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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
209/498

69,裏切り勇者と水の宝 18箱目


「ねぇ、勇者君。

さっき、『親父の』って言ったよね。

って事は、勇者君のお父さんも誘拐された1人だったって事かい?」

「あぁ、そうだ。

親父も何とか助かった被害者の1人だった」

「だからお前もあの事件や神社の事知ってたんだな。

お前の方こそこう言う事件、興味なさそうなのにやけに詳しいから驚いてたんだ」

「田中も言ってただろ。

今も被害者の家族が神社にお参りに行くって。

今はそうでもないけど、小さい頃は俺も親父達に着いて毎年お参りに行ってたからな。

・・・忘れたくても忘れられないんだよ、あの事件は」


他の家もそうだと思うけど、25年経った今でも、あの事件の傷は全然癒えてないんだ。

関係ない人達の記憶からは、もうとっくのとうに消えてしまってるだろうし、俺達みたいなここ十数年内に生まれた世代は、そん事件があった事すら知らないだろう。


でも被害者達とその家族は、俺みたいに子供が生まれて。

その子供が事件に巻き込まれた時と同じ年になる位時間が経っても、事件の事を忘れずにいるんだ。


どんなに時間が経っても、忘れたくても忘れられない。


だから俺みたいにニュースとかあんまり興味のない奴でも、嫌でも知る事になるんだ。


「親父は、さ。

誘拐されてる間かなり酷い目に合わされていたけど、その通報で保護されて何とか生き残れたんだ。

怪我も沢山してたし血とかもスゴク出てたし。

助かった時はそのせいで気絶してて、あと少し見つかるのが遅かったら、死んでたかもしれないって言われたらしいぜ」

「高橋のお父さんも重傷者の1人だったのか。

確か半年以上目を覚まさなかった人もいたって聞いたけど、まさか・・・」

「いや、親父は直ぐに目を覚ましたぞ」


ただ、酷い後遺症が残っちまったけど・・・


「親父も俺と同じ剣道部員だったんだけどさ。

俺と違って中学の頃から期待されてて、1年ながらエース張ってて。

でもその時に負った怪我が原因で、もう剣道できなくなっちまったんだ・・・・・・」


頑張ってリハビリしたし、今はスゲー義手とかあるから日常生活や仕事する分には問題ない。

けど、好きな事ができなくなっちまったんだ。


アルバムの中のかっこよく竹刀を振るう昔の親父と、右足を引きずりながらお袋やじいちゃんの手伝いをする今の親父。

その2つの姿が頭の中をよぎる。


好きな事ができなくなった親父は、じいちゃんの後を継いで獣医になった。

足以外にも色々事件の後遺症があるけど、頑張って獣医の免許とって実家の病院を継いだんだ。

まぁ、継いだって言っても、親父はサポートがメインで、治療に来た動物達を見るのはお袋やじいちゃんなんだけどな。


「あの事件。

田中の親父さん達が見つけた親父達13人以外、全員死んじまってるだろ?」

「あぁ。

何かその宗教が行っていた危険な儀式や、麻薬なんかを使った新薬の実験の犠牲になって亡くなったらしいな。

そのせいで遺体すら残ってないとか・・・」

「・・・親父の友達や部活仲間も沢山死んでさ。

25年経った今でも、自分の腕や脚、切られた事じゃなくて。

自分が被害にあった事なんかじゃなくてさ。

親父は、仲間が死んだ事を気にしてんだと思う・・・」


だから今も、自分達が見つかった神社に良くお参りに行ってるんだ。

助からなかった同級生達を弔いに行ってるのか、それとも自分達が。

あの時点で唯一生き残った親友が、後遺症も無く助かる様に導いてくれた、その神社の神様にお礼を言いに行ってるのか。

着いて行っても何も言わない親父からは、察する事ができなかった。

でも、毎年その神社に行く親父の目は真剣そのもので。

親父が軽い気持ちでお参りしてる訳じゃない事だけは、俺でも分かるんだ。


「・・・・・・勇者様方の世界で起きた事件の事は、良く分かりました。

ですが、どうしてその事件の被害者と、ここに居た彼等が同一人物だと言えるのですか?

