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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
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60,裏切り勇者と水の宝 9箱目


 たまに襲ってくる魔物を倒しつつ、広げた真ん中の道を真っ直ぐ進む。

分かれ道があっても真っ直ぐ突き進んで、ようやく中間地点の7代目勇者の仕掛けがある場所に着いた。


「本当にここが、7代目勇者の仕掛けがある場所でいいんだよな?」

「はい、赤の勇者様。

勇者様から聞いていた場所と全く同じですので、間違いありません」

「間違いありませんって・・・あのな、シア。

この無駄に広くて穴だらけの場所のどこに、仕掛けがあるって言うんだよ」


その場所は今まで通ってきた場所よりも全体的にヒンヤリしていた。

とくに足元は凍らないギリギリの冷たさの水溜りに足を突っ込んだみたいに、異常なほど湿っぽさと冷たさを感じる。

それで、入口近くから『心眼』を使って視える範囲だけでも、大きな体育館数棟分位の広さがあって、地面には所々大きさが違う穴が開いていた。

その穴は簡単に跨げる位小さいものから、ゾウでもストンと落ちそうなほど大きなものまである。


安全な足場が無いほど穴だらけって訳でも無いし、巨大な穴は数える位しかない。

でも、小屋から持ってきた魔法のランタンをかざしても底が全く見えてこない位、どの穴も深いんだ。

その直ぐにランプの光を飲み込んでしまう暗い穴は、もしドジって落ちたら空を飛べる魔法が有る俺達でも絶対生きて帰ってこれない。

って思わせる位の、本能的恐怖心をくすぐる様な深さがあって、まさに奈落の底って感じだ。

そんな穴が沢山開いているだけで、今視えてる範囲には仕掛けらしい仕掛けは何処にもなかった。


「まさか、この穴自体が仕掛け何って言わないよな?」

「いいえ。

何処かの壁際に、見たことも無い生き物を象った8体の像が置かれた場所があります。

その像がコラル・リーフの仕掛けで、『水のオーブ』に続く道の入り口です」

「壁沿いって言っても、此処からじゃ見えない壁の方が多いよ。

目印も無いのに動くのは危険じゃないのかい?

勇者君のスキルでもまだその像は視えないんだろ?」

「あぁ・・・

『心眼』で視える範囲にもそれっぽいものは無いな。

後今分かるのは、この先に『心眼』でも全部見えない位デカイ穴が開いてるって事位だ」


キャラの言う通り、入口からランタンの光で照らせる範囲にはシアが言うような像は見えなかった。

そもそもこのランタンの明るさじゃ、ほんの数m先も照らせないんだ。

俺と田中が空を飛んで探しても、明かりがこのランプだけじゃ、『心眼』の無い田中は殆ど何も見えないだろう。

もし7代目勇者が此処に空を飛べる奴用のトラップを仕掛けていたら、そんな状態の田中じゃ絶対避けれない。

それでもし、そのトラップのせいで田中が穴に落ちても、助けられるかどうか分からないんだ。

目的地も分からないままこの広い空間をさ迷うのは、地上でも空中でも危険だよな。


「もう少し、明るかったら探しやすいんだけどなぁ。

このランタン、もう少し明るく出来ないのか?」

「申し訳ありません、勇者様。これが限界です」

「そっか・・・じゃあ、俺が上から探してくる。

『ジャンプ』と『心眼』使えば、たぶん見つかるだろう」

「いや、1人で探すにはこの広さは無謀過ぎるだろ。

もう少し明るくしてみるから、高橋もルチア達と一緒に待っていてくれ」


また新しく魔法を作ったのか、右手首のリストバンドから出たウィンドウを見ながら田中がそう言ってきた。

田中の言葉から察するに、新しく作ったのはランタン代わりの魔法なんだろうな。

心の中で今持ってるランタンより明るくなる事を祈りつつ、『ウィンド』を使って飛び立った田中を見送る。


「『ライト』」

「うわっ!まぶしッ!!

田中、今度は明る過ぎだって!!」

「この位か?」


今さっき作ったばかりで上手くコントロール出来なかったみたいで、呪文を唱えてまず出てきたのは目を開けていられないほど輝くナニカ。

太陽みたいに直視したら目がダメになりそうな光を出した事を田中に言うと、ダンダン目蓋の裏の光が弱まっていく。

数秒経ってから目を馴らす様にゆっくり開けば、電気をつけた部屋の中のように周りが明るくなっていた。

その明るさの元を探せば、俺達の斜め上の方でプカプカ浮かぶ蛍光灯みたいに白く輝く光の玉。

それと、その玉を部屋内の空中に量産してる田中の姿が見えた。


「こんなもんで大丈夫か!?」

「十分だぜ、田中!!

直ぐそっち行くから、像の所で待っててくれ!!」

「分かった!!」


田中が明るくしてくれたおかげで、ようやく見えたシアの言っていた像。

入口から真っ直ぐ奥にあるその像はかなりでかいみたいで、遠く離れた入口からでもある事が分かった。

光の玉を出しながら像の近くまで行っていた田中に、そのまま像の近くで待っているよう叫んで、俺達も像の所に向かう。


「お待たせ、青い勇者君。何か分かったかい?」

「あぁ。

お前達が来るまでに入口を開けるための仕掛けと、その為のヒントらしいものは見つけた」


明るくなった事で分かったけど、入口から穴を避けるようにグネグネと像の所まで道が続いていた。

その道を残った4人で慎重に歩いて進んでいく。

それでようやく像の所に着いた時には、田中がある程度像を調べ終わった後だった。


「ヒント?何処に?」

「ここ。この猿の像の台の所だ」

「この生き物がサルだって言うのかい、青い勇者君?

