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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
223/498

82,ネイの独白 中編

今回も、ネイことコロナさん視点で進みます。


「勇者様!!」

「高橋!!何があった!!?」


ジリジリと緊迫した空気が私と赤いのの間に流れる。

心臓は貫けなくてまた復活されても、もう1度燃やし尽くす気の私と、私の首を狙う赤いの。

私も赤いのも、お互い相手を殺す気で睨み合っているのに、その殺意をぶつける為に動こうとしない。


たぶん、お互い気づいているんだ。

一瞬。

たった一瞬出遅れただけで、勝者が誰か決まると。


そう思って緊迫した召喚の間に、大きな声と音をたてながら何人もの人間が雪崩れ込んで来た。


「えっ!?田中!!?

何でお前、2人居るんだよ!!!?」

「2人?・・・ッ!!?

バルログと、青い勇者様!!?」


ローズ国王女と一緒に、助手、兵士、そしてもう1人青いのが入ってきた。

青いのが2人いる事に赤いのもローズ国王女達も驚いて、意識が戦いからそれる。

そんな最高の隙、アイツが逃すはず無いだろう?


「『ウィンド』」

「ガッ!!」

「イ、ッ!!」


赤いのの後ろに居た青いの。

いや、変化石を使って青いのに化けたグランマルニが、『ウィンド』の呪文を唱える。

魔法によって生まれたその風に捕らわれ、赤いの達全員が入り口から1番遠い召還の間の奥の壁に叩きつけられた。

突然の事だから、まともに受身も取れなかったのだろう。

激しく叩きつけられた衝撃に咳き込み、痛みにうずくまる赤いの達。

あの勢いで壁に叩き付けられても、死なないどころか誰も気絶しなかったのは、素直にすごいと思う。


「『グランド』」

「フンッ!」

「ア、『アサイラム』!」

「『キャンセル』、『アサイラム』」


赤いの達と入れ替わるように、入り口の方に向かう。

2人足りないが、殺したい奴等が集まってるんだ。

これ以上ここに人間が増えても困るし、赤いの達が逃げても困る。

だからグランマルニは青いのの魔法を使って入り口を塞いだ。

空気を入れる為の小さな隙間を残して、分厚い金属で覆われた入り口。

それを横目に見つつ、未だ起き上がりきらない赤いの達に向かって右腕に力を込めて炎を放つ。

その炎から身を守ろうと青いのが『アサイラム』を張ろうとするが、直ぐにグランマルニが『キャンセル』の呪文を唱えて消してしまった。


「ッ!『スラッシュ』!!!」

「『キャン


「『ウォーター』!!」


だけど、私の炎は赤いの達に届く前に、赤いのが放った『スラッシュ』が打ち消してしまった。

その上、私の炎を消しても『スラッシュ』は少し威力が弱まっただけで全く止まる気配がない。

だからグランマルニが『スラッシュ』を消そうと『キャンセル』の呪文を唱えようとしたけど、その前に青いのが『ウォーター』を放ってきた。


「ッ!『アサイラム』!!」


『ウォーター』と『スラッシュ』を同時に止める為に、グランマルニは咄嗟に『アサイラム』の呪文を唱える。

『水のオーブ』の効果で強化された『ウォーター』はかなり高威力で、もう1度放った私の炎を一瞬で消してしまった。

その上私の炎がぶつかっても『ウォーター』の威力は全く衰えず。

グランマルニが『アサイラム』で防ぐ以外、赤いの達の攻撃を同時に止める方法が無くなってしまった。


「ッ!」


グランマルニが張った『アサイラム』と赤いの達の攻撃がぶつかり合い、小規模の爆発が起きる。

何とか赤いの達の攻撃は全部防げたが、グランマルニが張った『アサイラム』が壊されてしまった。

その爆発に気をつけつつお互い距離を開けて、息と態勢を整える。


「あー・・・舌噛みそう!

あんまり、オレに『キャンセル』使わせないでくれよ?

後、コロナ。はい、これ」

「あぁ、助かった。ありがとう、グランマルニ。

それと、魔法については諦めろ」

「やっぱり?」


警戒を怠らず武器を構える赤いの達を見ながら、グランマルニが切り落とされた私の髪と、鱗刀や鎧が入った小さいカバンを渡してくる。

どうもここに来る前にカバンを回収しておいてくれたようだ。

やはり、こちらも武器が無いと戦いにくいし、切られた髪自体は兎も角、髪飾りの変化石は回収しておきたい。

グランマルニがカバンを持って来てくれて、かなり助かった。


「グランマルニ・・・?

