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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
217/498

76,眠れる村のウンディーネ


「遅くなって申し訳ありません、勇者様方、ルチアナ様」

「あー、えーと・・・

頭に血が上がっていたとは言え、思いっきり殴ってごめんね、勇者君。

青い勇者君も、頭大丈夫かい?」


数十分位待って戻ってきたキャラとシア。

シアは少し顔が赤いし、キャラは軽く血が出るほどの擦り傷や切り傷を負っている。

説得するってシアは言ってたけど、殴り合いの喧嘩でもしてたのか?


「いや、操られた俺達が悪かったんだから、そこは気にしてない。

けど、キャラ。お前の方が大丈夫か?血が出てるぞ?」

「ハハ。ちょっとお互い熱くなって喧嘩しちゃってね。

そこまで痛くないし、大した事ないと思うから大丈夫だよ、勇者君。

薬塗れば治る位だと思うから、ちょっと貰えないかな?

ボク達の薬、終わっちゃって・・・」

「だったら『キュア』で治した方が早いだろう。

それに、その怪我で大した事無い?強がりはよせ。

背中、かなり血が出てるぞ。直すから、傷見せてみろ」


どんだけ激しい喧嘩をしたんだか。

傷薬が終わるほど傷が出来る喧嘩って、そうとう激しいぞ。

だけど、そんだけ激しい喧嘩をシアとしたからか、キャラは少し気まずそうだけど、どこかスッキリした表情している。

そんなキャラを田中が直ぐに治療しだした。


「よし。どこかまだ痛い所はあるか?」

「大丈夫だっよ、青い勇者君。ありがとう」

「大丈夫なら、いい。

シア、お前は?どこか怪我してる所あるか?」

「私は怪我してません。

口論してたら頭に血が上がってしまって、キャラさんを魔法で飛ばしてしまったので・・・

それでキャラさんだけ怪我を・・・」


あのキャラをワープさせた魔法をまた使ったんだな。

だからキャラだけが怪我していた。

ここに戻ってくる前に2人は仲直りしたみたいだけど、冷静になったシアはまだ罪悪感を感じてるみたいだ。

ワープさせられて怪我したキャラの方は、もう気にしてないみたいだけど。


「それより、勇者君達の方こそ大丈夫なのかい?」

「あぁ。もちろん大丈夫だって。

怪我も治したし、ウンディーネ対策もバッチリだ」

「馬車の方も俺が操られる前には、話がついてたからな。そっちも大丈夫だ」

「それなら、早速村に入りましょう。

これ以上ウンディーネを放っておけません!」


全員の準備が整ったのを確認して、改めて村に入る。

無音石のお陰で未だに歌い続けてるらしいウンディーネの声は、全然聞こえない。

微かに聞こえる寝息と俺達の足音以外、何も聞こえない不気味なほど静かな村。

時間結晶越しに薄っすら緑色に染まった空も合わさって、まるでホラーゲームの中に迷い込んじまった気分だ。


「ルチア、ウンディーネがどこで歌ってるか分かるか?」

「・・・申し訳ありません。

村全体で木霊していて場所の特定までは・・・」

「そっか。なら、とりあえず村の中心目指すか」

「その前に俺が『ウィンド』で・・・

いや。高橋、『シャンプ』で見てこれるか?」


いつも通り上から見てこようと言い出した田中は、途中でやめて俺にそう頼んできた。

無音石の無い田中がルチアから離れすぎるのは危険だって、田中も途中で気づいたんだろうな。


「OK。『ジャンプ』!」

「赤の勇者様ー!何か分かりましたかー?」

「もうちょっと待ってくれー!えーと・・・」


『ジャンプ』を使ってここら辺で1番高い家の屋根に跳び乗る。

そこから周りを見回しても、特に何も見当たらない。

肉眼で見える範囲には居ないって分かって『心眼』で見ようとしたら、下からシアがそう聞いてきた。

それに軽く答えつつ、目をつぶる。


「あっち!あっちの方で人が集まってる!!」

「その方向だと、やはり村の中心が怪しいですね」

「ちょっと待て!何か変だ!!」


やっぱり村の中心辺りに居るって言うルチアの声を聞きながら、もう少し『心眼』に集中する。

そのお陰でその人だかりがさっきよりハッキリ見えた。

遊園地でやってるようなパレードを見たまま、眠ってしまったみたいな沢山の人影。

その中心で真っ黒な影が揺らめいていた。


「なんだ、あの黒い影・・・・・・

あんなの、始めてみたぞ・・・」

「高橋!!何が見えた!?」

「黒い影!

魔物や魔族でも『心眼』で見たら、人や建物と同じ青白く浮かぶはずなんだ!

