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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
220/498

79,完成した魔法道具


 『水のオーブ』を取りに行ってから1ヶ月と少し。

俺達がこの世界に来て、ちょうど1年が経っちまった。

チボリ国にはまだ行けないし、レーヤ達が残した最後の試練。

レーヤの試練がどこにあるのかも、まだ分かってない。

今までの流れ的にアーサーベルにあるのは間違いないと思う。

でもレーヤが関わったって伝わっている場所を巡っても、1回も試練ぽい事が起きなかった。

『レジスタンス』の奴等も見つからないし、暗黒騎士達も現れない。

正直言って、雑魚モンスター狩る以外、やる事が全くないんだよな。


「赤の勇者様ー!!ルチアナ様ぁあああ!!」

「うおっ!何だよ、シア!そんなに慌てて・・・」


そう思って今日も雑魚モンスター狩りに出かけて帰ってきたら、シアが水晶化対策本部の部屋に飛び込んできた。

相当慌てて来たみたいで、直ぐにしゃべり出せない位、シアの息は上がっている。

膝に手を置いて何度も深く息を吸い込んで。

それでようやくシアはここに飛び込んできた理由を話し始めた。


「お待たせしました・・・

ヒヅル国の・・・ヒヅル国の研究員達が・・・

ん・・・はぁ・・・

漸く、『移転』の魔法道具を完成させました!」

「ッ!」

「本当か!!?」

「はい!!」


息を整えつつ、途切れ途切れシアが伝えてきた朗報。

それを聞いて俺達のテンションは上がりまくった。

悪い状態のまま止まって軽いお通夜状態だったのが、ちょっとしたお祭り騒ぎに早変わり。

何時もなら俺とキャラと一緒に、騒ぎまくるネイが言葉も出ない位喜んでるんだ。

よっぽどだろ?


「詳しいお話は教会でお伝えします。ですので、


「分かった!直ぐ行く!!」


あっ!赤の勇者様!!お待ちください!!

話はまだ・・・」


走り出した俺の後ろでシアが何か言ってる気がするけど、気にしない!!

急いで完成した魔法道具貰って、チボリ国に行かないとな!!


「先代勇者!!

チボリ国に行ける魔法道具が完成したんだな!!

どこにあるんだ!!!?」

「ッ!!?・・・・・・あぁ、君か」


『ライズ』と『ジャンプ』を使いまくって、今俺が出せる最大のスピードで教会に駆け込む。

誰も居ない教会に響く俺の声。

その声に驚いたのだろう、先代勇者が少し上ずった声で返事をしてくる。


「そんな乱暴に扉を開けないでくれ。

壊れてしまうよ」

「あ、わりぃ。

いや、それより、魔法道具だ!

ようやくミル達連れ戻して、『幸福な牢獄』を解く事ができるんだぜ!

早くしてくれよ!!」

「・・・シアから聞いてないのか?

チボリ国にはまだ行けないよ?」

「へ?でもワープ系の魔法道具が出来たって・・・」

「赤の勇者様!」


さっきの俺に負けない位の大きな声で俺の名前を呼んだシアが、ルチア達と一緒に入ってくる。

ツカツカと大またで俺の所まで来たシアは、怒りで真っ赤になった顔に薄っすら涙を溜めて俺を見上げてきた。


「だから言ったじゃないですか!!

話はまだ終わっていないって!!

私の話、最後まで聞いて下さい!!!」

「わ、わりぃ・・・嬉し過ぎてつい・・・」

「気持ちは分からない訳ではありません!!

でも、少し冷静になって下さい!!

いいですか!!!?」

「う・・・わりぃ・・・本当、悪かった!」


先代勇者が大好きで完璧主義のシアからしたら、先代勇者からの頼まれ事をちゃんと果たせなかった事は、相当辛い事だったみたいだ。

頬を膨らませて、軽く睨むように見上げた目からポロポロ涙を流すシア。

そんなシアの姿に罪悪感がわいて来る。


「グス・・・次・・・

次から、気をつけてください・・・・・・」

「あぁ、分かってる。だから泣き止めって。な?」

「う~・・・はい・・・」

「それで先代。完成した魔法道具って言うのは?」


中々涙が止まらないシアとそんなシアに謝る俺。

そんな俺達をチラッと見ただけで特に気にしてる様子も見せず、田中が先代勇者に魔法道具の事を聞き出した。


「先ほども言ったが、完成した魔法道具はチボリ国に行く為の物じゃない。

1度だけ、魔界に行ける魔法道具だ」

「ッ!なんで!?

なんでそっちが先に完成するの!!?

可笑しいよ!!」


確かにネイの言うとおりだ。

何でチボリ国に行く為の魔法道具じゃなくて、ラスボスの所に行く魔法道具が先に出来るんだよ。

ゲームだったら、最後の最後に手に入るアイテムだろ?


