58,裏切り勇者と水の宝 7箱目
グルリとベルエール山の北側に回り込んで見えたのは、初心者でも安全に登れるように綺麗に整えられた山道。
その山道を数十分位登り続けた所に地下への入り口がある。
普通、こう言う伝説のアイテムが隠されてる場所って、入り口も隠されてるはずだろ?
なのに、『水のオーブ』がある洞窟の入り口は、堂々とそこにあった。
在ったって言うか、ディスカバリー山脈の盗賊団のアジトみたいに改造されて、山小屋として利用されていたって言うのが正しいか。
「マジでシアの言ってた通りだな。
中も普通の小屋と変わらないし。
本当に此処が入り口なのか?」
「はい。そうですよ、赤の勇者様」
馬車の中でシアが、300年位前から洞窟の入り口が小屋になってるって言ってたけど、実物を見た今でもまだ信じられない。
外も中も石と木を使って、洞窟だとは思えない温かみのある小屋に改造されていた。
空間結晶を使ってないみたいだけど、中は十分広いし設備も色々そろってる。
しばらくの間誰も使わなかったみたいで少しホコリが溜まってる事を抜かせば、山小屋としてじゃなくて普通の家として十分使えそうな位だ。
これが伝説の宝が隠された洞窟の入り口ってありえないだろ。
「その看板が立てられた扉から洞窟に行けます」
「・・・確かに、この先が洞窟に繋がってるって書いてあるな」
シアが指差した小屋の1番奥。
そこには何処にでもありそうな木の扉と、その扉を通せんぼするみたいに立てられた看板があった。
田中が言った通り、看板にデカデカと書かれた、
『危険!!!』
って文字と、補足するように小さく書かれた、
『この先、洞窟あり』
の文字。
入口はこんなんだけど、本当にこの先に洞窟があるんだろうな。
「洞窟に入るなら、何が起きても自己責任、か。
分かりきった事態々書くなよな」
「それが分かってない奴が居たんだろ」
「そうですね。
普通の冒険者が行ける範囲にいる魔物は、ダーネアの様な初心者でも倒せる弱い魔物ばかりです。
ですがメテリスも居ますので、アーサーベルの地下水道と同じ様に洞窟の形が常に変わり続けています。
それなりの実力が無ければ、ここに帰る事すら出来ない可能性もあります」
空間結晶の元になるデッカイコウモリの姿をした魔物、メテリス。
ダーネアやスライムと同じ初心者でも倒せる弱い魔物だけど、不思議のダンジョを作り出せる、って厄介な能力を持っているらしい。
だからダンジョンに入り慣れた実力者か、マッピング系の魔法道具や魔法、スキルを持った奴じゃないと生きて帰るのはムリって事だ。
まぁ、どっちもある俺達なら間違いなく大丈夫だけど。
「ちょっと待て。
それってつまり、7代目の仕掛けの場所も『水のオーブ』の場所も移動してるって事だよな?」
「あ、そうか。
じゃあ、先代様が教えてくれた『水のオーブ』の場所も無駄だったて事だね」
「そんな事ありません!
メテリスが居るのはコラル・リーフの仕掛けの手前までですし、コラル・リーフの仕掛けがある場所にはこの小屋と同じ、魔物や動物避けの魔法が刻まれています!
どちらの場所も大昔から変わってません!!
勇者様の教えが無駄など・・・
例えあなた様でも、言わせて良い事と悪い事があります!!」
先代勇者を馬鹿にされたと思ったんだろう。
シアが田中とキャラに向かって怒鳴るようにそう言った。
そのシアの声に、2人のすぐ近くに居たルチアの肩も跳ねる。
自分が怒られた訳じゃないけど、あの声を聞いたら驚くよな。
「いや、そう言うつもりで言った訳じゃ・・・」
「ごめん、ごめん。ボクの言い方が悪かったよ。
次から気をつけるから、許してくれないかな?」
「・・・・・・分かっていただけたなら、いいです」
シアは、田中がそう聞いたらキャラが自分の言いたい事を察してそう言うだろうと分かっていて、あの質問をぶつけたと思い込んでいるらしい。
これは田中が不機嫌になるのも当然だ。
流石にこれは言いがかりが過ぎてるし、そんな事で怒鳴られた田中がかわいそう過ぎる。
そう思ってシアを注意しようとしたらその前に、文句を言おうとした田中の言葉を遮るようにキャラがシアに謝った。
シアはそのキャラの態度に不満がありそうな顔をするけど、何とか納得したみたいだ。
「シア、お前も田中に謝れ。
お前が先代勇者の事大好きなのは分かってるけど、流石に今のは酷い言いがかりだった」
「ッ!・・・申し訳ありません。言葉が過ぎました」
「別に。俺も気にしてないから」
「はい。申し訳ありません・・・」
「・・・・・・はぁ。
とりあえず、この先に行くのは明日にしようぜ」
シアが謝っても、ギスギスした空気は元に戻らなかった。
こんな状態で洞窟に入っても、ちゃんとチームワークが取れない。
時間も時間だし、今日はこの小屋に泊まって明日洞窟の攻略をする。
そう俺が提案すると、全員賛成してくれた。
まぁ、今のこの状態は誰がどう見ても危険なダンジョンに挑もうって言うパーティーの雰囲気じゃなかったもんな。
日を改めてダンジョンに挑もうって考えるのは、当然といえば当然か。
「まずはメシにするか」
「いいね!ボク、もうお腹ペコペコだよ!!」
「そうですね。
お夕飯にはちょうどいい時間ですから、私もいいと思います」
シアとは何回か会ってるけど、こうやって一緒に行動するのは初めてだ。
だからギスギスした雰囲気になったのは、お互いを知らなさ過ぎるのも原因の1つなんだと思う。
だったら美味い物でも食べながら、世間話でもすれば少しは仲良くなれるはず。
今までそうして上手くいってきたんだ。
今回もきっと何とか丸く収まると思う。
そう思ってメシにしようって言ったら、キャラとルチアが直ぐに頷いた。
でも俺達3人は料理をする為に動こうとは一切しない。
なにせ、俺達3人が料理しても、食材を無駄にするだけだからな。
「って事で。後は頼んだ、田中!」
「また、俺か」
「そりゃあ、田中がこの中で1番料理が上手いからな。
また半生や焦げたヤツになるかも知れないけど、それでいいなら俺達が作るぞ」
「やめろ。
科学兵器を仲間に食べさせようとするな。
無駄に『フレッシュ』を使わせる気か?」
「俺達の料理は毒じゃない!!
