55,裏切り勇者と水の宝 4箱目
「今回ばかりは、二手に分かれるしかないか」
「はい、はい!!
じゃあ、わたしとラムおねーちゃんとキャラおにーちゃんでお留守番してる!」
ラムはルチアと同じ様に、バイオリンの音でのサーポートが出来るんだよな。
ルチアの様に俺達の能力上げれる曲を弾けるし、ある程度の魔物なら操ることが出来る。
それに、ルチアの『クラング』を底上げできる曲も弾けるんだ。
サポート役としてだけ見れば、結構優秀な方だろう。
でも、元々ラムは魔物と戦った事が無かったし、あんな事が無ければ一生魔物と戦う事もなかった。
だから俺達とラムの間には、数ヶ月たっても埋まらなさそうな実力の差が立ちふさがってるんだ。
今の俺達位の実力が無いと危険だって言う場所に連れて行くわけにはいかない。
それはネイにも言える事だ。
年のせいもあって、最近ネイは俺達に着いてこれなくなってきた。
体力も、攻撃力も、スピードも、魔法も。
全部、全部、求められてるレベルに達してないんだ。
いや、むしろ逆に、この年の子供にしては今までよく俺達に着いてこれた。
と、褒められるレベルなんじゃないか?
だけど、年齢の壁を超えられる実力がネイには無かった。
ネイ自身もその事に気づいてるみたいだけど、あの日ミルを守れなかった事がまだ吹っ切れてないからか。
ほんの少し前までネイは暴走ぎみって言えば良いような状態だった。
ネイだって沢山辛い思いをしてきたんだ。
当然今度こそ守りたいものをちゃんと守れるように、強くなりたいって思ってるはず。
でもその思いに、実力が追いついてこない。
その事がネイを必要以上に追い詰めてるみたいで、どう見てもネイじゃ敵わないって分かる敵に1人で突っ込んだり、事前に決めていた作戦を無視して動こうとしたり。
そう言う事が目立っていた。
それでちょっとした喧嘩みたいになったりもしたけど、まぁ、そのお陰かネイも落ち着いたみたいだ。
まぁ、そんな事があったから、ネイも今の自分が無理に着いて行っても足手まといになるだけだ。
って、思ったんだろうな。
ラム達と一緒に自分から残ると言ってくれた。
「う~ん・・・・・・
ごめんね、ネイちゃん。ボク、調べ物は無理かな。
だから、出来れば伝説の宝取りに行く方がいいんだ」
「えー・・・
じゃあ、ラムおねーちゃんとお留守番する!
いいよね、ラムおねーちゃん?」
「うん、いいよ。2人でお留守番しようか」
ネイは特にキャラとラムに懐いてるからな。
キャラとも一緒に留守番したかったみたいだ。
だけど、キャラには断られた。
まぁ、キャラは俺達と同じ位戦えるけど、本とか読むのは俺やネイと同じで苦手だからな。
キャラ本人からじゃなくて、アガサさん達から教えて貰ったから詳しくは知らないけど。
キャラはシャルル修道院に来るまで、ミルと一緒に家族に虐待されていたらしい。
そのせいで、それなりの年になるまで文字に触れる機会がなかった。
シャルル修道院で簡単な文字は習ったから、読めないことはないらしい。
けど、その習っている時に色々嫌な思いをしたらしくて、今も苦手みたいだ。
それでも生まれや育ちのせいで文字を読むのが苦手って理由がある分。
マンガやゲーム以外の読み物が完全に睡眠薬代わりの俺と、ジッと大人しく本を読んでる事が出来ないネイよりは、まだましなんだろうな。
そんなキャラの事だから、2人の護衛として残るなら兎も角、調べ物をしなくちゃいけないから断ったんだろう。
「・・・いいのか、ネイ?
残るって事は、調べ物するって事だぞ。
お前、文字読めるのか?」
「大丈夫だよ、青いおにーちゃん!
