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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1 章 体験版編
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18,夕飯 


 俺の大声で起こされ状況が理解できず目を白黒させるネコを急かし、怒涛の勢いで屋敷を徹底的に奇麗にした。

仮眠を取って、『ミドリの手』で出した果物や野菜を齧って、近くの小川で身を清め、丸々3日。

まだまだ造られた当時の様には戻せていないけど、生活する上では最低限の清潔さに戻った。

俺自身も、汚れたまま出かけようとしたネコとスズメも鷲掴み、奇麗にしたばっかりの浴槽に放り投げ、奇麗にしたし文句は無い。


「つ~か~れ~た~」

「その分、見違える程奇麗になっただろ?」

「む~」


日が沈んで暫く、俺とネコ、スズメは今、厨房に集まっている。

正確に言えば、俺が夕飯を作っていたらネコとスズメが臭いに誘われてやって来たんだ。


氷木箱に入っていた食材は9割方駄目になっていて屋敷の裏で肥料に変わっている最中。

今ある食材は3日前俺が買って鞄に入れたままの物と、掃除中に見つけた厨房の隅から入れる地下食料庫に残っていた物だけ。

食料庫にも時空結晶が使われている為中に入れた食材は買った時のままの新鮮さを保ち、地上の屋敷と正反対に汚れも埃も一切無かった。

多分、倉庫が造られた当時のままなんだろう。


この倉庫があるなら『ミドリの手』と『プチヴァイラス』で味噌とか醤油とかケチャップとか作れる調味料を作り置き出来るな。

よし、明日にでもやろう。


元々食料庫に残ってたのは、大量の塩とワイン、牛乳ぽい物、ミズサボテンと書かれた数十個の大きな樽に満たされた水。

水は雑貨屋工房の鍛冶師の爺さんがくれた水と同じ味がした。

後は、肉が少し付いた大きな何かの骨と良く分からない大きな肉の塊。

俺より頭1つ分小さい髭?

