62,裏切り勇者と水の宝 11箱目
「それで、俺が水を入れたのは左が6回、右が4回。
合わせればちょうど10回だ。田中は?」
「確か・・・大体左右合わせて20回位だったと思う。
数えて入れてた訳じゃないから、どっちを何回動かしたかは覚えてないな。
でも、30はいってないはずだ」
「なら右と左、合わせて30回動かしたら天井が落ちてくるのか?
どっちか15回動かしたら落ちるとかだったら、もっと早くに落ちてきてたはずだし」
「両方合わせて上限がたったの30回か。
思ってたよりすくないね」
「だな」
キャラの言う通り、30回は少ないって。
せめて100回は好きに動かせないと、俺みたいなのはクリアできないぞ。
「あれ?
像の向き天井が落ちてくる前と変わってないかい?」
「あ、本当ですね。
確かコトリの像は右を向いていたはずです」
「・・・像の向き、俺が来た時の位置に戻ってるな」
「本当か、田中?」
「あぁ。
一応、最初の向きは全部メモしてあるからな」
俺が元の世界から持ってきた新品のノート。
この世界に来て結構直ぐの頃、シャーペンと一緒にボストンバッグに入れっぱなしにしていたのを、何かメモするものが欲しいって言った田中に渡したんだ。
俺はしばらく使う予定が無かったから渡したけど、それでもやっぱ田中がちゃんと使ってくれてると、ちょっと嬉しくなる。
「ほら、一緒だろ」
「えーと・・・・・・確かにぃ・・・同じ向きだな」
「はい、同じ向きですね」
そのノートには読みやすい綺麗な字と丸と矢印で、像の事が細かく書かれていた。
そのノートと像をなん度も見比べて、念の為にルチアと一緒に像の向きを確認する。
コトリ、ヒツジ、ヘビがネコの像の方を向いていて、
コウモリはどっちも左。
ヒツジはサルとネコの像と同じ入り口の方を向いている。
どれも田中が書いたノートの向きと完全に一緒だ。
俺達3人全員が同じ向きだって言ったんだし、全部リセットされたって思っていいだろう。
「バケツの方はどうだ?
全部最初の状態に戻っているなら、バケツも空になっていると思うんだけど・・・・・・」
「はい、青の勇者様の仰るってる通りです。
バケツの水は全部零れています」
「こっちも全部零れてるよー」
「じゃあ、やっぱ、トラップが発動すると全部元通りになるんだな」
俺達3人がノートを見ながら像を確認している間、キャラとシアがくぼみの方を調べていてくれた。
キャラが左で、シアが右。
その2人と田中の話だと、バケツの方も最初の状態に戻ってるみたいだ。
「マジで適当に動かして運良く、なんってさせない気なんだな。
必死に頭捻れってか。
マジで無駄に面倒なもん作ったな、7代目勇者は」
「なに言ってんだ、高橋。
『水のオーブ』を取られたくない7代目が、誰でも簡単に解ける仕掛けを作るはず無いだろ。
簡単に解ける仕掛けだったら、それこそ仕掛けを作るだけ無駄な努力だ」
「そりゃあー、分かってるけどさぁ。
文句位言わせてくれよー」
7代目勇者の立場から考えれば、クリアするのが難しい問題作るだろうけど。
解く身からしたら文句位は言いたい。
無駄に頭使わせるなよ!って。
「まぁ、勇者君の気持ちは分からないでもないけどね。
今更3000年前の人に文句を言っても仕方ないよ」
「それも分かってるから、口には出さないでくれよ、キャラ」
「ハハ。ごめん、ごめん。
でも、片方15回位で解けるんだろ?
意外と簡単に解けるかも知れないじゃないか。
ふて腐れずに頑張ろう、勇者君」
「15でも結構手数多いと思うけどな。
まぁ、俺なりに出来るだけやるけど」
キャラはそこまで難しくないって言うけど、パズルが苦手な俺からしたら十分難しいんだって。
パズルが得意なヤツからしたら、30回以内に正解するのって楽な方なのか?
