67,裏切り勇者と水の宝 16箱目
「あの、青の勇者様。
ここやお墓よりも沢山書かれていて、ここと違ってバラバラの形の文字の組み合わせで書かれていた場所があります。
そちらなら何か分かりませんか?」
「長い文が書かれていたって事か。
なら、あの人達の日記か、外に居る誰かに残したメッセージかもな」
「場所は?
近くにはそれっぽいものは見当たらないけど・・・」
「奥です。1番奥の壁に書かれています」
シアに案内された穴の奥。
確かにそこには沢山の文字が書かれていた。
日記や誰かのメッセージじゃなくて、ここから生きて抜け出す為の希望として書かれた文字が。
「『目標板
ここから出たらやりたい事・元の世界に帰ったらやりたい事を書く事!!』、っか・・・」
「色々書いてあるな。
『彼女を作る』とか、『東大合格!!』とか」
『帰ったら横山先輩に告白する! 伊藤 久美子』
『焼肉腹いっぱい食いたい! 奥原 学』
『全国3年間連続優勝!!
私居る間は絶対テニス部を優勝させ続けてみせます!
青木 智子』
みたいな元の世界に帰ってからやりたい事や、
『この世界で生きてるはずの紅太郎と再会して、今度こそちゃんと謝る 赤羽 空』
『愛を見つけて2人で元の世界に帰る 小松 翔平』
『清水の分まで絶対生きて、あいつの夢をかなえてやりたい
山本 優二』
みたいなここから出たらやりたい事が12人分。
名前と一緒に奥の壁一面を使って書かれていた。
その目標版に書かれた名前の中には、外の墓に書かれた名前もあって。
結局生き残れたのが、たった1人だけだと言う事が分かってしまった。
「『元の世界』って事は、やっぱこの人達は俺達と同じ異世界人だったんだな。
最後の1人位、ちゃんとここを出て夢を叶えてくれてると良いんだけど」
「・・・残念だけど、たぶん無理だったと思うぞ。
ここ、読んでみろよ」
何でそんなネガティブなこと言うんだよ。
と、思いつつ田中が指した。
うつ伏せにならないと書けない様な、地面ギリギリの壁に書かれた文字を読む。
そこに書かれた文字を読んで、田中が何でああ言ったのか分かった。
『ごめんごめんねこうたろうちゃんとあやまりたかったけどもう体うごかないのみんなしんじゃったわたし1人わたしももうしんじゃうへんなびょうきなっちゃった花もはいた体草生えてるもうたてない体みどりもうこうたろう会えないごめんねここに草生えてたらわたしこうたろうこうたろうこうたろうごめんごめんねこうたろうひどいこといっぱいいってごめんねまたこうたろうあいたかったちゃんとごめんねっていいたかったでもごめんありがとう大好きさようなら』
歪んで読みづらい、ひらがなだらけでグチャグチャの、『紅太郎』って奴に向けた、『赤羽 空』のメッセージ。
俺達と違って『赤羽 空』は、『状態保持SSS』のスキルを持っていなかったんだろう。
だからこの世界の病気になって、動かない体を引きずって最後に『紅太郎』へのメッセージを残した。
『赤羽 空』のここを出てやりやい事は、『紅太郎』に謝る事だったんだ。
喧嘩した事、すっごく後悔してたから、病気でボロボロの体に残った最後の力を振り絞って、このメッセージを残した。
「ルチア。
花を吐いて体から草が生える病気ってこの世界にあるのか?」
「あります。花なり病と言う病気です。
最初に赤い花を吐き出し、ダンダン体が草に変わって最後は真っ赤な花を咲かせて死んでしまう。
今でも原因不明で、治す方法が殆ど無い、難病です」
「そんなに重い病気に『赤羽 空』は掛かっちまったんだな。
異世界に来て病気になって、こんな暗くて寒い場所で1人で死んでいく。
どんなに辛くて怖かったんだろうな・・・・・・」
それでも『赤羽 空』は怖いとも助けてとも書かなかった。
ただ酷いこと言ってごめんっと、ちゃんと会って自分の口から謝りたかったと。
望んだのたったそれだけ。
心の中の恐怖を表に出さず、口で言えなかった『ごねんね』を書いた。
「・・・そもそも、この人達は何でこの世界に来たんだ?
いや、ここに書かれてる事を読むと、無理矢理連れて来られたみたいだけど」
「そうだよな。
勇者じゃないのに、なんで居るんだよって話だよな?
