50,爆煙を突き抜けて
今まで投げられ続けたタバコ野郎の長針から出た毒の煙同士が、何かとんでもない反応を起こしてるのか。
タバコ野郎が最後に投げた針が地面に刺さった瞬間、えげつない威力の爆発が起きた。
まるで俺達の周りに見えない爆弾がいくつも浮いてるみたいだ。
1つの爆発が他の爆発を誘って、何時までたっても爆発が収まらない。
「『アサイラム』!!!」
2つ目の爆発が起きる前には田中が俺達全員を近くに集めて『アサイラム』を掛けたから、全員爆発に巻き込まれずにすんでいる。
でも、あと少し田中の魔法が遅かったら、俺達全員原型を留めない位バラバラになっていただろうな。
「クソッ!どっちがミル達が居た方だ!!?」
爆煙と爆発で舞い上がった土煙が俺達の視界を奪う。
その分厚い煙と、急いで田中の所に行ったせいで方向感覚がグチャグチャになった。
俺は今どっちを向いてるんだ?
ミル達や村はどっちだ?
それに、安全な場所に隠れてるはずのネイとラムは?
こんなとんでもない爆発が起きる何って思ってもいなかっただろうし、2人は無事爆発の被害に遭わない所まで逃げれたのか?
「居た!ネイとラムは無事だ!!」
目を瞑って『心眼』のスキルに集中する。
そうすると真っ暗な世界の中、ルチア達や周りの草の輪郭が青白く浮き上がって、煙が晴れた世界が視えだした。
その世界の中でまず見えたのは、『心眼』のスキルがギリギリ届く様な、かなり遠い場所まで逃げたネイとラムの姿。
輪郭だけだから表情や怪我をしてるかどうかは分からない。
でも、何処かを押さえてる様なポーズはしていないし、倒れてるわけでもない。
だからたぶん、2人共無事何だと思う。
「ネイ達があっちで・・・村がこっちか・・・
だと、ミル達は・・・・・・」
「勇者君!ミルは!?
ミルは見つかったんだよね!!?
今はどうなってるの!!?無事なんだよね!!!」
「ちょ、キャラ!!落ち着け!
ミル達はまだ見つかってな・・・居た!!上だ!
てか、何だあのダチョウは!!?」
辺りを見回してもミル達の姿は見えない。
爆発が起きてまだ1分どころか、30秒もたっていないはず。
だから逃げたとしてもそこまで遠くには行ってないはずなんだけど、『心眼』のスキルが見える範囲にミル達の姿が無かった。
何か魔法を使って、もう飛行船に乗り込んじまったのかと上を見上げれば、俺達の直ぐ真上を横切る様に飛行船に向かって飛ぶ、ダチョウみたい鳥の姿。
輪郭からして2m近くありそう大きな体とかはほぼ空飛ぶダチョウって感じなのに、足と嘴がダチョウとはかなり違っていた。
体に比べたら折れそうなほど長細い脚は、猛禽類の様な鋭く丈夫な爪を備えてる。
突かれたら絶対痛いって分かる、タバコ野郎が使っていた長針の様な鋭い嘴も、ダチョウと違って結構長い。
「あのタバコ野郎、魔族だったみたいだ!!
ダチョウっぽい鳥の姿でミル達掴んで飛んでる!!」
鳥はそのガッシリした爪で小さな動物を捕まえるみたいに、ミルと美女を掴んでいた。
でも、鳥に捕まえられて飛行船に向かってるのはミルと美女だけで、タバコ野郎の姿は何処にも居ない。
タバコ野郎だけは別ルートで逃げた可能性も、確かにあるっちゃある。
けどその鳥が器用にタバコ野郎が銜えていたタバコと同じ、細めのシガレットを銜えていたから、俺はその鳥の正体がタバコ野郎だって直ぐに分かった。
太目のシガーやキセルっぽい形の道具を使ってタバコを吸うのが主流のこの世界で、タバコ野郎だけはシガレットを吸ってたんだ。
間違えるはず無いだろう!!
「ダチョウって事は、人間と同じ位の大きさの鳥の魔族って事だな。
ルチア、その位大きな鳥の姿をした魔族って何か分かるか?」
「恐らく、ハーピーがグリフォンだと思います。
下半身が鳥で上半身や顔が人間に近い姿をしていれば、ハーピーです!」
「だったらグリフォンか!?
コカトリスとかロックバードとか、ああいう感じで完全に鳥の姿してるからな!!」
「えッ!?」
田中の質問に答えたルチアの言葉を聞いて俺がそう言うと、ルチアの驚く声が響いた。
鳥の魔族ならハーピーかグリフォンだって言ったのはルチアなのに、何驚いてるんだ?
もしかして、グリフォンじゃなくてハーピーの方だったか?
輪郭だけだから分からないだけで、顔はかなり人間に近いのか?