勇者様方の世界の事件の犯人は、ちゃんと裁かれているのではないのですか?」

「あの集団誘拐事件。

色々俺達の世界の普通じゃ。

俺達の世界の常識じゃ考えられないナゾが多く残ってるんだ」

「だけど、そのナゾは『異世界に召喚された』って考えれば大体解ける。

お前がこの人達を集団誘拐事件の被害者達だと思ったのは、そう言うことだろ?」

「あぁ」


墓を手で指しながら聞いてくる田中に俺は頷いた。


短い時間で他の教師や生徒に気づかれずに100人以上の人間を連れ去れたのも、


神社で見つかるまでどんなに探しても親父達の行方がちっとも分からなかった事も、


誰だか分からない沢山の死体も、


見たこともない動物の死体も、


俺達の世界じゃ持つ事ができない武器を持っていた事も。


全部、全部。

俺達と同じ様に異世界に『召喚』されたって考えらたら、納得できるんだ。

『召喚』の儀式魔法を使えば一瞬で人間を連れてこれるし、異世界に居たなら沢山の警察が動いても見つけられなかったのも分かる。

異世界の生き物の死体なら、見た事が無いのも調べても良く分からないのも納得できるし。

なにより、犯人達がこの世界の人間なら、あの時武器を持っていたのも納得できるだろ?


「ここに居たのが90年代位の矢野高校の生徒って考えれば、時代的にも一致すだろ?」

「あぁ。

それに、犯人達も何処の誰か、どんなに調べても分からなかったって話だ」


書類や記録上に全く存在しない人間。

それも犯人達がこの世界の人間だったって考えれば納得できる。


「この世界で5000年以上経っているのに、俺達の世界ではまだ25年しか経っていない。

それは、世界同士の時間の流れが違うって考えれば納得できる」

「だろ!?

でも、それでもおかしな事はあるんだよなぁ・・・」

「おかしな事、ですか?

それは、その・・・

その宗教の信者達が犯人だと言われてる事でしょうか?」

「いいや、違う」


まださっきのショックが抜け切らないのか。

やけに硬い表情で聞いてくるルチアに、俺は首を横に振ってそう言った。


田中も俺と同じ様に思ってるなら、集団誘拐事件がこの世界に『召喚』された結果起きたのは、ほぼ間違いないだろ。

俺達が知ってる『親父達を誘拐した犯人がカルト宗教の奴等』って理由は、異世界の存在を信じない俺達の世界の奴等。

例えば警察とか、被害にあった生徒や教師の家族とか。

そう言う人達が納得できるように、俺達の世界ならありえそうな感じに誤魔化した結果だと思う。

だから、おかしいのはその事じゃないんだ。

おかしいのは俺達を『召喚』したルチア達の様子と、集団誘拐事件の被害の大きさと残虐さ。

それが一致しない。


「25年前の事件は残酷すぎるんだよ。

25年前の矢野高校に居た4代目勇者か5代目勇者を『召喚』しようとして、他が巻き込まれた。

って言うには巻き込まれた人数が多すぎる。

俺達2人が同時に『召喚』されたのも珍しい事なんだろ?」

「・・・・・・はい」

「それなのに、100人以上が同時に『召喚』されたんだぜ?

おかしいだろ。

それに、巻き込まれた親父達は犯人達にスッゴク酷い事されたって言ってたんだ。

勇者じゃないからって、この世界の人達が自分達の都合で呼んだ異世界の奴等に酷い事するはずないだろう?」

「それは・・・・・」

「そうですね。

5000年前とはいえ、我々人間が多くの命を犠牲に、関係ない異世界の方まで『召喚』するとは思えません。

そして、この様な所に捨て置くような事も。

勇者様方の話を聞く限り、その犯人達はまるで、魔王や魔族の様な残虐な事をしています」


魔王や魔族の様に残虐、とそう言ったシア。

そう!

まさにその通りなんだよ!!

まるで魔王が『召喚』したみたいに、親父達は酷い目にあってるんだ。

それが俺が1番感じた違和感。

このナゾ、一体どんな真実が隠されてるんだ?


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