68,裏切り勇者と水の宝 17箱目
「わりぃ、遅くなった」
「いいえ、大丈夫です」
「こんなに時間がかかったんだから、何か見つけたんだよね、勇者君?」
「あぁ。お前達の方は?」
「これを見つけました、勇者様。
おそらく鳥かごの鍵です」
そう言ってルチアが見せてきたのは、鳥かごと同じ色とデザインの手の平に乗る位小さな鍵だった。
「ルチア達が見つけたって事は、鍵は墓の中に?」
「いいえ。
お墓に混じって、似たデザインの何も書かれていない柱がありましたので、その柱を調べたらこの鍵が埋め込まれていました」
「流石にコラル・リーフも墓荒らしはできなかったみたいでね。
その柱、お墓から少し離れた場所に建ってたよ」
「そっか・・・」
ルチアとキャラの言葉を聞いて、俺はホッと胸を撫で下ろした。
人間を裏切った7代目勇者でも、その位の良心は残っていたみたいだ。
もしかしたら自分と同じ異世界人の墓だったから、そこまで手荒な事ができなかったのかもな。
1歩間違えれば、自分もここに眠ってる人達と同じになっていたかもしれないって思って。
「それで、赤の勇者様の方は何を見つけたのですか?
青の勇者様は異世界の魔法道具を見つけたみたいですが・・・」
「異世界の魔法道具?」
「たぶん、ポケベルっていうやつだと思う。
実物見るの初めてだけど」
そう言って田中が見せてきたのは、オモチャみたいなこれまた手の平に乗る位小さな四角い機械。
長方形のかなり見にくい画面に、ボタンが幾つか。
確かにそれは昔のアニメやマンガでたまに出てくる、ポケベルってヤツに似ていた。
「ポケベルって、昔あったスマホみたいなヤツだろ?
使われてたのって80年代位だっけ?」
「いや、それより後じゃないか?
ガラケーが流行りだしたのって、確か俺達が生まれた辺りだったはず・・・
だからその前に流行ってたなら、たぶん90年代位じゃないか?」
「じゃあ、ポケベルって25年位前でも流行ってたって事だよな。
なら、やっぱこの人達って25年前の俺達の世界から召喚されたかもしれないんだ」
25年前、親父達が巻き込まれたあの事件。
あの事件は親父達が集団で異世界に召喚された結果、起きた事件だったのかもしれない。
いや、でもそれだとニュースとかで聞く事件と矛盾する、気がする。
とりあえず俺が見つけた事を伝えて、田中の意見も聞いてみるか。
「目標版に書かれてたんだけど、ここに居た人達、矢野高校の生徒みたいなんだ」
「矢野高校?矢野高校ってあの集団誘拐事件の?」
「そう、その矢野高校。
俺達が生まれるよりも前の事件なのに、田中もあの事件知ってたんだな」
「まぁ、近所だからな、矢野高校。
誘拐された生徒が見つかった神社なんって、キビの家の道を挟んだ隣にあるからな。
今でも俺達の地区じゃ有名な事件だし、毎年事件があった日には被害者の家族達が神社にお参りに来てるし」
「佐藤の家があそこって事は、田中の家ってあの酒屋?」
「そうそう」
「マジでスゲー近所じゃん!!」
まさかあの事件の現場近くに田中達が住んでた何って・・・
俺も親父に付き合って何回かお参りに行ってるけど、全然気づかなかった。
てか、田中の向かいの家って事は、佐藤って結構デカイ家に住んでたんだな。
やけにデカイ家が隣に建ってるなぁ、ってお参りに行く度に思ってたけど、あれが佐藤ん家かぁ。
デカイ庭とか畑とかもあったし、意外と佐藤って金持ち?
「佐藤んちってデカイ畑持ってるんだな。
家も広そうだし、スゲーじゃん!」
「・・・たぶん、お前が思ってる畑の殆どは、本家の畑だと思うぞ。
キビの家のは生垣はさんだ俺の家の方にあるのだけだ」
「それでもデカイって!!」
「あの、勇者様方?
そのヤノコウコウと言うのは一体・・・
それに、25年前に召喚されたと言うのも、どう言う意味でしょうか?」
佐藤の家の話で俺と田中が盛り上がっていると、ルチアが戸惑った顔で俺達を見ながらそう声を掛けてきた。
その近くには、不機嫌そうな表情のキャラと、ルチアと同じ様な顔でオロオロ俺達を交互に見るシアの姿。
俺と田中だけで盛り上がったせいで、話についてこれないルチア達を戸惑わせてしまったみたいだ。
ルチア達に順を追って説明する前に衝撃の新事実を知って、つい2人で盛り上がってしまった。
いけない、いけない。
今は佐藤の家の事はどうでもいいんだ。
話を戻さないと。
「わりぃ、わりぃ。
えっとだな、まず矢野高校は、俺達の世界にある学校なんだ。
俺達と同い年位の奴等が3年位通う学校の1つ」
「勇者君達の世界だと、その年でもまだ学校に通うんだね。
その学校で25年前、誘拐事件が起きた。
それも集団って事はミルみたいに1人だけじゃなくて、何人も」
「あぁ、そうだ。
1年生全員、100人以上が一気に誘拐された」
最初は現代の神隠し事件って騒がれた、矢野高校の集団誘拐事件。
実際はとあるカルト集団に誘拐されていたんだけどな。
「25年前の1学期の終業式の日、『黄バラの剣王が鳴らした鐘教』ってカルト宗教が、
「えっ!!」
え、って・・・どうしたんだ、ルチア?