「あの、勇者様。
その魔族はコカトリス等に似た姿をしてるのですか?」
「あ、あぁ。
こう、空飛んでてさ。
嘴が結構長くて、細い足の爪でミル達掴んで運んでる感じだな」
「ほ、本当にこんな・・・・・・
こんな姿の魔族、見たことも聞いた事もありません!!」
「はぁあ!?」
いったん目を開いて、草のナイフを使って俺が見た魔族姿のタバコ野郎の姿を地面描く。
輪郭だけだけど、かなり上手く描けた。
だけど、それを見たルチアが唖然とした声で叫ぶ。
魔王に対抗する為に魔族や魔物にも詳しいルチアが知らないって事は、タバコ野郎はつい最近魔王に作られた新種の魔族って事か。
今分かるのは鳥の姿をしていて、毒や爆薬を扱えるって事だけ。
他にどんな隠し玉持ってんだか。
思ってた以上に厄介な相手だったんだな、タバコ野郎。
「スマホで撮ったら・・・って。
あー、クソッ!まだ爆発してんだった!!」
『心眼』使ってた時は煙は見えなくなるし、田中の『アサイラム』で爆発音もかなり遮られている。
だからまだ爆発が続いてる事に気づかなかった。
あー、もう!!
本当、何時まで爆発し続ける気だよ!!
とっとと終わんなきゃ、俺の『ジャンプ』でも届かない所まで、ミル達が完全に逃げちまう!!
「本当、ふざけんなよ!!」
「馬鹿ッ!動くな、高橋!!
咄嗟に使ったから、コントロールが上手くいかないんだ!!
それ以上結界に近づいたら、爆発に巻き込まれる!!
気をつけろ!!!」
「わ、分かった・・・
いや、それよりミル達がッ!!」
初めて『アサイラム』を使った時のように、大粒の汗を流し続ける田中が叫ぶ。
あの時と違って喋りまくれる余裕はあるみたいだけど、かなりレベルの上がった今でもこの状態なんだ。
本当に田中の余裕は無いんだな。
そんな状態になりながらも、田中が俺達を守ろうとしてくれてるのは分かってる。
でも、何度も何度も敵を逃がす訳にはいかないんだ!!
「勇者様、上です!上なら殆ど爆発していません!!」
「本当か、ルチア!
田中、一瞬。ほんの一瞬で良い。
『アサイラム』を解けるか?」
「出来なくは無いけど・・・いいのか、高橋?
お前がやろうとしてる事は、かなり危険な事なんだぞ?」
「分かってる。でも、あいつらまで逃がせるかよ!」
俺がやろうとしてる事を瞬時に理解して、田中がそう言ってくる。
毒の煙が重めの気体だったからか、上に行くほど爆発は少ない。
でも、全く爆発してない訳でもないんだ。
タイミングを間違えれば、俺達全員が爆死しちまうんだ。
そのリスクを負ってでも、今ミル達を逃がす訳にはいかない。
だから、俺は行くんだ。
「分かった。
ルチア直ぐに『クラング』を使ってくれ。
ルチアの『クラング』が始まったら、俺も直ぐに『アサイラム』に穴を開ける。
タイミングを間違うなよ、高橋」
「勿論!絶対間違えないぜ!」
「青い勇者君。
出来るだけ、勇者君を高く上げればいいんだよね?
だったら、ボクの出番かな」
「そうだな。この真上だ。出来るか?」
「ボクを誰だと思ってるんだい?
その位、お安い御用さ!」
俺の覚悟が伝わったのか、皆が俺をミル達の元に送ろうと動いてくれている。
だから俺もルチアの魔方陣が完成するまでのわずかな時間で、丈夫な素材で剣を作り直して傷も出来るだけ回復させた。
「高橋!今だ!!」
「来い、勇者君!!!」
「『ライズ』!『ジャンプ』!!!」
魔方陣が完成してルチアが息を吸う。
その瞬間思いっきり足に力を込めてキャラの盾に飛び乗り、攻撃を受け流すようにキャラが俺を真上に打ち上げた瞬間。
俺も『ライズ』と、ルチアの『クラング』で強化した『ジャンプ』を使って真上に飛び上がった。
「『ウィンド』!」
「いっけぇええええええええええええええ!!!!
勇者君!!ミルを、ミルを頼んだっ!!!」
ルチアのサポートが俺を高く飛ばしてくれる。
田中の『ウィンド』が俺を爆発から守ってくれる。
キャラの声援が俺の背中を押してくれる!
「う、おりゃああああああああああああ!!!
『ジャアアアアアアアアアアンプ』ッ!!!!!!」
そのお陰で爆煙渦巻く爆弾ゾーンから抜け出せた。
その勢いのまま『ジャンプ』を使いまくってミル達を追いかける。




