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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 2 章 コンティニュー編
232/498

2,コンティニューしますか? Ver.2


「チラシ、今日も配ってきたけど・・・・・・

多分・・・」

「そうか・・・・・・」

「警察からは?」

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・そっ・・・か・・・・・・

警察の方でも、何も進展は無かったんだね・・・・・・」

「ックショウ!!!

本当、湊の奴何処いちまったんだよ!!!」


聞こえて来たのは父さんと、東京から戻って来た大助兄さんと紺之助兄さんの声。

普段なら聞けない様な真剣な3人の声に、戸を開ける手が止まる。

大助兄さんが悔しそうに叫ぶと共に机を叩いたのか、ダンッと言う大きな音と食器のぶつかる音が聞こえた。


丁度2週間前の夏休み初日のあの日。

俺と一緒に学校に忘れ物をとりに行ったナトが、行方不明になった。

警察伝に聞いた最後にナトを見たらしい用務員さんの話では、ナトは書類を書いた後そのまま忘れ物を取りに行った俺を職員玄関で待っていたそうだ。

職員玄関から俺達の教室までは、どんなに遅くても往復で10分も掛からない。

昇降口のロッカーで上履き用のスニーカーに履き替えて、購買前の自販機でお茶を買って。

そういう寄り道してから本を探しても、普通なら30分も掛からないはず。

けど俺は1時間近く経っても帰って来なかったそうだ。

その事を不審に思ってナトは俺を迎えに行って、それっきり行方が分からない。


「もう、2週間は経つんだ。

それなのに犯人からの連絡すらない。

だからか、警察の中には湊達が家出したって思っている人も居るみたいで・・・

このまま進展が無いようなら近いうちに捜査本部を解体する話しになっているらしい」

「嘘だろ?

あんな状況で家出のはずがいだろ!!!?

あんな、あんな・・・」


大助兄さんの怒鳴り声に紛れ、ガッタン!と勢いよく椅子が倒れる音がした。

発見時の状況と酷い怪我のせいでほんの数日前まで入院していた俺の代わりに、戻ってきてから毎日遅くまで大助兄さんと紺之助兄さんがナトを探し回っていてくてるのは知っている。