でも、何か黒い影が居る!!」


建物や草木でも、人や動物でも、魔物や魔族でも無い。

魔法道具も青白く浮かぶはずし、魔法は目を瞑った状態だと見る事ができなかったはず。

それなのに浮かんだ黒い影。

シルエット的に人っぽいけど、人ならなんであの人だけ黒なんだ?

他の人と何が違うっていうんだよ。


「他に黒い影は居るか!?」

「・・・いや・・・居るのは1人だけっぽい!

周りで倒れてる他の人は、いつも通り青白く浮かんでる!!」

「その黒い影も倒れてるのか!?」

「倒れてない!ゆらゆらした感じで立ってる!」

「立ってるって事は、その黒い影は起きてるって事だよな。

なら、その黒い影がウンディーネかもしれない」

「あれが、ウンディーネ・・・」


田中の言うとおり、あの黒い影が俺達が探してるウンディーネなら、なんでウンディーネだけ黒い影なんだよ。

『技』を使ってるから?

いや、今まで戦ってきた魔物や魔族は、『技』を使ってる最中でも青白く浮かんでたぞ。


「最初からウンディーネだけ黒く浮かび上がるようになってたのか?」

「もしくは、そのウンディーネが特殊な存在だからかもしれません。

流石に、こんなに長い間休まず歌い続けるのは、実力のあるウンディーネでも可笑しすぎます!

異常です!!」

「確かに3、40分位ノンストップってのは可笑しいな」

「1時間以上です、赤の勇者様。

勇者様方が操られていた時間が抜けています」

「え!そんなに!?

本当に1時間、少しも歌が途切れてないのかよ!?」

「はい」


『技』だからって流石にそれは異常すぎだろう。

人間2人掴んで何十分も休まず飛び続けたタバコ野郎だって、途中回復はさまないと最後まで飛べなかったんだぜ。

実力があるって言っても流石に1時間ノンストップは、この世界の常識的に可笑し過ぎるし、どう考えても不可能だ。

だから、絶対何かトリックがあるはず。

そしてそのトリックが、あのウンディーネを黒い影として浮かび上がらせた原因なんだろう。


「思ってた以上にヤバイな。

二手に分かれるのは無しだ!全員固まって行くぞ!」

「えぇ、その方が良いでしょ」


ウンディーネを見つけたら二手に分かれて、挟み撃ち。

って作戦だったけど、今ある情報的に分かれるのは得策じゃない。

それはルチア達も思ってたみたいで、特に反対意見もでないまま全員で一緒に行動する事が決まった。


「村の人達起こすのはどうする、勇者君?

ボクは止めた方がいいと思うんだけど」

「そう、だな。

1度ウンディーネの様子を見てからの方がいいかもな。

普通のウンディーネが相手じゃないなら、起こしてショック療法ってのも効くかどうか分からないし」

「そうだな。

何も分からない内は、このまま寝かしておいた方が安全かもしれない」


操られた人達を正気に戻すショック療法作戦もいったん中止だ。

普通じゃない事以外何も分かってないのに、下手に起こすのも不味い気がする。

田中の言うとおり、このまま寝かせておいた方がいいのかもな。


「では、真っ直ぐウンディーネを目指しましょう」

「あぁ。こっちだ!」


『心眼』で見た光景を頼りに、周りを警戒しながら早足で進む。

今起きてるのがウンディーネだけってのは分かってるけど、この特殊なウンディーネがいつ遠距離攻撃仕掛けてくるか。

それが分からないから、一々止まって辺りを見回して進んでるんだ。


「ッ!字幕が!」

「これ、ウンディーネが歌ってる歌の歌詞か?」

「ッ!歌声は!?歌声も聞こえてるのかい!?」

「いや、歌詞の字幕だけだ」


かなり村の中心に近づいた所で、視界の下の方に謎の字幕が浮かび上がった。

歌声は全く聞こえないけど、田中の言うとおり、たぶんこの字幕はウンディーネの歌の歌詞なんだろう。


「でしたら読んではいけません!

無視してください、勇者様方!!」

「あー・・・字幕の出かた的に無視は無理だな。

ウザイ位、強制的に視界に入ってくる」


『おいで、おいで

さぁ、おいで

海原渡り、野山を駆けて

わたしのもとへ、さぁ、おいで』


そう繰り返す字幕。

字幕の文字だけでもウンディーネに操られるかもしれないからと、ルチアは読むなって言う。

けど、どこを向いても視界の下の方に字幕が浮かぶから、嫌でも目に入るんだよ。


「・・・勇者様方。

歌詞を読んでも問題は無いのですね?」

「あぁ。意識はちゃんと保ててる」

「それなら、いいです。

何か、体に異変を感じたら言ってください」

「分かった。ありがとうな、ルチア」


字幕を読んだだけじゃ操られないって分かって、ルチアがホッと息をつく。

出来るだけ気にしないようにするけど、でもやっぱ、じゃまだな。

どうにか消せないのか、これ?