ルチア、何か分かるか?」
「・・・・・・いえ、流石にこれだけの情報では何も・・・」
頼られたのに答えられなかった申し訳なさからか、俺達から視線を反らしうつむく様にそう小さく答えるルチア。
『召喚』の魔法が使えるルチアなら何か分かるって思ったけど、流石に情報が少なすぎるか。
「もう少しここ調べてみようぜ。
もっと情報が出ればそこら辺も分かるかもしれないし」
「そうだな。
それに、鳥かごの鍵についても何も分かってないんだ。
調べて損は無い」
「んじゃあ、俺はもう少し目標版調べてみるわ」
「それなら、俺は墓の方を調べてくるか」
「いいえ、青の勇者様。外のお墓は私達で調べます。
異世界の文字が多く書かれているのは中の方ですし、異世界の流儀で弔われたものでも、お墓を調べるなら神官である私の方が適任かと」
確かに徹底的に墓を調べるなら、掘り返してまで調べないといけないもんな。
墓荒らしみたいな事しないといけないなら、俺達の世界には無い宗教の神官とはいえ、一応神職には変わりないシアが調べた方がいい。
逆に1度キャラとシアが調べていて、でも異世界の物が多くあるから全く意味が分からなかった中は、俺と田中が調べた方がいいだろう。
「そういう事なら、中は俺と田中で調べるから3人は外は頼んだ。」
「はい、勇者様」
「さっきも言ったけど、俺、ここら辺から調べるから、田中は入り口の方から頼む」
「あぁ、分かった。
それと、何か見つけても直ぐに呼ばなくていいからな。
後で見つけた物をまとめて話し合った方がいい」
「それなら、一通り調べ終わったら墓の前に集まろうぜ。
ルチア達もそれでいいか?」
「はい。勿論、大丈夫ですよ」
パッパッと探す場所を決めて、早速調べ始める。
『赤羽 空』のメッセージみたいに、かなり見つけにくい場所にも何か書かれてるかも知れないからな。
端から端まで良く見ないと。
「・・・少し暗いな。
田中!後何個か『ライト』出してくれないか?
こっち少し暗いんだ」
「ちょっと待ってろ。確か、ここに・・・
あぁ、あったあった。
『ライト』。ほら、これならお前でも持てるはずだ」
穴の外には光苔も生えてるし、田中が幾つか穴の中にも『ライト』の光の玉を浮かべている。
それでも俺が居る奥の方や端っこの方は薄暗くて、少し文字が見えにくいし調べにくい。
そう思ってもう少し田中に『ライト』増やせないか聞くと、何故か田中に『ライト』の光の玉が入ったランタンを渡された。
「ランタン?なんで?」
「わりぃけど、『ライト』も出せる数に限りがあるんだ。
外の方にも使ってるから、これ以上はちょっと、な」
「そういう事ならしかたないか。
じゃあ、ありがたく借りるな」
「どうぞ。明るさはこの位で大丈夫か?」
「OK。ちょうどいいぜ。サンキューな、田中」
『ライト』も無限に使える訳じゃないみたいだ。
結構な数を出せるみたいだけど、1度に出せる光の玉は今あるので限界ギリギリらしい。
田中の様子的にまだ出せるとは思うけど、いざって時の為に節約したいんだろう。
それが分かって、俺は田中からランタンを受け取った。
「さてと・・・・・・
あ、この人達、高校生だったのか」
目標版を端から読んでいって、『高山 茂』の目標に目が留まった。
『高山 茂』の目標は『矢野高校バスケ部を強豪校にする』事。
この『高山 茂』の目標で、ここに居た人達が『矢野』って高校の生徒だって事が分かった。
『東大合格』とか『先輩に告白』とか『テニス部を優勝に導く』とか。
他の目標も見てると、ここに居た人達が全員高校生だったんじゃないかと思えてくる。
流石に学年までは分からないけど。
「矢野・・・矢野・・・矢野ぉ・・・・・・あっ」
矢野高校って、どっかで聞いた事があるんだけどなぁ。
どこで聞いたか思い出そうと、矢野と声に出しながら頭を捻る。
それで思い出した。
確かGW辺りに先輩達が練習試合をした高校の名前だ。
強豪校って意味ならウチの方が上だけど、結構矢野高校も強い方で、先輩達の試合を見てるだけでもかなり勉強になったっけ。
・・・・・・いや、それだけじゃない。
自分が試合に出た訳でもない他校の事を、ここまで覚えてるんだ。
それ以外にも、何かあったはず。
「・・・・・・そうだ、親父の・・・」
そうだ!
親父の母校!!
それで、それでだ。
俺が親父の母校を知っていて、直ぐに思い出せたのは・・・
「高橋。まだかかりそうなら、そっち手伝うか?」
「っ!田中?お前の方こそ終わったのか?」
「終わったも何も、全員お前待ちだ」
後ろから急に田中に声を掛けられ、俺は慌てて振り返った。
もう調べ終わったのかと思ってそう聞くと、俺が考え込みすぎていて、その間に田中もルチア達も調べ終わってしまっていたらしい。
田中に言われて入り口を見れば、ルチア達も入り口から顔を覗かせ、俺が調べ終わるのを待っていた。
「わりぃ!俺の方も、もう大丈夫だ。
ただ少し考え事してただけだから」
「お前がそこまで考え込むって事は、何か凄い発見があったのか?」
「まぁ、ある意味な。
とりあえずルチア達もまってるし、外に出ようぜ」
「そうだな」
ある意味、これは凄い発見かもしれない。
時間的に田中達より調べていた時間は少なかっただろうし、目標版も調べきれていない気がする。
でも俺は、早くこの事伝えたかった。
それ位凄い発見だったんだ。