ボクの知ってるサルとはかなり違うよ」

「ここにあるどの像も、俺達の世界の動物を象ってるんだ」

「まぁ、かなり可愛くデフォルメされてるけどな」


田中が見てる中心には他の像より1段低い、ジャージみたいな服を着たサルの像。

そのサルの像を囲むように、


ネコ、


コトリ、


コウモリ、


ウサギ、


ヘビ、


ヒツジの像が、それぞれ別々の方向を見て置かれていた。


サルの像の真後ろには壁に埋もれるように置かれた、真っ直ぐサルを見つめるネコの像。


そのネコの像の斜め横辺りから、他の動物の像が左右それぞれ3体ずつ置かれている。

右奥からコトリ、コウモリ、ウサギで、左奥からヒツジ、逆さまのコウモリ、ヘビの順。

どの動物もゆるくデフォルメされた可愛らしいキャラクターの姿で作られていて、裏切り者の7代目勇者が無機質な石でこれを作ったと思うと笑えてくる。

ギャップがヤバ過ぎるって。


「勇者様方の世界にはこの様な動物が居るのですね。

では、コラル・リーフが居た世界にも、勇者様方の世界と同じ様な動物が居たという事でしょうか?」

「だろうな。

なんでこんな風に作ったかは分からないけど」

「意外と7代目勇者の世界には、マジでこんな感じのネコやトリが居たりしてな!」

「それは・・・随分と可愛らしい世界だな。

話に聞いた7代目のイメージからは想像出来ないくらいの」


俺が冗談でそう言うと、田中も7代目勇者のギャップにやられたみたいだ。

笑いを堪え様としてるのか、変な顔になっている。


「今あんまり関係なさそうなコラル・リーフの世界の事は置いておいて。

今1番需要なのは入口を見つけるためのヒントについてだよ。

青い勇者君、それでそのサルの像には何って書いてあるんだい?」

「そうだったな。

ここには『沈み行く無謀な挑戦者は入り口を見つけ、臆病な知恵ある者達は馬鹿を見る』って書いてあるんだ」

「・・・それだけ?」

「あぁ」

「他の像には?」

「何も書いてないな」


たったそれだけの短過ぎるヒント。

確かに田中が言った通り、サルの像以外の像の台にはなにも書かれていなかった。

周りを良く見回しても、ボコボコと穴自体は沢山開いてるのに、俺達が入ってきた入り口以外には他の場所に繋がっていそうな穴はない。

でも、ネコの像の台の所に大きな切れ込みが入っていて、『ライズ』を使えば少しだけだけど動かす事が出来た。

そして他の像の方を見ていたルチア達の話だと、俺がその切れ込みを動かす度にサルとネコの像以外の像も少しだけ動いたらしい。

つまり、サルとネコ以外の像を正しく動かせば、この切れ込みが開くって事で、その為にはこの短いヒントを頼りに仕掛けを動かさないといけないって事か。


「で、像を動かすにはこのバケツを使えばいいって事だよな?」

「あぁ」


ネコの像の隣の壁には3つずつくぼみが開いていて、そのくぼみの底には四角く切れ込みが入っている。

そのくぼみの上にはそれぞれ、真ん中辺りに線が入った薄い灰色のバケツが置かれていた。

俺達が来るまで田中が色々試していたみたいで、そのバケツの1つには大量の雫が付いたままになっている。


「このバケツに水とかを入れて重さを変えれば、その重さの分切れ込みが沈んで、左右の像が90度ずつ動く」

「90度ですか?

えーと、つまり、4回この像を動かせば一周するって事ですよね?」

「あぁ、そう言うことだ。

でも、この仕掛けの構造上、一周はさせられない」


像が動く重さは3つ。


空の時と、


半分水が入った時と、


満杯の時。


それ以外の半端な重さだと動かないみたいだ。


「もちろん、バケツ自体をくぼみから退かしても動かない」

「くぼみと像の数が一緒だから、このくぼみ1つと像1つがそれぞれ繋がってるって事だよね?」

「いや、隣の像も一緒に動く。そうだな・・・

左端から数字をつけて、1番のくぼみが逆さまのコウモリとヘビ」


2番のくぼみがヒツジと逆さコウモリとヘビの左の像3つ全部動いて、


3番のくぼみがヒツジと逆さコウモリだけが動く。


右側も似た様な感じで、4番がコウモリとコトリ、


5番がウサギ、コウモ、コトリ、


6番がウサギとコウモリ。


そう1つ1つ指差しながら田中は説明していく。


「半分の時が左回転、満杯で右回転。

空にすればリセットだ。

そのくぼみの回転分が無かった事に出来る」

「えーと、なかなか複雑な仕掛けみたいですね。

正解するのはかなり難しそうです」

「そう言えば、先代様はこの仕掛けの答えを言ってなかったのかい、シアちゃん?」

「いいえ、聞いておりません。

勇者様は、これも勇者達への試練の1つだから、赤の勇者様方が自力で解かないと意味が無いと仰っておりました」


あえて俺達の為に答えは教えない、てか。

まぁ、先代勇者達も自力で解いたんだ。

俺達もこの位自力でどうにかしないと、魔族を完全に消す以前に魔王に勝つ事すら無理って事だよな。


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