20,ルグの異世界講座 1時限目
俺が戻ってきたのを確認するとルグはホットハニージンジャーミルクを一口飲んで口を開いた。
「・・・・・・よし。
じゃあ、まず魔物と魔族について。
と、その前にサトウは『魔元素』って言葉聞いた事ある?」
「いや、無い」
「じゃぁ、『マナ』は?」
「それなら・・・」
そう言えば『マナ』って、ちょくちょく聞く単語だったな。
予想ではエネルギーとかオーラみたいな物だと思う。
「どう言う物かは聞いた?」
「いいや。
何か生き物が持つ見えないエネルギーとかオーラみたいなものだと思ってたけど、違うのか?」
「う~ん、半分正解で半分不正解。
『魔元素』又は『マナ』、大昔の言い方なら『魔力』って呼ばれるんだけど」
これ以上分割できず、目には見えない。
けど、この世界の何処にでもある、この世界の全てのモノを作り出している。
世界にとって必要不可欠な究極の要素の事。
そうルグは言った。
「だからオレ達の体や意識、この机、床、空気、空間、時間。
この世界にある、ありとあらゆるモノ全部が『魔元素』の集合体なんだ」
そう言ってルグは自分の体や俺、机、床を指差していく。
呼び方が違うだけで、ようは俺がいた世界で言うところの元素と同じ物なんだろう。
時間まで作れると言うと、俺達の世界の元素以上に凄いけど。
「人間が使う魔法も、人間からは『技』って呼ばれているオレたち魔族が使う魔法も原理は同じ。
あらゆる方法で空気中に漂っている『魔元素』を集めて、『魔元素』同士を結合させ1つの形、現象にしてるんだ。
ここまでは良いか?」
「俺がいた世界でも同じ様な物があるんだ。
だから、大丈夫。
専門的な事を言われなきゃ理解は出来るぞ」
つまり、『水』を造るのに水素2つと酸素1つくっつける為に電気を使うか、杖1本でやってのけるかの違いだろう。
中学の理科で習った事に置き換えれば何とか理解出来る。
だけど、もっと専門的な事や高校で習う事を言われると流石に難しい。
「そうなの?
なら、サトウの世界の『魔元素』って幾つある?」
「えーと確か・・・・・・・・・
水兵リーベ、僕の船。七曲るシップス、クラークか。
だから、水素、ヘリウム、
リチウム、ベリリウム・・・・・・」
声に出しながら指折り数えていく。
カルシウムまでは出たけど、その先が思い出せない。
あんなに必死に覚えたのにもう、忘れてしまった。
「多分、100以上は有ったはず」
「そんなにッ!?良く覚えてるな」
「ごめん、殆ど覚えて無い・・・・・・・・・」
そんなに有ったら覚えられないよ。
と項垂れる俺の肩にポンと手を置きルグは慰めてくれる。
「安心しろ!って言えるかどうか分からないけど、この世界の『魔元素』は6つだけだから覚え易いぞ~」
「そんなに少ないの!?」
「あぁ。
正確に言えば、この世にあるモノ、万物の数だけ種類があるんだ。
けど、27以上発見された時点で6つに分ける方法を提唱した魔法学者がその当時、ドンドン発見される魔元素の種類によって寝不足と疲労からイライラして
『こんなに調べられるかー!!覚えられるかー!!』
って、逆切れしてこの分類にしたって言われてる。
まぁ、今でも語られている都市伝説だから、本当かどうか分からないけどな」
その気持ち良く、良ーーーーーーく、分かります。
初めて元素周期表を見た時は、
「何の暗号?」
って本気で思った位だ。
「それで、今は大まかに火・水・地・風・光・闇の6つに分けられている」
火の魔元素は名前の通りの火や炎の他に熱などの魔法の元となり、
水の魔元素は水、氷、冷気などの魔法の元になる。
地の魔元素は土、木、岩、金属などの魔法の元で1番他の魔元素と結合しにくい元素。
逆に風の魔元素は他の元素と結合しやすい魔元素で、風や空気、空間などの魔法の元。
光は治癒や光、雷などキラキラした感じの良く分からない魔法の元で、
闇は毒や闇、時など光にもしにくい良く分からない魔法全般。
「そこから魔法の種類を火属性・水属性・地属性・風属性・光属性・闇属性に一応分けているんだけど、この分類ってのがすっごく曖昧なんだ。
見た目で其れっぽいなって、程度で分けられてるからな」
「言っちゃ悪いけど、其れだと役に立たなくない?」
俺の言葉にルグは苦笑いを浮かべながら頷いた。
「一般常識として軽く知ってる奴は多いと思う。
でも、日常的にこの分類を使うのは魔法学って言う、魔元素とか魔元素の結合反応によって起こる現象について調べる学問なんだけど。
その学問に携わる学者位しか使わないんだ」
「じゃぁ、余り気にしなくていいのか?」
「う~ん。サトウは冒険者なんだよな」
魔女のせいで冒険者以外出来ない事はルグにも、もう話した。
けど、確認する様に聞くルグに俺は頷く。
「それだと、魔法学の学者の依頼で出てくるかも知れないから覚えといた方がいいぞ。
例えば『闇属性の魔法の実験の素材を集めてきて』とか『火属性の技を使う魔物の討伐』とかって依頼が出る事あるから」
「ん、了解」
「ここまでで質問は?
