32,シャルル修道院、2つの事件 第14幕
「レーヤ!!今度こそ!今度こそ、お前をっ!!」
「悪いけど、教皇シャル!
戦いに付き合ってやるけど、負けるつもりは無いからな!!」
レーヤの代理として、『最愛の人』から出てきた魔族姿の教皇シャルと戦う事になった俺。
この教皇シャルが満足するまで戦わなきゃいけないんだけど、別に負けないといけない訳じゃない。
全力で勝たせてもらう!
「レーヤァ!!」
「クソッ。またダメになった!
あー、もう!!武器の素材が弱すぎる!」
手に見合った巨大な爪で切り裂く様に、殴りかかってきた教皇シャルの1撃。
何とか剣でいなせたけど、もう何も切れなさそうなくらい刃の部分がボロボロになっている。
この剣を使い出してどころか、教皇シャルと戦いだしてからまだ俺から1度も攻撃していない。
それなのに、作る剣がドンドン使い物にならなくなる。
そもそもこの食堂の中に、頑丈な剣を作れる素材が殆ど無いんだ。
教皇シャルと戦いつつ、良い剣の素材を探すのは難しいんだよ。
そんな暇、教皇シャルは与えてくれない!
「高橋!!」
「何だよ、田中!?って、うわぁ!!?」
自分じゃレーヤの代理になれないと分かって、ルチア達と一緒に食堂の外に出た田中。
その田中が、なんかの塊を投げてきた。
教皇シャルの攻撃を避けつつ、片手でもてる位の大きさのその塊をキャッチする。
田中が投げたのは金属の塊。
何で田中はこんな物、今になって俺に投げたんだよ。
「剣の素材。その位は、手伝わせろよ?」
「田中・・・サンキューな!助かった!!」
何時ものクールな笑顔を浮かべ、そう言う田中。
良い素材が無くて困ってる俺を見て、助けてくれたらしい。
俺の中に微かに残ってるレーヤの思いも反対していないし、教皇シャルの方を見れば田中が武器の素材を投げてよこすのを気にしてる様には見えなかった。
このくらいのサポートは、OKって事か。
それが分かって、俺は田中が投げた金属の塊で剣を作り直した。
「これなら、もう剣を作り変えなくても、って訳には行かない、かっ!!」
「チッ!鉄じゃダメなのか!!」
今までの剣みたいに直ぐボロボロになるって訳じゃない。
直ぐに折れないってだけで、教皇シャルの爪がかする度に鉛筆を削るみたいに少しずつ削られている。
爪に一切ダメージを負わないままこんなに簡単に鉄を削るって、教皇シャルの爪はダイヤモンドか超硬合金で出来てるのかよ!
「高橋!何とかもっと硬い物出してみる!
それまで、何とか耐えろよ!!?」
「ちょ、田中!?もう、かなりヤバイんだけど!!
出来るだけ早く頼む!!」
「分かってる!
とりあえず、しばらくコレ使っていろ!!」
教皇シャルは、俺の体制を崩そうと時々足払いをするだけで、爪攻撃をメインに仕掛けてくる。
でも後1回でも教皇シャルが蹴りを入れてきたら、バッキリ折れそうなほど鉄の剣は削られていた。
そう思っていたら大きく手を振り回した勢いで、回し蹴りを仕掛けてくる。
剣を握っていられなくなるほど、痺れる位重い1撃。
鉄の剣はバッキバッキに折れながら、勢い良く俺の手からはなれ、消えていった。
直ぐに田中が新しい鉄の塊を投げてくるけど、これも何時まで持つんだろうな?
「わたし、おにーちゃんが強い剣作れる様に、何か外で探してくる!!」
「なら、私は中を探してきます!」
「頼んだ、ネイ、ルチア!!」
ダイヤモンドでも出そうとしているのか、田中は『グランド』で色んな金属や石、宝石なんかを出し続けている。
その合間に、今使ってる剣がダメになりそうになったら、足元に転がった失敗作を適当に投げてくる田中。
田中が変な所に投げたり俺が上手く掴めなくって、上手くキャッチ出来ずに食堂内にはガレキと一緒に失敗作がいくつか転がっていた。
武器は直ぐダメになるのに、中々教皇シャルに勝てないし満足もしてくれない。
そのせいで、俺も田中も自分で思っている以上に焦って来てるみたいだ。
そんな俺達のやり取りを見て、ルチアとネイが剣の素材を探しに行ってくれた。
「これで終わりじゃないだろ?
