49,レジスタンス 後編
「アッララー。
ミルのオネーチャン、奪われちゃった。
で、クエイとミルは無事ー?」
「見て分からねぇのか?」
「俺様、医者じゃないからワッカリマセーン!!」
「・・・・・・チッ。問題ねぇよ」
「そりゃあ、良かった。俺様に感謝しろよ?」
「・・・うぜぇ」
「ヒドーイ!俺様泣いちゃう!!」
口ではそう言うけど、美女は全く泣いてないし、悲しそうでもない。
相変わらず素人目にはふざけている様に見えるけど、美女から感じるのは俺達からタバコ野郎達を守ろうとする純粋な闘争心だけ。
ちょっと戦っただけでも挑発とか精神攻撃とか、そう言う事するだけ無駄だって分かる位、余計なものが一切ない。
純粋で真っ直ぐな思いと、その思いを生かせる経験と実力。
戦いの才能とか技や魔法のバリエーションとか。
俺達の方が勝ってる要素は確かにあるけど、それを簡単に上回る戦いに費やしてきた年月の差。
その差からくる圧倒的な実力差が、暗黒騎士ですら見えた弱点を完全に隠し切っていた。
ルチアのサポートが合ってもこれなんだ。
今まで戦ってきた、俺に試練を課してくるレーヤ達を抜かした生身の生き物の中だと、目の前の美女が間違いなく1番強い。
今生きてる奴等の中で一線を抜いて強いのは魔王や四天王だけだと思ってたけど、人間でもこんなに強い奴が居たなんてな。
「何で・・・」
「ん~?」
「何でそんなに強いのに魔王の味方するんだよ!!」
だからこそ、納得できない。
こんなに強いのに、何で同じ人間を裏切って魔王側に付いたんだ!
昔魔王に助けられたって思うような事されたのか?
それともただ強さを求め続けて、この結果になったのか?
よっぽどの理由がなければ納得できない!!
「あー、違う、違う。
俺様達はユマちゃんの味方してないよ?」
「何、言ってんだ?自分達が今、何やってるか分かってて言ってんのかよ!!」
「分かってるよー。
あのなぁ、お前等勘違いしてるみたいだから言うけどさ。
俺様達がユマちゃんの味方とか手下してる訳じゃなくて、ユマちゃん達が俺様達の味方、ってかパトロンって言うの?色々支援してくれてるの」
「どう言う、ことだ・・・?」
美女達が魔王の味方してるんじゃなくて、魔王が美女達の味方をしてる?
何をナゾナゾみたいな事言ってるんだ?
流石にこの美女の発言には、頭脳担当のルチアと田中でも意味が分からなかったみたいで、かなり不思議そうな顔をしてる。
「60年近く前からあるんだけどなー。
もしかして、聞いたこと無かったか?
『レジスタンス』って組織」
「・・・今、『レジスタンス』って、言いましたか?」
「言ったよー。
聞こえなかったんならもう1度言おうか?
俺様達は、『レジスタンス』。
オーサマ達のやり方に納得できてない奴等の集まり。
反オーセイ組織『レジスタンス』のメンバーだ」
「・・・ありえません。
そんな事、絶対ありえる訳がありません!!
『レジスタンス』は御祖父様の若い頃に鎮圧されて存在しないはず!!」
心底信じられない物を見たみたいに、真っ青な顔で叫ぶルチア。
レジスタンスって、確か今の政府に反対する事だったよな?
俺達から見たらルチアの父親である王様は、魔王に呪われながらも必死に国を守ろうとしてる良い王様だ。
だけどそう思ってない、王様のやり方に大反対してる国民がいた。
それが『レジスタンス』のメンバー。
美女が『利害が一致してるだけ』って言ってた理由がようやく分かった。
今の政権を変えたい『レジスタンス』の奴等と、この国を乗っ取りたい魔王。
敵の敵は味方って言うのか、王様が邪魔だって思ってる奴等が自分達の目的達成の為に協力し合ってる。
本当に、ただそれだけ。
「先王の王位継承の時、大暴れした後もヒッソリと生き残っていたみたいだぜ?
