70,裏切り勇者と水の宝 19箱目
25年前、この世界に召喚されたらしい俺の親父達。
その親父達がこの世界で受けた仕打ちは、魔王や魔族が行うのと同じ位残酷なもので。
そこにどんな真実が隠されているか、俺達は頭を悩ませていた。
「それは5、6000年前の魔王が勇者君のお父さん達を『召喚』したって事なのかい?
魔族や魔王は儀式魔法が使えないはずだろ?
それなのに、『召喚』の魔法は使えるのかい?」
「魔法道具を使えばできるかもしれません。
何度も魔族と戦っている内に作れなくなった魔法道具は沢山あります。
その中に『召喚』を行える魔法道具があった可能性は、0ではありません」
そう言えば、あのケット・シーも他の魔物に化けるのに魔法道具を使ってたな。
魔族は儀式魔法が使えないけど、魔法道具なら使える。
それにルチアの話だと、魔族の中には魔法道具作りが得意な種族もいるらしい。
それなら、『召喚』の儀式魔法の代わりになる魔法道具を作っても可笑しくはないか。
「でも、それなら何で5000年前の魔王は高橋のお父さん達を『召喚』したんだ?
天敵である勇者が居るかも知れないのに、なんでそんなリスクの高い事を・・・」
「恐らくは・・・
『夜空の実』を得る為では無いかと」
「『夜空の実』を?」
シアの考えはこうだ。
今まで『夜空の実』の元になる『オーブ』を手に入れられたのは、レーヤを抜かせば異世界人である勇者達だけ。
そして『夜空の実』は元々異世界から持ってきた物。
だから5、6000年位前の魔王は『夜空の実』を手に入れられるのは異世界人だけだと考えた。
「だから沢山の異世界人を呼び寄せて、『オーブ』を集めさせようとした?
100人以上同時に呼べば、1人位『夜空の実』を手に入れられるって思ったって事か?」
「はい。私はそう思います」
「なんだそれ・・・・・・
そんな理由で親父達はあんな酷い目に遭って、今も苦しんでるのか!!?
ふざけんなよ!!」
シアの考えどおりなら、本当ふざけすぎてるぜ!!
1万年前から変わらず、魔王も魔族も人の事を何だ思ってるんだ!!
人はお前達の道具やオモチャなんかじゃない!!
「・・・・・・今はその『召喚』の魔法道具は無いんたいだな」
「えぇ、恐らくは。
そしてもう1つ付け加えるなら、今『召喚』の魔法が残っているのはこのローズ国だけなのです。
魔法大国のチボリ国でも『召喚』の魔法は残っていません」
「そうか!!
だから魔王達はこのローズ国を手に入れようと必死になってるんだな!」
「なるほど。その様な理由が・・・
流石勇者様です!!
私達ではそこまで考えつきませんでした」
「いや、それはおかしい。
そんな理由でローズ国が狙われてるとは思えないな」
タバコ野郎達の様子からして、魔王達は今も『夜空の実』を狙っている。
だから、俺達邪魔な勇者は追い返して、ローズ国を手に入れて自分達の都合のいい異世界人を召喚しまくる。
きっとそれがローズ国を手に入れようとしてる魔王の目的なんだ!
俺もルチア達も今まで手に入れた情報からそう思ったけど、その表情的にどうも田中は違うらしい。
田中だけは俺達が考えた魔王がローズ国を狙う理由に納得してないみたいだ。
「最初に『夜空の実』を『緑の狩人』から貰ったのは、この世界の人間のレーヤなんだろ?
それに『夜空の実』をバラバラにしたのもレーヤ達だ。
だったら、『夜空の実』はこの世界の生き物でも集められるはずだろ?
それなのに、リスクの高い『召喚』の魔法を魔王達が使うとは思えないな」
「青い勇者君の言い方だと、魔王達からしたら『召喚』の魔法ってすっごく危険な魔法みたい聞こえるんだけど。
そこまで言うほど『召喚』の魔法って危険が伴う魔法なのかい?
ボクはそうは思わないんだけどな」
「私もです。
『夜空の実』を手に入れるのが異世界の方だけだと、まだ魔王達が思い込んでいるなら、『召喚』の魔法を狙うのはおかしな事ではないでしょう?
勇者様の仰るような危険も、私も思い当たりません」
「いや、あるだろう。
魔王達からしたら1番のリスクが。
それに魔王が今も『夜空の実』を異世界人しか手に入れられない、何って勘違いしたままなのもありえない」
何度もリスクがあるって言う田中に、キャラとルチアが心底不思議そうにそう言ってくる。
ルチアの言うような勘違いを5000年以上経った今も、魔王達がしてるなら。
唯一敵対したままのローズ国を滅ぼす方向で作戦を進めずに、あの手この手で手に入れようとしてる理由にもなる。
それに、キャラの言うとおり『召喚』の魔法が田中がそこまで違うって言うほどリスクのある魔法だとは思えない。
それなのに田中は『1番のリスク』があるって言う。
『1番のリスク』って一体何なんだ?