俺からしたらありえない事だけど。
それでも先に進まなきゃいけないし、何時までもグダグダ言ってないで俺なりに頑張るか。
そう思って俺は、ちょっとだけ折れかけた心を立て直した。
「まずは正解の方向を考えようぜ」
「そうですね。
勇者様の言う通り、正解が分かれば動かす順番も分かりやすいと思います」
「それで、その正解のヒントがあのサルの像に彫られていた言葉なんだよね?
『沈み行く無謀な挑戦者は入口を見つけ、臆病な知恵ある者達は馬鹿を見る』って、一体どう言う意味なんだい?」
「単純に考えれば、全部サルの方見るようにすれば良いって事だよな?」
サルの像の台に彫られていた文字を思い出して、俺は思った事を口に出した。
頭脳担当のルチアと田中の様子を見ると、たぶん間違ってるとは思う。
けど、俺は他の像もサルの方を向かせれば入口が開くと思ったんだ。
「え?どうしてそう思うのですか、赤の勇者様?」
「んー、とな。
まずは、サルの像は他の像より低いだろ?
それで動かないネコの像はサルの像を見てる。
で、サルの像は俺達が入ってきた入口の方を見てるから、所々ヒントに近いなって思ってさ」
「いや、像の高さやネコの像の事は納得できるけど、ここから見たらあの『入口』は『出口』だろ?」
「でもさ、田中。小屋への『入口』でもあるだろ?」
確かに、サルの像から見たら俺達が入ってきた『入口』は、この広い空間から出る唯一の『出口』だ。
でも、あの先には洞窟の入口でもある小屋がある。
だから、あの『出口』は『小屋に入る為の入口』でもあるんだ。
そう考えると、『入り口を見つけ』って部分は合ってると思う。
「なるほど。そう考えれば、確かにその通りですね。
流石、勇者様です!
私ではそこに気づきませんでした!!」
「そうか?まぁ、とりあえず。
試しに全部サルの像の方向かせてみようぜ。
どうやったら出来るか分かんねぇけど!」
「はぁ・・・そこは人任せか?」
「だから言ってるじゃん。俺はパズル苦手なの!
バケツに水入れるのは任せてくれればいいからさ。
あー、つまりあれだ。
テキザイテキショだよ、テキザイテキショ」
答えが分からないと言いながら田中を見ると、呆れた顔をされた。
呆れられようと、苦手なものを直ぐ克服するのは勇者でも無理なんだよ!
問題の答えが一瞬で分かるスキルが作れるまでは諦めてくれ。
「そうですね。
赤の勇者様は魔物退治で1番頑張っていただきましたから、この仕掛けは私達で頑張りましょう!!」
「そう言う事だから、汚名返上チャンスふいにしちゃダメだよ青い勇者君!」
「・・・・・・さっきの事はもういいだろ。
それより、仕掛けを解く方に集中してくれ」
像の方を見る振りしてキャラから目を反らす田中。
田中なりに『ウォーター』が暴走した事を気にしてるみたいだ。
「左の像は全部右、右の像は全部左に向かせればいいんだな。
なら、最後に2番と5番にバケツを置いて、一気に向かせればいいって事だから・・・
えーと・・・まずは・・・・・・
3つ全部が上か下に向く様に動かして・・・・・・」
「でしたら、右側の像はここかここを動かしてみてはどうでしょうか?」
「あぁ、あるほど。だと次は・・・・・・」
直ぐに像を動かさず、ノートに色々書きながら話し合うルチアと田中。
早速頭脳担当組が本領を発揮しだした。
あの調子なら直ぐにでも答えが出るかもな。
一応、像の仕掛けの答えは、みてみんに投稿してあります。
興味のある方は、ぜひ見てください。