土の所のケット・シーか!!

なんでお前の様な魔族なんかが、勇者様の魔法使えるんだ!?」

「さーなー。なんでだろーなー。

敵に聞く前に、少しは自分で考えたらどうだ?」


叫ぶ助手に、グランマルニが悪戯っ子の様な表情と口調で答える。

それにしても、違和感がすごいな。

グランマルニはまだ青いのの姿のままだから、そんな悪戯っ子の様な表情されると似合わな過ぎて吐きそうになる。

むしろ、今すぐぶん殴りたい。

何だ、その頭に来る表情は。

挑発の為とは言え限度と言うものがあるだろう。

私まで挑発する気か?


「ふざけないで下さい!

それに、何時まで青い勇者様の姿でいる気ですか!?

汚らわしい。今すぐやめなさい!!」

「ん~・・・やーだね!

こいつ顔だけはいいし?

結構オレ、この姿気に入ってるんだよねー」


嘘だ。

そんなふざけた理由でグランマルニは青いのの姿をしていない。

グランマルニが青いのの姿をしているのは、青いのの魔法を使う為だ。


あの男や赤いの達が使う魔法は道具魔法の一種であり、使う為には3つの鍵を解かないといけないらしい。

本来道具魔法は誰でも使えるはずだが、その鍵のせいで基本、持ち主である異世界人にしか魔法を使う事ができないそうだ。

だが、抜け道の様なモノがあるらしく、詳しい事は私も分からないが、ユマ様やあの男が色々調べた結果。


赤いの達がそれぞれ、自分専用の異世界の通信鏡(スマホ)を持っている時に、


周りが聞こえている赤いの達の声と全く同じ声で、


異世界の言葉を使って呪文を唱えると、


私達でも赤いの達の魔法が使える。


という事が分かった。

『周りが聞こえている赤いの達の声と全く同じ声』を出すには、全身赤いのや青いのに化けないといけない、らしい。

あの男が生きている間に、グランマルニが変化石を使って色々実験して、そう言う結果になった。


だから、青いのやローズ国王女対策で『キャンセル』を使う為に、グランマルニは青いのに化けてるのであって、けして顔が好みと言うふざけた理由ではないのだ。

それに、赤いの達が自分の魔法の抜け道や条件にまだ気づいてないのだから、このまま気づかれない様に誤魔化さなければいけない。


それは分かってる。

分かってるのだが、あの理由は流石にどうかと思うぞ?

赤いの達の表情を見ると変な勘違いをしてるように見えるし、これは私も何か手助けになる様な事言うべきなのか?


「・・・・・・ちょうど良いだろう。

お前等のせいでグランマルニの顔は見るに耐えなくなってしまったんだ。

元凶の顔を借りる位良いだろう?」

「見るに耐えないのは、元々。魔族は元々皆醜い」

「おい、待て、ふざけるな!

ユマ様は世界で1番可憐で、美しいんだぞ!

その目玉取り出して、綺麗に洗いなおして入れなおせ!!」

「はぁ!?ふざけているのは、お前の方だろ!!?

世界で1番美しいのは、ルチア様に決まってるだろう!!」

「なんだとぉ!!!?」


兵士はユマ様まで醜いとか言うし、助手はローズ国王女の方がユマ様よりも美しいとか言う。


ふざけてるの!?

ユマ様は誰よりも綺麗だし、可愛いし、頭いいし、すごいんだからね!!

絶対そこだけは譲れないし、反対意見なんか絶対認めないんだから!!!

ユマ様を馬鹿にするこいつ等2人なんか、まとめて燃やしてやるんだから!!

絶対絶対、赤いのよりも先に燃やしてやるんだから!!!!


「燃えろッ!!!」

「ちょ、コロナ!!

そんな安い挑発なんかに乗るな!!!落ち着け!!」


グランマルニがなんか言ってるけど、知らない!!

ユマ様、馬鹿にされて落ち着けるはず無いでしょ!!


「『アサイラム』!」

「『ライズ』、『ジャンプ』!

『エンチャント』、『スラッシュ』『アクア』!!」

「ッ!」

「だから、言ったんだ!!!コロナの馬鹿!!