わたし、簡単なのなら読めるもん。
それに分からなかったら、ラムおねーちゃんや大人の人に聞くから平気!!」
「私もそこまでS文字が読める訳じゃないけど、ネイちゃんと頑張ります!」
「いや、そう言われると逆に不安なんだけど。
俺も残ろうか?」
俺達は『言語通訳・翻訳』のスキルがあるから違いが分からないけど、ローズ国の文字や言葉は2種類あるらしい。
1つはネイやキャラ、ラムが普段使ってる、ひらがなやカタカナの様な比較的簡単で一般的て言うか基本の文字。
もう1つはルチア達王族や貴族、魔法学の研究者や医者なんかの、そう言う1部の人間が使う漢字の様な複雑で難しい文字だ。
簡単な方の文字をB文字、難しい方の文字をS文字って言うらしくて。
キャラみたいに特殊な環境に居た訳じゃなければ、ネイ位の年の子供でも一応B文字は読む事が出来る。
てか、B文字だけ見れば、ローズ国の識字率ってかなり高いんだよな。
生粋のローズ国民でB文字を読めない、書けないって奴の方が珍しい位らしい。
で、問題はS文字の方。
小さな田舎村とは言っても村長の娘だったラムは少しだけS文字を読む事が出来る見たいだけど、ネイは全く読めない。
レーヤ達が書いた手紙とかなら兎も角。
レーヤ達に関わる物だけじゃなく、城にある殆どの本はS文字で書かれてるってルチアが言っていた。
ネイもラムもやる気はある見たいだけど、そもそも調べないといけない本を読む事ができないんだよな。
田中が心配して残るって言うのも無理は無い。
だけど、田中が残るって案は先代勇者に却下された。
「いや、勇者の2人には伝説の宝の方に行って貰いたい。
これ以上の失敗は許されないんだ。
だからこそ、伝説の宝は何が何でも、絶対に手に入れなくてはいけない。
元々危険な場所にあって、魔王が残りの伝説の宝も狙っているなら、実力がある君達2人は必ず行ってもらわないと困るんだ」
「そう言うことでしたら、私が残りましょうか?」
「いや、姫さんもダメだ。
いざって時に姫さんのサポートが無くて負けたってなったら困るからね」
「そうだな。
バランス的にもルチアが居てくれないと。
まぁ、贅沢言えばこっちのチームにはもう1人位、回復専門の奴が居てくれた方が助かるんだけどな」
1番単純な攻撃力が高い物理アタッカーの俺に、
回復役兼魔法アタッカーの田中、
成長して『クラング』で同時に色々サポートできる様になったルチアに、
動きまくってガードする以外に遠距離攻撃も出来るタンクのキャラ、
俺と同じ物理アタッカーのネイと、
特殊なサポート役のラム。
俺達のパーティーはそんな感じだ。
最近の戦い方だと、ラムが魔物の動きを抑えて、ルチアが『クラング』を使って俺達の能力を上げる。
俺とネイがドンドン攻撃して、状況に応じて田中が魔法で遠距離攻撃したり回復魔法掛けたり。
キャラもルチアとラムを守りつつ、必要だったら2つ目の盾で攻撃って感じだ。
どんな敵が1度にどんだけ出てくるか分からないし、今回はネイが居ないから田中にも攻撃役をしてもらいたい。
だけど歴代勇者達が苦戦する位の強敵がドバドバ出るなら、ルチア1人に回復役を任せるのは荷が重いだろう。
回復魔法持ち3人目のラムも留守番組なら、変わりに回復専門の奴が居てくれないとな。
「そう言うことなら、シアを連れて行くといい。
彼女は移転型の回復魔法が使えるからな。
構わないな、シア?」
「ん・・・・・・
はい・・・かしこまりました、勇者様。
その任、謹んでお受けいたします」
いきなり話を振られ驚いたのか。
少し間を置いて、やりすぎだって思うくらい恭しく勇者像に頭を下げるシア。
そして俺達に向き直ってもう1度頭を下げる。
「勇者様方、ルチアナ様。
改めまして、私共の依頼、快く受けていただきありがとうございます。
不束者ですが、同行させいただきます。
よろしくお願いします」
「よろしくな、シア。
後、前にも言ったけどそんなに畏まらなくていいぜ」
「はい、赤の勇者様。貴方様のお心のままに」
「いや、だから堅いって」
「あ。すみません。次から、気をつけます」
今まで会った人達の中でも1番堅苦しい話し方をするシアに、何かムズ痒い物を感じて俺はそう言った。
自分達が祭ってる勇者の俺達に対して、緊張してるからこんな話し方なんだと最初は思っていたけど、たぶん違う。
シアに会う度にそう言ってるけど、中々直らないんだ。
たぶんシアのこの話し方は癖なんだろうな。
「それで、ネイちゃんとラムちゃんの方はどうするんだい?