「・・・なぁ、田中。

このままウンディーネの所向かっていいと思うか?」

「歌詞の内容考えると、少し危険かもな」

「そんに危険な歌詞の歌を歌ってるのかい?

異国語で歌ってるからどんな歌なのか、ボクは分からないんだけど」

「『おいで』って歌ってるんだよ。ずっと」


消えろと念じながら睨んでも、全然消えない字幕。

けど、代わりにある事に気づいた。

ウンディーネは俺達を呼んでるんじゃないかって。

おいで、おいで、って歌ってるなら、操った奴を自分の元に呼び寄せてるって事だろ?

それだと俺達はウンディーネの誘いにまんまと乗ってるって事じゃんか。


「ウンディーネの元に向かうこと自体、間違いという事ですか?」

「だからって、このまま逃げ帰る気はないんだろう?」

「あぁ」


最悪家の中入ったりして、ウンディーネにバレ無いようにしつつ近づく。

今まで以上にゆっくり、慎重に進んで、まずは様子見だ。

いきなりウンディーネに突撃するのは無し!


「・・・見えた。

ここからだと、ウンディーネにバレそうだな。

この家の2階借りるぞ」

「はい」


ウンディーネが見える場所まで何とか近づいて、近くに建ってる家の1つに入る。

裏口から入ったその家は、見た感じ宿屋っぽかった。

カウンターに寄りかかる様に眠る女店主の横を通り抜け、2階へ。

ウンディーネが居る大通りが見える1室に入って、顔を少しだけ窓から出してウンディーネの様子を見る。


思ってた以上にウンディーネの姿は、普通の人間の女と変わらない見た目をしていた。

腕や脚に1対ずつ生えたトビウオの様なヒレと、ヒレを中心に所々生えた魚のような青い鱗。

それがなけりゃ、たぶんただの人間だと思ってただろうな。


「よし。バレてないな」

「アレが犯人のウンディーネなんだね。

あの首輪みたいのが魔法道具かな?」


祈るように胸の前で手を組み、目を瞑って歌うウンディーネ。

ウンディーネの歌声に合わせて動いてるのか、ウエーブがかった長い白髪と、水色系の丈の長いワンピースの裾がフワフワ揺らめいている。

その揺らめく髪が邪魔してよく見えないけど、キャラの言うように確かに首に何か巻いている。

『心眼』を使ってよく見れば、それは灰色の小さな石が着いたチョーカーだった。


「あのチョーカーだな。

撮影して調べてみるかから、少しどいてくれないか?」

「ん。どーぞ」

「ありがとう・・・

ん?上手くいかないな・・・もう1度・・・」

「田中ー。

何度もパシャパシャやってたら、ウンディーネにバレるぞ。

俺が撮ろうか?」

「いや、いい。今度こそ成功させるから」


上手くあのチョーカーが撮影できないみたいで、何度もカメラを使う田中。

まだウンディーネに気づかれてないけど、こう何度も撮ってたら気づかれるのも時間の問題じゃないのか?

そう思ってチョーカーを撮るのを変わろうかって聞いたら、田中に断れた。


「・・・ねぇ、姫さん。

ウンディーネって空飛べる魔族だったけ?」

「え?」

「あのウンディーネ、少し浮いてる」

「あ、本当だ。てか、影、なくね?」


ウンディーネの足元で倒れてるボロボロのミイラみたいな人。

その人が居るから分かり辛いけど、確かにウンディーネはキャラの言うように浮かんでいた。

それに、ウンディーネの影がどこにも見当たらない。

ウンディーネの影に見えたあれは、足元のミイラの影だ。


「あ、ようやくとれ・・・・・・マジか・・・」

「田中、何が分かったんだ?」


田中が無言で見せてきたスマホの画面。

そこには、



幽霊・・・


魂の化石といえるとても脆い存在。

心や魂を構成するマナが、死などにより体を構成するマナから離れ、周りのマナを取り込みながら変質した。

基本、マナの濃い場所で死に、強い感情により魂を構成するマナを濃くした者だけが幽霊となる。

ほとんどの幽霊はマナの濃い場所から動けず、50年以内には消える。

もし、移動したとしても1年と経たず消える



と書かれていた。


「え、幽霊って・・・

あのウンディーネ、もう死んでるのかよ・・・」

「みたいだな」


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