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サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
188/498

48,レジスタンス 前編


「口と鼻押さえてろよ、キャラ!!」


どっからどう見ても毒にしか見えないその煙。

それを吸わないようキャラに言って、急いでキャラを煙の外に引っ張り出す。

でもキャラは、少し煙を吸ってしまったみたいで、激しく咳き込みだした。


「ゲホッ!ゲホッ!」

「『リフレッシュ』!!」

「大丈夫か!?しっかりしろよ!!キャラ!」

「っ、はー・・・

そんなに叫ばなくても聞こえてるよ、勇者君」

「減らず口を叩けるなら、大丈夫そうだな」


いつも通りの減らず口に、ホッと胸を撫で下ろす。

激しく咳き込んでいる時は本当にヤバイって思ったけど、田中の『リフレッシュ』で完全回復したみたいだ。

キャラが無事だった事が分かったし、これで新しく出てきた敵に何の躊躇いもなく集中できる。


「さぁて、お迎えに上がりましたよ、お姫様」

「チィッ!ふざけてるっ場合じゃねぇだろうが。

これだから人間共と行動するのが嫌だったんだ。

特にお前となんて反吐が出る」

「えー。ヒドーイ!!

今のセリフ、カッコ良かっただろ?

女の子ならキュンとしちゃうだろ?」

「知るか。それよりもだ。おい、ガキ。

俺は足を引っ張るなって言ったよな?

もう、忘れたのか?」

「まぁ、まぁ!そう怒るなって。

今のこれは、どう考えても仕方ないって!」

「お前に聞いてない!!」


ミルが居るだろう毒の煙の向こう。

何時の間に現れたのか、煙越しに2人分の声がした。

1人は口の悪い若い男の声で、もう1人はその男をたしなめる男と同じ位若い女の声。

どっちがどっちか分からないけど、シルエット的には1人がミルを掴んでいて、もう1人が何か棒のような武器を構えている。


「たくッ!

どうしてガキ共は言う事聞けねぇんだ!!

アレについて聞きだせるまで殺すなつってんのに・・・

情報取り逃したらどうする気だ!!

俺達は取っ掛かりすら分かってねぇ事が分かんねぇのかぁ!!?」

「ハハ。2人共、頭に血が上りやすいからねー。

今まで大人しくいい子にしていられたのが奇跡な位じゃない?」

「何処がだ!

ガキがガキのまま居られちゃ迷惑なんだよ!!

バルログのガキに対してもそうだ!!

バルログのガキが居なきゃ、チボリ国の奴等が協力しなかっただぁ?

ハンッ!!

そんだけの事でガキを甘やかすんじゃねぇよ!!」

「なーに言ってんの。

頑張ってる子供達には少し位甘い位でいいんですぅ」

「チッ!ガキ共だけじゃねぇな。

お前達人間は無意味に自分や同族に甘いんだ!!!

この最悪な状況で何時までそんな甘い考えのままでいる気だ!!

ふざけんのも大概にしやがれッ!!!!!」

「えー、そんな事ないって!なー、ミル?」


とりあえず声だけで分かる情報は、こいつ等は俺達を殺す気が無いって事と、魔王の仲間だって事。


後から聞いたけど、暗黒騎士はバルログって言う人間に近い姿の魔族なのだそうだ。

その暗黒騎士を『ガキ』って言うなら、口の悪い男は声の割りにかなり年を食っているのかもしれない。

それか、さっきの戦いでの子供っぽさを思い出すと、あの見た目の割りにマジで暗黒騎士はネイとかミル位の子供だったのかもな。


そんな暗黒騎士やミルがグズッて、勝手に俺達を殺そうとしたり攻撃した事を口の悪い男は怒っているみたいだ。

口の悪い男達は俺達から何か、どうしても聞き出したい事があるらしい。

それも俺達から聞き出す以外、ヒントらしいヒントも無い話。

そんな話、なんか合ったか?


まぁ、いいや。

煙もだいぶ薄れてきた。

こいつ等や魔王の目的を考え込む前に、こいつ等からどうミルを取り戻すかを考えないと。


「・・・お前らも、魔王の手先なんだよな?」

「ハッ!誰があんなクソガキの手先になるかよ」


完全に煙が晴れて、ようやく見えた新たな敵の姿。

まず1人目は完全に周りを見下し、心底馬鹿にしたように鼻を鳴らしてそう言うタバコを銜えた若い男。

その言葉と態度以外にも、指輪やネックレスをジャラジャラ付けてチャラチャラした雰囲気がして、最低野郎以上に良い印象が沸かない。

何より最悪な奴だって思ったのは、荷物でも掴んでいるみたいにミルを鷲掴みしている事だ。


「まーた、利害が一致してるだけーって言うんだろ?