シアもへんな顔になってるぞ?」
俺が説明しだして直ぐ、ルチアが心底驚いたような声を上げた。
それにシアも限界まで目と口を開いたようなマヌケな顔をしている。
一体ルチア達は何に驚いてるんだ?
「あの・・・今の・・・」
「今の?『黄バラの剣王が鳴らした鐘教』の事か?」
「はい・・・えっと・・・」
「・・・もしかして、おかしな言葉に翻訳されてるのか?」
「どうも、その様です・・・かなり、その・・・」
おかしな翻訳がされてるって考えた田中に、ルチアがシドロモドロに答える。
ルチア達の様子を見ると、かなり変な言葉に翻訳されてるみたいだ。
どんな言葉に翻訳されたかは分からないけど、聞いていていい気分がする言葉じゃないのは確かだな。
だったら『黄バラの剣王が鳴らした鐘教』って言わない方がいいか。
「じゃあ、宗教の名前はできるだけ出さないようにするな」
「・・・えぇ、はい。お願いします」
「それで、勇者君。話の続きは?」
「あぁ、それでな。
そのカルト宗教は、担任を含めた1年生全員を真昼間から誘拐して、1年生の教室3つ全部に見たこと無い動物や、何処の誰かも分からない死体を捨てていったんだ」
「それもご丁寧な事に、被害者と同じ人数分、死体はあった。
まるで誘拐された生徒や教師と、死体が入れ替わったみたいに、な」
「っ!」
あまりの残虐さにルチア達が息を呑む。
100人以上の人間を一気に誘拐して、変わりに同じ数の死体を教室に詰め込んだ。
なんって聞いたら、そりゃあ普通の感性の奴ならショックを受けない方がおかしいよな。
ルチア達が驚いたのも無理は無い。
「それから2週間後。
俺の家の近くにある神社で、13人だけ誘拐された生徒が見つかった。
発見された時、全員何処かしら怪我をしていて、その内5人は意識不明の重症状態だったらしい」
「その場には犯人のカルト宗教の奴らも居てさ。
神社の方が騒がしいって見に来た近所の奴が、誘拐された生徒の1人の助けを求める声を聞いて警察に通報したんだ。
それで、近くをパトロールしていた警察が駆けつけて、カルト宗教の奴等は逮捕された」
「あ。
その時通報したの、俺の両親と伯父さんらしいぞ。
一応言っておくけど、伯父さんはキビの父親の事だからな」
「マジか!
まさか田中の親父さん達が、親父の命の恩人だったなんてな。
全然知らなかったぜ」
田中の話では、当時大学生だった佐藤の親父さんが1番最初に親父達を見つけたらしい。
直ぐ近くの高校で大事件が起きたばかりで、子供をあまり外で遊ばせるな。
って言われていたのに、隣の神社で沢山の子供が騒いでる声がする。
その事が気になった佐藤のお祖母さんの代わりに、まず佐藤の親父さんが様子を見に行った。
そしたらボロボロの親父達と、オモチャに見えない剣や槍を持った変な格好の犯人達を発見したそうだ。
どうみても普通じゃない親父達を見た佐藤の親父さんは、まだ親父達にも犯人達にも気づかれてなかった事もあって、一度家に帰ってすぐに通報したらしい。
佐藤の親父さんから見たその時の親父達は、まさに犯人達に殺される寸前って感じだったらしくて。
当時高校生だった妹の田中のお袋さんに、まだ近くをパトロールしてるはずの警察を連れてくるよう言って、向かいに住む田中の親父さんを連れて親父達を助けに行った。
それだけ、犯人達はヤバかったって事なんだろうな。
この世界と違って武器を持ち歩くなんってできない俺達の世界で、この世界の人達と同じ様に犯人達全員が何かしらの武器を持っていたんだ。
だから、直ぐに助けに行かなきゃって思うのも仕方ないよな。
「一応の武器として父達が持ってきた竹箒が、スッパリ切られたって言ってたな。
母が警察を連れてくるのがあと少し遅かったら、父達も危なかった」
「うわぁ・・・凄い無茶したな、田中の親父さん達」
「箒持って戻ったら、生徒の1人に必死に助けを求められたらしい。
他は怪我や恐怖で声も出ない感じだったらしいからな。
格闘技とか習ってる訳でも喧嘩なれしてる訳でもない父達が頑張んないといけない位、危険な状況だったらしいぞ」
「そもそも箒で凶悪犯に挑むなよ」
「とっさに武器になりそうだって思ったのが、箒とちりとりだったらしい」
お土産ショップに置いてあるような模造刀やオモチャじゃなくて、本当に本当の真剣。
犯人達はそれを振り回して親父達を襲っていた。
そんな奴等にただの竹箒で挑むって、言っちゃ悪いけど田中の親父さん達は馬鹿なのか?
包丁とか、畑やってたなら鍬とか。
もっと武器になりそうなもの置いてあったはずだろ?
なのに何でよりによって掃除道具をチョイスするんだか。
戦いなれてない一般人でも、普通に考えてそのチョイスは可笑しいだろう。
 