無いなら魔物と魔族の説明するぞ?」
俺はもう1度、魔元素の説明を思い出しルグに次の説明を促した。
「まず、魔物。
多分、殆どの奴が魔物や魔族の正式な呼び方って知らないと思うけど、魔物は魔元素変換動物目に属する動物全般の事を言うんだ。
例えば、ジュエルワームは魔元素変換動物目カイコガ科シキサイカイコガ属ジュエルワーム種になるし、
さっきオレがなったネコは、魔元素変換動物目ネコ亜種科オオネコ属ヨツメネコ種になる。
それで、魔元素変換動物目の最初の文字と『動物』の『物』で『魔物』って略されて呼ばれているんだ。
その中で、一定以上の知能か、脳の大きさがある動物の事を魔族って分けて呼んでる」
つまりは、ヒトだって大まかに分ければ動物だけど、他の動物と何か一線分けて考えられている様なものなんだと思う。
「魔物が『魔元素変換動物目』って付けられた最大の理由は、体内に魔元素を溜め、空気中の魔元素と結合し易い魔元素に変換できる器官、『オーガン』を持っている事。
大昔の生物学の学者によると、魔元素が多い土地にいた動物が長い年月を経て進化したから、らしい」
なるほど。
魔元素を扱う器官だから、魔物のオーガンは魔法道具の素材にされていたのか。
あれ?
それって、
「えーと、つまり。
魔物って体内に魔法を使う道具の代わりの器官があって、それが無くなったり傷が付くと魔法が使えなくなるって事?」
「今の説明だとそうなるな。
後で説明するけど、魔物の種類によっては他の内臓とオーガンが複合している者もいて、そう言う種族にとってはオーガンは脳や心臓と同じ位大切な器官なんだ。
だから、傷が付いたり無くなると生きられない」
生きていても化石化、俺達の世界で言う所の植物状態になってしまう。
その上、この世界では延命治療の方法も回復させる方法もまだ見つかっていない。
そのためオーガンの負傷=死と言う認識がこの世界には有る。
そして、魔物のオーガンの『魔元素を溜め、魔法に変換できる』その性質から、人間によって魔法道具の素材の為に乱獲され、絶滅した種族もいるらしい。
「今の話は後で説明する事に需要な関わりがあるから、頭の片隅に置いといてくれよ」
「うん、分かった。それで、次は・・・」
「魔族の説明だ。
魔族はさっき言った様に魔物の中である一定以上知能がある動物の事。
魔族は魔元素変換動物目の魔元素変換有知能生命族に属してるんだ。
魔元素変換動物目と魔元素変換有知能生命族の間に○○科ってのが入って、○○科のところにはそれぞれの元になった動物の科かそれ+亜種が入る。
例えばオレ達ケット・シーは、魔元素変換動物目ネコ亜種科魔元素変換有知能生命族精霊ネコ属ケトシー種になるし、
魔族の中で有名な人間と同じ祖先から進化した悪魔は、魔元素変換動物目ヒト亜種科魔元素変換有知能生命族アクマ属アクマ種になる。
魔元素変換有知能生命族の最初と最後を略して魔族」
オーガンが無ければ動物、有れば魔物。
その中でオーガンが有って知能もある程度あるのが魔族、オーガンが無いけど知能が有るのが人間。
この世界では大きく分けてそう考えられている。
ルグの話を聞くと、俺が想像していたゲームや漫画に出てくる魔族や魔物と大分違う事が分かる。
ゲームの魔族は人間や神と敵対する邪悪で凶暴で恐ろしい『悪』の種族の総称だ。
魔物だってそうだ。
けど、この世界の魔族も魔物もただ変化する環境に合わせ進化していった。
生存競争を勝ち残っていった、人間や普通の動物と変わらない1種族。
ゲームの様に存在自体が『悪』と決め付ける事の出来ない存在だ。