『アサイラム』!!!『ウィンド』!!」


怒りに任せてカバンから取り出した鱗刀を使って放った『炎刃』。

その巨大な『炎刃』は青いのの『アサイラム』に防がれて。

その上、『炎刃』の影に隠れて一瞬姿を消した赤いのが、召喚の間の天井付近から水で出来た刃を放ってくる。

それをグランマルニが『アサイラム』で防ぎ、『ウィンド』を使って距離を取った。


「いいか、コロナ!落ち着け!

炎を使いすぎるな!!

ユマが考えた作戦を、無駄にする気か!!?」

「ッ!ごめん・・・あ、いや。すまない。

もう、落ち着いた」

「なら、ヨシッ!あのな、コロナ。

念の為に言っておくけど、アイツ等が言うことは全部挑発なんだ。

アイツ等がユマの事どう言っても気にするな。

いいな?」

「・・・・・・・・・・・・・・・善処する」

「絶対大丈夫、って言ってくれるとありがたいんだけどなぁ?」


グランマルニにそう注意されて、スーッと冷静になってきた。

そうだ。

この作戦はユマ様が考えてくれた作戦なんだ。

失敗など許されない。


挑発に乗らず、冷静に、後の為に炎を温存しておく。


うん、大丈夫。

作戦を思い出せたし、冷静にもなれた。

もう、挑発になんか乗らない!!

・・・・・・たぶん。


「その大剣。

やっぱお前、暗黒騎士だったのか。

まさかあの巨大鎧の中身が、こんな小さな女の子だったなんてな。

意外すぎるぜ」

「小さいは余計だ」

「・・・なぁ、暗黒騎士。

本物のネイはどうした?

お前が化けていた女の子。何処にやった?」

「まだ気づいてなかったのか?

本当、どこまでお目出度い頭をしているんだか。

いいか?

最初から『スタリナ村のネイ』なんって人間の子供、この世界に存在しない。

ディスカバリー山脈で出会った、最初の最初から、私が変化石で化けていたんだ」


赤いの達が目を見開いて、息を呑むのが分かった。

本当にこいつ等は、『ネイ』の事を疑っていなかったんだな。


「・・・・・・ウソ、だろ?」

「今ここで嘘吐いてどうする。

自分で言うのもアレだが、そもそも『ネイ』は最初から怪しい子供だったろう?」


演技とは言え、ユマ様を魔王などと言う蔑称で呼ばないといけなかったのは凄く屈辱的で。

人間だたら普通に言っているだろうその言葉を、私は何時まで経ってもちゃんと言えなかった。

それに、ビターズ家の屋敷でもかなり危うい失敗をしたな。

アメミットを連れ戻して休んでいる時、赤いのが騒ぎすぎていてつい、


「うるさいから、黙らせろ」


と青いのに言いかけた。


あぁ、そうだ。

失敗といえば、ミルちゃん達のもそうだな。

赤いの達が次何処に向かうかミルちゃん達に流しすぎて、間者が居る可能性をチラつかせてしまった。

折角今まで気づかれていなかったのに、あんなに何度も赤いの達が向かった場所と別の場所に飛行船が現れたら、流石に怪しまれてしまう。

だから、もしもの時には赤いの達が追いかけてこれないチボリ国に逃げやすい。

あのサマースノー村にはあえて現れた訳なのだが・・・


まさか、あんな事になるとは思わなかったぞ?

赤いのに切られた所は1箇所だけなのに、着地に失敗して飛行船が全壊する何って・・・・・・

中に居た人間達は皆無事だったからいいものの、飛行船は最初から作り直さなくてはいけなくなったし、作り直そうとしたら今度は素材が中々集まらず未だに完成できてないし・・・


普通こんなに不幸の連鎖が起きるものなのか?

赤いの達は『敵対した者達に不幸を運ぶ』なんてスキルや魔法を持っていなかったはずだし、何でこんなに上手く事が運ばないの?

本気で謎だよ?


「初めて会った時、青いのもローズ国王女も『ネイ』を疑っていた。

『子供だからって油断するな』って、『こんな所に1人でいる子供なんって怪しい』って。

まさに、その通りだろう?」


あの時は本当にヒヤヒヤしたなぁ。

あのまま青いの達が私の正体に気づいて、作戦が失敗するかと思ったんだぞ?