言っておくけど、ボクはちょっと前にB文字を覚えたばかりだから戦力外だよ。
だからネイちゃんの誘いを断ったんだけど」
「分かってるって。
後、そもそもキャラもこっち来て貰わないと困るからな。
元々伝説の宝チームに入ってるって」
「だけど、S文字をまともに読めない2人だけに任せるわけにもいかないだろ。
そこはどうする気だ?」
「そうだなぁ・・・・・・
なぁ、ルチア。
確か、シャルとダンはS文字読めたんだよな?」
「はい。
2人共勇者様のサポートの為にもS文字は覚えさせています」
「じゃあ、2人が戻ってきたら、ネイとラムを手伝ってもらえないか?」
何事も無ければ明日、定期報告と補給の為にシャルとダンが城に戻ってくるはずだ。
今2人にはミル達以外の『レジスタンス』のメンバーがローズ国に残ってないか調べてもらっている。
一旦その仕事を休んでもらって、ネイとラムを手伝って貰えないか、って考えてるんだけど、ダメか?
俺達4人が伝説の宝の方に行くなら、他にS文字が読めて頼れそうな奴が思い浮かばないんだよ。
「シャルとダンにですか?
なるほど、その手がありましたね。
分かりました、その様に指示を出しておきます」
「頼んだぞ、ルチア」
「はい、勇者様」
直ぐに通信鏡を取り出し、シャルとダンに指示を出すルチア。
通信鏡から聞こえる声からすると、今2人はウイミィの近くに居るらしく。
1度アガサさんの所に寄って、関係ありそうな文献や本を借りてから戻ってくるみたいだ。
「て、事で。ネイ、ラム。
シャルとダンが手伝ってくれると思うから、4人で『夜空の実』の調査、頼めるか?」
「うん、分かった!
ラムおねーちゃんはシャルおにーちゃん達に会うの、初めてだよね?」
「うん、直接会うのは初めてかな?
でも、通信鏡越しには話した事あるよ」
「そうだっけ?あっ、でも、安心してね!!
シャルおにーちゃん達がラムおねーちゃんをイジメようとしたら、わたしが守るから!」
「えっと・・・ありがとう、ネイちゃん」
シャルは何って言うか、犬みたいな奴なんだよな。
懐いてるルチアや俺達には明るく素直なんだけど、それ以外には冷たいって言うかツンツンした感じ。
まさに飼い主意外には吠えまくる犬って感じなんだよ。
だから、ネイの中のシャルのイメージは『意地悪なお兄さん』だし、無口すぎるダンも怖いイメージがあるみたいだ。
そのせいでネイは、ラムを守るって言い出したんだろうな。
本気でラムを守ろうとやる気に満ちた目でネイにそう言われたラムは、少し困ったような笑顔を浮かべ礼を言った。
ちょっと性格に難があるけどシャルもダンも悪い奴じゃ無いって分かってるラムは、善意100%でそう言うネイの事も怒ることができず。
数秒悩んで、結局そう言う態度になったんだろうな。
「とりあえず今日は、準備と休息に専念するぞ。
特に高橋。お前はしっかり休む事!!」
「はい、はい。分かってるって。
そんなに心配しなくても大人しくしてるよ。
じゃあ、シア。また明日な」
「はい、赤の勇者様。皆さん。お休みなさい」
今まで1番危険だって分かってる場所に行くんだ。
準備は念入りにしないとな。
とりあえず先代勇者の話は終わったと思った俺達は、教会を後にした。




