64,裏切り勇者と水の宝 13箱目
「青い勇者君ッ!!1番安全な道は!?」
「こっちだ!!」
「違う!!そっちじゃない!!
1番数の多い方だ!
そっちに『水のオーブ』があるはずだッ!!!」
1番ダゴンの数が少ない道を行こうとする田中達を、俺は急いで止めた。
馬車の中でシアから聞いた話だと、『水のオーブ』があるのは『ダゴン達の縄張りの中心』。
『ダゴン達にとっても卵を産むための重要な場所』ってシアは言ってたんだ。
つまり、ダゴンが1番多い道を進むのが正解のはず!
「田中!1番ダゴンが多い道は!?」
「えっと・・・
3時、6時、11時の道だ!どれも同じ位多い!!」
「部屋の数や大きさは!?」
「出てる範囲だと、変わりない!!」
クッソ!
『水のオーブ』に繋がる道が絞れない。
他のダゴンが来るまでそんなに時間が無いのに・・・
何か、上の仕掛けみたいなヒントは無いのか!?
そう思って、俺の『スラッシュ』を耐えたダゴンの攻撃をかわしながら辺りを見回す。
「田中ぁ!!
11時の道ってこのダゴン達が出てきた道の事か!?」
「そうだ!!」
「そこだ!!11時の道だ!!」
よくよく見回すと、いくつかの穴の上には仕掛けの像と同じ動物が彫られていた。
そしてサルが彫られた穴の向かいにある、何の動物も彫られていない穴。
そこは最初に3匹のダゴンが出てきた穴だった。
サルが入り口を見つけてるなら、あの穴が正解なんだ!
「『スラッシュ』!!!
田中、『ウィンド』連発する準備しとけよ!?」
「もう、できてる!!」
「なら行くぞ!!『ジャンプ』!!」
「『ウィンド』!!」
『ジャンプ』と『ウィンド』を使って俺と田中を先頭に、空を飛びながら11時の道を進む。
11時の道を進み始めて数秒もしない内に、さっきまで戦っていたダゴン達よりも更に大きなダゴンの群れが現れた。
囮の為にその内の数匹を、俺の『スラッシュ』とキャラのブーメラン盾で攻撃して更に空を翔る。
時々仲間を踏み台にして攻撃してくるダゴンをかわしたり、受け流したり。
攻撃したりして少しの傷を負いながら、俺達は田中の案内に従って進み続けた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・
よ、ようやく・・・撒けた、のか?」
「みたい、だな・・・」
「はぁああああ・・・・・・
最後の部屋は死ぬかと思ったよ・・・」
休む暇の無い、スピード感満載の戦いだった。
怪我は酷いけど何とか全員生きて滑り込んだのは、冷凍庫の様に寒い部屋。
息を切らしながら地面に着いた、膝と手に冷気がまとわりつく。
他の場所よりも、この部屋は水のマナの量が多いみたいだ。
この部屋も仕掛けの部屋並みに広いみたいで、田中が何とか1つだけ出せた『ライト』の明かりじゃ入り口辺りの様子しか分からない。
でもこの1つ前にあった、絶望感ハンパない巨大ダゴンだらけの広い部屋とは正反対に、この部屋には1匹もダゴンが居ないみたいだ。
『ライト』の明かりが届いてる範囲どころか、俺の『心眼』で見える範囲にもダゴンや他の魔物の姿は一切無い。
それにこの部屋に入るまで執拗に俺達を追いかけていたダゴン達が、この部屋の入り口でピタリと止まってクルリと戻っていく。
水のマナが他より多い、魔物が近寄らない場所。
その事から、この部屋が『水のオーブ』がある場所だと分かった。
「『水の、オーブ』、は?」
「奥の方にあるみたいです。
ですが、その前に、回復魔法を掛けます、赤の勇者様。
酷いお怪我です」
「・・・わりぃ・・・頼んだ、シア」
「はい」
今まで魔法を温存していたシアが、俺に回復魔法を掛けてくれる。
何匹か倒せたけど、『ドロップ』アイテムを拾う暇さえなかった。
勿論、怪我を治す暇も。
今回は俺だけじゃなく、田中もキャラもボロボロだ。
逃げてもこれなら、ダゴン全部と戦ってたらどうなってたんだろうな?
「・・・あれ?火傷の痕も消えてる?」
田中の『キュア』より少しだけ時間が掛かったシアの回復魔法。
治してもらっておいてこんな事言うのもアレだけど、田中に『キュア』を掛けて貰った時や薬を使った時とは何か違う。
スッゴク気持ち悪いような、嫌な感じがずっとしてるんだよな。
上手く言葉にできないけど、何かゾワゾワした違和感だけがまだ続いてる感じ?
痛みはちゃんと無くなったけど、何時もと違う感じに俺は耐えられなくて、思わず自分の体を見回しまくった。
巨大ダゴンの群れとの戦いで負った傷は勿論消えている。
でもそれだけじゃなくて、田中やルチアでも消せないって言ってた、サマースノー村での戦いで負った幾つもの火傷や傷跡までも綺麗に消えていた。
「はい。
私の回復魔法は普通の薬や魔法では治せないような怪我の痕も治せるんです。
国王様からできる事なら、赤の勇者様の傷の痕も治すよう言われていましたので・・・
もしかして、何処か違和感があるのでしょうか?」
「まぁ、ちょっとな・・・」
「申し訳ありません、赤の勇者様!!