それよりさー、クエイー。

ミル、苦しそうにしてるんだから、そんな乱暴な持ち方するなよー。

もっとこう、さ。

物語の王子様っぽく、カッコよく丁寧に抱えてあげなって」

「誰がそんな事するか。寝言は寝て言え」

「えー。クエイのケチ。

そんなんだから、医者らしくないって言われるんだぜ?

まぁ、言ってるの殆ど俺様なんだけどなー」

「煩い、黙れ、目の前のガキ共に集中しろ」

「はいはーい。センセーの仰せのままに、ってね」


そんな最低最悪なタバコ野郎をヘラヘラした態度でたしなめるのは、2人を守るように1歩前に出ているフレイル型のモーニングスターを握ったモデル体型の美女。

冒険者の様な動きやすさ重視の服装からあふれ出す、色気たっぷりのボンキュッボンな見た目は、ルチアと別方向にそうとう良い勝負な若々しい美女なのに、話し方と態度が全部台無しにしている。

なによりその見た目の魅力を1番台無しにしてるのは、その目だ。

態度はヘラヘラしてるのに、俺達から一切外されないその目は、獲物を狩る為に今すぐにでも襲い掛かろうと息を潜める猛獣の様な鋭さが宿っている。


「流石にこいつ等はヤバイか・・・・・・ネイ!」

「なに、おにーちゃん!?」

「お前はラムと一緒に安全な所に隠れていてくれ!