なぁ、なぁ、なぁあ?
まだまだ。
あの方の苦しみに比べたら、まだまだ終わりにさせるかよ!」
「クッ・・・」
「ほら、こんなんじゃ、終われない。
もっと、もっと。もっともっとだぁ!!
もっと苦しめ、!もっと、痛がれ!
それで、最後は後悔して、死ねぇえ!!!!」
ルチア達が出て行って、どの位経っただろう?
少しも休むことが出来ずに戦い続けて、時間の感覚が滅茶苦茶だ。
変わる事無く、教皇シャルの攻撃をかわすだけの戦い。
それでも変わった事が1つ。
教皇シャルの攻撃方法が変わってきた。
最初の頃の1撃で俺の命を刈り取ろうとした鋭い攻撃が、俺を軽く傷つけ苦しめようとするようなネッチコイ攻撃に変わった。
浅いけど俺が痛むように、まるで俺の肉をえぐるような攻撃。
最初の頃より、魔族っぽさが増した気がする。
「ゼェ・・・ゼェ・・・ゼェ・・・ンッ。
はぁ・・・
本当、何時まで戦い続ける気だよ?
そろそろ満足したんじゃねーの?」
「まだまだぁ!!」
「そう、かよっ!!おりゃああああ!!!」
息は上がっているけど、日々の修行のおかげでまだまだ体力に余裕がある。
もう少し、教皇シャルに付き合えるくらいには、元気いっぱいだ!
それでも、何時終わるか分からない。
ゴールの見えない戦いってのは、精神的にきついものがあった。
「高橋!もう少しだ!!もう少しで、終わる!!」
「どうして、分かるんだよ、ッ!なん、でッ!」
「教皇シャルの顔!
お前と戦ってると、10年位急に老ける時があるんだよ!」
「何だって!?」
田中の言葉を聞いて、慌てて見た教皇シャルの顔。
最初出てきた時は10代、20代位の張りのある若々しい顔だった。
だけど今は、図書館の絵の窓に映ってた姿に近い、3、40代位のシワが出来だした顔をしている。
攻撃を仕掛けてくる教皇シャルの腕や脚しか見ていなかったから、全然気づかなかった。
何時の間に教皇シャルはこんなに老けたんだ。
「たぶん、『最愛の人』に書かれたのと同じ年になれば、終わるはずだ!」
「なら、後、ッ!?」
「少なくても30年。30年だ!!
後3回、時間が進めば終わる!!」
ルチア達の話じゃ、『最愛の人』に書かれた女性は大体6、70代位だったらしい。
そして、女性の後ろの鏡に映った教皇シャルも同じくらいの老人。
田中の考えた通り、教皇シャルが『最愛の人』を書いたのと同じ年になったら満足するなら、あと少しって事だ。
「あと少し、って言うけどさぁ。
それが、結構きついんだよ!!」
「ガンバレ、高橋。
終わりが分かっただけでも、マシだろ?」
「全然マシじゃねーよ!
せめて、水分補給くらいはさせて欲しいぜ!
久しぶりにミイラになりそうだ!」
「何言ってるんだ。
気が済むまで付き合うって言ったのは、お前だろ?
教皇シャルがそう望んでるんだ。
ノンストップで付き合ってやれよ」
「言ったのは、俺じゃなくて、レーヤな!!」
そう言いつつ隣の厨房から、チャポチャポと音がする袋を投げてくる田中。
俺が水分補給はさせろって言ったから、水でも入れて投げてくれたんだろうな。
水よりスポドリが欲しいけど、贅沢は言ってられない。
教皇シャルの攻撃を避けて、机や壁を使って教皇シャルとかなりの距離を開けてから袋を押すように中の水を飲む。
飲んだ水は田中がレモンと塩とハチミツを少し入れてくれた様で、ほんのり甘くてむせない程度には酸っぱくてしょっぱい。
全然合格点には行かないけど、少しはスポドリ代わりになった。