オーサマ達の首、ガブッと噛み切っちゃうチャンスを狙って、ヒッソリと。
まぁ、俺様達3人はつい最近入ったばっかの新参者だから、あんま組織の事は詳しくないけど」
「つい最近って事は、魔王と戦う王様のやり方が気に食わなかったのか?」
「・・・・・・あぁ、そうだ。気に食わない」
腹の中でグルグル渦巻いていた激しい怒り。
それを全然悟らせないそのヘラヘラした笑顔が消え去って、純粋な闘争心の中に憎悪の炎が混じる。
それはタバコ野郎や、魔法を使いすぎたダメージで今だしゃべる事もできなミルも同じだった。
美女達はよっぽど俺達や王様が気に食わないらしい。
「お前等やオーサマがどんなにスバラシー信念や理由を持っていても、俺様達は許せないし、何があっても納得しない。
俺様達の大切な人達を犠牲にする、オーサマのゴーインなやり方何か認められるかッ!!!」
よく今まで抑えられていたなって思うほど、激しい怒りが篭った声でそう言う美女。
まるで笑顔の仮面が弾け散って、その下から赤鬼が現れたみたいだ。
ケット・シーや暗黒騎士達と同じか、それ以上に激しい怒りと憎しみ。
魔王に騙されてるミルの事は置いておいて。
たぶん美女達は俺達を召喚する前の、最悪な状況になる位続いた『失敗』が原因で王様達を憎んでるんだと思う。
俺達が召喚される前だって魔王やチボリ国の奴等のせいで、多くのローズ国民が犠牲になった。
それを美女達は元凶の魔王じゃなくて、色んな決断をした王様のせいだと思い込んでるんだ。
その間違った思い込みから、『レジスタンス』って組織に入っている奴等は、王様側の俺達も心底嫌ってるし憎んでる。
「これは・・・仕方の無い事なのです。
魔王の考えに、これ以上私達人間が汚染されないよう、洗脳されないようにするには、必要な事だったのです。
あなた達もローズ国民なら理解しなさい!!」
「だから、分かりたくないって言ってるだろ。
仕方の無い事?必要な事?
どこがだッ!!!
アイツ等を、この国の奴等を犠牲にする必要が、どこにあったって言うんだ!!!!
そんなもん、最初からどこにも無かっただろうがッ!!!!
ふざけるな!!
お前等だけは絶対そんな事言うなっ!!!!」
「王様はこの国の事ちゃんと考えて、自分達に出来る1番の最善策をやってるんだ。
どうしてそれが分からない?
どうして、元凶の魔王の味方をするんだ!!」
「ハッ!何処がだ!!
目ん玉ごと頭ん中腐ってんじゃないのか?」
どこまでも激しい怒りのまま吠える美女と、軽蔑一色に染まった声と態度で笑うタバコ野郎。
美女の言葉通りタバコ野郎達『レジスタンス』の奴等は、何があっても俺達の説得を聞く気が無い見たいだ。
本当、残念で仕方ないけど、説得しようとするだけ時間の無駄って事だな。
「ピッチピチに新鮮そのものだよ!
アンタ、医者なんだろ?
そんな事もわかんないのか?」
「はぁ。医者の観察眼舐めてんのか?
本当、医者の話聞かない患者は嫌になる。
専門家の意見が聞けない奴は、治るもんも治らないぜ?」
「アンタみたいなヤブ医者の患者になった覚えは無いな!」
「ヤブ医者、ねぇ。
認める気が無くても別にどうでも良いけど、どんな医者に見せても結果は同じだぜ?
詳しく診察しなくても、お前らは手遅れなんだ。
残念、救いようがありません。
苦しんで死ぬ猛毒以外、楽になれる薬もありません。
さっさと吐いて、残り少ない時間使って懺悔しながら自分達の墓を立てる算段でも話し合った方が、無意味に頭腐らせ続けるこんな事してるより有意義なんじゃねーの?」
挑発してるのか、それても本当の本当に本心で言ってるのか。
キャラと田中の言葉を聞いて、タバコ野郎は相変わらず人を馬鹿にした言葉を発し続ける。
「お前達が俺達を嫌いなのはよーく分かった。
でも、魔王に頼ったのは愚策なんじゃないの?
魔王が寄越したお仲間、お前等置いて逃げちまったぜ?」
美女達に邪魔され続けて、飛行船が今の俺達でも追いかけられない位高い場所に逃げてしまった。
それも、仲間であるはずのミル達を見捨てて。
絆を育んだ真の仲間じゃなくて、利用しあうだけの利害が一致しただけの関係だから、こうも簡単に捨てられるんだ。
魔王なんか頼ったせいでこうなってるのに、冷静さを取り戻すと共に笑顔の仮面を着け直した美女は特に気にした風でもなく。
怒鳴りだす前のヘラヘラしたふざけまくった感じでタバコ野郎に声を掛けた。
「アリャリャー・・・本当だ!どっか行っちゃったな。
どーするよ、クエイ?」
「はぁ。だからお前は、馬鹿なんだと・・・・・・」
タバコ野郎も、飛行船が逃げる事に対して特に気にしていないようだ。
見捨てられる事は最初から分かっていたのか、それとも今から飛行船に帰れる方法があるのか。
たぶん、帰る方法があるんだな。
こんな実力者でも組織内では下っ端っぽい美女やタバコ野郎は兎も角。
この水晶化作戦の要っぽいミルを、魔王や『レジスタンス』の奴等が放って置く訳が無い。
ミルだけは何が何でも飛行船に連れ帰るはずだ。
「もういい。お前はしゃべるな。
この腐ったガキ共に手の内がバレたら堪ったもんじゃない」
「ノリ悪いぞー、クエイー!!