俺達でこいつ等の相手するから、ラムを守るのは任せたからな!!」

「うん、分かった!おねーちゃん、こっち!!」

「う、うん・・・」


見るからに弱そうなタバコ野郎は兎も角。

戦闘経験が全くなさそうな一般人のラムを守りながら、この猛獣の様な美女と戦うのは人数が勝っていても厳しそうだ。

それほど強者のオーラを放つ美女。

そんな美女達との戦いに集中する為に、俺はネイにラムを安全な所に連れて行く様頼んだ。

こいつ等以外にも仲間が居た時の事も考えて、ネイにはそのままラムの護衛も頼む。


「ルチアはサポート、キャラはルチアの近くに居てくれ」

「はい、勇者様!」

「言われなくてもわかってるって、勇者君」


田中が集中してないとルチアの歌声まで閉じ込めてしまうかもしれない『アサイラム』より、キャラの方が臨機応変にルチアを守ってくれる。

特に今回みたいな田中が攻撃か治療に専念した方がいい時なんかは、『アサイラム』のコントロールに集中出来る訳がない。

だから俺はそうキャラに指示を出したし、自分の得意な事が分かってるキャラも直ぐに『クラング』の魔方陣を書くルチアの前に移動した。


ルチアの前に来て直ぐ、腕に付いた盾を撫でるキャラ。

その瞬間、その盾に魔方陣が浮かび上がって何十、何百倍にも巨大化した。

その大きさは、しゃがんだ人がスッポリ隠れてしまいそうなほど。

キャラはルチアを守る為に、その位大きく、そしてその大きさに見合った重さと厚さになった頼もしい盾を地面に突き刺すように構えた。


「後もう1個は・・・」

「ブーメランの奴に変えといてくれ!!」

「分かったよ、勇者君!」


魔方陣を刻んだ『盾』の大きさや重さを、ある程度自在に変えられるキャラの基礎魔法、『シュッツェン』。

状況によってキャラは盾の形を変えてるけど、今回は俺の考えをちゃんと読み取ってくれて、1つ目の盾はスピードを捨てた防御極フリ形態にしてくれた。


そして普段は大きくした時にしか取り出せない、1つ目の盾の内側に隠された2つ目の盾。

それをどんな形に変えようか悩んでいるキャラに、俺はもう1度指示を出した。

変えるよう言ったのは他の盾に比べ防御面が心もとない、遠距離攻撃専用のブーメラン型。


たしかに、殴ったり横側の刃で切ったり。

攻撃も防御も移動も受け流しも楽な、バランスが良い小型の盾に変えてもらっても良かった。

でもキャラには出来るだけルチアの側を離れて欲しくない。

敵の攻撃を受け流し続けて、いつの間にかルチアと引き剥がされていた。

ってなったら意味が無いからな。


「で、この後は?」

「馬鹿だ馬鹿だと思ってたが、そこまでお前が馬鹿だったとはな。

そんな大事な事も聞いてなかったのか?」

「ヒドーイ。センセーのイジワルー。

ジョーダン通じないイッシアタマー!」


本当にタバコ野郎達は俺達を殺す気が無いみたいだ。

俺達が陣形を整えるのに数十秒位掛かった。

それだけ時間があれば、美女の様な実力者なら1撃以上入れられるはず。

でもタバコ野郎達はその間一切動かず、美女なんか楽しそうにニコニコ笑っているだけだった。


でも、目だけはずっと変わらず獲物を狩るチャンスを一瞬も逃さず狙っている様な鋭さを宿していて。

その猛獣の目に見つめられて、ケット・シーや暗黒騎士と戦っている時の様なピリピリした痛みが首筋を襲ってきた。


美女はふざけまくっている様に見えて、たぶん何かの時間を稼いでる。


そう本能的に思わせる位、ふざけた態度に反して美女から感じるのは完全に飢えた猛獣のそれだ。

今にも飛び掛ってきそうな猛獣の様な、戦いなれた奴なら目が離せなくなるような恐ろしく鋭い闘気が溢れているのに、直ぐに襲ってこない。

それは何故か。

俺だったら相手の視線と意識を奪って、何かを逃がす時間を稼ぐ為にそうすると思う。


「ッ!飛行船!!」


そこまで考えて俺はコイツ等の目的に気づいた。

コイツ等は俺達が狙っているのを知って、本丸である飛行船を逃がす為にこんな事してるんだって。

ミルの登場で意識の外に逃れていた飛行船の方を慌てて見ると、ほんの数分前よりも高い場所まで上った飛行船の姿があった。

それでも俺達から完全に逃げるには高度が足りないって分かってるのか、飛行船はまだまだ登り続ける。


マジでヤバイ!

これ以上高くなったら、本当に『ジャンプ』でも届かなくなっちまう!!


「この、待って!!『ジャンプ』!!」

「ざーんねん!行かせるかよ!!」

「うわッ!!」


完全に飛行船の事で頭がいっぱいになっていた。

そのせいで反応が遅れて、俺の脚に美女のモーニングスターの鎖が絡まる。

鎖の絡まった脚が思いっきり引っ張られて、俺は顔を盛大に地面に打ち付けてしまった。

そのまま起き上がる暇も与えず、女の力とは思えない威力で俺を引きずろうとする美女。


「高橋を放してもらおうか?『フレイム』!」

「うわちィッ!」


俺の脚に絡まったモーニングスターの鎖は、細く細やかなのに『ライズ』を使った渾身の俺の攻撃でも、壊れないどころか少しも削る事すらできない。

そんな見た目に反して暗黒騎士の鎧と同じかそれ以上に固いモーニングスターを、自分じゃ壊す事は絶対出来ないと思ったんだろう。

田中は美女に向かって『フレイム』を放った。

そのかなり強火力な『フレイム』の炎の玉を美女は、掴んでいる柄と鎖の間の鎖をピーンと引っ張って受け止める。

たったそれだけで『フレイム』自体は消え去ったけど、金属で出来た鎖が田中の『フレイム』で熱せられて、美女は堪らず俺を引っ張る為に握っていた鎖を手放した。


でもモーニングスターの柄は握ったままで。

鎖を手放した数秒後には一瞬ゆるんだ俺の脚の鎖を戻そうと、モーニングスターの柄の部分を思いっきり後ろに引っ張った。

だけど、もう遅い。

一瞬鎖が緩んだ隙に、俺は脱出してたんだからな。


「ミルも返してもらうからな!!」

「バーカ。誰が放すか。大人しく、眠ってろ!」

「ふぇ?」

「『フレッシュ』!!」

「はい、残念!回復もさせません!!」


タバコ野郎からミルを奪い返そうと、キャラが2つ目のブーメラン盾を投げる。

それをいつの間にか持っていたあの毒の煙を出す長い針で打ち落とし、それと同時に鳥のようにミルを掴んだまま空高く跳んだタバコ野郎は銜えていたタバコを一気に最後まで吸った。

そして空中からそのタバコの煙を、思いっきりキャラとルチアに向かって吹きかける。

どうもタバコ野郎が銜えていたタバコは、薬草かなんかで作られていたか、基礎魔法を使う為の杖代わりだったみたいで。

ルチアを庇ってその煙を全て浴びたキャラは、眠り水晶に捕らわれたサマースノー村の人達見たいに気絶するように眠ってしまった。

そんなキャラに田中が『フレッシュ』を掛けようとするけど、美女がモーニングスターを振り回して邪魔する。


「『スラッシュ』!」

「クエイッ!」

「ッ!」

「『ライズ』、『ジャンップ』!!」


田中の『フレッシュ』が届かず、眠ったままのキャラに新しいタバコを銜え直し降り立ったたタバコ野郎の魔の手が伸びる。


キャラまで奪われて堪るか!


その思いを込めて『スラッシュ』をタバコ野郎に向かって放つ。

だけど、俺の『スラッシュ』はタバコ野郎に届く前に美女がブン投げた鉄球に消されてしまった。

田中の『キャンセル』に近い魔法やスキルを使ってるって訳でもなさそうなのに、こうも簡単に『スラッシュ』を消されたのは正直悔しい。

でも、キャラはちゃんと連れ戻せたし、田中の『フレッシュ』で無事目を覚ました。

ルチアも一緒に美女達から距離も離せたから、とりあえず良しとしよう。


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