いや、触角?が生えた魚がいくつか。

ネコ曰く、


「此処を建てた奴が出来てすぐ大量に買い込んだ物」


だそうだ。

此処を建てた美食家の貴族は屋敷が出来ると同時に金に物を言わせ、肉の塊や髭魚の様な世界中の美味珍味。

ローズ国の同盟国からの輸入品で庶民じゃなかなか手が出せない塩などの高級品を大量に買い込み、特殊な食料庫に溜めていた。

ある日その貴族はネコの実家が持つある珍しい食材を手に入れる為、この屋敷を賭けの商品にし勝負を仕掛けたらしい。

結果は見ての通り。

その貴族は別荘も溜め込んだ美味も珍味も高級品もネコに奪われたと。

その食料も、


「野菜とか果物とかチーズとか肉とか魚とかはほとんど食べちゃった。

後、美味しくなさそうなのはドンドン売ってる」


と、ネコの胃袋の中か何処かの市場を出回ってるかの2択の運命を辿った。

今、倉庫にあるのはネコが売っている最中の物。

ほとんど飲み物と調味料しか残っていないし、掃除明けで良く分からない食材を使う勇気も好奇心も、あんなに大きな肉を解体する気力も、もう無い。


だから、今日は俺が買ってきた物で夕飯を作る。

時空結晶のお陰で本当に時間が止まっていた為か、買った時のままだったのは良かった。


この世界に来てから俺はまともなご飯を食えていない。

今ある材料じゃ簡単な物しか作れないけど、其れでもまともな料理と言うだけで嬉しい限りだ。


今作っているのはフレンチトーストとベーコンエッグモドキ、『ミドリの手』で出した生野菜のサラダと絞りたてフルーツジュース。

かなり朝食向きのメニューだと思う。


先ずはフレンチトーストの準備。

パンを漬ける液には牛乳と卵1個、それと掃除した時にまだ使える事が分かった砂糖に似た甘味料を使う。

甘味料はネコ曰くカロンパウダーと言う、カロンフレークと言う植物の根を乾燥させ、粉末状にした物らしい。

原料の植物が違うだけで、殆ど砂糖と同じだ。


割った卵の黄身は鶏の卵より薄い黄色をしていた。

白身は鶏の卵より少しサラサラした感じ。

それ以外は普通の卵と同じだ。


牛乳は普段買う牛乳より匂いが強いけど味が濃く、僅かに甘味が感じられる。

殺菌されているかどうか心配だから念の為に1度、温めてから使う事にした。

この3つを混ぜた液に、余りにも固すぎてそのままだと食べれそうになかったパンを漬け込む。


少し厚めに切ったパンを液に漬ける時は、1度沈ませ2分位ずつ裏返し、両端をキュッと摘んで液を吸わせる。

これを2回繰り返したら5分程置いておく。


この間に他の物を準備。

オレンジと興味本位から蔓蜜柑を絞り、出来たジュースを氷木箱の下の方で冷やしておく。

サラダ用に出したレタス、プチトマト、キュウリは『アイスボール』を溶かした水で良く洗って、他の料理が出来る少し前まで冷水に浸けておく。


ここまでの作業でほどよくパンに液が染み込んだ。

本当はバターを使えれば良かったんだけど、この世界にはバターどころか生クリームすら見当たらない。

『クリエイト』で出そうにも、もうそこまでの気力が無かったんだ。

変わりに、熱々に熱したフライパンにサラダ油を塗り、パンを焼いていく。


竈なんって産まれて初めて使ったから火の調節が難しい。

かと思えば、『ファイヤーボール』を火種にする事で、俺の意思である程度火の調節が出来る事が分かった。

馴れてないせいか、油断すると火柱が立ったり、逆に消えてしまったりするのが難点だけど。

後、何も意識しなければ燃料の量に比例した火力になる事も分かった。

そんな理由で火の調節に四苦八苦しながら蓋をして弱火でゆっくり動かさず15分。


パンを焼いている間、サラダ用の野菜の水を切ってレタスは千切り、キュウリは軽く皮を剥き斜めに薄く切る。

トマトはそのまま皿に盛れば完成。


ベーコンモドキを6枚になる様に切り、『ミドリの手』で出したサラダ油を引き熱した別のフライパンに乗せる。

中火にして、ベーコンモドキに火を通し、残り3つの卵の黄身がベーコンモドキの真ん中に来る様に割り入れる。

その後直ぐ、溶かした『アイスボール』の水を大匙1杯位ジュワっと入れて蓋をする。

火力は中火のまま。


「なぁ、目玉焼きは半熟と完熟どっちが良い?」

「半熟!」

「OK」


黄身の部分が白くなったら急いで3等分し、皿に盛る。

のんびりしていたらネコのリクエストの半熟じゃなくて完熟になってしまう。

最後に軽く塩、コショウをかけて完成。

出来れば醤油かソースが欲しい所だけど、無いから仕方ない。

後はフレンチトースに奇麗な焼き色が付いたらお皿に盛り、『ミドリの手』で出したメイプルシロップをサッと掛ける。


「おーい、出来たぞー」

「わぁ、美味そ~」


作業台に並べた料理を見てネコとスズメはまるで手品を見た子供の様に目をキラキラさせた。

まだ食べてないのににここまで喜んで貰えるとは思わなかった。

冷やしておいたジュースを出し、長年使われず、くすんだフォークとナイフを目の前に置くと早速とばかりにネコとスズメは食べ始める。

スズメはそのまま啄ばんでいるけど、ネコはその丸まった手で器用にフォークとナイフを使っている。


「ん~、美味ーい!」


そう心底幸せそうに叫んでネコはドンドン料理を平らげていく。

その姿を見つつ俺も一口。

フレンチトーストは元々の固いパンと比べると外はカリッ、中はフワフワして食べ易くなった。


目玉焼きは普段スーパーで買っている卵と差ほど味の違いはない。

でもこっちの方が少し黄身がサラサラした感じがする。


ベーコンモドキはベーコンと言うより鶏肉みたいな味がした。

油も少なくサッパリしている。

この世界に来て全然油っぽい物を食べてなかったから物足りない気がするけど、コレはコレで美味しいと思う。


サラダは『ミドリの手』で出したばかりだから、採れ立ての様にパリッ、シャキッとしたサラダを予想していた。

だけど俺の予想と違い、野菜全部が冷蔵庫に入れっぱなしにしてたみたいに食感も味も落ちている。

普通に育てた野菜より、『ミドリの手』で出した野菜は質が落ちるって事なのか?

明日、調味料を作る時にでも色々試してみよう。


食べた料理の自己評価は30点。

味は全体的に薄味だし、サラダにはドレッシングだって付いていない。

もう少し素材や調味料があればもっと美味く作れたと思う。

それでも、


「うん、気に入って貰えたのは良かった。

フレンチトーストだけならお代わりあるけど要る?」

「うん!!」


勢い良く尻尾を垂直にピンッと立て、口の周りをシロップでベッタリさせたネコとシロップ塗れのスズメはブンブンと勢い良く頷いた。

その姿についつい笑みが零れながら俺はお代わりのフレンチトーストを取りに行った。


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