45,オオカミ少年と黒い騎士 6人目
「お前達。
その答えがどう言うものか、分かってるんだろうな?」
「あぁ、勿論分かってるさ!
お前はこの世界に俺達の助けを必要としてる奴は居ないって言ったな。
でも、現にここに俺達に助けを求めてる奴が居るんだ!!」
「あの女の事か?さっきも言っただろ。
それはお前達を利用しようとしているだけだって」
「違う!ルチアだけじゃない。
サマースノー村に人達もそうだ!!
いや、今まで俺達が出会った沢山の人達は皆、心のそこから俺達の、『勇者』の助けを求めていた!」
「それはあの女共に言わされているだけだ。
お前達を利用する為に意識を奪って人形のように操って、そう言わせてる。
それすら分からないのか?」
「魔王がスタリナ村の人達を操ったみたいに、無理に言わせてるって?
ふざけんなッ!!
俺にはあの人達の言葉は、本心からの言葉だって思えたんだ!!
むしろ恐怖や洗脳でこの世界の人達を押さえ込んで操ってるのは、お前達の方だろがっ!!!」
「・・・そうか」
諦めたようなその言葉と共に息を吐き出した暗黒騎士。
そしてクククッと喉の奥で笑って、自分の炎に当てられて気絶した最低野郎を抱えなおす。
「お前達がその選択をした事、ユマ様は残念に思うだろうなぁ。
もうすでに遅すぎて、あいつの思いが無駄になったって。
ユマ様達だけじゃなく、私もあいつには少なからず、借りがあるからな。
私も残念で仕方ないよ」
大剣を握った暗黒騎士の右手ごと、柄や刃先まで真っ赤な炎に包まれた。
残念だって言う割には殺気がただ漏れじゃないか。
「だがなぁ。それ以上に私は嬉しいぞ!!
これでようやく、何の躊躇いもなくお前達を焼き殺せる!!」
「最初からそのつもりだっただろ?」
「いいや。
ユマ様の命令だからな。
コレでもかなり我慢していたし、手加減していた。
言っただろ?
ユマ様から、お前達も被害者の1人でもあるから恩情をあたえろと言われてたんだ。
それをお前は、お前達はふいにした。
もう、いいだろ?」
そういいつつ、炎を纏ったままの大剣を腰の鞘に戻す暗黒騎士。
カチンと音を立てて完全に鞘に収まった大剣を逆手で持つように持ち直し、俺に対し少し横向きに構える。
大剣を鞘に収めても、殺気も闘気も駄々漏れだ。
俺を殺す気も戦う気も失ったわけじゃないなら、あの構え的に居合い切りでもする気か?
「フンッ」
「ッ!そう、来るのかよ!!」
力いっぱい勢い良く暗黒騎士が抜いた大剣。
その鞘の中から飛び出したのは、炎で出来たカマのような刃だった。
大剣に纏わせて鞘に収めた炎が、鋭い刃になって飛んでくる。
この刃に当たったら切られるだけじゃなくて、きっとあの熱すぎる炎で燃やされるんだろうな。
それに少し掠っただけでも一気に燃やされる。
そう深く考えなくても分かる、強い攻撃。
でもかわせない訳じゃない。
「ッ!」
炎の刃をかわして直ぐ、炎の刃を放ち終わるとほぼ同時に駆け寄ってきていた暗黒騎士が切りかかってくる。
そのまま放たれる、『ライズ』の呪文を唱える暇もない連撃。
威力も早さも教皇シャルや守護者ダンの試練と同じ位のキツさがある。
でも最低野郎を抱えているってハンデがある分、まだ楽な方だ。
「マジかよ!こんな攻撃アリかよ!!?」
ケット・シーと戦った時に感じた、あの首の後ろがチリチリ痛む感覚。
それと同時に他よりも数度高い風が流れてくる気がした。
その2つを感じると同時に力を込めて暗黒騎士の剣を弾き返し、その反動を使ってその場を離れる。
その直ぐ後に、俺の真後ろからさっきまで俺が居た場所に突っ込んできたのは、暗黒騎士が放ったきりの炎の刃。