「先に魔界に行く為の魔法道具を研究していたんだ。

だが、『レジスタンス』が現れて、急いでチボリ国に行く為の魔法道具も研究しだした。

それで、いざと言う時の為に同時に研究していて、」

「先に作ってた魔界に行く為の魔法道具の方が完成した?」

「そうだ。

チボリ国に行く為の魔法道具も、後数日、早ければ明日には完成するだろう」

「だったら!だったら、チボリ国行きの魔法道具も完成した時に、わたし達を呼べば良かったじゃん!!

なんで今なの!?

本当に今じゃないとダメだったの!!?」


ネイはそう言うけど、このタイミングで先代勇者が俺達を呼んだって事は、何か理由があるはず。

そう思って、聞いたら、やっぱり。

また俺達に依頼したい事があったみたいだ。


「今日呼んだのは他でもない。

魔王に奪われた『光のオーブ』だけでも奪い返せないか。

と考えたからだ」

「確かに魔王を完全に倒す事は、まだ無理でしょう。

ですが、今の勇者様方なら『光のオーブ』を奪い返せるはずです。

それに、魔界に入り込み情報収集している私達の同士からの連絡で、今日から魔王が弱体化する時期だと言うのが分かりました。

ですから、更に成功率は高いはずです」


先代勇者の話を、涙を拭き終えたシアが補足する。

シア達の話じゃ、今の魔王は月に1回、全く魔法が使えなくなる時期が来るらしい。

それがちょうど今日を入れた7日間。

冒険者のフリをしていた魔王は弱いながらに魔法が得意だったみたいだし、その魔法が使えない今は確かに絶好のチャンスだ。


「わたし、行くの反対!!

ミルちゃん達、助けたいから、絶対絶対ヤダ!!!

行くなら、チボリ国がいい!!!」

「ッ・・・・・・ボク、は・・・

ボクも、魔界に行くのは反対だよ。

どんなに遅くても数日待てば、チボリ国に行けるんだろ?

その数日でしっかり準備を整えて、ミル達を追いかけるべきだよ!」

「俺もネイとキャラに賛成だ。

魔王の弱体化だって毎月起きるって言うなら今直ぐ行く必要はないんだし、1回しか使えない魔法道具を焦って使う理由もない。

魔界には他の『オーブ』も全部集めて、しっかり実力つけて、準備も整えて。

万全と言えるような状態になってから行くべきだ」


1番最初に声を上げたネイに続き、キャラと田中も魔界に行くのに反対する。

ミルを連れ戻す事を目標にしてるキャラとネイが、もう直ぐでチボリ国に行けるって状態で反対するのは当然だし、どちらかと言えば慎重な性格の田中が反対するのも可笑しくない。


「ですが、魔王が『光のオーブ』を使って弱体化を克服するかもしれないのですよ?

そうなっては遅いのです!

奪い返せる内に、奪い返さなくてはッ!!」

「それに青い勇者様の仰った、他の『オーブ』を集めてから『光のオーブ』を取りに行くと言うのは、今までの勇者様方と同じ順番で『オーブ』を集めると言う事です。

それでは魔王達の予想通りになってしまいますし、対策も立てられていると思います。

奇襲を仕掛けると言う意味でも、今ここで『光のオーブ』を取り返すべきではないでしょうか?

それに、『光のオーブ』があれば、もしかしたらお父様の呪いも・・・・・・」

「私も、1度魔界に行ってみたいです。

ピコンがまだあの黒い鎧の魔族と一緒に居るなら、魔界に居るはずだから・・・

『レジスタンス』の人達と一緒に居るかも知れないけど、でもッ!

ピコンが絶対『レジスタンス』の人達と一緒に居るって、まだ分かってないなら、黒い鎧の魔族が居る可能性が高い場所に私は行きたいです!!」


魔界行き反対派の田中達に対して、賛成派なのがシア、ルチア、ラム。

先代勇者が『光のオーブ』を取りに行ってほしいって言ってるから、魔界行きを押すシアに、キャラと同じように自分の大切な家族の為に魔界に行きたいルチアとラム。


「勇者様。勇者様はどうお考えですか?」

「俺は・・・」


3対3で分かれた意見。

多数決で決めるなら、まだ何も言ってない俺がどっちに付くかで決まるだろうな。

正直な所、俺は皆の意見を聞いてかなり迷っていた。

どっちの意見も、それぞれが抱えてる思いも、ちゃんと分かるから、簡単にどっちかを選ぶ事ができない。


魔王への奇襲が成功すれば王様の呪いが解けるかも知れないし、魔界になら何の情報も入ってこない最低野郎の事も何か分かるかもしれない。

でも、その為に焦って魔界に行っても全滅するかもしれないし、最悪『水のオーブ』も奪われるかもしれないって考えると・・・


でも、仮に魔界行きを選んだら、ネイとキャラは集中して戦えないだろうし、逆にチボリ国行きを選んだら今度はルチア達が集中できない。

それはそれで全滅の危機につながるだろう。

だと・・・


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