41,オオカミ少年と黒い騎士 2人目
「キャラ!ネイ!!」
「あ、おにーちゃん!」
「やぁ、勇者君。早いお帰りで」
『ライズ』を使って、1人先にサマースノー村に駆け込む。
キャラ達が待っている村の中心。
石造りの塔の前まで走っていくと、キャラとネイがちゃんとそこに居た。
「無事でよかったぜ」
「そんな事言うなら、最初から置いてかなければ良かっただろ?」
「うるさい!それこそ、お前には関係ないだろ!!」
キャラ達の直ぐ近くに居た怒鳴り声の男を睨み、2人を守るように背後に隠す。
俺達と同い年位の、何処か見覚えのある不機嫌そうな茶髪の男。
スマホ越しじゃなく直接会って思ったのは、やっぱりその男が見慣れた誰かに似ているという事だ。
「で、結局お前等何なの?この村に来た目的は?」
「・・・キャラ達に聞いてないのかよ?」
「無事なお前と違って、その子達に聞いても意味無いだろ。
答えられる訳無いんだから」
「それは、キャラ達を馬鹿にしてるって受け取っていいんだよな?」
「事実を言っただけだろ?」
当たり前だと言いだけな顔で、キャラ達に聞く意味が無いと言い張る男。
何処まで人を馬鹿にして見下す奴なんだ!
マジでコイツ信じられねぇ。
こんな最低野郎に付き合うだけ時間の無駄だ。
こんな奴無視して、さっさと村長に報告して、魔法使い集団が来るのを待つか。
「行くぞ、キャラ、ネイ!」
「おい、まだ僕の質問に答えてないだろ?」
「答えてやるギリ何って無い!!」
「そうかよ。
だったら、何が何でもこの村から出て行って貰う事になるな」
そう言って、塔の壁に立て掛けてあったピッチフォークを掴む最低野郎。
そのまま俺達の行く手を遮るように、ピッチフォークを構える。
「邪魔だ。退け」
「やだね。今は国中どこも、こんなんなんだ。
無事な奴全員がいい奴何って保障、何処にも無い。
勿論お前が安全って保障もな。
盗賊かもしれないお前等を、態々村に置いてやるほど僕は無用心じゃないんだ」
「なっ!
俺達の何処を見て盗賊何って言えるんだ!!」
「言えるだろ。
人に言えない目的でこの村に来た奴何って、信用出来るわけ無い。
分かったら身の潔白を証明してもらおうか?
無理なら、今すぐ出て行け!!」
「なんだとっ!!」
コイツ、それだけの理由で人を盗賊扱いしたのか!
その上完全に俺達を悪人だと思い込んで、ピッチフォークを使って威嚇してくる。
俺達からしたらこの最低野郎の方が信用できないんだ。
何を言われようが、何されようが、こいつの言う事だけは絶対聞くもんか!!
「勇者様!!」
「遅かったな、ルチア、田中」
「お前が速過ぎるんだ!」
しばらくの間最低男と睨み合っていると、置いて来てしまったルチアと田中がようやく戻ってきた。
たぶん、此処に来る前に、ルチア達が呼んできたんだろう。
走り寄って来る2人の後ろには、依頼人の村長親子を含めた何人かの村人達がいた。
「えっ!!?ラム!?
何でお前が、お前達がここに!?
そんな・・・嘘だろ・・・?
だって、今のお前達が此処に来れる訳・・・」
「何を言ってるの、ピコン?
また、変な事言って。何時もの嘘?」
「え?また?何時もの嘘?
いやいや!!
何言ってるんだ、ラム?
お前、戻ったんじゃないのか?」
村長親子を見て心底驚いたように、目を白黒させる最低野郎。
その驚いたままの最低野郎は、今度は村長達に向かってまた意味不明な事を喚きだした。
「コラ!また意味分からない事言って!
それより、まずは勇者様達に謝りなさい!
魔王退治で忙しいのに、勇者様達はお父さんが出したオオカミ退治の依頼を受けてくれたのよ。
そんな勇者様を困らせるようなこと言って。
全く、ピコンはしょうがない子なんだから!!」
「はぁ!?ちょっと待て!
本当に、意味分からないんだけど!!?
忘れたのか、ラム!?
オオカミの事とか、この村の事とかッ!!
アイツ等のお陰で解決してるだろ!!?」
「どうして、そこまで嘘つくの!?
勇者様達が来るまで、全然オオカミから村を守れてなかったじゃない!!
どれだけのヒツジが犠牲になって、私達が苦しんでいたと思うの!?」
「なっ。ちょ、ラム!?」
最低野郎はその事で村長の娘のラムに叱られるけど、全然反省する気が無いみたいだ。
ラムが紫色の大きな目に涙をため出しても関係なし。
息をするように嘘を吐き続ける。
そんな最低野郎に代わって、村長が心底申し訳なさそうに謝ってきた。
「申し訳ありません、勇者様。
ピコンが何か言ったようで・・・
ピコンの言う事は気にしないでください」
「はぁ!?親父さんも何言ってるんだ!!?」
「ピコン、少し黙ってなさい!
お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません。
ピコンは私の父が拾った子なのですが、親が居ない寂しさを紛らわせる為か、小さい頃から変な嘘ばっかりつくようになってしまって・・・」
「ごめんなさい、勇者様。
でもピコンは根はいい子なんです!!
どうか、許してくれませんか?」
「・・・・・・本人が本気で反省して謝るならな。
自分で謝らないくせに、他人に謝らせている内は絶対許せねぇから!」
父親に続いて謝ってから、ラムはそう頼んでくる。
だけど、俺は簡単に許せそうになかった。
最低野郎にどんな事情があっても、言って良い事と悪い事があるだろう。
なにより、村長親子が幾ら頼んできたって、本人にその気が無いなら意味が無い。
自分が悪いって思ってない、口先だけの言葉なんて意味が無いんだ。
本当に自分が悪い事をしたって分かって、心の底から反省して、それを態度に表す。
そこまでしないと意味が無いだろ。
「ほら、ピコン。
悪い事したら何って言うか分かるでしょ?」
「・・・あぁ、そう言うことかよ・・・・・・」
「ピコン?」
「どこまで、人を・・・」
ゴシゴシと涙を拭って、小さな子供を叱るように最低野郎にそう言うラム。
でも最低野郎は相変わらずで、家族がこうまで言っても後悔も反省もしていない。
それどころか自分が悪くて怒られているに、それを人のせいにしようと俯いてブツブツと文句を言う始末。
本当、マジでどうしようもないクズ野郎なんだな、コイツは。