暗黒騎士が操っているみたいで、真っ直ぐ飛んでいってそれっきりって訳じゃなく、ブーメランの様に飛びながら俺に向かってくる。
「『ライズ』!!」
それを『ライズ』を使いながら何とかかわし、炎の刃が攻撃している間も切りかかってくる暗黒騎士の攻撃もガードする。
ルチア達を閉じ込める為に自分が出せる炎の大半を使っているからか、それともこれ以上の炎はコントロールが出来ないからか。
暗黒騎士は炎の刃を1つしか出さない。
だから2つの同時の攻撃でも何とか、かわせているんだけど。
これ以上炎の刃が増えたらヤバイな。
何とかこの炎の刃を消す方法を考えないと。
火には水って言うけど、ルチアのサポートの無い『アクア』じゃこの炎の威力に負けて蒸発してしまうのは目に見えている。
炎の刃を消すまで連発する余裕はない。
一発で消す方法を考えないとマズイんだ。
「そうだ!」
俺はギリギリまで近くに来た炎の刃を撫でる様に触った。
その瞬間炎の刃は『クリエイト』の力で、刃の部分が弓のように大きく曲がったショーテルの様な、炎を纏った剣に変わる。
だけど俺がすぐに握らなかったからショーテルは、炎の刃に戻らず紙が燃え尽きる様に消えてしまった。
暗黒騎士も俺のこの行動は予想外だったみただ。
驚いたように数秒固まって、少し焦ったようにまた炎の刃を放ってくる。
それも『クリエイト』で消せば、目に見えて暗黒騎士が焦るのが分かった。
炎の刃を放つ構えのまま、どう攻撃するか悩んでいる様子の暗黒騎士。
その隙に『ライズ』を使って暗黒騎士の目の前まで近づいて、暗黒騎士の剣を抜けないように鞘の中に押さえ込んで、最低野郎に手を伸ばす。
「やめッ!」
暗黒騎士は俺が最低野郎を狙っているのが分かって、やめろと言いながら剣から手を離し俺を払いのけかなりの距離をとった。
確かに暗黒騎士の攻撃は厄介だ。
でも暗黒騎士本人も言ってたけど、予想外の事が起きた時に直ぐ解決策が思い浮かばない位、頭の回転や出来はよくないらしい。
結構脳筋タイプなのかもな。
だからこそ、さっきまで余裕綽々って感じだった暗黒騎士を追い詰められている。
「どうしよう・・・どうすれば・・・
コイツは取られちゃダメだから近づいちゃダメだし、『炎刃』は消されるし・・・
どうしよう・・・ユマ様・・・・・・
ユマ様、グランマルニ、こう言う時は、どうすれば・・・」
暗黒騎士はかなり混乱してるみたいで、そうブツブツ言いながらも滅茶苦茶に幾つもの炎の刃を出し続けている。
俺達が居る塔やサマースノー村を燃やさないって言う、最低限のコントロールはできているみたいだけど、それ以外は全然ダメ。
ただ飛ばしているだけで、さっきみたいなブーメランみたいな動きは出来ていない。
数は多くなったけど、動きが単純だから『クリエイト』で消すのも簡単だ。
「うぅ~・・・とりあえず燃やせばいいな!!」
「考えた結果がそれかよ!
やっぱお前脳筋だな!!?」
「お前だけには言われたくない!!」
脳筋な上に沸点も低いと。
あぁ、いや。脳筋って言うか子供っぽい?
魔王の命令は素直に聞くけど、予想外の状況に弱くて、感情的で、思い通りにならなければ怒り出して。
さっきの混乱していた時の様子も、困って大人を頼ろうとしている子供にも見えなくは無かった。
混乱しだす前やミルの時は、子供っぽい脳筋の素の部分をかなり押さえて居たんだな。
自力で抑えていたと言うより、妄信する魔王の命令があったから抑えられていたってのが正しいのか。
俺の予想外の行動でその命令のフタが消えたから、素の子供っぽくて沸点の低い脳筋な部分が出てきた。
「いつも頭使うのは苦手だって言ってるくせに、人の頭のでき、馬鹿にするな!!