この魔法で傷跡を治すと、少し体に馴染むまで時間が掛かってしまうのです。
できるだけ赤の勇者様が違和感を感じないよう、細心の注意を払って魔法を掛けたのですが・・・
私が未熟なばかりに・・・誠に申し訳ありません!!」
「いや、いいって!そんな謝るなよ、シア。
消せないって言われてた痕消してくれただけ十分だからさ。
顔上げてくれよ。な?」
俺が違和感があるって言ったら、シアが真っ青な顔で土下座してきた。
シアは水のマナに覆われて痛いほど冷え切った岩肌に、勢い良く額をこすり付けたまま動かない。
そんなどうでもいい事で痛くて冷たい思いする必要ないだろ。
なにやってんだよ、シアは。
「ですが・・・」
「本当に大した事ないからさ!
シアも気にすんなって!!」
「ならば、せめて早く馴染むよう魔法を掛けます!!」
「えーと・・・・・・じゃあ、頼む」
「はい!お任せください!!」
ピョンっと顔を上げてサッと杖を構えるシア。
別に俺はこのままでも良かったんだけど、顔を上げたシアの目には説得が無理だと分かる強い意思が宿っていた。
まぁ、シアがやる気だし、違和感が消えるならいいか。
「ん?おい、キャラ!?
その血、どうしたんだ!!?」
「えっと・・・」
急にキャラの名前を呼んで叫んだ田中。
その声に弾かれる様に2人の方を見ると、目に見える傷が完全に治ったキャラの姿があった。
俺の方から見たらキャラが怪我をしてる様には見えない。
でも、田中の言葉が本当なら、今キャラは血が出てるはずだよな。
「どうしたんだ!?何があった!?」
「『キュア』掛けたのに、右腕から血流してる・・・」
「え!?大丈夫か、キャラ!!?」
少し離れた暗がりにいるキャラは、俺達に右腕を隠すように斜め横を向いたまま振り返ろうとしない。
場所的にキャラの右腕が見えるのは田中だけか。
でも、全神経集める位耳を澄ませば、キャラの方から微かにポタポタと何か水が落ちる音が聞こえてくる。
それに暗くて分かりづらいけど、キャラの足元だけ少しだけ地面の色が違う気がする。
暗がりに隠れようとしてるようなその態度的に、キャラが酷い怪我を隠してるのはたしかみたいだな。
「あー・・・そのー・・・これは、だねぇ・・・」
「あっ・・・わりぃ・・・
俺が治しきれなかったんだな・・・・・・
気づかなくって、本当にごめん・・・」
「あ、や、違うんだ青い勇者君!!
君が悪いんじゃない!!」
「いや、俺の・・・あぁ、違う。
今やらないといけないのは、そうじゃない。
キャラ、色々言わないといけない事はあるけど、まずはその傷直ぐ治すから。
少しジッとしててくれ。『キュア』」
謝ろうとしたのか、言い訳しようとしたのか。
何言いかけたか分からないけど、田中はキャラに『キュア』を掛ける事を優先したようだ。
まぁ、キャラを治す田中もボロボロなままなんだけどな。
「・・・わりぃ、キャラ。
かなり、治し切れてなかったな・・・
まだ、こんなに酷い傷が残ってたなんって・・・」
「大丈夫だよ、青い勇者君。
青い勇者君の方が酷い傷を負ってるのに、ボクを優先してくれたんだ。
痛いの我慢して直してくれたんだし、仕方ないよ」
「どう見たって、盾役のお前の方が重症だろ。
俺のこれは見た目が派手なだけで、傷自体は大した事ない。
掠り傷だけだ」
「青い勇者君は意地っ張りだねぇ。
そんな状態で強がってもカッコ良くないよ」
「カッコつけてない。事実を言っただけだ」
キャラの言うとおり、田中は痛みで上手く魔法が使えないみたいだ。
何時もと『キュア』の威力は変わらない様に見えるけど、分かりづらいだけで実際は威力が落ちてるのかもな。
田中の服やマントはかなりの数引き裂かれてるし、その引き裂かれた場所を中心に田中の血をすって服の殆どが色濃く変色してる。
額やほっぺからも血が流れたままなのを見ると、田中はまだ自分の治療をしてないみたいだ。
もしかしたら血を流しすぎて貧血気味なのかもしれない。
俺達に気づかせ無いように必死に強がってキャラの治療を優先してるけど、田中自身がキャラを治しきる前の倒れちまいそうだ。
「シア、俺はもういいから、田中とキャラ治してくれ」
「ですが・・・」
「私がお二人の治療します。
青い勇者様のお陰で先に自分の怪我は治せましたので、勇者様もご自身の怪我を治すことを優先してください」
少しずつ違和感は無くなってるけど、完全に無くすにはかなり時間が掛かるみたいだ。
俺に違和感を無くす魔法を掛け続けるシアに、俺より重症なままの2人の方を優先するよう言うと、渋い顔をされた。
そんなシアの思いを汲み取ったんだろうな。
田中が先に自分の怪我を治すよう言ったらしく、完全に傷が治ったルチアがそう言ってくる。
「そう言うことなら頼んだぜ、ルチア」
「はい」
田中とキャラの事はルチアに任せて、俺はこのままシアの治療が終わるの待つことにする。




