61,裏切り勇者と水の宝 10箱目
「まぁ、でも。適当にやればその内正解するだろ」
「いや、それはやめておいた方がいい。
回数制限があるかもしれないからな。
こう言う仕掛けには、簡単に命を奪う様な危険なトラップがあるもしれないだろ?」
「確かに、コラル・リーフならそれ位やりそうだね」
「それに、さっきから探してるんだが、完全に初期位置に戻すスイッチとかが全く見つからないんだ。
お前達が来るまで適当に動かしてた俺が言うなって思うかも知れないけど、これ以上下手に動かし過ぎるのは危険だと思う」
「えー・・・・・・じゃあ、どうすんだよ。
俺、こう言うパズルみたいなの苦手なんだぞ?」
ゲームとかでこう言うパズル系のミニゲームが出た時は、何時も適当にやってクリアしてたんだぞ。
それも回数制限とか全く無いやつ。
田中達なら兎も角、そんな事言い出したら俺が全く役に立たないじゃんか!
「勇者君の言う通り、1回適当に動かしてみようよ。
もしかしたら、運よく入口が動くかもしれないしね」
「そうですね。
私達もちゃんと像が動くところを見たいです。
試しに動かしてみるという案には賛成です」
適当に動かすのは危険だと言う田中に、キャラとルチアがそう言う。
確かに田中に説明されただけで、俺達は像が動いてるところをちゃんと見てないんだ。
田中は仕掛けを動かして動くのは左右の像だけって言ったけど、もしかしたら田中が気づかなかっただけで、サルやネコの像にも何か変化があるかもしれない。
俺達も一緒にもう1度動いてるところを見たら、何か新しい発見があるかもな。
「・・・そう言う事なら、何箇所か動かしてみるか。
しっかり周りに注意しててくれよ?『ウォーター』」
「あ、田中。バケツに水入れるの俺がやろうか?」
分かれ道で失敗したからかなり力をセーブしているみたいで、田中はBB弾位の大きさの水の塊を少しずつバケツに入れている。
水属性の魔法が強化される場所だと、田中みたいに魔法の威力が強い奴は逆にこう言う細かい事が出来なくなるみたいだ。
だから俺は、コントロールが上手く出来なくて大変そうな田中の姿を見てそう言った。
「・・・・・・頼む」
「とりあえず、半分と全部1つずつ作ればいいよな?」
「あぁ・・・いや2つずつ頼めるか?」
「ん、了解」
田中も目に見えてる以上に大変だったみたいで、普段より早いタイミングで頷く。
そのまま地味過ぎるバケツに水を溜める係りが俺に決また。
キャラとシアは元々水属性の魔法を持ってないし、ルチアは田中と同じで水属性の魔法が強くなり過ぎて細かいコントロールが出来ない。
魔法の威力が元から弱い俺ならセーブしすぎて溜まるのに時間が掛かるって事も無いし、この中で1番適任なのが俺なんだよな。
まぁ、仕掛けの答えを考えるよりは、こっちの方が向いてるか。
「どーだー。何か他に動きありそうかー?」
「いや、無いね。
青い勇者君の言ってた通りの動きしかしてないよ」
「こちらも、聞いていた以上の変化はありません!」
「そっか・・・」
くぼみにバケツを全部戻してから、言われた通りに水を入れていく。
決めてた通りに水を入れ終わってから俺は、それぞれバラバラの所から像を見ていたルチア達にそう聞いた。
返ってきた答えは、田中が1人で試した時と変わりないというもの。
サルの像は絶対動かないし、ネコの像の下の入口は正解した時だけ開くと。
「ん?ヤベェ・・・
田中の言う通り、回数制限あるみたいだぜ。
上見てみろ」
「上ですか?・・・何も無いですよ、赤の勇者様?」
「違う!
仕掛けを動かすたびに天井、迫ってきてるんだよ!