父さんも叔父さんも、警察だってそうだ。

思いつく限りの色んな方法でナト達を探してくれている。


「落ち着け、大助。お前が焦るのも、良く分かるよ。

けど、父さんに当たるのは筋違いだろ」

「紺之助・・・・・・

ごめん・・・親父も、ごめん・・・・・・」


椅子を直しているんだろう紺之助兄さんのたしなめる声に、大助兄さんが初めて聞く様な酷く弱々しい声で答えた。

その大助兄さんの謝る声に応える父さんの声も、かなり疲れているのが分かる弱々しいものだ。


「気にするな。

湊達の情報は何一つ入ってこないんだ。

イライラするのもしかたないさ」

「・・・・・・うん・・・でも、ごめん・・・」

「・・・・・・警察だって本当は分かってるはずだ。

貴弥も湊も、何かの凶悪な事件に巻き込まれたって。

貴弥が明らかに誰かにリンチされて死に掛けた状態で見つかって、一緒に居た湊が家出する理由もないのに突然消えて」

「それに・・・・・・

それに、湊や貴弥が向かったはずの貴弥の教室には、誰だか分からない死体があったんだ」


事件が発覚したのは、ナトが俺の教室に向かって数十分後。

午前9時位に集まった剣道部員達が剣道場の倉庫で、手足を縛られ血だらけでグッタリしている俺を発見してくれたからだ。

そして俺達の教室の入り口には、未だに身元の分からない。

死体を見慣れた警察関係者でも吐く程、相当悲惨な死体があったそうだ。


警察もそこまで教えてくれなかったし、少し前まで連日報道されてたニュースでもその死体の事は詳しく語っていなかったから、当事者である俺達も詳しくは分からない。

けど、警察では俺達がその死体と犯人を見たせいでこんな事になったんじゃないか、と考えているそうだ。

ただ、警察関係者以外詳しく分からない死体の容姿から、俺が殺人の瞬間を見た可能性は低いらしい。

でも死体が合った教室の目の前の廊下に俺のスマホが落ちていた事や、発見された時の俺の姿から、俺が死体を見た可能性はかなり高いそうだ。


極々普通に生活していたら見ないはずの死体を見た俺は、恐らく証拠隠滅の為に別の場所に居た犯人に悲鳴を上げる前に後ろから頭を強く殴られ気絶した。

後ろから殴られって言うのは、俺の頭にそう言う痕が残っていたから。

そして俺を心配して来たナトと、俺が発見された剣道場に1番最初に来ていた可能性が高くて、ナトが居なくなった日から同じく行方不明の高橋もその犯人に捕まった。


ナトも高橋も俺と同じ様に犯人に。

いや、俺の怪我や現場の様子から見て犯人は複数居たらしいから、犯人グループにリンチされたのかも知れない。

その時剣道部員達がやってきて犯人達は慌てて自分達の姿を見たナトと高橋を連れて逃走。

俺はリンチされている時に意識を失い、慌てていた犯人に死んだと思われ置いていかれた。

そのお陰で俺は一命を取り止め、助かったんだそうだ。


それが父さんが警察から聞いた話と、ニュースで言われている事を合わせた犯人の行動の流れ。

俺が事件のショックでナトと職員室玄関で別れた後の記憶をほとんど失っているから、本当にそうだったのか分からないけど。


いや、ナトと別れて教室に着いた後の記憶は。

あの世界での記憶は、今も鮮明に覚えている。


でも、父さん達大人も、兄さん達も、警察も。

皆、皆、その記憶が死体を見て犯人襲われた俺が見た夢か幻覚だと言っていた。


そう。

そうなんだよな。

異世界なんって。

異世界に召喚なんって、現実にある訳がない。

普通に考えてある訳がない、ゲームや漫画の中だけの出来事。


あれは、あの世界の事は、大人達が言う様にありえない現実から逃げる為に、俺の頭が作り出した物だ。


ルグもユマさんも、


2人とした約束も、


魔女達の事も。


全部、全部、俺の頭の中だけの出来事。

剣道部員に見つけて貰って、救急車で運ばれ病院で目を覚ますまで見ていた、長い長い夢なんだ。

その証拠に、あの世界で変わってしまったはずの俺の体には元に戻っている。

あの緑の手の様な葉っぱの痣は無いし、髪も目も日本人らしい黒色のままだ。

少し前に髪を切ったはずなのに、数ヶ月経ったみたいに伸びているような気がするのも、きっと俺の気のせいなんだろう。


そう、あの世界を夢だと思いたくなかった俺の気のせいだったんだ。


俺も大分混乱していたからかな。

病院で目を覚まして暫くの間は、あの世界で生きた約3ヵ月間の出来事が夢だったなんって信じられなかった。

でも今は少し落ち着いてきて、あの世界の全てが夢だったと、受け入れられている。

受け入れられてる、はずなんだ。


「ただ、貴弥の事と湊の行方が分からない事は、別の事件なんじゃないかっと言う話が出ているんだ」

「そんな訳・・・・・・」

「・・・・・・・・・まだ・・・

まだ、湊達が無事に生きているなら・・・

そっちの方が・・・・・・

貴弥の様子を見るにもう・・・・・・」


痛い沈黙が薄いドア1枚隔てた向こうから流れてくる。

剣道部員達が来るのがもう少し遅かったら、俺は間違いなく死んでいた。

そう、犯人達は最初から目撃者である俺達を生かすつもりなんってなかったんだ。

それを考えると、2週間も経ってしまった今。

ナト達が生きてる可能性は、絶望的に低い、のだろう。

今ナト達が見つかっても、それはとっくの昔に冷たくなった姿なのかもしれない。

もし生きていてくれても、五体満足とは限らないんだ。

俺の様に、中々治らない深い傷を負ってるかもしれない。

そう思うと・・・・・・


「貴弥?」


ドアの上半分にはまったすりガラス越しに、俺の存在に気づいた紺之助兄さんが声を掛けてくる。

結果的に盗み聞きするみたいなったからか、その声に俺の肩がビックっと跳ね上がったのが分かった。

戸惑いを隠くす為に1度深呼吸してから、ホワイドボードに文字を書いてドアを開ける。


『おはよう

あと、おかえり』


そう書かれたホワイドボードを父さん達に見せた。

そんな俺に一瞬悲しそうに顔を歪めた父さん達が、あいさつを返してくれる。


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