表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サンプル・ヒーロー  作者: ヨモギノコ
第 1.5 章 勇者編
186/498

46,絶対助けるから 前編


 魔法使い集団の飛行船から降り注ぐ、雷の様な虹色の光。

その光を浴びて、サマースノー村を包み込むように水晶が育つ。

飛行船に気づいた時には水晶はかなり育っていて、あと数分もしない内にこの村が完全に水晶に覆われてしまうのが分かった。


「クソッ!アイツ等何時の間に!!?」

「勇者様危ない!!」

「ッ!『ジャンプ』、『スラッシュ』!!」


いつの間にか来ていた飛行船に完全に意識を奪われていた俺は、下から叫ぶルチアの声で暗黒騎士の存在を思い出した。

ハッと暗黒騎士の方を見て目に映ったのは、突っ込むように直ぐ側まで来た暗黒騎士が大剣を薙ぎ払おうとしている姿。

直ぐに『ジャンプ』を使って真後ろの塔の外の空中に避難して、『スラッシュ』で暗黒騎士の攻撃を相殺しようとした。

でも、とっさに放ったせいでそんなに力の入らなかった『スラッシュ』じゃ、暗黒騎士の斬撃には敵わなくて。

俺は塔のほぼ真下に吹き飛ばされてしまった。


「『ウィンド』!!」


地面に激突する前に、未だにルチア達を囲む炎の壁にぶつかりそうになる。

けどその前に、田中が『ウィンド』を使って助けてくれた。


「サン、キュー、田中」

「勇者君大丈夫かい!?

いや、その怪我で大丈夫な分けないのは分かってるけど、ちゃんと生きてるよね!?」

「勇者様!!直ぐに回復魔法をっ!!」

「分かってる!『キュア』、『リフレッシュ』ッ!!」

「皆・・・ありがとうな」


そんなに威力の無い『スラッシュ』でも、暗黒騎士の斬撃の威力を結構抑えられた。

それプラス鎧のおかげで、さっきの攻撃のダメージは全く入っていない。

でもその前に受けた数え切れない攻撃のダメージが残っていて、自分で思っている以上に重症だったらしい。

直ぐに田中が『キュア』と状態異常回復魔法の『リフレッシュ』で回復してくれた。


「グッ・・・ぃッ・・・・・・」

「無理するな。

魔法と薬である程度は治せたけど、まだ完全に治ってないんだ。

後少しで死ぬ所だった自覚を持て!」

「そ・・・ん、なに、ヤバかったか?」


暗黒騎士との戦いで興奮していたからか、さっきまで感じなくなっていた鋭い痛みが急に襲ってくる。

だけど、『キュア』や『リフレッシュ』が効いてきてるんだろうな。

傷や火傷が治っていく度に、体中を刺す痛みも消えていくのが分かった。

田中達のお陰でだいぶ楽になったけど、それでも時々我慢できる位のジンワリとした痛みが走り抜ける。

何時もなら直ぐに完治するルチアのサポートが付いた田中の回復魔法でも、完全に回復できていない。

田中やキャラが死に掛けたって言うのも大げさじゃなさそうだ。


「申し訳ありません、勇者様。

私達がこの炎の壁を壊せなかったばかりに・・・」

「いいって。気にすんなよ、ルチア。

それより、暗黒騎士は?」


泣きながら謝るルチアを慰めて、塔の上に居るはずの暗黒騎士を見る。

見上げて目に映ったのは、垂れ下がったロープを使って飛行船に向かう暗黒騎士。

それと、いつの間にか目を覚まして暗黒騎士の腕の中で暴れる最低野郎の姿だ。


「このっ!放せ!放せよ!!

僕は皆を!ラムをッ!!!」

「大人しくしてろ!

何度も言わせるな。

今のお前だけじゃどう頑張っても無理だ。

それはお前も分かってるだろ!!」

「~~~ッ!!

待っててラムッ!!絶対!!絶対に僕がッ!」


そう叫びながら暗黒騎士と共に、中に居た誰かに引っ張られる様に飛行船の中に消える最低野郎。

その最低野郎の叫びを聞きながら俺は飛び起きて、怒りに任せた渾身の『スラッシュ』で炎の壁を吹き飛ばした。


俺達の邪魔をするものはもう何も無い。

俺は急いで『ジャンプ』を使って追いかけようとした。

だけど、そんな俺の腕を田中が強く掴んで引き止める。


「ダメだ、高橋!追いかけるな!!」

「でも!」

「ピコン!!

待って!ピコンを何処に連れて行くの!!?」


飛行船を見上げ、血が出そうなほど悲痛な声でそう叫ぶラムの姿に、俺の焦りが増していく。

それでも田中は腕を放してくれない。


「放せ、田中!このままじゃ暗黒騎士達がッ!!」

「逃げられたって構わない!!

今、優先すべき事は他にあるだろう!!