「いいか。
『召喚』の魔法は勇者の才能がある奴か、レーヤと同じ魂を持つ奴を呼び出す為の魔法だ。
つまり、俺達を誘惑して元の世界に追い返しても、『召喚』の魔法を使うと俺達をもう1度この世界に呼び寄せるかもしれないんだ。
やっと追い返せた、魔王の悪事を知っている俺達を、だ」
「あっ!」
「5000年前にあったその『召喚』の魔法道具なら兎も角、俺達を呼び出した『召喚』の魔法は、『勇者しか』呼べないんだ。
どうにか呼び出す世界を変えたって、来るのは魔王の天敵の勇者だけ。
その事も含めてあの男が気づいてないはず無いだろう?」
「あぁ、そうか。
アイツが居るなら、それもそうだな」
「あいつ?あいつとは誰なのですか、勇者様方」
俺と田中の言葉を聞いて、シアが首をかしげながら聞いてくる。
そう言えば昨日からパーティー入りしたシアだけは知らないんだったな、アイツの事。
水晶化対策本部の間ではアイツの事や、魔王のあの事が結構当たり前になっていたから、すっかり忘れてたぜ。
「実はな、俺達が『召喚』される少し前まで魔王達はこの国で冒険者をしてたんだ。
その時魔王達と一緒に行動していたのがアイツ。
ヒヅル国の男だ」
サマースノー村で最低野郎が言っていた、『魔王が依頼を受けてくれた』って言葉。
その事が気になった田中が、あの後キティと一緒に調べてくれたんだ。
で、分かったのは俺達が『召喚』される数ヶ月位前から、魔王とケット・シーが人間の振りして冒険者をしていたって事。
人間のフリをした魔王パーティーにはもう1人、『タカヤ』って名前の3、40代位のヒヅル国人の男も一緒に居た。
このヒヅル国の男がかなり頭がいいみたいで、この男を中心に色んな事件を解決してたんだよな。
コカトリスの毒の解毒剤とか、歩キノコの倒し方とか。
そう言うのを見つけたのもヒヅル国の男だし。
「・・・なんで・・・魔王が冒険者を」
「普通に考えれば情報収集の為だろうな」
心のそこから驚いたような顔で、驚きすぎて出ない声を振り絞ってそう聞いてくるシア。
目的はたぶん『夜空の実』の情報収集と、ローズ国民を少しずつ洗脳する為。
それで魔王自身が冒険者として活動していたのは、魔王が『本物の魔王』じゃないから、らしい。
ルチア達の話では魔王は男しかなれないそうだ。
けど、冒険者のフリをしていた魔王は俺達より少し下位の女の子だった。
依頼書の記録は、
『○○年○月○日 ●●時●●分 アーサーベル ギルド本部 入室』
とか、
『○○年○月○日 ●●時●●分 エヴィン草原地帯 冒険者登録番号××× ***と会話
会話内容 : 記録者 「~~~」
*** 「~~~~~~」 』
見たいに文字だけで記録される。
それに記録されるのは依頼書にサインした奴の行動や会話だけで、心の中や頭の中で考えるだけで口に出してない事は記録されない。
だから魔王やヒヅル国の男がどんな見た目か、詳しく分からないんだよな。
何回か魔王達を見かけたキティの話も合わせて、見た目とかに関する事で今の所分かてるのは、魔王もヒヅル国の男も黒髪黒目って事。
それと、ヒヅル国の男がかなり老け顔らしいって事位か?
「キティの話だと人間のフリをしていた時の魔王は、どこにでも居そうな普通の女の子ぽかったらしいし。
もしかしたら、シアも気づかない内にどっかですれ違ってたかもしれないぜ?」
「3、40代位の人の良さそうな小父さんと、黒髪の女の子。
それと、茶髪の見た目だけは良い俺達と同じ位の男。
その、親子っぽい3人組みだ。見覚え無いか?」
「・・・・・・・・・いいえ。
その様な人達で、印象に残ってるような人達は居ません」
魔王達はギルドに行ったり、買い物したり。
色々とエヴィン草原地帯近くの家から城の前の大通りを通ってたから、絶対ほぼ毎日教会の前を通ってるんだよな。
まぁ、でも。
パッと見この世界なら何処にでも居そうな見た目の3人組みだったみたいだし、シアが覚えていないのも仕方ないか。
 