ほら!!」
気づかないシアの為に、もう1個空のバケツに水を入れる。
水の重さ分、くぼみが下がりきってから一拍置いて、また少しだけ天井が音も無くゆっくり下がって来た。
下がってる天井には所々四角くくり抜かれてて、その穴がある場所はちょうどネコの像以外の像がある場所の真上。
穴はかなり大きいし、像を傷つけないようには出来ているみたいだな。
「申し訳ありません、勇者様。
上の方が暗過ぎて私には変化があるようには見えません」
「俺もだ。
一応聞くけど、お前の見間違いじゃないんだな?」
「あぁ、間違いないって」
ちょうどいい明るさで地面をちゃんと照らせるように、田中もそこまで高い場所に光の玉を置かなかったからな。
どうも下がってくる天井は、俺が思っていたよりも高い場所にまだあるみたいで、『心眼』が無いルチア達には見えないみたいだ。
それでも念の為に、ルチア達はここから離れさせた方がいいな。
次バケツの重さを変えたら、一気に天井が落ちてくるかもしれないし。
「わりぃけど天井のトラップ、1度リセットしたいから、あの道の真ん中くらいまで避難しててくれ。
そこまで行けば、安全だから」
「勇者様はどうなさるのですか?」
「像の所は穴が開いてるから、ヒツジかコトリの像の上に居れば大丈夫だ。
そこからバケツに水を入れる。
まぁ、いざって時は『ジャンプ』使って逃げるから、俺は大丈夫だって!」
この天井のトラップ。
この広い空間全部の天井が下がってる訳じゃないみたいだ。
トラップがあるのは俺達が今居る仕掛けの像が置かれてる小島みたいな所だけで、この空間の殆どの天井には変化が無い。
だから俺はルチア達に元来た道を戻るよう言った。
天井が完全に落ちた時の風圧の事も考えると、たぶんあの曲がりくねった道の真ん中辺りまで逃げれば大丈夫だと思う。
「・・・・・・無茶だけはするなよ」
「分かってるって!」
少しの間考えるそぶりを見せて、それだけ言うと田中はルチア達を連れて避難していった。
全員ちゃんと安全な場所まで逃げたのを確認して、俺も『ジャンプ』を使ってヒツジの像の上に向かう。
「『アクア』・・・『アクア』・・・
・・・『アクア』・・・ッ!!!」
「勇者様!!」
「大丈夫ですか赤の勇者様!!?」
心の中で数を数えながら、バケツに半分ずつ『アクア』の水を入れる。
俺が水を入れた回数がちょうど10回目になった時、ぶら下げていた糸が切れたみたいに天井が一気に落ちてきた。
ドンッ!!って地震が起きたような凄い音がして、天井と地面の間から土煙が溢れ出す。
その土煙の向こうから、ルチアとシアの焦った声が聞こえてきた。
「だ、ッう!ゲッホ・・・ゲッホ・・・」
その声に答えようとして土煙を思いっきり吸い込んじまって、たまらず俺は大丈夫って言う前に盛大に咳き込んでしまった。
あー、イガイガして喉が痛いし、口ん中もジャリジャリする!!
「高橋!!?何があった!?
本当に大丈夫なのか!!?」
「ゲホッ・・・・・・おー、大丈夫だ。
砂入って咽ただけだから、へーき、へーき」
「お怪我は無いのですね?」
「あぁ、怪我はしてないぜ」
「それなら良かったよ。
また勇者君があの時の様な大怪我したんじゃないかって、心配だったんだよ?」
「それは悪かったな。
見ての通り、何処にも傷何ってないだろ?」
天井が元に戻って、土煙も綺麗に無くなって。
それからちゃんと安全かどうか確認してから、俺はヒツジの像から降りた。
その頃になればルチア達も無事に戻ってきて、大げさなほど俺の心配をしてくる。
たぶん、サマースノー村のアレが軽いトラウマになってるんだろうな。
そんなルチア達を安心させる為に俺は、その場で回ったり跳ねたりして元気アピールをした。




