37,シャルル修道院、2つの事件 閉幕
結局予定の数倍長く、ビターズ家の屋敷に泊まってしまった。
まぁ、その間ウイミィ周辺の依頼を受けまくったから、修行って意味では充実した数日間だったかもしれない。
俺達がビターズ家に泊まっている間、1度もキャラが出てこなかった事と、ミルの情報も暗黒騎士の情報も何にも入ってこなかった事。
その2つが気がかりだけど、そろそろアーサーベルに戻らないと。
「色々ありがとうな、アガサさん。
新しい装備まで貰っちまって」
お礼として今までの装備より、デザインもスキルも遥かにいい物を全員分貰った。
俺は赤と黒をベースとしたカラーリングの服と、服と似たカラーリングの『クリエイト』の魔法陣が刻まれたグローブ。
その上に、白っぽい色の金属の鎧を着ている。
腰の辺りにはスマホを入れる為の、リュックと同じ皮でできたホルスター。
前の装備よりもシュッと引き締まっていて、全体的に大人びたデザインになった。
青の勇者って呼ばれているからか、田中の装備は今までの装備に比べて白より青の割合がグッと増えている。
大きくフワッとしたマントは、ベースの色だけ変えてそものままに。
中はベルトの数が増えたけどゴチャゴチャした飾りが減って、おしゃれだけどシンプルな感じ。
田中の装備と正反対なのがルチア。
ルチアの装備は白と金ベースなのは変わらないけど全体的に白色が増えて、色も大きさも様々な飾りも増えた。
それでも嫌な派手さは無くて、逆に更に清楚感が増している。
ネイはオレンジや黄色ベースの明るいカラーリングの装備。
何時も使ってる髪飾りに合わせて、花をイメージしたデザインをしている。
でも格闘家みたいに肉弾戦がメインなのを配慮して、女の子が好きそうな可愛さを入れつつ動き安さ重視って感じだ。
「本当にこれ、貰っても良かったのか?」
「はい、勿論です。
寧ろこの位の事でしか、勇者様方のお手伝いをする事が出来ず、申し訳ない気持ちでいっぱいです」
今まで以上に軽いし動きやすい。
普通に買ったら目ん玉が飛び出る位の値段がしそうなほど、何段階もランクアップした装備をタダで貰えた。
それは嬉しいし有り難い事なんだけど、本当に貰って良いのか不安になる。
俺達はアガサさんにとっても家族同然の、シャルル修道院の孤児であるミルを助けられなかったんだ。
それなのに、こんなに良いお礼を貰って良いのだろうか?
いくら時間が過ぎてもミルの事を、魔族に完全に負けたって事を、俺達は忘れられずにいた。
だから、どうしてもその事が俺達の心に影をさす。
そんな俺達の気持ちとは裏腹に、自分の方が何も出来ないとでも言いそうなアガサさん。
アガサさんのその態度に、何か更に悔しさが増した気がする。
「何か困った事があったら、いつでも呼んでくれよ。
魔王退治の合間になっちまうけど、絶対解決して見せるからさ!」
「ありがとうございます、勇者様。
また勇者様方のお力をお借りするその時は、よろしくお願いします」
「あぁ、任せとけ!!
じゃあ、俺達はそろそろ帰るから。
キャラには、俺達が絶対ミルを助けるって伝えてくれ」
アガサさんとペドロさん以外にも、シャルル修道院の子供達や職員も見送りに来てくれた。
でも、その中にキャラの姿は無い。
まだ部屋に篭っているみたいだ。
ずっと篭りっぱなしで色々心配だけど、ミルを助けられなかった俺達の顔何って見たくないはずだ。
そう思ってアガサさんにキャラへの伝言を頼むと、アガサさんは困ったような。
それでいて少し悪戯っ子ぽい笑顔を浮かべ、俺達が乗ろうとした馬車を指差した。
「あぁ、それでした。
本人に直接言って下さった方が良いかと」
「本人に?え、まさか!!」
「やぁ、勇者君。遅いじゃないか。
ボクは待ちくたびれてしまったよ」
「キャラ!?」
慌てて馬車のドアを開けると、キャラが当然と言わんばかりに、そこに居た。
着てるのはシャルル修道院の上下真っ白な制服じゃなくて、右胸だけ守る鎧ッぽい物を着けた、汚れてもいいような動きやすい冒険者らしい服装。
キャラの得意な武器なのか。
腕には横2編に薄い刃がついた、角が丸まった逆三角形みたいな形の小さな盾みたいな物を着けている。
完全に何処からどう見ても、ただの冒険者にしか見えない格好に着替えたキャラ。
そのキャラが座っていたのは、外から見た時死角になる後ろの隅の席。
そこに座っていたから馬車の中にキャラが居る事に、アガサさん以外誰も気づかなかったみたいだ。
キャラが居る事を黙ってたなんて、アガサさんも本当人が悪いぜ!