実際は何とかなったが。

本っ当、頑張ってミスリルクラブを挑発して、本気で泣いたかいがあった。

ああ言う場合、子供の涙というのは良い武器になるのだな。


「どうして最後まで疑わなかった?

どうして、こんな状況で間者が1人も居ないと思った?」

「っ!それはっ!!」

「自分達よりも劣ってる魔族は、そんな事考えもしないだろうと思った?

自分達は間者を送っても、私達は送れないと、そう言いたいのか?

人を見下すのも大概にしやがれッ!!!」


そう怒りのままに叫ぶが、私の中の冷静な部分は見下されても仕方ないと言う。

実際私達は、こいつ等に何十歩分もの遅れを取っているんだ。

何もかもが後手後手に回って、これ以上悪くならないように現状を維持するだけで手いっぱい。

何人か赤いの達側の間者を見つけたが、それだって全員じゃない。

ユマ様の弱体化の時期を知られていたんだ。

確実に1人は、ジャックター国の中央部の中に間者が居る。


私達魔族の女にとって、弱体化の時期を誰かに知られる事は、とっても恥ずかしい事なんだ。

最悪、知られたからには自分を殺すか、相手を殺すかの究極の選択を選ばないといけない。

その位、とても、とても、恥ずかしい事なんだ!!


確かに、ある程度成長した魔族の女なら誰でも起きる生理現象の1つなのだから、弱体化の存在事態は一般常識として誰でも知っているものだぞ?

でも、個人で起きる時期が異なる弱体化の時期まで正確に知っているのは異常だ。

弱体化が重過ぎて察しのいい人に気づかれるとか、弱体化の影響で体調不良を起こして医者に見てもらうとか。

弱体化が起きだしたばかりでどう対処して良いか分からず、母親とか姉とかの親しい年上の女の人に相談するとかで、他人に時期を知られる事はあるだろう。

人によっては恋人に言う場合あるらしいが、ユマ様の場合それはないな。

うん、ない。


それでも、何時始まって何時終わるのかまで知っているのは異常だ。

もし知れるとしたら、仕事柄ユマ様の体調を聞きだしやすい、ジャックター城に住み込んで働いている医者の内の誰かか、その助手。

もしくは、ユマ様が弱体化の事まで相談できる様な、かなり親しい女の誰か。

なにんしろ、中央部に居る人なのは間違いない。


「・・・嘘、だったのかよ・・・」

「嘘?なにがだ?」

「魔王が許せないって言ったのも、この世界を救いたいって言ったのも!!

全部演技だったのかよ!!?」


俯いていた顔を上げ、赤いのがそう叫ぶ。

その表情は今にも泣き出しそうで、でも泣き出さないように必死に耐えていて。

かなり変な顔になっていた。


「『本当の意味でこの世界を救わないと意味が無い』って、お前が言ったから!!

だから、俺達はッ!!」

「あぁ、その事か。

私は嘘なんて言ってないぞ?

あれは本心で言ったし、今もこの世界を救いたいと思ってる」

「だったらッ!!だったら何で


「ただし、私が言ったのは『お前達をこの世界から消して』、と言う意味でだ。

誰もユマ様を犠牲にしてこの世界を救うなど言っていない!!」


沢山の人の心の時間を止め、


沢山の人の心や人生を弄んで、


傷つけて、


利用して。


沢山、沢山、犠牲を出して、ユマ様を、ミルちゃん達をいっぱい、いっぱい、悲しませた!!

そんなお前等からこの世界を救いたいって思うのは、当然でしょ!!!


「わたし達の目的は最初から変わってない!!

あんた達を倒して、大切な人達の心の時間を取り戻す!!

大切な人が悲しまなくていい世界を取り戻すんだッ!!!」


体が熱くなって、炎が溢れ出す。

感情が高ぶりすぎて、炎を抑えられない。

何処までも、熱く、赤く、燃え上がる炎。

その炎に包まれて、体中の鱗が解けていく。

切られた髪だけはそのままに、全身が髪と同じ白くてフワフワの毛に覆われていくのが分かった。

きっと今の私の姿は、本来の姿のグランマルニに似た毛むくじゃらな姿をしているだろう。

自分の意思で変わる事ができない、滅多になる事が無いこの姿に私が久々に変わって、隣に居るグランマルニは少し呆れた様な顔をした。

すまない、グランマルニ。

やっぱり、抑えられなかった。


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