流石にそれはない!
・・・・・・はず・・・」
ロシアンルーレットって言われた成功率にムラが在り過ぎる俺に、
ローズ国のお姫様だからか料理経験がなくてダークマター製造機なルチア。
育った環境のせいで味覚オンチなキャラと、
キャラと同じで味覚オンチらしい激辛料理製造機のネイと、
2人に比べたらまだましだけどやっぱり味オンチなラム。
俺達のパーティーでまともに料理が出来るのは田中だけなんだよな。
だからなのか料理上手の田中からしたら、1番ましなラムを抜かして殺人料理四天王なんって不名誉なグループ名を付けられた俺達の料理は、そのグループ名通り殺人級に不味い物に感じるみたいだ。
でもな、殺人料理何って言われているけど、流石に毒にはなっていないはずだ!
ネイの料理はコーヒースプーンすり切り1杯の量で、田中が『フレッシュ』使うまで舌がバカになる威力があったけど!!
俺達3人はまだその域に行っていない!!!
「そうだよ、青い勇者君。
見るからに危険な色をした物を作ったネイちゃんとは違って、ボクは食べれる物は作ったじゃないか!!」
「作った本人しか食べれない酷い味付けだったせいで5人分無駄に作って、もったいないからって全部食べきってその後食い過ぎで腹壊した奴は何処のどいつだ?」
「・・・・・・・・・ネイちゃんはお腹壊して無いし。
一体誰の事だろうね?」
「お・ま・え・の・事だッ!キャラ!!」
勢い良く田中から目を反らすキャラ。
口ではああ言ってるけど、自分の料理で腹を壊して田中に『フレッシュ』をかけて貰った事はちゃんと覚えているみたいだ。
「っ、はぁああああああ・・・・・・・・・
キビ・・・お前の料理が恋しいよ・・・」
「なんだよ。
現実逃避したくなるほど、俺達の料理が酷いって言いたいのか?」
「やっと自覚したのか?
俺がこの中で1番上手いって言い出した時点で、自分の料理の壊滅さ位察して欲しかったな」
「時々は成功するんだから、まだ大丈夫だ!」
怒りと頭痛を息と共に出そうとしてるのか、深く深くため息を吐く田中。
田中はため息を吐き終わると同時に、何処か遠い目をして佐藤の名前を呼んだ。
田中の悪癖その2、佐藤エスケープが発動する位、俺達の料理を酷い物だって思っているみたいだ。
何度も言うけど、田中のハードルが高過ぎるだけで俺達の料理はそこまで酷くないからな!!
「とりあえずパッパと作るから、お前らは大人しく待っていろ」
「あの、勇者様。何か私に出来る事はありますか?
勇者様お1人に、この人数のお料理をお任せする訳にはいきませんので、微力ながらお手伝いさせていただきます」
「私も手伝える事があれば、お申し付けください」
「ありがとう、ルチア、シア。
でも、この人数のメシを作るだけなら俺1人で大丈夫だ」
手伝うって言った2人を断った田中の顔には、1プロセス1『キュア』&『フレッシュ』地獄に落とす気か?
と、堂々と書かれていた。
シアがどの位料理が出来るか分からないけど、ルチアが料理を手伝ったら絶対そうなる。
実際ルチアは食材を少し切っただけで、食材と一緒に左指全部切った事があるんだ。
あの大騒動を知ってる田中なら、下準備のサポートもやらせようとはしないよな。
シアの場合はどの位出来るのか分からないからってより、ギスギスしたばかりで気まずいから断ったんだろう。
「そうだな・・・・・・
メシにするには少し部屋が汚いか。
悪いけど、そこの自覚しない殺人コック2人と一緒に、部屋の掃除を頼めるか?」
「誰が殺人コックだ!
だから、俺達は毒何って作ってないって!!」
「そーだ、そーだ!!」
「口しか動かさないアホ2人がサボらないよう監視も頼んだぞ、ルチア」
「はい、勇者様」
「ムシすんなよ!!
後、サボったりもしないからな!!」
チラッと俺達の方を見てルチアにそう言うと、田中はキッチンがある部屋に入ってしまった。
その背中に向かって、
「異議あり!!」
って声高らかに言うけど、田中には効果が無い。
こうなったら田中が、
「お見それしました」
って言う位ピカピカのピッカピカに綺麗にしてやる!