そもそもお前達は人の事馬鹿にし過ぎだ!!
いつもいつも、何も知らないくせにユマ様の事悪く言って!!
お前達よりユマ様の方がずっとずっと、悲しい思いしてるし、苦労してるし、頑張ってるんだ!!!」
「悪事をか?」
「あの女達と一緒にするなッ!!!
ユマ様はあの女達とは違う!!
やっぱり、お前達は絶対に燃やす!
お前達の様な頭に来る奴は燃やすのが1番なんだ!
今日と言う今日は、何が何でも絶対お前達を燃やすからな!!」
そう吠えながら炎の刃を操る暗黒騎士。
『この村や村の奴等を燃やすようなそんなヘマ、寝ててもしない』と言ったのは、大げさでも見栄でも無く本当のことみたいで。
残った炎の刃を全部操りながらも、燃え上がる大剣で切りかかってくる。
炎の刃1個の時よりも全体的に雑さはあるものの、数の多さがそれをカバーしている。
「クソッ!!」
炎の刃を全て消せれば、かなり勝てるチャンスが増える。
だけど空中を飛び回る炎の刃と違って、俺が動ける範囲は地面がある所だけ。
動ける範囲が狭いから、回転するようにガードしたり消したりして目が回りそうだ。
遠くから見た今の俺の姿は、変な踊りを踊ってるように見えるかもな。
あぁ、本当。
空高くから飛んでくる炎の刃も消せたら、どんなに楽だと思って・・・
あぁ、もう!!
今こそ空を自由に飛べる魔法が必要な時だろ!!?
そう強く願った次の瞬間、俺のスマホが鳴った。
攻撃をかわしつつ急いでリストバンドの水晶に触って確認する。
「『ライズ』、『ジャンプ』!!」
そう呪文を唱え、片足に力を込めて飛び跳ねる。
そのまま俺は何度も『ジャンプ』の呪文を唱えて、空中を駆け回った。
俺が新しく作った魔法『ジャンプ』は、『空を飛ぶ』魔法じゃなくて『空を跳ぶ』魔法だ。
地面に居る時に使えば普通より長く高く跳べるし、空中で呪文を唱えれば足元に壁が出来て空中も移動できる。
時間や高さの制限はあるものの『ライズ』で強化できるし、田中の『ウィンド』よりも小回りが利くから、俺にはこっちの方が合ってるのかもな。
「また新しい魔法か!!」
「まだまだぁ!!
今回作った魔法はコレだけじゃないぜ!
『スラッシュ』!!」
炎の刃を全部消して暗黒騎士の斜め後ろの少し高い空中まで来た俺は、そう呪文を唱えながら振り返って剣を振った。
そして生まれたのは暗黒騎士の炎の刃の様な空気の刃。
「斬撃を飛ばせるのがお前だけだと思うなよ!」
『ライズ』、『ジャンプ』、『スラッシュ』。
この3つの魔法を駆使して、俺はトリッキーな攻撃を仕掛ける。
俺以外予測不可能なこの動きに、暗黒騎士は手も脚も出ないみたいだ。
俺の姿を目で追うのに必死で、攻撃する事もできない。
それに、ダメージはそこまで入っていないみたいだけど、確かに俺の攻撃は暗黒騎士に届いている。
ミルが連れてかれた時から考えても、ようやく今回初めて俺の攻撃が暗黒騎士に届いた。
あと少しって事は何度もあったけど、しっかり届いたのは今回が初めて。
「このまま一気にとどめを
ドンッ!!!!
な、何だ!?今度は何が起きた!?」
ようやくもう1度見えた弱点に向かって、渾身の1撃を放とうとした瞬間。
雷に打たれたようなビリビリする爆音と共に、村全体を下から勢い良く押し上げたような揺れが起きた。
そして四方八方から木霊する、パキパキと言う硬くて薄い物が割れる様な音。
「えっ!!?もう、そんな時間!?」
「時間!?時間って一体何の、っ!」
一体何時からそこに居たのか。
見上げた村の上空には、俺達が探していた魔法使い集団の飛行船が浮かんでいた。