それはお前も分かってるはずだ、高橋!!」

「それはそうだけど!!でもッ!!!」

「高橋ッ!!!」

「ッ、ゥ~~~」


今1番優先しないといけないのは、サマースノー村の人達を避難させる事。

炎の壁を消した今なら、村の人達を水晶の外に逃がす事ができる。

ルチア達はその為にすでに動いてるんだ。

俺だって村の人達の避難のために動かないと。


そう頭では分かっていても、それでも俺はまた暗黒騎士を逃がしてしまった事が悔しくて。

唇を強く噛み締めても漏れる声が、怒りを押さえ込もうとした冷静な部分を跳ね除けていく。


「待て暗黒騎士!!!

逃げるな!!!降りて来い!!

勝負はまだ付いてないだろがぁ!!!」


結局耐え切れなかった俺は、堪らず飛行船に向かってそう叫んでいた。

だけど、俺達の叫びを無視して暗黒騎士達を乗せた飛行船は上がっていく。

それに引っ張られるようにドンドン高く育つ水晶。

それだけで村が閉じ込められるまで、もうそんなに時間が無い事が良く分かった。


「クソッ!」

「落ち着け!今は村の人達を助けるのが先だ!!」

「分かってる!分かってるけど・・・」

「悔しいのは分かる。分かるけど、頼む。

今は、今だけは抑えてくれ」

「田中・・・・・・」


そう言って深々と頭を下げる田中の姿に、俺の焦りが抑えられていく。

また暗黒騎士を逃した悔しさに、さっきまでの俺と同じ位強く唇を噛み締め、小刻みに震える田中。


田中だって、悔しくないわけ無いんだ。

それはルチアも、ネイも、キャラも同じで。

あの日に敗北を経験して、あと少しの所でまた暗黒騎士に逃げられた。

この場に居る全員が怒りと悔しさでいっぱいなんだ。


それでも、サマースノー村の人達を助ける為にその思いを抑えている。

それなのに、俺だけ感情的になったらダメだな。


「・・・わりぃ。

俺は『ジャンプ』で2、3人づつ連れて行く。

田中は『ウィンド』で出来るだけ沢山の人達を運んでくれ!」

「ッ!あ、あぁ!!分かった!」

「いいえ、勇者様。

ラムだけを連れてお逃げください」

「何言ってるんだ!!っ!」


そう諦めたような声で逃げろと言う村長。

何で諦めるんだ、って思って村長の方を見ると、村長の脚が外の水晶とはまた違った水晶に覆われて動けなくなっていた。

周りを見回せば、村人全員体の何処かがすでに水晶に覆われていて、殆どの人が体の半分以上覆われている。

そのせいで俺達と村長以外皆、目をつぶって倒れこんでいた。


「何だコレ!?

時間を止める水晶とは別の物なのか!!?

こんなの聞いてないぞ!!」

「勇者君!直接触っちゃダメだ!!」

「え?」


慌ててキャラが声を掛けてくるけど、少し遅かった。

その声が聞こえた時には、俺の手は近くで倒れた村人の水晶に触れた後で。

その瞬間、よっぽどの事がない限り耐えられそうに無いほどの強烈過ぎる眠気が襲ってきた。


「『リフレッシュ』!大丈夫か、高橋!!」

「なんと、かな・・・」


眠気に負けて数秒位俺の意識が何処かに飛んでいく。

でも直ぐに田中が『リフレッシュ』を掛けてくれたお陰で、どうにか起きられた。


「この水晶に触ると眠くなっちまうって事か!」

「それにこの水晶、地面に引っ付いていて触らずに剥がすのが難しいんだ!」

「クソッ!広がるスピードが速くて『リフレッシュ』が間に合わない!!」


外の水晶と違って硬いもので叩けば簡単に壊れるし、田中の『リフレッシュ』でも簡単に壊せる。

でも壊した側から直ぐに再生して、壊しても意味が無い状態だ。

『状態保持SSS』のスキルが効くなら、地面にくっ付いた部分を壊して俺と田中で外まで運ぶ事ができたかもしれない。

でもこの水晶は毒や病気じゃないから、俺達のスキルでも防げないのがまた厄介だ。


「私達は、もうダメです。

もう直ぐ、あの水晶が閉じてしまうのに、動けない私達は足手まといだ。

でも、まだ動けるラムだけは、まだ。

まだ、助かるんです。

どうか、どうか!ラ、ム、を・・・」

「村長!!」


それだけ何とか言うと、村長も眠ってしまった。

深い眠りに落ちたせいで、グッタリと地面に横たわった村長の体。

その体を更に水晶が包み込む。

水晶のせいで地面に引っ付いてないのは、俺達5人と腕や顔の1部が水晶に覆われて眠ってしまったラムだけ。


「・・・・・・行こう。

俺達も何時水晶にやられるかわからないんだ。

村長の・・・村長の願いを無駄にしない為にも、行こう」

「あぁ・・・」

「はい、勇者様・・・」


ラムほど酷くないけど、キャラの体にも眠らせる水晶が現れ始めていた。

それはつまり、サマースノー村の人達より遅いってだけで、とっくに俺達もこの水晶の魔の手が迫っているって事。

俺達の時間もそんなに残っていないって分かって、俺はラムを抱え『ジャンプ』を使って村の外に出た。

その後をルチア達を連れた田中が、『ウィンド』を使って追いかけてくる。


俺達が水晶の外に出て数秒後。

サマースノー村は、完全に水晶に閉じ込められた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