もっとノリの良い返答を俺様は求めてるの!!
はい、やり直し!!もう1回、最初から行くぞー!」
「だから、黙れ。お前と居ると無駄に疲れる。
次しゃべったら、強制的に黙らせるぞ」
仲間の美女を脅す為に取り出したと思った長針が、俺達に向かって投げられる。
今までの長針と違って今飛ばされた長針は、飛んでいる間からすでに毒の煙が溢れ出していた。
針は長いから目立つし、毒の煙も色が着いてるから分かりやすい。
だから簡単に長針も煙も避けられた。
「ヘタクソ!何処狙ってるんだよ!」
「さぁな?」
チィッ!
こんな挑発じゃ乗ってこないか!
口も性格も悪いし短気そうだから、美女と違ってタバコ野郎は簡単に挑発に乗ると思っていた。
でも思いのほかタバコ野郎は冷静で、人を馬鹿にしたようにとぼけるだけ。
それどころか、俺達の事なんて眼中にないみたいだ。
タバコ野郎の視線は俺達を通り過ぎた遥か遠くの、ちょうど飛行船が居る辺りを見ている。
何だ?
何か、飛行船からの合図を待ってるのか?
たぶん、ミルを連れて逃げ帰る為の合図。
だったら何が何でも邪魔しないとな。
「センセー・・・ザラさん・・・」
「この状況で俺達が何って言うか、分からない訳無いだろ?諦めろ」
「や・・・だ・・・」
タバコ野郎に掴れたままミルがモゾモゾ動く。
たぶんそれは、指一本まともに動かせないミルなりの抵抗で。
自力でタバコ野郎の手から逃げれないと分かったミルは、ガラガラの弱々しい声でタバコ野郎と美女を呼んだ。
だけど、ミルの言葉はミルを見ないままタバコ野郎にバッサリ切られてしまった。
それでも嫌だ嫌だと言って、力なく首を横に振るミル。
「やだ・・・やだよ・・・・・・
おねぇちゃん・・・
おねぇちゃんも、一緒がいい・・・・・・」
「だから、諦めろって言ってるだろ」
「やだぁああ・・・
おねぇちゃん・・・おねぇちゃん」
「ミル!!このッ!!
さっきから聞いてれば、変な事ばっか言いやがって!!
ミルを返せ!!!」
ミルは年相応の子供らしく泣きじゃくって、必死にキャラに向かって手を伸ばしていた。
その姿が目に入った瞬間には、俺もキャラも体が動いていて。
キャラの『ミルを返せ』って言葉を脳が理解した時には、既に2人してタバコ野郎を攻撃しようと、それぞれの武器を振りかぶっているところだった。
「大人しく、オナカマの所にお帰りください!ってね!!」
「グッ!!」
「うわぁあ!!!」
「勇者様!!キャラ君!!!」
だけど俺達2人の攻撃は、素早く割って入った美女に阻まれてしまった。
鎖で俺達の攻撃を受け止めて、武器を振り下ろした状態でガラ空きだった胴に向かって、少し遅れて横から飛んで来た鉄球がぶつかる。
咄嗟に体を捻ってキャラを庇えたけど、剣が壊れた。
それに鉄球の勢いもそれほど殺せていない。
大した怪我はしていないけど、2人して少し離れた場所にいるはずのルチアの近くまで、一気に吹き飛ばされてしまった。
「大丈夫か!?」
「ボクは大丈夫!!
だけど、勇者君がボクを庇って!!!」
「剣をやられただけで、俺も平気だ!!
それより直ぐ全員体勢立て直せ!!来てるぞ!!」
転がるように受身を取りつつ、その勢いで起き上がる。
かなり心もとないけど、地面に手が付いた瞬間に『クリエイト』で生えていた草をナイフに変えて、それを急いで構えた。
俺達が飛ばされた直ぐ後に投げられたタバコ野郎の長針が、もう直ぐそこまで迫ってきてるんだ!!
毒の煙はまだ出てないけど、『状態保持SSS』のスキルが無いルチア達に当たったら何が起きるか分からない。
掠っただけで即死するような猛毒が塗られてたらお終いだ!!
最初に投げられた3本はナイフで弾いて、後から投げれた2本は全員難なく避けられた。
無事、タバコ野郎の攻撃は防げたんだ。
「ッ!急げ!!皆、俺の近くに!!」
防いだ、ずだった。
そのはずだったのに、タバコ野郎が同時に投げた2本の長針がぶつかり合うように地面に刺さった瞬間。
俺達の周りでいくつもの爆発が起きた。