「あ!ミルちゃんのおねーちゃんだ!!
ミルちゃんのおねーちゃんも、わたし達と一緒に帰るの?」
「そうだよ。これからよろしくね、ネイちゃん。
あ、ボクの事はキャラって呼んでくれるとうれしいな」
「うん、わかった!
よろしく、キャラおねーちゃん!!」
「出来れば、お兄ちゃんの方がいいかな?」
「キャラおにーちゃん?」
「そうそう」
ヒョッコリ顔だけ馬車の中に入れたネイ。
そんなネイにキャラはニコニコ笑いながら、聞き逃せないことを言う。
別にキャラの呼び方とかどうでも良いんだ。
問題はその前。
「キャラ、お前。俺達についてくる気かよ」
「勿論。ミルを連れ戻す為に君達についていくよ。
魔王と戦う君達と一緒に居れば、何時かミルを連れ去ったあの魔族とも出会えるかもしれないからね」
「俺達に任せて大人しく待っている気は?」
「ない!
何と言われ様と、絶対ミルを連れ戻すまではついて行くからね。
説得しよう何って思わないでくれよ?」
アガサさん達の困ったような呆れ顔を見ると、かなり前からキャラはこんな調子だったんだろうな。
部屋に閉じこもっていたんじゃ無くて、ずっと俺達について行く準備をしていたらしい。
キャラの態度を見るに、ネイの時以上に説得は無理そうだ。
「あー、分かった、分かった!!
着いて来るのは良いけど、無茶だけはするなよ?」
「分かってるよ。
ボクだって自分の実力くらい分かってるって!」
「分かってなさそうだから、言ってるんだって」
自分のことに関して限定で能天気に笑うキャラに、思わずデカイため息が出る。
本当にキャラは、俺達が何と戦ってるのか分かってるのか?
キャラは頑固なとこあるし、あの能天気な笑顔を見るとミルの為なら自分を犠牲にしそうな危うさを感じる。
キャラじゃ無理だと分かっていても、魔物や魔族に突撃しそうな、そんな危うさ。
ミルを助けたいって本気は分かるけど、その思いからキャラが暴走しそうで気が気じゃない。
「またか、高橋。
お前、女の子ばっか仲間にするよな」
「全く、青い勇者君は何度言えば分かるんだい?
ボクは、男だよ?
いい加減、このやり取り飽きてきたよ」
「あー、はいはい。悪かったな、女扱いして」
「んー、ちょっと適当すぎる気もするけど、まぁいっか。
次から気をつけてくれよ、青い勇者君」
「はい、はい」
田中には色々言いたい事があるけど、それは一旦置いといて。
女扱いを嫌がる所も復活したみたいだし、何時ものキャラに戻ったみたいだ。
今はどんな理由でも、キャラが元気になった事を素直に喜ぼう。
「フフ。私はどんな方でも、仲間が増えるのは嬉しいですよ?」
「わたしもー!」
キャラが仲間になって嬉しそうに笑うルチアとネイ。
口に出したらキャラがめんどくさそうだから言わないけど、2人も同じ女の子が増えて嬉しいみたいだ。
「じゃあ、改めて。よろしくな、キャラ」
「こちらこそ、よろしく。勇者君」
 




