君こそ、無理しちゃダメよ?」
体を伸ばしながらそう言う叔母さんに大丈夫だと伝えながら頷き返し、母さん達とももう少しだけ話して俺は部屋を出た。
昨日より少し叔母さん達の顔色は良かったけど、やっぱり普段に比べて悪い事には変わりない。
その事も父さんに伝えよう。




